幕引き:悪魔の誇りと、開かない扉
「さらばだ、アキト・グロリア。貴様の味、そしてミラ殿へのこの想い……闇の深淵に刻んでおこう」
ゼロはそう言い残すと、翻した漆黒のマントを顔半分まで覆い、悠然と出口へ向かって歩き出した。
静まり返る会場。王族や騎士たちも、その圧倒的な「強者の背中」に思わず息を呑む。
「……ミラ殿、いつか貴殿がこの世界の光に飽きた時は、いつでも私の胸へ飛び込んでくるがいい。……フッ、行こうか、我が同胞たちよ!」
ゼロがパチンと指を鳴らす。
本来ならここで闇の霧が立ち込め、彼らは一瞬で消えるはずだった。
「……。…………。おい、指パッチンが湿気てて発動しねえぞ」
下っ端がヒソヒソと囁く。ゼロは平静を装い、もう一度、今度は力強く指を鳴らした。
スカッ。
「……魔力が……さっきの全力調理で、完全に底を突いてたわ……」
ゼロの頬がピクリと引き攣る。だが、彼は諦めない。
「フン、魔法などという安直な手段に頼るのはやめだ。闇の者は、闇らしく影に消えるのが道理……! 全員、走るぞ!!」
「「「御意!!」」」
漆黒の集団が、ものすごい勢いで全力疾走し始めた。だが、ゼロが先頭を切って駆け込んだのは、出口ではなく「掃除用具入れの物置」の扉だった。
「……っ、こっちじゃない! こっちだ!!」
ドタンバタンと音を立てながら、慌てて逆方向へ走るゼロ。あまりの勢いに、自慢の長いマントが椅子の脚に引っかかり、五桁の年月を生きる最強の悪魔が「の」の字を描くように盛大にスライディング転倒した。
「グハァッ!? ……な、何でもない。これも闇の儀式の一環だ! ミラ殿、見ていないでくれ!」
「……もう遅いわよ」
ミラが冷たい視線を送る中、ゼロは顔を真っ赤にして(マントで隠しているが耳まで赤い)、部下たちに抱えられるようにして窓から飛び降りて去っていった。
……ちなみに、ここは三階である。
下から「ギャアアアッ!」という悪魔にあるまじき悲鳴が聞こえ、ようやく会場に本当の静寂が訪れた。
「……アキト。アイツ、本当に大丈夫なの?」
「さあな。でも、アイツが持ってきたあの高価なスパイス、全部置きっぱなしだぞ。……これ、明日の朝飯に使わせてもらおうか」
アキトは苦笑しながら、嵐の去った後の厨房を片付け始めた。
最強にして最古の悪魔・ゼロ。
彼はアキトに「敗北」と、そして「大量の最高級食材」という特大の置き土産を残していったのだった。
アキトのバフ飯レシピ解説:悪魔の置き土産・黄金のスパイスエッグ
ゼロが忘れていった「深淵のスパイス」を、アキトが日常の朝食に落とし込んだレシピ。
■ 材料(2人分)
卵:4個
牛乳:大さじ2
バター:10g
ゼロのスパイス(現実ならクミン、コリアンダー、ターメリック): 各少々
塩、胡椒:適量
■ 料理のポイント
「神速のスクランブル」:
卵に空気を含ませながら、アキトの神速で攪拌。ゼロのスパイスが持つ「魔力的な刺激」を、バターの脂分で優しく包み込み、マイルドにする。
スパイスの「熱活性」:
スパイスをバターで炒める際、香りが最大になる瞬間をアキトは見逃さない。これにより、朝から脳を強制的に覚醒させる「集中力アップバフ」を付与する。
仕上げの「聖樹の雫」:
最後に一滴だけカエルムの雫を。これが悪魔のスパイスと中和し、毒気を抜いて純粋なエネルギーへと変換させる。




