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07:魔将調伏①


「じゃあ僕に負けたら「様」付けてね?」


「「「「……はあ?」」」」


 その一言に、ノーライフキングの臣下たちから魔力が吹き上がる。


「随分と大きく出ましたわね……たかが人間風情が」


 血のように赤い舌を唇に這わせ、セレスティナが狂喜を瞳に宿す。


「その口、二度と開けんように粉々に砕いてやろうか?」


 小さな拳を鳴らし、フィリオがむき出しの怒りをぶつける。


「――解決。やはり殺せばいいだけダ」


 抑揚のない声でもってマークスは死刑を宣告する。


「よもや妾たちを相手に勝つつもりか? ノーライフキングの力の全てを使えぬ貴様など――」



 瞬間、凄まじい魔力がアスラを中心に吹き上がる。



「「「「……っ!?」」」」


 濃密でどこまでも深い魔力に、四人の殺意は一瞬だが完全に呑まれた。

 その様子にアスラは笑う。

 まるで面白い玩具を見つけた子供のように、無邪気な笑顔だった。


「びびってちゃ僕に勝てないよ?」

「き、貴様……ッ!」


 四人の魔将たちは各々で臨戦態勢に移るが――遅かった。

 アスラの展開した防御魔法が、足元からゼィリルを捉える。

 彼女の体は突き上げられ、地下室の天井をぶち抜いた。


「な、何じゃ、この硬度は……ッ!」


 汎用防御魔法 《ディフェント》はいわば魔力で作った壁だ。

 攻撃に使えるような威力はなく、ゼィリルは一切のダメージを受けていない。


 だがしかし、彼女は抜け出せない。

 膨大な魔力が込められた防御魔法は、単純な硬度と圧力のみでゼィリルを圧倒していた。


「本来は守りの術じゃ。それでぶん殴ってこようとは……ッ!」


 防御魔法は地下から地上へ、岩盤を削りながら一直線に走る。

 その間に挟まれたゼィリルは身動き出来ず、ただただアスラの発想力に驚くばかりだ。


(……場を移すことが目的か!?)


