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第一話 ダリアのような赤い瞳を僕は忘れない①

このストーリーは三話構成です。


 私は覚えている。


 新雪のヴェールで包まれた北国の山脈の景観を。

 つま先や手のひらの感覚が無くなるほど凍えた容赦のない寒さを。

 冷えた木枯らしと共に細雪が視界に舞い、銀世界の中は静寂に満ちていた。

 そんな厳しい季節に凛と咲くプリムラの静かな美しさと力強さがとても印象的だった。

 けれど最も記憶に残っているのは、あの故郷の大地に咲くダリアのように、情熱的な赤い瞳の色だ。


 今でも忘れない。

 冬の寒ささえ、消し飛ぶような燃えるような赤い瞳の持ち主を。

 それは少女だった。

 そして王女であった。

 まさか小娘との出会いで人生がひっくり返るなんて、あの時は思いもしなかったよ。




 自己紹介が遅れたね。

 私の名前はヨハン=プレヴォスト、ヨハンでいいよ。

 今は、ただのバーテンダーさ。

 さぁ今の君の気分に似合うカクテルができたよ。

 ゆっくり味わって飲んでくれ。

 え?

 カクテルの名前?

 コスモポリタンさ。

 ちょっと甘酸っぱいかもしれない。

 けど茜色に染まっていて、とっても華やかだろう?

 気落ちしているように見えたからね。

 これでも飲んで心の憂さを晴らそうじゃないか。

 私の初恋について聞きたいだって?

 よしてくれ。

 話せば長くなるし、暗い気持ちにさせるかもしれない。

 時間ならある?

 仕方ない、ずいぶん昔の話になるけど構わないね?

 それで君の気持ちが晴れるなら話そうじゃないか。

 ゆっくり目の前のコスモポリタンを味わって、聞いてくれ。

 



 私が二十歳の頃だ。

 当時私はビガロス神聖国の司祭になったばかりの頃だ。

 当時は学だけは優秀だったからね。

 結構異例なんだよ。

 その歳で司祭になるなんて。

 ついでに宣教師にも選ばれたんだ。

 行き先は大陸の北の果て、ケルン魔法国の首都サレムさ。

 ケルンは魔法大国でもあるんだけど、敬虔なシア教の国でもあるんだ。

 異教文化交流の一環で、派遣されたのさ。

 最も、私は没落貴族の次男でね。

 軍人になるか、出家するかの二択だったからさ。

 体力より、頭を使う方が向いてたから、宗教の道を選んだだけなんだ。

 心の底では神様なんていないって思ってたし、信仰心なんてこれっぽっちも無かったよ。

 ただ食べる為に司祭になったんだ。

 それにしてもケルンの魔法文化は凄かったな。

 知ってる?

 あそこは魔法の能力で仕事の階級とかが決まるんだ。

 例えば高度な魔法を使えれば子供でも教師とかになれるんだ。

 能力主義ってヤツだね。

 王族も例外じゃなくて、王位継承権は優れた魔法を使える人間が上になるんだ。


 おっと話が逸れたね。

 宣教師になった私があの国で何をしていたかというと、教師だったんだ。

 スクールってところで働いてたんだよ。

 スクールってのは魔法を教える教育機関でね。

 あの銀世界の雪国の景色にも驚いたけど、そんなところで魔法を使えないただの異教の僧侶の私がそんなところに配属されるなんて思いもしなかったよ。

 そこの生徒に何を教えてたかだって?

 自分でもビックリだったよ。

 異教徒とはいえ、これでも司祭だよ?

