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31:カラガンは分からない

「ガルルアアアァァァ! そこを退けぇぇぇッ!」


 王都を蹂躙するフィリオの足は止まらない。

 纏った嵐は家々を薙ぎ払い、人々の阿鼻叫喚も絡み取っていく。


 まごう事なき災害だ。

 衛兵も一部は恐怖から逃げ出しており、避難誘導も間に合っていなかった。


「――むぅんッ!」


 建物の陰から不意に現れたゾンビへ、ゴルディオスは大剣を振り下ろす。

 馬車が四台すれ違える王都の大通りに彼の姿はあった。

 踏みしめた腐肉を魔力の塵に変えてから、将軍は改めて周囲を見渡した。


「……ううむ、これは妙だ」


 ゴルディオスの記憶にある戦場と、王都の惨状には大きく違う点があった。


 人的被害の少なさだ。

 倒れる衛兵の姿はあるが、一般の民で倒れている者はいない。

 奴隷やノーライフの姿に至っては皆無だ。


(刃向かえば容赦はしないということか……)


「将軍、神聖騎士が加勢にと」


 ゴルディオスが振り返ると数十人の騎士たちとボロ切れを纏った人々がいた。

 彼らは手足を長めに縛られ、逃げ出さないように緩く拘束されている。


「ノーライフキングはノーライフを傷つけられない、か……」


 彼は大きく息を吸いこむと、暴れまわるフィリオへ叫ぶ。


「俺の名はゴルディオスッ! ダナット王国の将軍なりッ!」


 投げかけるは王都の西へと侵攻する魔物の群れの中。

 フィリオの足が止まったことで、ゴルディオスの役目は殆ど達成されたも同然だった。


「獣の王よッ! 俺と正々堂々、勝負をしようではないかッ!」


 ノーライフたちがいる限り、フィリオは突っ込むことが出来ない。


「痴れ者が……ッ!」

 牙を覗かせるフィリオの唸り声が、ゴルディオスの下っ腹を震わせていた。



※※※



「面倒じゃねぇですか。国が傾くレベルの魔物たちが群れる《不死の軍勢》ってのは」


 王都の西側にヴィクトルの姿はあった。

 魔物たちの群れへ向かおうとしていた彼と部下の騎士たちは、

 たった一人の少女を前に動きを完全に封じられていた。


始血(ブラッディ)夜姫(スプレマシー)》セレスティナ・ディアクロイツ。

 全ての吸血鬼の中で最も尊い血を持つ魔の者を、ヴィクトルは見逃せない。


「ふふふ、あははははっ! 確かに絶世の美少女……ああぁ、素晴らしいねぇ!」


 値踏みするようにヴィクトルの視線に、セレスティナは嫌悪感を露わにする。


「貴方は……吸血鬼狩りでいらして?」

「良い声をしてるねぇ……尊厳を踏みにじられてどんな声で鳴くか……あぁ、楽しみだぁ」


 ヴィクトルは口元の下卑たにやけを隠そうともしない。


「ただでさえ蛆虫(うじむし)のような吸血鬼狩りが教会の騎士?

 蛆以下のクソは何と認識すればよいか悩みますわね」


 神聖騎士四十人に囲まれて尚、セレスティナはペースを崩さない。

 それがヴィクトルには気に入らなかった。


「余裕はいつまで保てるかなぁ」


 ヴィクトルが合図をすると、騎士の包囲網から数人が蹴り出される。

 薄い布を身に纏い、生気に欠けた表情たち。

 力が戻り過ぎた故に、セレスティナは彼らの正体に気付いてしまった。


「この者たちはまさか……半吸血鬼ですの……?」

「俺のコレクションさ! どうだい見てくれはどれも良いだろう?

 あの男なんか筋肉質で良い陰茎を持っていてね。君が僕の物になるなら貸してあげても――」

「この……外道がッ!」

「《サンディバインド》ッ!」


 騎士たちの盾が展開し、そこから伸びた三十近い光の鎖がセレスティナに巻き付く。

 加えてヴィクトルの走らせた糸が彼女を拘束し、柔らかな肉を締め上げた。


「あはははっ、ようやくそのすまし顔が崩れたねぇ!

