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#01 存在価値

こちらの操作ミスで間違えて載せてしまいました。

混乱させて申し訳ない。

なんでもするから許して下さい(なんでもするとはいってない)








「そもそもの話、錬金術の始まりはユーティリティの倍増――『一の価値のものを十の価値にする』というものだ。教材には始祖(アリストテレス)の提唱した四大元素論に基づいて、卑金属を貴金属を作り出す、って書いてあるが、詰まる所石を宝石に変えるって寸法だ。そんなことやれれば馬鹿稼ぎだろ?

 簡単な術式だと炭素結合の変換ってところだな。黒鉛の六角板状結晶の縦の結合部分を破壊して、正四面体の連続構造――共有結合の結晶に置換するって寸法だ。内蔵術式は《構築分解》と《再構築》といった七つの基礎術式から成り立つ。細部は教科書を確認するように」


 カツカツと黒板にチョークが走る音が響く。それをバックミュージックに、腕を枕にゆっくり意識が漂っていた。

 正直な話、俺には興味がない。どうせ使えんしな(・・・・・)

 板書をノートに写すこともせず、俺はただ、一人思考の海に身を投げ出そうと――



「……、……あの。こっちずっと見るのやめてくれません?」

「あ、起きてたんだ。ごめんね」


 イヤに視線が気になって、俺は思わず首を挙げた。

 ミシェル=クラリス。茶髪ボブカットの美少女に、自分のことを長いこと見られていると居心地の悪いものがある。視線を誤魔化すように体を動かし、半眼で彼女を見ながら。


「今は実験の時間でしょうに」

「それをフォルティス君が言っちゃいけないと思うんだけどね?」


 それに戯けたように肩を竦めて答えた。不真面目なのは理解している。だが眠いものは眠いのだ。それに、無駄なものは無駄なのだ。

 ユーリ=フォルティスにまともな魔術は扱えない。それはどうしようもないものだ。――一つの呪いであり、如何ともならない先天的なもの。


「俺は"無能"ですからねぇ。ま、ここにも引っ掛けられているようなものだし、卒業できれば御の字、ってトコだと思いますよ」

「でも、最初から諦めるのはどうかと思うけど……」


 ミシェル=クラリスにしては珍しく、不快感を表しながらそう言った。やはり真面目なのだろうな、と薄く笑った。まともで、優しくて――そして、"普通の才覚"というものがある。


「そうっすね。だからまぁ落第しないように筆記頑張りますわ」


 卑屈に。陰鬱に。道化らしく。

 巫山戯た態度で宣いながら、俺はへらりと笑って新品同然の参考書を机の上に広げた。何も考えずに文字列を追っていると、教壇に立つ教師が、あの頃は若かったなぁ……、と遠い目をしながら生徒たちの追求をのらりくらりと避けていた。どうやら軽魔導犯罪を匂わせたらしい。何しやってんだあいつ。

 心なし冷たい目つきでそれを眺めていると、小さいため息が耳をついた。




「…………これじゃ、レイリがあんまりだよ」




 黙殺する。

 レイリ=アナスタシアなど俺は知らない。そうだ。"フォルティスの落ちこぼれ"は、何も知らない。知ってはいけないのだ――。






▼▼▼






「肉味噌坦々麺とチャーハンお願いしまーす。両方とも大盛りで」

「俺はキリル豆の炒め物とカツ丼。あ、あと若鶏のグリルも下さい」

「あいよー」


 昼休み。俺は木製のトレイを手に持ちながら友人と食堂で料理を注文していた。食堂のおばちゃんが笑顔で俺たちのオーダーを受け取るのを傍目に、隣の少年が徐にこちらを向いた。


「……で、ユーリ。お前さっきも寝てたわけだが――単位やばくないか?」

「ハッ、当然だ。実技全落ちの俺だぞ、実験なんてできるわけがないだろう。馬鹿め、カイルお前馬鹿め」

「いやそこでドヤ顔すんじゃねぇよ。清々し過ぎんだろおい」


 カイル=ステインはそう言って苦笑する。彼もそこまで魔術が得意なわけではないが、流石に俺よりはマシだ。たまに座学の宿題を俺が教え、実践的な魔術行使をカイルが俺に教える。……まあ俺が成長する傾向は欠片も見られないのだが。

 そんな感じの俺の数少ない友人だ。俺が本当にどうしようもなく魔術が使えないことを理解している数少ない人間、と言い換えることもできる。はっはっはっ、と乾いた笑いしか起きなかった。


