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初恋のカケラ  作者: 南条仁
初恋のカケラ Remember
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番外編:最終章:愛情とは?

【SIDE:高梨奈々子】


 私が亮太と別れてから、彼の気持ちを自分から離すために、すぐに私は幼馴染の和輝と付き合い始めた。

 その事については結構周囲からは嫌な意味で責められたりしたけれど、自業自得なので全ての非難を私は受け入れた。

 表だって亮太と付き合った事を明言していなかった事もあり、その噂の相手が亮太だとはほとんどの人が知らなかったけれど、ふたりの男を弄ぶ女、とか言われたり。

 中学生の頃はそういう些細な事でも大きな噂になったりするから困った。

 和樹はそんな私を気遣ってくれた。

 亮太と違った意味で和樹は私を裏切ることがない。

 いつだってそうだ。

 昔から和輝はそういう男の子だった。

 明確な恋愛感情がないままに付き合い始めて、居心地のいい関係に慣れてきた。

 彼を男として意識をし始め、気づけば好きになっていた。

 自分でも都合のいい奴だと思う。

 人の好意を踏みにじるような最低な女。

 そんな私が彼を好きになってもいいのだろうか?

 疑問は湧きだしたらきりがないけれど。

 いつしか気づけば大学生になっていて、私は和輝と結婚を考える機会を得ていた。

 ことのきっかけは私の妊娠が発覚したから。

 出来ちゃった、それは私自身の責任で、和輝にはすぐに話をした。

 大学3年の冬の終わり、私は新しい命について考えていた。

 

「……子供、か」

 

 今まで他人事のように感じてきた結婚のふた文字。

 私達にも意識しなくちゃいけない事だと体感した。

 私は和輝に何を言われても子供は産むつもりだった。

 妹を亡くして以来、命を大切に思う私は中絶なんてしたくなかったの。

 

「奈々子、俺の気持ちはひとつだ。その子のために結婚したい」

 

「……本当にそれでいいの?」

 

「こういう話は大学卒業後の話だと思っていた。しかし、出来てしまった現実は受け入れるさ。奈々子は俺でいいのか?」

 

 結婚相手としては和輝は理想的ともいえる。

 ここまで長年付き合ってきた事もあり、関係もいいし、何も問題はなかった。

 ただ、脳裏によぎったのは亮太の事。

 今さらながら私にとっては忘れられない現実がトゲのように突き刺さる。

 それは過去、もう何年も前に終った話なのに。

 私はその過去を振り切り、今の現実に目を向ける。

 

「和輝、私は……貴方がいい」

 

「そうか。そう言ってくれるのならば、結婚しよう」

 

 学生結婚、当然ながら両親からは猛反対もあった。

 出来ちゃった結婚、と言うのはよくある話だけども、難しい話でもあるから。

 それでも、最終的には和輝の両親が私を助けてくれて、私達は結婚する事になったんだ。

 

 

 

 

 新しい命が生まれる。

 その現実を迎える前に私達は友人が集まり、彼らが私達の結婚式を開いてくれた。

 レストランを貸し切り、仲の良い友人達が私達のために集まってくれた。

 

「……奈々子さん、おめでとうございますっ」

 

 その中には亜美の姿もあったの。

 わざわざ私のために花束のブーケを作って持ってきてくれた彼女。

 中学生になり、すっかりと女の子らしくなった最愛の妹に祝福してもらう。

 

「ありがとう、亜美」

 

「ふふっ。これからも和輝さんと仲良くしてくださいね」

 

「うん……亜美も元気でね?」

 

 先日、和輝の就職先が決まり、私達は遠くの街に卒業後は引っ越す事が決まっていた。

 まだ卒業までは先だけども、馴染みの地元を離れる事になる。

 

「大変ですけど、頑張ってください」

 

 亜美にそう言われて私は頷いた。

 そして、彼女はそっと私のお腹に触れてくる。

 

「赤ちゃんはもうすぐなんですよね?」

 

「予定日は7月だからあと2ヶ月少し」

 

「男の子ですか、女の子ですか?」

 

「診断では女の子だって。名前も既に決めてあるのよ」

 

 私達は話し合ってすでに名前を決めていた。

 子供の名前は「麻尋(まひろ」と言う。

 私の亡くなった妹の名前から一文字もらって、そう名付けた。

 

「可愛い名前ですね。早く生まれてきて欲しいです。生まれたら絶対に私に抱っこさせてくだいね?」

 

「もちろん。その時には亜美に抱いて欲しい」

 

 私はそう言って彼女の髪をそっと撫でる。

 大切なもうひとりの妹、亜美。

 彼女にだけは嫌われたくないもの。

 パーティーも盛り上がり、私達は食事を楽しんでいた。

 その中で私はふとある事に気づく。

 

「亮太がいない?」

 

