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21:アスラ様のために作る完璧な街

 マークスをその場に残し、アスラとゼィリルは街へと出る。

 石畳を踏みしめて通りへ出ると、様変わりした様子にアスラは息を飲んだ。


 大きな変化は音だ。人の話し声と金槌で何かを叩く音があちこちでしていた。

 そしてどこからともなく漂ってくる、美味しそうな匂い。


「アスラ様の呼んだ魔物たちに、《夜天の宮殿(ナイト・パレス)》からの移住者……

 皆が協力して街を発展させておる」


 ゼィリルを先頭に進んだ道の先にあったのは鍛冶屋だ。

 立ち込める熱気に驚いていると、背の低い鍛冶師たちがアスラたちに気付いた。


「おおっ! これはこれは、アスラ様では!」

「儂らの仕事ぶりを見に参られたか? がっはっは!」


 豪快な発声をする二人のドワーフは、《夜天の宮殿(ナイト・パレス)》からの移住者だった。


「儂はドワーフ族のディンセント。こっちもドワーフのブランじゃ」

「二人ともよろしく。それで……ここでは何を作ってるの?」

「何もかもじゃよ。足りん生活用品に武器防具。アスラ様の国に必要な物は何もかもじゃ!」

「おう! もう二度と何も作れんと絶望しとった儂らを救ってくれたアスラ様のためじゃ!」


 情熱の炎を瞳に宿し、ドワーフたちは鍛冶場に目配せする。

 そこには打たれた剣が綺麗に並べられていた。


「へぇ……どれも綺麗だね」

「カラガン殿たちの武器でな、どれ切れ味をご覧に入れよう」


 ディンセントは並んだ一本を手に取ると、加工前の鉄塊に刃を振り下ろす。

 金属音は――殆ど鳴らなかった。

 ただ刃は通過し、両断された鉄塊が鍛冶場に転がる。


「「……え?」」


 次元の異なる切れ味に、アスラもゼィリルも絶句する。

 あまりに規格外な結果に構わず、ブランは残念そうに顎鬚を撫でた。


「儂は盾を作っておるが未完成で中階梯魔法しか防げん。

 ここでアスラ様にお披露目出来ず申し訳ない」


 ブランが持っているのは木の盾だ。

 アスラは少し考え――ゼィリルを鍛冶場の隅に呼んだ。


「木の盾って魔法防げたっけ……?」

「防げるわけがなかろう。機会を与えたノーライフがこうも滅茶苦茶とは……」

「カラガン殿に聞きましたぞ、不死王の魔杖を作ると」


 神妙な面持ちで立つディンセントとブラン。

 その眼差しを受け、アスラは彼らの望みを察した。


「儂らに打たせてもらえんだろうか?」

「アスラ様に頂いた御恩を少しでも返したいんじゃ」

「後悔はさせん。持てる全ての技術を注ぎ込み、最強の魔杖を鍛えようッ!」


 鼻息も荒く、燃えるドワーフたちの瞳。

 アスラは熱意を正面から受け止め、にこりとほほ笑んだ。


「疑ってなんかないよ。僕からもお願いしたいくらいだから」


 ドワーフたちの表情に笑みが広がる。


「でもさ……」


 だがしかし。

 次にアスラの口から出たのは、その場の誰もが予期せぬ言葉だった。



「魔杖はつまらないから、僕専用のとっておきの魔剣を作れないかな?」



「「「は?」」」


 ドワーフ二人とゼィリルの声が重なる。


「ずっと考えてたんだけど、杖より剣の方が色々斬れて便利かなって」

「……便利かどうかではない。魔杖は魔力を強め……」

「強化も効率化も僕に必要ないよ。全部魔力量でごり押せる」


 誰であろうと使い続ければ魔力は枯渇する。

 故にいかに無駄なく魔力を使うか考えるものだが、彼にはその心配がなかった。


 魔法をより強めたいなら――込める魔力の量を増やせばいい。

 魔法をより早く出したいなら――予め魔力を込めて展開寸前で留めておけばいい。


 アスラが言わんとすることは、彼しか出来ない魔法の運用方法だった。


「理には適っておるが無茶苦茶じゃな……はぁ」


 ゼィリルの呆れたため息は肯定の意。

 対してドワーフ二人はとっくに頭を切り替えていた。


「魔剣……剣、か……面白いっ! そうと決まれば断酒じゃ!」

「おうおう! 精神を研ぎ澄ませばな!」

「僕が斬りたいものを斬れる剣を作ってね?」


 早速、わいわいと議論を交わし始めるディンセントとブラン。

 活気に湧く鍛冶場を後にし、アスラとゼィリルは再び通りを歩み始める。


「ドワーフは鍛冶が得意って聞いたことあるけど凄いんだね」

「ディンセントは鉱物の声を聞けるノーライフ。

 ブランは物に宿る魔力の流れを見極める目を持つノーライフだそうじゃ」

「僕の国は鍛冶が産業になりそうだね」


「ふむ……アスラ様は国の現状を理解しておらぬようじゃ」

「……どういうこと?」



 理解出来ないアスラを連れ、ゼィリルは街の各地を案内する。


 異端は鍛冶屋だけに留まらなかった。

 味覚と嗅覚にそれぞれ優れた男女が絶品の料理を作り。