 まさか魔法使いの生徒達の教壇に立って教えることが、『裁縫』だなんて……。

 勿論、そこの学生達は魔法を習いに来たんだ。

 私の授業なんて退屈だったろうに、スクールの生徒達はクソ真面目に刺繍をやってたよ、

 まぁ裁縫でも実技試験で落第したら卒業できないからね。

 皆んな真面目な生徒達だったよ。

 敬虔なシア教徒の生徒達で皆んな女神様にお祈りしてたな。

 けど、例外がいたよ。

 その国の王女様さ。

 絹糸みたいな黄金色の髪で、透き通るような色白の肌。彫刻みたいに整った顔をしていた。

 ただその瞳だけが故郷に咲く赤いダリアのように燃え上がる情熱をたたえていたな。

 歳の頃はまだ16歳だったかな。

 うら若き乙女の年頃の少女さ。


 けど授業態度は最悪だったね。

 いつも居眠りしてやがった。

 居眠りだけならまだマシだった。

 あの王女様ときたら、大事な祭服や法衣を、躊躇いもなく火炎魔法で消し炭にするんだ。

 なんでも、

「異教徒の服なんか着る意味無いから、魔法の触媒にしてやったわ」

 とか抜かしてたな。

 勿論成績を不可にするつもりだったさ。

 けどできなかった。

 え?

 王族の権威に負けたからだって?

 それがさ、違うんだ。

 私の胸ぐらを掴んで、まるで山賊が脅すかのように暴力で脅迫したんだ。

「あたしのやり方に文句あんのかぁ!」

 ってさ。

 とにかくティラノサウルスみたいな女の子だったね。

 けど不思議と彼女に怒鳴られても、腹は立たなかったんだ。

 むしろ目が離せなかったよ。

 今まで、いや人生を生きていた中でもこんな女性に出会ったことは無かったね。

 とにかく猛獣相手に授業してたよ。

 その王女様、タチの悪いことに、魔法と剣術に関しては右に出る者がいなかったんだ。

 信じられる?

 無詠唱で魔法を使えるんだよ?

 剣術に至っては大人の魔法騎士団の団員が束になってようやく訓練になるぐらいの腕の持ち主なんだ。

 さっきも言ったけど、王族も能力で継承権が決まるって言ったじゃないか。

 彼女は次期女王が確実視されたからね。

 知的な魔法の国に暴君が君臨するかと思うと今でも背筋が凍るね。


 彼女の名前?

 ルチアだよ。

 聖人の名前に実に相応しくない少女だったよ。

 けど強く、美しい少女だったよ。

 特にあの赤い瞳、強い信念と意志を持っていたね。


 私も気づいたらスクールで彼女の暴れ回る姿に夢中になっていたよ。

 懐かしいなぁ。 

 あの頃は楽をして生きることだけ考えてたのに、とにかくルチアの品行を正す為に、信仰心抜きにして必死だったよ。

 彼女は僕の平穏を見事にぶち壊してくれたよ。

 その癖、母国のシア教徒のシンボルである女神像への礼拝は敬虔だったな。

 せめてその信仰心の欠片の一つでも私の授業に恵んで欲しかったよ。

 

 あれはいつだったかな?