 先ほどまでいたはずの彼の姿がない。

 私は少しだけ外へと出て見るとお店のテラスの方に彼は一人でいた。

 ワイングラスを持ちながら、そっと青空を眺めている彼。

 声をかけようか、かけまいかを私は悩んでいた。

 

「……どうした、奈々子。今日はお前が主役だ。皆の相手はしなくていいのか」

 

 それより先に彼が私に気づいた。

 私もそちらへ行くと綺麗な青空が私を出迎えてくれる。

 

「亮太こそ、こんな場所で何を?」

 

「少し、外の空気を吸いに来ただけだ」

 

「あら、亮太でもそう言う事をするの?」

 

「もちろんだ。そうだ、ちゃんと言ってなかったな。和輝との結婚、おめでとう」

 

 亮太の口から告げられた言葉に胸がズキッとする。

 自分にとっての幸せ。

 それは他人とっての幸せではない。

 彼との過去を思い出すととても複雑な心境になってしまう。

 

「……亮太、私は……その……」

 

「僕達の事は昔の事だろ?今さらどうこうというわけじゃない。子供、ちゃんと優しい子に育てろよ?お前みたいに気が強い子に育つと将来が怖い。いい子に育てなきゃな?」

 

 肩をすくめながら言う彼に私は怒る。

 

「失礼ね!私は優しい女性よ?」

 

「ははっ。それは最高の冗談だ」

 

 私達はいつもと変わらない軽口を叩きあう。

 それが私と亮太の関係。

 喧嘩友達、幼馴染、それ以上でもそれ以下でもない。

 それこそが私が自ら望んだ彼との距離感。

 愛情とは人によって違うもの。

 私は亮太を愛しすぎて、愛が怖くなって自ら手放した。

 今になって思うと昔の私は子供過ぎたんだ。

 全てを自分一人で受け止めってしまった。

 本当の恋愛とは、ひとりが一方的に向ける愛情では意味がない。

 支え合い、お互いがお互いを必要としあい、愛し合う事に意味がある。

 亮太はワイングラスを傾けてそっと飲み干した。

 

「……なぁ、奈々子。幸せになれよ?」

 

「うん……」

 

「お前が幸せなら、それでいい。僕は、それでいいからさ」

 

 彼が軽く私の肩を叩いて、レストランの中へと戻ろうとする。

 その去り際の横顔はどこか寂しそうに見えた。

 

「……私、後悔してないから。亮太と付き合った事。好きになった事。全てが私にとってのいい経験だったと思ってる」

 

「そりゃ、どうも」

 

「だから、その、えっと……私が言う台詞じゃないかもしれないけど、亮太も幸せになって欲しいと願ってるわ」

 

 それは心からの本心だった。

 ゆっくりと移動していく雲、澄み切ったコバルトブルーの青空。

 眩しい太陽の日差しを浴びながら、亮太は笑顔を見せてくれる。

 

「おぅよ。そうだな、僕も幸せになるか。その前にはまずは就職活動に勝たないとな。どうにもまだ戦況が悪いんで困る」

 

「……それはしっかりしなしなさいよ?」

 

「ははっ。まぁ、何とかするよ。奈々子も身体には気をつけてな」

 

 今度こそ、彼らは振り返らずに室内に入って行く。

 私はその場に立ち尽くしながらそよ風を感じていた。

 この世界には幾つもの可能性があって、私はその中で一つの道を選んだの。

 もしかしたら、あったかもしれない別の未来。

 選ばなかったその未来と、選んだこの未来のどちらが幸せなのか。

 そんなことは誰にも分からないけれど、人はその道が最善だと信じて前に進む。

 

「……幸せか。私は幸せになりたいな」

 

 新しく生まれてくる命と一緒に、和輝と共に私は人生を歩んでいきたい。

 亮太との恋愛は私にとって無意味じゃなかった。

 いろんな経験が今の私に必要なものになっていた。

 

「愛情って難しい。けれど、ちゃんとどんな恋愛にも意味はあるのよ」

 

 私はそう言葉にすると、ようやく過去を振り切れた気がした。

 新たな未来に期待をよせながら、私は皆の所へと戻る。

 私はまだ知らないでいた。

 私と亮太の運命が……これから先に再び交わることになるなんて。

 私たちの未来に幸多い事をこの澄み切った快晴の青空に祈った――。

 

【 THE END 】


奈々子と亮太の過去です。この後、2人はまた交際することになるんですよね。奈々子は自己中心的なところがありますが、誰かからの愛情を常に求めているのかもしれません。その対象が亜美だったり、亮太だったり、和輝だったり、麻尋だったり。愛が欲しいけども、愛されると失うことが怖くなる。そういう心の弱さは誰にでもあると思います。

これで完結です。ここまで、作品を読んでくれてありがとうございました。

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