第十話 覚醒
しばらく霞は呆然とスクリーンを見ていた。緋日は直ぐに飛び出していったが霞には目の前の光景がただただショックだった。クラスメートも倒れている男の子が霞の弟だと気づいたのだろう気遣わしそうな目で見ているが霞にはそれに反応する余裕もない。
だが、スクリーンの綴に異変が起きた。こちらからでも分かるほど一気に魔力が増幅したのだ。その勢いは止まることを知らずどんどん膨れ上がっていくやがてオルトロスを超えるほど増幅する。やがて、増幅した魔力は風船のようにしぼみ先ほどまでの綴の魔力と何ら変わらない大きさに戻る。
「なに…これ…」
しばらくするとスクリーンの綴が目を開き起き上がった。
「嘘…」
有り得ない、あの出血の量でそんな簡単に起きあがれるなんて有り得ない。でも、それでも霞は嬉しかった。あり得ないよりも何よりも綴が死んでいなくて良かった。
霞は立ち上がると教室を出た。
「柊さん!待ちなさい!」
後ろで十凪が何かを言っていたが耳に入らなかった。早く綴を助けその身体を思いっきり抱きしめてやりたかった。いや、霞が綴の存在を確認するためにそうしたかったのかもしれない。
「今度こそ、助ける…!」
霞は全力で走った。
「加速!!」
加速魔法をかけ全力で走る。道をショートカットするために屋根から屋根へと飛
び移る。
「待ってて、綴!」
最愛の弟の元へ急ぐ霞の速度は、いつもの霞の限界を超えていた。
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強大な魔力が膨れ上がるのを感じミリーは歓喜の声を上げる。
「キタキタキタキタキターーーーーーーーーーーーーー!!あたしの予想通
り!!あの日、やっぱり力を与えていたんだね氷霞は!!!!」
喜びのあまりソファーの上で踊り始めるミリー。
「ああ、三年も待ったかいがあったよ…。フフ、フフフフフフ、アハハハハハハハハハハハハハハ!!」
狂ったように笑うと下にいる下僕に命令を下す。
「オルトロス!!そいつをつれて帰れ!!何としても手に入れろ!!」
今までの命令は念話で行っていたので声に出す必要はなかった。だが、声を出すほどまでにミリーは興奮していた。
狂喜の笑顔を浮かべたミリーは笑い続けた。
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自分の力が膨れ上がるのを感じる。その感覚で目が覚める。目が覚めるのと同時に魔力の増幅が止まり元の大きさに戻る。
起き上がり傷の具合を確認する。
何ともないようだな
手をグーパーグーパーしていると、
「綴!」
元親が駆け寄ってくる。オルトロスの方を見やると綴を警戒してかこちらに攻撃してくる様子はない。
「元親、無事か?」
「ああ、それよりお前は?」
「問題ない。むしろ今までより快調」
綴が立ち上がるとオルトロスが構える。
「元親下がってて。それと、四季さんの治療を頼む」
「…ああ、分かった」
そう言うと元親は美来と良子の方へ走っていく。
「さて、始めるか」
「お前、先ほどと様子が違うな…何があった?」
「可愛い美少女に会ってきたのさ」
「…なんだそれは?」
「まあ気にするな。それじゃあ、始めようか」
魔法で剣を精製し構える。その剣を見た瞬間オルトロスの顔が驚愕に染まる。
「貴様!!何故それを!!」
なんのことを言ってるか分からず剣を見てみる。
「なんだこれ?」
その剣は氷で出来ていた。今まで綴は鉄の剣を精製していたそれが急に氷の剣になったのだ。
「まあ、いいか」
だが今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「いや、よくない!何故貴様がそれを使えるのだ!」
「何で使ってる僕よりお前の方が気にしてるんだよ。いいだろ戦えればそれで」
「いや、それはそうなのだが…ええい、まあいい!!私が勝って貴様に問いただせ
ばいいもの!!ゆくぞ!!」
そう言うが早いかいきなり攻撃を仕掛けてくる。一直線に突っ込んでくるオルトロス。
それをいとも簡単に避ける綴。
さっきまで目で追うのが精一杯だったのに。
オルトロスは着地し今度は側面から突っ込んでくるがそれもかわす。オルトロスが突っ込んできてはかわすそれを何回も繰り返した頃オルトロスが止まる。
「息上がってるぞ、大丈夫か?」
「ほざけ小僧!!」
そしてまた突っ込んでくる。だが、今度は避けることはせず剣を地面に突き立てる。
「氷千針!!」
突如地面から氷の剣山が出現する。慌てて止まろうとするが間に合わずそのまま突っ込むオルトロス。
「ぐうっ!」
「氷鎖!!」
剣山に突っ込んだオルトロスを氷の鎖で縛り上げる。身動きがとれなくなったオルトロスに剣を構える。左腰のあたりに剣を持って行き居合いの型をとる。
「はああああっ!!」
そのまま踏み込みオルトロスの目前で剣を振る。振る直前に氷の刀身を伸ばし剣山や鎖ごとオルトロスを真っ二つにする。
「み、見事…」
最後にそう言い残しオルトロスは息絶えた。
剣を消し、慌てて元親のもとへ駆け寄る。
「四季さん大丈夫か?」
そう言いながら治癒魔法をかける。
「ダメだ、衰弱が激しい!素人の俺らじゃ無理だ!」
「良子ぉ、良子ぉぉぉ!」
どうする!どうすれば!
いくら考えても綴に答えは出せなかった。いくら退魔師が周りにいても魔法の知識は一般人と何ら変わらない。この状況は綴達には限界があった。
手の打ちようがなくどうするべきか必死に考えていると。
「綴!」
「綴くん!」
「姉さん!緋日!」
この状況の中で一筋の希望が見えた気がした。
「頼む姉さん!四季さんを助けてくれ!」
「分かってる。出来る限りの事はするから、皆離れてて!緋日ちゃん手伝って!」
「はい!」
二人が治癒魔法をかける。二人が来てくれた安堵からか、戦闘による疲労からなのかは分からないが、その場に崩れ落ちそのまま気を失ってしまった。
ミリーは落胆していた。
「ああ~ん、もう!使えない雑魚だな!全く!」
はあと息を吐きしょうがないと切り替える。
「まあ、しかたないっちゃしかたないんだよね~。氷霞の能力はSSS級だし。はぁ~それでも欲しかったんだよな~あの能力~」
寝っ転がりながら足をばたばたさせる。
「それに時間が経てば経つほど手に入れにくくなるしな~」
下で気絶している綴を見て真剣な眼差しで言う。
「敵はあたしだけじゃないんだぜ~つ・づ・り・くん♪」
ミリーの姿が一瞬にして消え去り辺りにはただただきれいな青空が広がるだけとなった。