 同胞を目の前で嬲り殺したらもっと良い表情をするかなぁ?」


 拘束し、心を折り、枷を嵌める。

 その戦術はヴィクトルが気に入った吸血鬼を狩る際の定石だった。


「たっぷり楽しませてもらうよぉ……《始血(ブラッディ)夜姫(スプレマシー)》」


 ヴィクトルが糸で半吸血鬼の男の腕を切り飛ばしたその時。

 王城で青い炎が爆ぜ、塔の一つが崩れて傾いていく。



※※※



「ノーライフキングは参戦しないのですか?」

【カラカラッ! アスラ様は少し野暮用がありましてなぁ!】


 大振りに振り下ろされた剣を見切り、アルカはすれ違いに光剣を叩き込む。

 バラバラに砕けた骨は玉座の間に散らばり、やがて塵となって消えていった。


「もう一つ、聞きたいことがあるのですが」


 アルカは剣を手に、前へと出た新たなカラガンに目を細める。


「……全員で襲い掛かるべきではありませんか?」


 スケルトンたちは律義に一列に並んでいた。

 一騎打ちが終わると、次のカラガンがアルカと対峙する。

 彼らは並んでいる間も楽しそうで、律義に剣術を語り合っていた。


【アスラ様は仰られました。順番に列を守りましょうと!】

【順番、順番っ! 割り込み禁止ぃぃぃっ!】

【最後尾どこですかぁ!? 最後のカラガンは剣を掲げて目印にぃぃぃ!】


 アルカが戦いの場でため息を吐いたのは初めてだった。

 彼女は腰のアミュレットに手を添え、温存したかった戦力を投入する。


「ゼィリル……貴方の主の命令です。このスケルトンたちを殺しなさい」


 青い炎を両手に纏い、ゼィリルがカラガンたちへ歩み始める。

 その姿に躯の兵士たちは俊敏に対応した。


【二列ゥゥゥ! 次は二列ですぞぉぉぉっ!】

【叱られず筆頭幹部殿と殺し合えるチャ~ンスッ! アゲアゲで参りますぞ~っ!】

【どちらにしようか悩む! どちらが派手に死ねますかぁぁぁ!?】

「……」


 瞬きは数回。

 アルカは剣を手に、二列に並ぶカラガンたちへ鬼の形相で突っ込んだ。


【割り込み禁止ぃぃぃぃ!?】

「《末光剣(まっこうけん)七折(ななせつ)》ッ!」


 スケルトンたちの中で踊るようなアルカの足運び。

 光る刃は七回転の斬撃を生み、不浄の魔物たちをまとめて吹き飛ばすがしかし。


【楽じぃぃぃぃっ! この緊張感、魔界では味わえませんなぁぁぁぁっ!】


 弾き飛ばされたスケルトンたちは着地すると同時にアルカへ群がっていく。


「――《大罪呑む蒼炎の息吹(ギルティブロウ)》」


 青い炎が玉座の間を照らし、アルカと一部のカラガンたちを飲み込んで爆ぜる。

 衝撃に城全体が揺れ、意匠の凝らされた天井には無残な亀裂が広がっていった。


「陛下は顔を曇らせるでしょうね……」


 抉れた壁の向こうで城の塔が崩れていく。

 当たり前のように無傷のアルカへ、カラガンたちの攻撃は尚も止まらない。


【ここからは乱戦じゃぁぁぁいッ!】

【首ィィ! 首が置いてけなァァァッ!】


 瓦礫の小山を避けるようにして剣を振るアルカ。

 対してカラガンたちの剣は、何の抵抗もなく瓦礫を斬りながら少女へ振られていた。


(何て物を雑兵に持たせているのですか……!?)


 剣に込める光属性の魔力を緩めれば剣を折られる。

 その確信は徐々にだが確実に聖刻騎士の平常心を奪っていた。


(残り一回の聖刻を使いますか……

 いえ、アスラは必ず来る。その時のために――)


〈報告! 報告! 広域防御結界の修復が完了! 即時再展開しますッ!〉

〈こちら第四分隊。《幽昏の嵐狼王(ダスクフェンリル)》を拘束完了〉

〈第一分隊、《始血(ブラッディ)夜姫(スプレマシー)》を拘束完了〉


 次々と舞い込む報告を聞くや否や、アルカは剣を逆手に持ち替える。

 飛び掛かって来たカラガンを蹴り飛ばし、少女は淡く微笑みを浮かべた。


「戯れもここまで。ノーライフキングの出番はなかったようですね」

【戯れェェェ? 真面目に殺し合いでしょうがぁぁぁあ!?】

「広域防御結界の効果は三つ。一つ目は外部からの防御。二つ目は結界内の魔力減衰」


 カラガンたちの手から剣が滑り落ちる。

 膝をつく者もいる中、少女はもう一つの切り札を告げた。


「そして三つ目は……特定術式の伝播です」


 アルカが自身の足元に放り投げたのはアミュレットだ。

 逆手に持った剣の先で、ゼィリルを操る聖具《赦しの(くさび)》に狙いをつける。


「《不死の軍勢》は今、再び敗れるのです」


 刃は聖具を砕き、魔法が結界を伝って伝播する。

 王都は強い輝きに包まれ――そして静寂が訪れた。


「《幽昏の嵐狼王(ダスクフェンリル)》と《始血(ブラッディ)夜姫(スプレマシー)》には今、

 私の部下が剣を突き立てています」


【つまり……どういうことですかな?】

「聖具の効果が伝播するのです。

 彼らが忠誠を誓った主はノーライフキングではなく、私になったということです」


【つまり……どういうことですかな?】

「……アスラは自らの臣下に殺されるということです」


 首を傾げるカラガンたち。

 アルカは説明を諦め、剣を引き抜いた。


「術式を刻まれたゼィリルも未だ私の手の中。勝敗は決しました」


 後始末をすべくアルカは再び刃に光を灯す。

 微笑む少女を前に、カラガンたちは更に首を傾げるのだった。



【だからどういうことか、骨にも分かるように説明願えますかァァァッ!?】


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