 正確に寸法を目測出来る男が魔物も含めた民たちの服を繕い。

 手にした刃物で何でも切れる女が石畳の割れた通りを補修する。


 個々の力は世界の規模を考えれば微々たるものだ。

 しかし一つ一つが相乗効果を生み、確かに街に豊かさをもたらし始めていた。


「ノーライフはエリシア教の教義ゆえ、最期まで潰されるわけではない」

「他に替えが効かないくらい超有能だから、僕たちは執念深く使い潰されてたんだね」

「その通りじゃ。つまりアスラ様の作らんとする国は……

 文武に限らず、類稀(たぐいまれ)な異能力者たちで形成された超国家となるじゃろう」

「そんな国の王様かぁ……自信ないなぁ」


 アスラの様子にゼィリルが半眼になるのも無理はない。

 彼も彼とて、誰よりも規格外な異能を有しているからだ。


「国民のアスラ様への感謝、そして与えられた自由がそうさせておる。ほれ、あれを見よ」


 アスラが連れて来られたのは農地にと考えられていた空き地だ。

 そこには机が運び込まれ、区画整備の図が広げられていた。


「何だこの水路は……位置も効率が全て悪いッ! 計画した奴は馬鹿か!?」

「誰かディンセントさん呼んでくれ! 俺の作った堆肥が合ってるか聞きたいんだ」


 集まっていた五人は議論しながら、マークスの書いた図に線を加えていく。

 遥かに効率的で専門的な様子にアスラは乾いた笑いしか出ない。


「やりたい放題に楽しんでるなぁ……」


 アスラに気付いた男たちが破顔する。


「楽しんでますぜ! 自分たちの力でどこまで出来るか試してるんですよ!」

「陛下には快適な街に住んでもらわなきゃな!」

「まだまだ豊かにしますよ! 俺の腐らせる力があれば美味い野菜作り放題でさぁ!」

「あらゆる書庫で覚えさせられた学術研究……この国に注ぎ込んでやりますよ」


 にっかりと不格好に笑う彼らの願いはたった一つ。

 ゼィリルが代弁したのは、至極単純で果てのない夢だった。


みな、アスラ様に世界最高の王でいて欲しいだけじゃ」

「……そっか」


 噛みしめるような独り言に、笑い合う人々。

 確かにそれはアスラが戦うことで得た一つの結果だった。


「みんなありがとう。僕も王様として頑張るよ」


 別れを告げる民たちに見送られ。

 会議が行われる商業ギルドへ歩み始めた時だった。


「アスラ様! 敵の攻撃だ! 早く何とかしねぇとやばいぞ!」


 駆け寄る屈強な男たち。

 黒髭、赤髭、白髭、茶髭の髭四兄弟だ。

 血の繋がっていない彼らだが、息の合った様子でアスラに詰め寄る。


「一撃で壁を砕くたぁ、ただ事じゃねぇ!」

「戦いに関しちゃ無力だが修復は任せろ! 土木関係なら俺たちの領域だ」

「敵の正体も知れねぇ。アスラ様たちだけが頼み……」


 おずおずと挙手するアスラ。

 髭たちは顔を見合わせ……以前の距離感で彼に詰め寄る。


「あぁん!? アスラぁ、その挙げた腕はどういう了見だぁ!?」

「王のくせに国民(俺たち)を危険な目に遭わせたりはしてねぇよなぁ?」


 しかしアスラも負けていなかった。

 だから何だとばかりに黒髭のゴメスに詰め寄る。


「そうだよ僕が悪かったよ! だから何? 王様に文句あるの!?」

「あ、こいつ開き直りやがった!」

「文句ありまくりだっつーの! 影の中に入れられたのだって俺たちはまだ許しちゃいねぇぞ!?」

「無限に落ち続ける闇……いっそ気を失いたかった……」

「途中で血の雨が降ってくるし、スケルトンたちが笑いながら浮上していくし……」

「一周回って面白そうに聞こえるのが不思議だね」


「「「「アスラァァァァッ!?」」」」


「それよりさ、あの子たちの様子はどう?」


 アスラが聞いたのは、エプスタインによって小さな怪物にされた十人の子供のことだ。


「セレスティナの血液操作と僕の治癒魔法で体は治ったけど……」


 始祖の力を完全に支配したセレスティナ。

 無尽蔵の魔力を使ったアスラの超越的な治癒魔法。

 だが《封じの光臨》も破壊して体は自由になっても、心までは誰も癒せない。


「安心しろ! あの子たちの笑顔は俺たちが守るからよ」

「すぐに笑えやしねぇだろうが……大丈夫だ。心の傷は俺たちが癒す!」

「だからお前は真っ直ぐ前見て王様してろ! 俺たちはその背中についていくからよ」

「……どうしちゃったのみんな? すごく頼もしく見えるよ?」


「「「「アスラァァァァッ!?」」」」


「逃げるよゼィリル!」


 髭たちが声を荒げる頃には、アスラは走り出していた。


「民に叱責されるノーライフキングなぞ神聖国が見れば卒倒しそうじゃ」

「僕の国はこれで良いの! ほら、会議に行くよ」


 ゼィリルはくすりと笑いながら、弾む背中の後を追う。

 商業ギルドの扉を開くとアスラの腕の中に深紅の影が飛び込んだ。


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