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てってれー。こぶんをてにいれた!

「私、司書をしておりましたルシアと申します。

 どうか私の指をお召し上がりくださいませ、新たな主様」


 今度のハードルはもっとハードだ。

 精神防衛のため自然におやじギャグを考えてしまう程度に。。。


 ええーっ!?と思ってルシア以外の顔も伺う。

 しかし、また例のように囚われていた少女たちはみんな頬を紅潮させて頷いていた。

 え、また私の方が少数派なの?そうなの?


 ーーーとんでもない世界に来ちまったよ、私!


「ちょっとまってみんな、落ち着こう」

「落ち着いておりますわ」

「いやいや・・・っ」

 落ち着こう、と前に掲げた私の両手は、ならず者達の指を切り落とした返り血に濡れていた。


 うう、手が、血まみれ・・・。


 だめだ。気が散る。

 だめだちゃんと考えなきゃ。

 ええと、基本的に私はひどい目に遭ってきた女性の為ならなんでもしてあげたい。では彼女達のお望み通り指を切って生で食べ・・・。


 うう。やっぱ無理。

 本人たちがいいって言っても私の倫理観的にはNGだし、気持ち悪いもんは気持ち悪い。。。想像するだけで吐きそうだ。


 今や一番落ち着かないのは私だった。

 ぷるぷるする手を見て遠い目をしていると、ルシアがまたシャキシャキ指示をとばした。

「女勇者様のお手が血で汚れているわ。

 誰か清浄魔法使えるひと!」


「「「はい!!」」」

 数人の少女が手をあげ、我先にと清浄魔法をかけてくれた。

 一瞬で返り血がきれいになった。


 ありがとう。お気遣いありがとう。

 でもなんだか、気掛かりポイントが違う気がするの・・・。


 気を取り直して皆に聞く。

「せっかく隷属返ししたのに、なぜまた隷属されたいのかわからないのですが」

「ここから出たらすぐ神官様がいらっしゃるのですよね?

 指が切られた者は白い目で見られるためどうせ元の生活には戻れません。

 黒扉から逃れても神殿のものにされるだけです。

 自由になれないなら、女勇者様のものにして頂きたいのです。

 あなた様にご恩返しさせてくださいませ」


 説明されても意味がわからない。


「他に何か穏便な方法はないのですか?」

「眷属にして頂く方法も考えましたが、それだけではまた隷属化される恐れは消えませんわ」

「眷属?というのも分からないんですが」

「眷属化は、呼び名を知り、一つの食事を分け合うことです。加護を与える事ができます。

 家族は生まれつき眷属です。親しい身内とはごく自然に行う事ですわ。

 しかし隷属の歯止めにはなりません」

「歯止めというのは?」

「隷属は主の血肉による隷属返し以外には解けません。

 ただ魔力が段違いに上位の者は隷属上書きができます。

 女勇者様の魔力は相当飛び抜けて感じますわ。それなら今国に残った神官程度ならば上書きは無理でしょう。

 つまり、更なる隷属の歯止めとなるのですわ!

 よってこの場を切り抜けるには女勇者様の隷属にして頂くしかありませんの!」

「そ、そっか・・・」


 桃色髪の美女ルシアの気迫は半端ではなかった。気圧される。

 そうだよね。郷に入らば郷にならえだよね。あの夏の訪問先には虫が貴重なタンパク源の国もあったじゃない。現地の人にニコニコ薦められてびびったけど、食べてみたら意外と美味しく・・・はなかったが食べられたよ。大義名分もある上、現地民が進めてくるなら食べるしかないよね。気持ち悪がってちゃ失礼だよね。

 ・・・・・・。


 あぶない。

 怒濤のように説得され、一瞬丸め込まれそうになっちゃったよ!

 慌てて妥協案を出す。


「いやいや!

 せめて、血とかは?指切断しないで血じゃだめかな?」

「前例はわかりませんが、女勇者様ほどの魔力があれば可能かもしれませんわ」

「ぜひ試してみましょう!

 ・・・というか私にそんな魔力があるかどうか分かりませんが」

「「「そちらの方は絶対大丈夫です!」」」


 皆に太鼓判を押されてしまった。

 産まれてこのかた霊感も何もなかったんだけどな。この国における魔力ってどんなものなんだろ。


「ではさっそく。

 真名が他に漏れては困りますね。

 ここは念には念を入れて、お二人、お願いできますか」

「了解です」

「ん」

 さきほどドアに結界をかけた赤い短髪の少女と、ライトグリーンの髪でとがった耳の少女が進み出て、私の両横に立った。


「「シールド・コア!」」


 私を中心に透明の球体結界ができた。

「うわ・・・すごい」

「ありがとうございます」

「そう・・・?」

「結界って今日初めて見たけど、意外に見れば分かるものなんですねえ」

「それは女勇者さまの目がいいからですよ。

 では試してみましょう」

 え?私、目悪いけどな?