 雪解けに咲くクロッカスの鮮やかな黄色い花弁が目に焼き付いた季節だったかな。

 そのスクールの窓には四季の変化を知らせる小鳥が囀ってたよ。

 居眠りしてるルチアを起こそうとね。

 今日は暴れてないだけマシだと思ってた日さ。

 私の退屈な裁縫の授業なんて完全に睡眠時間だと開き直ってたね。

 机の上には針も糸も置かれていなかったよ。

 代わりにビビるぐらいデカい物騒な大剣が置かれてたよ。

 相変わらずの授業態度、その時周囲の生徒達の声が耳に入ったのさ。

「この国は将来、軍事大国になるな……」

「侵略戦争が始まるかもな……」

「恐怖政治の始まりよ……」

 流石にこれは不味いと思ったね。

 私は深く溜息をついて、いつ殴られてもいいように顎を引いてルチアの背を揺り、覚悟を決めて起こしたよ。

「ルチア、ここは剣術の修行場ではありません。裁縫の授業場です。そんな物騒な剣はしまって、針と糸を出して下さい」

 彼女は実に不機嫌そうな顔をしてひと睨みして、私に一言告げたよ。

「……やだね」

 だから私は得意の神問答をしたよ。

 無論、ぶん殴られる覚悟でね。

「何故です?」

 ルチアは欠伸をしながら答えたよ。

「どうせ縫い物なんて、将来役に立たないでしょ」

「大事な服が破れたらどうするんです?」

「破れた服なんて、魔法で燃やす」

 原子的な発想に辟易したよ。

 雪国のティラノサウルスめ。

「では、あなたが王になった時。部下や民衆の服が破れていた時、全て魔法で燃やし尽くしますか?」

 ルチアは、その時ぴくりと眉を動かして、

「あなたは確かに強い、誰よりもだ。魔法も剣もあなたに敵う者はいないでしょう」

 スクールの教室が水を打ったかのように静寂に包まれる。

 嵐の前の静けさというやつさ。

「だが、強いだけの王の下にいる民衆は怯えて暮らすことになるでしょう。このままではあなたは暴君になります」

 刹那、机が炎に包まれて吹き飛んだよ。

 火球が私の頬をかすめて、壁が丸焦げになった。

「……あたしを侮辱してんの!? 知った風な口聞いてさ!!」

 教室中の生徒が凍りついたね。

 私は怯まなかったよ。

 彼女の、ルチアの何かに怯える赤い瞳にそれが何かを知っていたからね。

「いいえ」

 そして溶けた黄金のような金色の髪を撫でて、

「ルチア、あなたは将来王になる。王は力が強いだけではいけません。心が弱くてはいけないのです。あなたが最も欠けてる部分だ。だから伝えたのです」

 図星を突かれたルチアは黙ってしまったね。

 けど拳は震えていた。

 美しい瞳が潤んでいたのをよく覚えているよ。

「ルチア、あなたは弱い。机の上の大剣が証拠だ。心を鍛えなければいけないのです。だから……」

 彼女の渾身の右拳が私の左頬の上顎にクリーンヒットしたよ。

 奥歯が飛んで、床に転がっていったさ。

 口の中で血の味がしたね。

 すかさずルチアは私の襟を掴んで、綺麗なダリアの瞳で睨みつけた。

「……死にたいの?」

 その震えるダリアの瞳の正体に気づいていた私はルチアの言葉が軽く思えた。

 これは虚勢だと知っていたから答えた。

「気は済みましたか? 良ければ左頬もどうぞ」

 流石はティラノサウルスだ。

 問答無用で差し出した左頬もぶん殴られたよ。

 その拳より、彼女の震えの方が痛かったなぁ。

 そして顔を隠すように、溢れる涙を悟られないように、ルチアは俯いてたね。

「ルチア、王とはなんです? 答えなさい」

 ルチアは黙った。

 全身が震えていたよ。 

 長い沈黙の後、彼女は私に背を向けて、立ち去ろうとしたね。

 私は深く嘆息しながら、彼女に注意した。

「次の授業の時までにあなたなりの答えを用意して下さい。ついでに裁縫道具も忘れずに」


 ルチアは逃げるように、教室を立ち去ったね。

 その背中は酷く小さく見えた。

 将来に不安を覚える、年頃の少女の小さな背中だった。

 中指を立てていたことが、彼女なりの反抗心だったんだろう。


 そこにはティラノサウルスじゃない、冬の寒さに凍える小鳥のような年頃相応の少女がいたよ。


 とにかくほっておけない女の子だったよ。


 あの時は思いもしなかったな。

 あの深紅の瞳に自分の心が吸い込まれて、私の運命までもが、ひっくり返ってしまうとは。


 本当に私は何も知らないままだったんだよ。


いつもバトルギャグファンタジーを書いているから、綺麗な物語が書きたくなりましたw


感想お待ちお待ちしております。


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