 ゼィリルの体は土の中を運ばれ、屋敷を砕いた後にようやく止まる。


 そこは夜空の下だ。

 体を反転させた彼女は風魔法でふわりと着地する。


「……あの男、最初から生きることを諦めておらなんだ……ッ!」


 屋敷の一部が衝撃に崩壊していく。

 ゼィリルは両手に青い炎を灯し、地下から続く穴を睨みつける。


「じゃがもう油断はせぬッ! 妾の炎で消し炭に――」


 威勢を吐くゼィリルは気付いた。

 暗い穴の影は夜の闇と繋がり、自身の影とも繋がっていることを。


【カラカラッ! 抑えておけばよろしいかアスラ殿!】

「きっ、貴様らはッ!」


 ゼィリルを拘束したのは三体のスケルトンだ。

 屋敷での戦いでも見た彼らは、虚ろな眼窩で彼女を見つめている。


「カラガンッ! 陛下を裏切る気か貴様っ!? 死に戻り過ぎて恩を忘れたか!?」

【カラカラカラッ! 死に戻りにあらず、生き返るようなものですぞ!】


 通常、召喚された魔物は術者の魔力で構成された依り代で活動する。

 つまり彼らは死んでも魂が魔界に還るだけであり、何度もこの世界に顕現可能だ。


【それに……はて、恩とは何でしたか。覚えていた血肉はとうに朽ちておりまして】

【ノーライフキングは雑兵として我らを消費するがしかし……アスラ殿は違う】

【我らに魔界では味わえない、心躍る戦いを用意してくださるのだ!】


 ゼィリルは炎を全身に纏うが、既に骨だけの彼らと相性は悪い。


【それに、屈したくなるというものですぞゼィリル殿。よくよく考えてくだされ】


 ゼィリルの耳元で骨が乾いた音を鳴らす。

 その虚ろな双眸は、確かに彼女と同じ方向を向いていた。



【無尽蔵の魔力と、ノーライフキングの魔法知識が組み合わさることの意味を】



 地下から地上へと貫通した穴から、アスラが姿を現す。

 空間が歪むほどの魔力を背負い、アスラが姿を現す。


「これしきりのことで妾を倒せるとでも思うたかッ!」


 ゼィリルは纏う炎を爆ぜさせ、その手に青い炎の槍を作り出す。

 地形を半永久的に変えるほどの威力を持つ、上位階梯に属する必殺の魔法だ。


 しかし。


「ねぇ、僕の防御魔法が何を守ってたか気にならない?」


 アスラが指さしたのはゼィリルの腹部だ。

 そこには彼女を地上まで打ち上げた防御魔法の欠片が浮いていた。


「防御魔法で箱を作ると中に色々なものが入るって知ってた?」


 解かれる防御魔法。爆ぜたのはアスラが込めた高濃度の魔力だ。

 爆風はゼィリルを吹き飛ばし、伯爵邸の庭園に大きなクレーターを作り出す。


「がっ……はぁ……っ!」


 驚くべきは込められた魔力量ではない。

 驚くべきはゼィリルを打ち上げる前から、ここまで仕込んでいた考えの深さだ。


(なんと、恐ろしいセンスじゃ……)


 衝撃を至近距離で受けたゼィリルの体は庭園に大の字に転がる。

 カラガンが忠告した言葉の意味を、今更ながらに実感した彼女の傍に。


 アスラは立っていた。

 無傷の彼はその場でしゃがみ、重傷の体を覗き込む。


「き、きさま……」

「負けたらどうするんだっけ?」

「ア、アスラ……様……」


 アスラはにっこりとほほ笑むと、治癒魔法をゼィリルに展開する。

 次の魔将が現れたのは、彼が立ち上がった時だった。


「はっはあっ! 陛下のお力を継いだのだ、そうでなくてはなッ!」


 屋敷を破壊し、飛び出してきたフィリオが吠える。

 彼はアスラが連射する小さな防御魔法をその身で受けながら、鋭い爪を肉薄した獲物に振り下ろした。


「ぐぬっ……なんと固い防御!」


 欠けた魔力の残滓が飛び散って光る。

 アスラは内側から更にもう一枚を展開し、フィリオの体を力技で押し返した。


「どう出る人間!? 俺に貴様の魔法など通用せんぞッ!」


 フィリオは高速移動のまま、すれ違いに防御魔法を爪で削っていく。


「どうするって……奇襲する気だったから打つ手がないよ。今考えてるの」


 剛力から次々と放たれる致命の一撃。

 じりじりと確実に追い込まれていくアスラの傍に――ぽうっと灯が浮かんだ。


『アスラ。俺様の必殺技を覚えてるか?』


「その声まさか……ピム?」


 貴族の行う賭け試合に使われ、鉄拳で名を馳せた男だった。

 もう一年も前に、負けが込んだ貴族にナイフの的にされて死んだ筈の男だった。


「これってモーラたちが出てきた時と同じ……?」

『俺様が培った技術と経験を……生きた証を、受け取りやがれ!』

「ちょ、ちょっと待って。何する気っ!?」


 生前の暑苦しさをそのままに、ピムはアスラの体に勝手に潜り込んだ。



 ――アスラの意識に流れる亡者の歩んだ人生。

 ――刹那の追体験が、亡者の習得した知識と技術を継承する。



「棒立ちか!? 諦めるとは漢らしくねぇなぁッ!」


 正面からの攻撃を前にアスラは――防御魔法を完全に解いた。


「なっ……!?」


 フィリオの爪がアスラの肩と腹に突き刺さる。

 アスラは唇の端から血を垂らしながら、彼の両腕を掴み返した。


「必殺技? 必ず自分が殺される技だよねこれ!」


 アスラの体は慣れた動作でフィリオの巨体を投げて地面に叩きつけた。


「ぐはっ――くそっ、俺はまだ……」


 背中を強打したフィリオは見た。


「……《リペルカウンター》」


 自身に治癒魔法を施し、全快したアスラの姿を。

 歴戦の格闘家の構えでもって、拳に防御魔法を纏うアスラの姿を。

 フィリオがそうしていたように、全身を魔力で強化したアスラの姿を。


「くくっ、がははははっ! 俺の負けだ、アスラ様!」


《リペルカウンター》。

 受けた物理ダメージを倍にして返すスキルだ。


 アスラの拳は振り下ろされ、フィリオの頭が地中へと埋まる。

 衝撃で起きた小さな揺れは、既に地上にいない彼女には届かなかった。


「――《散華せよ紅き夜の血(ブラッディショット)