 赤髪の子がルシアに触れ侵入を許可し、ルシアが結界に入る。


「私の血を捧げます。しもべにしてくださいませ」

 男から奪ったナイフを使い、第一関節まで切られていた左小指の第二関節にひとすじ切り込みを入れた。


「私の真名は・・・ですわ」

 耳に片手を添えて真名を囁かれた。

 お腹にぽっと灯りがともったような感じがする。あたたかい。

 手を私の口先に差し出し滴る血を吸うよう言われた。

 先が欠けた指先におずおず口をつけて吸う。


 ぼわっと身体中に血が巡り、力が溢れるようなイメージ。

 目前でルシアの魔力がぐっと目減りしたのが分かった。

「ルシア!もういいよ!」

 慌てて手を押しのけて口を拭う。

 目を合わせると、ルシアが私の影響下に入ったのが感覚で分かった。

 ほんのひとすすりで十分だったようだ。


 その後もそれぞれの呼び名と真名を教えてもらい、血を数滴ずつもらうことになった。

 囚われていた全員がためらいなく血を差し出したのだ。


 さくさく進む隷属儀式の間、制服の子はおどおどと立ちすくんでいた。

 ルシアと元教師だというサリユがそっと寄って話しかけた。お姉さま二人組だ。


「あなたは指があるから、お家が近いならすぐ帰った方がいいわ」

「私・・・出稼ぎに来て泥棒に遭ったんです。

 帰る馬もお金もありません」

「身内に召喚魔法の使い手は?」

「遠距離召喚は、いません・・・」

「そうなの・・・。でも指があるんですもの、きっと帰れるわ。

 お金を工面するまでの間、もしもの為に眷属にだけはして頂くことをお勧めするわ」

「わかりました」


 眷属になれば主従関係はないが、お互いの危機が感じ取れたり、召還魔法を覚えれば遠距離でも呼び出せたりするらしい。


 彼女は近づいてきて、うつむいて名のった。

「女勇者様。私は山向こうの村のメルメと申します。

 眷属にしてください」

 持っている食べ物はポケットののど飴だけだった。

 半分に割って片方ずつ食べた。


 てなわけで。

 この世界に来て1時間前後。いきなりの急展開で、私はたくさんの隷属を抱えることになった。


 メンバーは下記の通り。

 元司書のルシア。ピンクの髪の可憐な美女。静粛(防音)魔法が使える。

 元教師のサリユ。水色の髪の清廉な女性。面倒見よさげ。

 放浪の民だという、ラスタ・グリーン。ライトグリーンの髪の年齢不詳の美少女。とがった耳を持つ。結界魔法が使える。呟くようなしゃべり方。

 薬師見習いのレッドベリー。赤い短髪の少女。結界魔法が使える。活発そう。

 花屋の娘、ロージィ。名前通りバラの花のようにかわいい顔だちだ。

 裁縫屋の娘、マナ。

 鍛冶屋の娘、ロッカ。

 動物商人の娘、アザラ。

 料理屋の娘、ターニャ。

 宝飾品細工職人の娘、キスカ。

 元軍医の娘、ミーエ。

 孤児のノン。

 特記しなかった子たちは茶色の髪だ。


「では、隷属条件をお申し付けください。後で変更も可能ですが」

「ん〜。どんなものがいいのか分からないので順不同で言います。

 え〜と。協力し、互いの身を守りあってください。

 恋愛、結婚、出産は自由です。

 故郷に帰るのも応援します。

 そのための資金集めを兼ねて、何らかの仕事はしてもらいます。

 私の目的はまずは状況把握、情報収集です。ご協力お願いします。

 指のない者への偏見撤廃、女性差別撤廃、などなども目指します。

 【文化系】とおっしゃるあなた方の、知識を私に下さい。

 嘘と知識の出し惜しみだけは赦さん!!!

