氷の査察官と「呪われた」食材
査察官たちが『鳳凰の絆』へ向け出発した後の、静かになった食堂。
アキトが厨房の床を一瞬で磨き上げていると、背後から硬い靴音が響いた。
「……あなたが、ヴィンセント様が呼び寄せたという『至高の雑用係』ね」
振り返ると、そこには抜けるような銀髪をポニーテールにまとめた女性が立っていた。
統括ギルドが誇る特級査察官、ミラ・フォン・シュタイン。
常に冷静沈着、一切の妥協を許さない「氷の天秤」の異名を持つ彼女だが、その瞳には珍しく困惑の色が混じっていた。
「アキトだ。雑用でも料理でも、必要ならやるが……。あんた、ずいぶん『重い』もんを抱えてるな」
アキトの言葉に、ミラは目を見開いた。
彼女が抱えていたのは、厳重に封印された一つの木箱だった。
「わかるの? ……ええ、これを見て。アルカナ南部で見つかった新種の魔産物『極光の実』よ」
箱が開かれると、中には虹色に明滅する、禍々しくも美しい果実が鎮座していた。
だが、その周囲の空気は歪み、近づくだけで精神を削るようなプレッシャーを放っている。
「これに含まれる膨大な魔力は、皇国の結界を維持するのに必要不可欠。でも、強力な『呪毒』が混じっていて、一流の解呪師でも浄化できない。無理に食べれば廃人、煮れば爆発……。これを『無害な料理』に変えられる者がいるとしたら、神速の業を持つ者だけだと聞いて来たわ」
「なるほど。毒を抜くより早く、旨味だけを抽出して調理しろってことか」
アキトは不敵に笑い、その「呪いの果実」をひょいと手に取った。
普通の人間なら触れただけで手が腐り落ちる代物だが、アキトの指先は既に超高速で果実の表面を叩き、呪いの波長を見極めていた。
「いいぜ。査察官様がこれから戦い(調査)に行くなら、最高の『追い風』を作ってやるよ」
ミラの目の前で、アキトの腕が消えた。
聞こえるのは、空間そのものが震えるような超振動音だけ。
呪毒が弾け飛ぶ前に、アキトは「極光の実」を分子単位で解体し、特殊なスープへと再構築していく。
数分後。
ミラの前には、透き通るような純白のポタージュが置かれていた。
「どうぞ。名付けて『浄化の極光ポタージュ』。呪いごといっておいた」
ミラが恐るおそるスプーンを口にする。
次の瞬間、彼女の全身から黒い霧のようなストレスが抜け落ち、背中に真っ白な翼が生えたかのような全能感が突き抜けた。
「……信じられない。呪いが、すべて『力』に変換されている……。それに、この味……一生、忘れられそうにないわ」
氷の査察官と呼ばれた彼女の頬が、少女のように赤らむ。
アキトに付与されたバフは【完全状態異常無効】および【魔力出力限界突破】。
「アキト……。あなた、本当にあんな三流ギルドにいたの?」
「さあな。向こうじゃ『何もしてない』って言われてたしな」
その頃。
遠征先の森で、ガストンは叫んでいた。
「おい! なんでポーションを飲んでも傷が塞がらねえんだ!? この肉、腐ってんのか!?」
アキトが毎日「ついで」に行っていた、胃腸の洗浄と武具の浄化。
その恩恵を失った彼らは、ただの森の雑魚モンスターを相手に、かつてない苦戦を強いられていた。
アキトの超バフ飯レシピ解説:浄化の極光ポタージュ
現実の「蕪のポタージュ」をベースに、デトックス効果を極限まで高めたレシピだ。
■ 材料(1人分)
蕪(アルカナでは極光の実):2個(皮を厚く剥き、アクを抜く)
玉ねぎ:1/8個(繊維を断つように薄切り)
バター:5g
豆乳(または牛乳):150cc
白だし:少々(隠し味の和の旨味)
塩:適量
■ 料理のポイント
細胞の高速破壊と再構築:
本来はコトコト煮るが、アキトは超スピードの攪拌で野菜の繊維を物理的に破砕。火を通す時間を最小限にすることで、ビタミンと「魔力(酵素)」を一切壊さずに抽出する。
乳化の極致:
バターと豆乳を混ぜる際、1秒間に数万回の振動を与えることで、油分を完全に微細化(ナノ化)。これにより、飲んだ瞬間に胃を通り越して血管から直接吸収されるほどの吸収効率を実現している。
アク抜き:
蕪の独特の苦味(現実のイソチオシアネート)を、超高速の流水晒しで一瞬にして取り除き、甘みだけを強調させる。




