第二十四話:竜人の国と、王の謁見
「見えてきたぞ、あれが我が故郷『竜人の国』だ!」
アーサーさんが指差した先を見上げた俺とシオリさんは、言葉を失ってその場に立ち尽くした。
「な……なんだあれ……デカすぎるだろ……!」
「すごいです……! 山全体が、まるごと大きな城壁に囲まれていますね……!」
目の前に聳え立っていたのは、雲を突くほどに巨大で強固な黒金の巨石で組み上げられた城壁と、幾重にも重なる壮大な城塞都市だった。
門を潜ると、そこには人間と龍の特徴を併せ持つ竜人たちが威風堂々と行き交い、建造物の一つひとつが東の大陸では考えられないほど桁外れなスケールで広がっている。まさに圧倒的な光景だ。
俺たちはまず旅の拠点となる宿屋を手配して荷物を下ろすと、アーサーさんの案内でそのまま中央に鎮座する巨大な城へと向かうことになった。
「トウマ、シオリ殿。これから我が国の王にお会いする。失礼や粗相のないようにな」
アーサーさんにそう真面目な顔で釘を刺され、俺は肩の上の老狐をチラッと見やった。
「ねえアーサーさん。そうは言っても、うちの師匠って千年前から生きてる『神様』なんでしょ? 正直、国王より偉いんじゃないの?」
「戯けが!」
俺の言葉に、師匠(天狐)が3本になった黄金の尾をフサリと揺らし、鼻を鳴らした。
『それは一千年前の昔話じゃ。今は時代が違うからのぉ。それぞれの国を治める王には、それ相応の敬意を払うのが礼儀というものじゃ』
「へぇ〜、神様なのに意外と世渡り上手なんだな……」
『余計なお世話じゃ、口を慎まんか!』
◇
重厚な大理石の廊下を通り抜け、謁見の間の巨大な扉が開かれた。
玉座に鎮座していたのは、全身に力強い鱗を纏い、威厳に満ちた眼光を放つ竜人の国王——ロイ・ゴラムである。その全身から溢れ出る圧倒的な王の風格に、俺とシオリさんは思わず身を正す。
「よくぞ戻った、アーサー。街道を脅かしていた『暴風龍』の討伐、実にご苦労であったな」
「はっ! ありがたき幸せにございます、ロイ様!」
アーサーさんは片膝をつき、深く頭を下げた。国王ロイは鋭い視線を俺たちに向けた。
「で……そちらにおわす者たちは?」
「はっ、東の大陸より訪れた旅の一行にございます。……そして、こちらにおわすお方こそ、かつて聖獣として君臨された天狐様にございます。お供のトウマ殿と、シオリ殿にございます」
国王ロイの目が大きく見開かれた。ロイは玉座から立ち上がると、深く静かに頭を下げた。
「なんと……! あなた様が、かつて青龍様と共にこの世界をお護りくださった四獣が一角、九尾の天狐様でおられますか。伝説のお方とお目にかかれ、誠に光栄に存じます」
『うむ、面を上げよロイよ。苦労をかけるのう』
師匠が威厳たっぷりに頷いてみせる。
「ロイ様、実は折り入って伺いたいことがございます」
アーサーが言葉を繋ぐ。
「青龍様は千年前、北の大陸より飛来した『闇の軍団』と死闘を繰り広げ、傷ついて深い眠りにつかれたとお聞きしております。……現在、北の大陸はどうなっているのでしょうか?」
国王ロイは重々しく表情を曇らせ、深く溜め息をついた。
「言い伝えの通りだ。傷ついた青龍様は、仕えていた我ら竜人とドワーフにこの西の大陸を任せ、眠りにつかれたとされている。……しかし、北の大陸が今どうなっているのかは、我らにも皆目見当がつかぬのだ」
「それなんですが、国王様」
俺は思い切って口を開いた。
「実はここに来る道中、北の魔物と思われる『アイスイーグル』という怪鳥に襲われたんです」
「なに……アイスイーグルだと!?」
ロイの顔に緊張が走る。
「そうなのだ……最近、北の空より恐ろしい魔物が度々来襲しておってな。城警備を極限まで固めてはいるのだが、油断ならぬ状況が続いているのだ」
そこで師匠が前に進み出で、鋭い眼光でロイを見上げた。
『ロイよ。我が身を見ればわかる通り、わしは飛散した自身の『尾』を探しておるのじゃ。この国や周辺で、何か霊的な異変や尾にまつわる伝承はないか?』
「なんと……天狐様が尻尾をお探しで!? ……承知いたしました。すぐに国中の文献と兵を動かし、お調べさせましょう!」
ロイは力強く頷くと、柔らかな笑みを浮かべた。
「調査には少々時間がかかりましょう。せっかく竜人の国へと来られたのです、結果が出るまで街をご覧になってはいかがですか? 何かわかり次第、アーサーを通じてすぐにご連絡いたしましょう」
「「本当ですか!? ありがとうございます!」」
俺とシオリさんは顔を見合わせて大喜びした。
◇
「うわぁ〜! 見てよシオリさん、あんなデカい肉が丸焼きになってるぞ!」
「ふふ、本当ですね! 建物も食べ物も、大和とは全然違ってとっても賑やかです!」
城を出た俺たちは、さっそく竜人の国の活気あふれる街へと繰り出した。
見上げるほど巨大なショップ並ぶ露店街、豪快な料理の匂い、珍しい装飾品や異国の楽器。
トウマとシオリは目を輝かせながら、広大な街の散策を心ゆくまで楽しむ事にした。
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