 フィリオに治癒魔法を施したアスラへ、固めた血の散弾が飛来する。


「ちょ、遠距離攻撃はズルくない!?」


 アスラは防御魔法で体を庇いながら屋敷の瓦礫に身を隠す。

 ピムはアスラの体から外に出ると小さく消えていった。


「ワタクシは油断など致しませんわ。一方的に蹂躙させていただきます」


 腰から蝙蝠の翼を生やし、夜を統べる姫が宙で冷笑する。

 ただ見上げるしかないアスラの姿は、彼女にとって見慣れたものだった。


「無様ですわね。格の違いに今更気付きまして?」

「いや、パンツ見えそうだなって。スカート短くない?」

「っ、この、痴れ者が……っ!」


 言葉を荒げるセレスティナへアスラが瓦礫を投擲するも、彼女の体は無数の蝙蝠となって分裂。

 再び寄せ集まると、無傷の彼女は倍の散弾をアスラへ撃ち込んだ。


「あーあ、これ僕死んだねー」


 自嘲気味に笑うしかないアスラの顔の傍で灯が浮かぶ。

 徐々に形を変える人魂はやがてアスラの知らない顔を作り出した。


『困ってるなら力を貸すよ、ノーライフキング君』

「……誰? 何で力を貸してくれるの?」

『私の名前はリン。力を貸したいって思っただけのお姉さんさ。それじゃ不満かい?』


 アスラの体に飛び込むリン。



 ――アスラの意識に流れる亡者の歩んだ人生。

 ――刹那の追体験が、亡者の習得した知識と技術を継承する。



「そういう術式なんだね……思い出したよ」


 近くに落ちていた弓を手に、彼らは遮蔽物から姿を現した。


「まだ諦めていないようですわね。しかし何を……」


 セレスティナに見下ろされながら、アスラは矢を番えず半身となって弓を引く。


「百発百中の弓兵がいたって言ったら信じてくれる?」

「例え外さずとも、ワタクシに遠距離攻撃は当たりませんわよ!?」


 無防備な彼に連射される血の散弾。

 アスラは慣れた動作で呼吸を止め――番えた魔法を放つ。


 三階梯の風属性魔法 《ウインドスラッシュ》。

 リンの生きた証が不可視の矢となって夜空を駆ける。

 風の刃は矢となって弧を描き、血の散弾を避けて進んでいく。


「――《抉り打て紅き血の茨(ブラッディソーン)》」


 定められた矢の狙いの先で。

 セレスティナの手首から伸びた紅い鞭が、矢を叩き落さんとしなるがしかし。


「な、何事ですの……!?」


 矢は鞭に当たるよりまえに消え去り、断片がセレスティナを包囲する。

 そこから展開するのは防御魔法だ。

 術式は風で繋がり、夜の姫を閉じ込める檻を作り出す。


「こんなもの……っ!」


 すかさず防御魔法へ撃ち込まれるセレスティナの弾丸。

 だがアスラの作り出した檻はびくともせず、血は霧となって内部に充満する限りだった。


「百発百中だって言ったでしょ」


 戦いは終わったとばかりに弓をおろし、セレスティナを見上げるアスラ。

 不敵に微笑む彼の次の一手を察し、もう逃げられない彼女は感嘆するしかなかった。


「くく……っ、かつての陛下を凌ぐ力……お見それ致しましたわ、アスラ様」

「むきになってくれてありがとう……爆ぜて」


 防御魔法が風の刃と共に炸裂し、魔力の爆風が夜空で花開く。

 分裂を許されなかったセレスティナの体はゆっくりと落ちていった。

 彼女の体を防御魔法で受け止め、アスラは治癒をかけていく。


『どうだい? 私の弓は』

「尊敬するよ。どれだけ練習したらあんな矢を撃てるの?」

『ふふふっ、また力を借りたくなったら私を思ってね。アスラ君なら力を貸してもいい』

「……えっ、気持ちは嬉しいけど惚れられても困るっていうか」


 リンは最後に苦笑してからアスラの体から出て消えていった。


「――抹殺開始。(おの)が陛下をお救いすル」


 翼を持つ剣が編隊を組んでアスラへ迫る。


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