 ・・・ということでどうでしょう」


 冷静なはずのルシアとサリユまでキョトンとした。

「それが隷属条件ですか?前代未聞ですわ」

「まるで隷属じゃないではないですか」

「んー、いわば、子分というかむしろ友人というか。そういう関係を望みます。

 ですから命令もなるべくしません」


 顔を見合わせる女性、少女達。

 しばらくして見返してきた顔は、初めて見る明るい笑顔だった。


「「「「「「「「「では、よろしくお願いいたします、ご主人様!」」」」」」」」」


「言ったそばからごめん、命令ひとつめ!その呼び方やめてってば!」


 隷属条件を言い渡したとたん、いたずらっぽい目をした彼女たちに「ご主人様」と呼ばれた。

 からかい半分だ。ある意味すごい、的確に私がちょっといやがること読んでるな。よく言えば友達感覚ということか。


「そういうのやめてください〜・・・って、私も敬語か。

 ええと、できれば友達みたいにしゃべってほしいの。

 あと呼び方だけど、私は・・・」

「真名はだめですわよ!」

 名のろうとすると、ルシアに止められた。

 唇にあてられた人差し指に魔法が乗っているのか、口が動かなくなる。元司書恐るべし。

 図書館では「静かに!」が基本だもんね。


「念のため、元の世界で普段使ってらした呼び名もやめて、新しい偽名をお使いくださいませ。

 私達が誰かに操られたとき、漏らしてしまってはおおごとになりますから。

 そして私の口調は昔からこのようなものですの。

 お気になさらないでくださいませ。ではどうぞ」

 そう言って指を外される。


 偽名。どうしようかな。

 本名をもじって、とっさに思いついたものを言う。

「じゃあ・・・私はネズミと名のる事にします」

 ちょっとふざけてるし、窮鼠猫を噛むってイメージもあるし、いいんじゃない?


「ではネズミさま。お土産ですわ♪」

 差し出されたのは男達の指先だった。

「ぎゃわ!」

 さっきは自分でやったことけど、不意打ちで見せられるとびびるよっ!

 しかも器用な事にもう止血してある。


「どういうことですか?」

「この者達は放置できない悪党です。

 しかし罰するための組織は動いていません。

 どうか近隣の市民のためにも隷属化してください」

「え、だとしても血で大丈夫なんじゃないかな?」

「これはささやかな罰です。

 内心、殺しても殺し足りないほど恨んでいますわ。私たちに時間を戻す術はないんですから。

 せめて、また武器を持って民間人を襲っては危険ですから、最低限の備えとして両手人差し指を”成敗”させていただきましたの」

「な、なるほど・・・」

 確かに彼女達は仕返しをする権利がある。存分に成敗してもらっていい。

 一番重要な親指を残しただけ寛大なのかもしれないと思う。とはいえ。

 問題は食べる方だ。


 どうしよう・・・。

 今度はぶっとい毛が生えてるようなおじさんの指だし、倫理的以前に生理的に受け付けない。あまっちょろいと言わば言え・・・無理!


 尚も受け取るのをためらう私を見て、ルシアは皆を見回した。

「どなたか火魔法か料理魔法は使えませんか?

 多分異世界の方に生肉はお口に合わないのでしょう」

「確か料理専門の方がいらっしゃいましたよね?」

 追い討ちをかけるように元教師のサリアさんのお口添え。

 料理屋の娘ターニャが「お役に立てれば幸いです」とはにかみながら進み出てくる。


 ありがとう。お気遣いありがとう・・・!

 だけど悩みの方向性が違うの・・・!


「・・・うう、ごめん。理屈はわかるんだけど・・・

 ルシア達が食べるんじゃダメ?」

「隷属は隷属を持てませんわ」

「ええ。じゃあそれ、他の勇者候補にあげちゃだめ?」

「信頼できる方ならばかまいませんが・・・」


 とはいってもまだここに知り合いはいない。

「今日は保留させてもらえないかな。腐る前には結論出すから」

「指さえ取っておけば脅しにはなるでしょう。分かりましたわ」

「じゃあ、調理してフリージングしておきますね!」

「わあ、すごいたすかるよ〜(遠い目)」


 ターニャが、男達の指を料理魔法で瞬間調理・冷凍保存してくれた。

 料理魔法、地味にすごいな。

 音とか結界とか目に見えないものとは違って、瞬間的に調理され冷凍される肉を目の前で見せられると、いわゆる【魔法】という概念を信じる以外ない。


 そういえばさっきから結構時間が経っているのに、最初にかけたサイレント魔法とキープアウト魔法は機能し続けている。

 全員戦闘系ではないということだが、魔法概念のない世界から来た私から見れば文化系の魔法ですら十分とんでもない感じだ。


 それにしても、ルシア姉とサリユ姉がテキパキ指示出ししてくれて助かる。頼りになるなー。

 私がルシア、ターニャとやり取りしている間に、裁縫屋の娘マナと動物商人の娘アザラがそれぞれ魔法で糸と縄を操り、意識のないならず者三人を束縛し檻に入れていた。

 清浄魔法が使える数人が皆の身体と服を綺麗にし、元流浪の民ラスタ・グリーンとストリートチルドレンあがりのノンが番台をあさり、現金など使えそうな物を没収したようだ。

 私の倫理観的にはNGだけど、この場合、迷惑料としては足りないくらいだよね。たくましいなーとむしろ好感をもって見守る。


 普通ならもっとうちひしがれていておかしくないのに、皆気丈だな。精神力が強いのかな。

 無理しているのかもしれない。今日会ったばかりの私にどんなサポートができるだろうか?


 そんなことを考えている間に、外に出る用意が整ったようだ。


「では行きましょう、皆様」

女勇者の話のはずなのにスキルも属性も判明しないまま今に至っている変なお話・・・!!

やっと次回「魔力測定→ジョブ判明」!

(水曜8時更新予定)

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