第二十三話:疾風の試練と、炎の竜巻
港町ポルトを出発した俺たちは、アーサーさんの故郷である『竜人の国』を目指し、険しい山道を歩進めていた。
街道を渡る風は冷たく、どこか澄み切っている。
歩きながら、俺は気になっていたことを肩の上の師匠に尋ねてみた。
「そういえばさ師匠、今回取り戻した3本目の尻尾って、具体的にはどんな能力があるんだ?」
俺の問いに、師匠(天狐)は3本に増えた黄金の尾のうち、新しく戻った尾をふさりと揺らして胸を張った。
『クッカッカ! よくぞ聞いた! この3本目『疾風の霊核』は、文字通り【風】を司る能力じゃ! 刃先に風を纏わせることで威力を跳ね上げ、竜巻として遠くへ飛ばすこともできる。それにな、ただ切るだけでなく、斬りつけた傷口を追撃の風が幾重にも切り刻むのじゃ。さらに、1本目の『狐火』や2本目の『天雷』と同時に使えば、より強力な複合技となるぞ!』
「へぇ〜! 風を纏わせたり竜巻飛ばしたり……それ、めちゃくちゃ凄いじゃん! ちょっと試しにやってみるか!」
俺は腕を組んで集中し、肩に乗った師匠から霊力を引き出そうとしてみた。
ポンッと軽い衝撃とともに師匠が俺に憑依し、黄金の尾が光となって右手に吸い込まれ、一振りの美しい霊刀へと姿を変える。
「えっと……風を纏わせて、そこに狐火を重ねて……」
刃先にひゅるりと青白い風が巻きつき、そこに黄金の狐火を流し込んだ、その瞬間——!
ボンッ!!!
「わぁぁっ!?」
激しい爆発音が響き渡り、黒煙が上がる。俺の顔は煤で真っ黒になり、頭はアフロみたいに爆発してしまった。
『はぁ〜……まったく、まだまだ修行が足りんのお。……おいアーサーよ、この近くにこやつの修行ができる手頃なダンジョンとかはないかの?』
師匠が呆れたように溜め息をつく。顔の煤をぬぐいながら俺が文句を言おうとした、その時だった。
ピーッ!! と空を切り裂くような鋭い鳴き声が上空から響き渡った。
見上げれば、雲を突き抜けて巨大な怪鳥が舞い降りてくる。青白く光る氷の羽毛と、凍てつく眼光。怪鳥『アイスイーグル』だ!
『ほう……! おお、鴨がネギをしょってきたわい! 弟子よ、絶好の修行相手じゃ!』
「ええっ!? 今ここで!?」
驚く間もなく、再び師匠が深く憑依し、絶大な霊気が全身を駆け巡る。手元の霊刀が一段と強く輝きを放った。
『アーサーよ、手出しするではないぞ!』
「む……承知した! トウマ、見事試練を乗り越えてみせよ!」
腕を組んで見守るアーサーさん。逃げ場なしだ!
『いいかトウマ、上空の魔物にはまず風で足止めをするのじゃ!』
「わ、わかった!」
俺は刀をしっかり構え、刃先に青白い風の霊気を集中させる。先ほど教わったイメージを頭に描く。
「刃に風を纏わせ……飛べっ、竜巻! ヤァーッ!」
一閃! 刀から放たれた風の刃が、渦を巻く竜巻となって空中のアイスイーグルへ一直線に飛んでいく!
だが、アイスイーグルは鋭い身のこなしでさっとそれを避けると、口を大きく開けた。
シュババババッ!
絶え間なく降り注ぐ矢の嵐のごとく、鋭利な氷の刃が空から激しく連射されてくる!
「くっ……狐火!」
俺は咄嗟に風の霊気を切り替え、黄金の炎を吹き出させて迫り来る氷の刃をことごとく溶かし、相殺する。
蒸気が立ち込める中、俺の頭の中に電撃のような閃きが走る。
(待てよ……爆発させた時は同時に混ぜようとしたから失敗したんだ。炎の勢いを殺さず、風で包み込むように外側から回せば……!)
「そうだ……このまま狐火のまま、風を纏わせ……!!」
刀に燃え盛る黄金の狐火の上から、旋風の帯を二重三重に巻き付けていく。激しい炎と風が互いを高め合い、刀身が激しく打ち震える。
「喰らえ……! 火炎竜巻——っ!!」
鋭く振り抜いた刀から、巨大な火炎の竜巻が巻き起こり、 炎を撒き散らしながら天へと昇る巨大な竜巻が、上空のアイスイーグルを丸ごと呑み込む!
ギイィァァァッ!?
氷の羽毛は一瞬で焼き尽くされ、避ける間もなく巻き込まれたアイスイーグルは、そのまま丸焦げになってドスンと地面に落ちてきた。
「や、やった……! できたぞーっ!」
霊刀が光となって消え、肩の上にポスッと戻ってきた師匠に向かって俺が叫ぶと、見守っていた仲間たちが一斉に駆け寄ってきた。
「見事だ、トウマ! 見事な複合技だったぞ!」
「凄いですトウマさん! 炎と風の竜巻なんて、とっても格好良かったです!」
『クッカッカ! でかしたぞトウマ! 案外筋が良いではないか!』
アーサーさんとシオリさんが絶賛し、師匠も満足そうに頷いてくれた。
だけど……。
「はぁ……はぁ……死ぬ……」
慣れない風と火の複合技で一気に霊力を使い果たした俺は、その場にガクッと膝をついた。全身の筋肉が悲鳴を上げている。
「アーサーさん……竜人の国は……まだ着かないの……?」
「ハハハ、まだまだ先だぞ。まあ、今日は無理をせず近くの『コトルの町』で泊まることにしよう」
◇
夕方、俺たちは無事に『コトルの町』へと到着した。
落ち着いた雰囲気の宿屋を手配して荷物を置くと、俺たちはさっそく街の賑やかな酒場へと向かった。
宿代とこれからの旅費を稼ぐためだ。
「よし……いっちょやりますか!」
俺が背中から下ろした三味線の撥をベンッ! と力強く打ち鳴らすと、シオリさんが美しい竹笛の音色を重ね、アーサーさんが重厚な二胡でリズムを支える。
異国の楽器が織りなす力強くも温かいアンサンブルが酒場いっぱいに広がると、街の人々から一斉に歓声と手拍子が巻き起こり、投げ銭が次々とカゴの中に投げ入れられていった。
激しい戦闘のあとの、温かい酒場の空気と、みんなの笑顔。
三味線を弾きながら、俺はしみじみと思うのだった。
(やっぱり……演奏はいいなぁ……)
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