「はい、あおがり」


 目の前に白く湯気の立つ丼が差し出される。頼んでいたカツ丼だ。ホカホカのそれをトレイの上に置き、続けて出された炒め物とグリルも同様に乗っける。その隣でカイルも注文した品物を受け取っているのを確認すると、俺はレジに歩を進めた。

 白マスクを付けたおばちゃんに告げられた値段を財布から取り出して会計を済ます。格安が売りの学食としては中々にレベルの高い我が校舎である。俺的にポイントが高い。わーい、とふざけた感じで周りを見渡して空席を見つけた。


「お、あった。あそこ行こうぜ」

「ちょっと待て……ん、いいぞ」


 遅れて支払いを済ませたカイルと共に、その席に向かった。テーブルにトレイを置いて椅子に座る。各々軽く手を合わせて食事を開始した。箸をとって湯気の立つ器に目を向けた。狐色に揚げられたぶ厚い豚ロースを黄金色に煌めく卵が覆っている。半熟状に火の通されたそれらと粒だった米を鰹ベースの出汁が包括していた――そう、カツドゥンである。

 あー、うまいなー。おいしいなー。

 ガツガツと一心不乱に丼を貪る。やはり米はいい、至高だ、とか思いながら箸で駆け込んでいると、目の前のカイルが坦々麺を啜りながら、真剣な表情で言う。


「彼女が欲しい」


「いやに唐突だな。あー、なんか行事でもあったけ?」

「一ヶ月後に体育祭あんだろ。いーよなーお前は。アナスタシアと幼馴染なんだろ? 今も仲よさそうだし、手作り弁当でも持ってきてくれんじゃねーの? 性格はともかく、見てくれはいいし、ああ、ほんと羨ましいぜこの野郎」


 大天使ミシェル様が彼女になったりしてくんねーかな。いいつつ、カイルは真っ赤な坦々麺をすする。呆れたようなため息をつきながら、俺は右手の箸を振り、


「馬鹿か。俺とあいつの仲の悪さ知ってんだろ。あとお前に彼女はできねぇ。俺が保証してやる」

「喧嘩売ってんのかお前」

「事実確認だよトサカあた――失礼、カイル=ステインくん」

「どんな間違いするか。俺はトサカ頭じゃねぇよ――おいユーリこっち見ろ。はっ倒すぞ」


 おお怖い怖い。カイルに冷たい視線を向けられているのを感じながら、俺はスプーンで掬ったキール豆の炒め物を口に放り込もうとして――見覚えのある銀髪が目に映った。


「……げぇっ」

「げっとはなによ。げっとは」


 俺の横に腰掛けようとしているアナスタシアを見て、思わず声が漏れてしまったらしい。いかんいかん。気を付けよう。


「……で、何のようだよ、アナスタシア」

「別に、ただ席が空いてなかっただけよ」

「あ、ホントだ」


 隣に腰かけたアナスタシアにそう問う。

 帰ってきた返事に感化されて、周りを見てみれば食堂の席は人で埋め尽くされていた。うへぇ、と思わず顔が歪む。


「ユーリくん、ステインくん、お邪魔するね」


 ふと見れば、アナスタシアについて来たのだろう――大天使ことクラリスが、アナスタシアの横に座っていた。

 対面に座っているカイルが息を呑んだのがわかる。おい、ちょっとキョドリ過ぎたろ。ごそごそと体を揺らして俺に少し体を寄せて、小さな声で耳打ちしてくる。


(……おい! ユーリお前どういうことだ!)

(あ? なにがだよ)

(なんでテメェ、大天使ミシェル様に下の名前で呼ばれてんの!?)

(知らねぇよ。多分そっちの方が呼びやすいんじゃねぇの?)

(これは案件だ。……ユーリ死すべし慈悲はない)


 なんか一気に死線(誤字にあらず)が増えた気がする。やだ、食べられちゃう……。

 そんな巫山戯たことをカイルと交わしながら食事を続けていると、隣席のレイリがジャムの塗られたスコーンを齧った。シャクシャクと何回か噛んで飲み込むと、俺とカイルのプレートに乗った食事量を見て、呆れたような表情で告げた。


「ほんと、男子ってよく食べるわよね」

「?」

「いや、そこで不思議そうに首を傾げられても困るんだけど」


 何を言っているのだ。と思わず首を傾げた。アナスタシアがスコーン二切れにクラリスがサンドイッチとサラダ。うん、少ねぇ。こちとら食べ盛り真っ只中なのだ。どれ位かと言うと、牛丼かオヤツくらいなレベルである。


「だからそんなに胸がな」

「今なんか言ったかしら?」



 にっこり笑顔だった。















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