〇〇な王子の登場!!
「あぁ、エラ!走ったら転ぶわよ!私とセレーナは、明日から旅行に行くからもう少ししたら先に帰ってるからねー!」
母の注意も虚しく小走りで列に並ぼうとした丁度その時、締め切りのカードを持った係の人が!
《まずい。締め切られちゃう。》
「待ってください〜!私も参加します!」
後尾ではあるものの、何とか列に並ぶことができた。私の後ろへ並ぼうとした令嬢は、並ぶ事が出来ずに帰って行った。それくらいの人気ぶり。
隣国は女性に人気がある『美形大国・美容大国』だから令嬢達が多いのも納得する。
それに、王族って国王が見目のいい妃を娶るから美形が多いし。今回の王子も絶対にイケメンなはず!←偏見
「それでは皆さん、一列にお並び下さい〜」
王子様に花を渡す訳だし、しっかりした方法で決めるんだろうな、なんて考えていたら徐に指を差して……
「ど・ち・ら・にしようかな〜神様の言う通り!」
《えっ?!まさかそうやって決める気?!》
王子の花束贈呈役を『どれにしようかな』で決めるなんで適当すぎる気がする。それに、並ぶ令嬢を係の人が一人ずつ指さしていく姿は……《全くやる気が感じられない!》
「では、ご令嬢、あなたに王子へ贈呈してもらいま〜す」
やる気のない係の人は私の前で止まり、指の方向がどう見ても私に向いている。つまりこの中から選ばれたのは『私』という訳。
周りからは、まばらにパチパチと拍手の音が響き渡った。決め方が適当すぎてあんまり自分に決まった感覚がないし、正直言うと『見目麗しい、そこのあなた!』とかが良かった。
まっ、私に決まった訳だしそこは別にいっか☆
* * *
すぐ気王子が登場するらしく、ステージの真ん中で王子を今か今かと待っている。後は王子が来るだけ!
あぁ、どんな方なのかしら!
期待とワクワクで胸が高ま―――
『きゃーオリバー様。素敵ですわ♡』
折角の高揚感が、あそこの集団のせいで雰囲気掻き消されてしまったので、仕方なく声のする方向へ顔を向けた。オリバーは相変わらずモテているみたいね。
『やだ〜。オリバー様ったらぁ〜』
(あっ!ねぇ今の見た?あの女ボディータッチした!離婚して間もない男にボディータッ……別に気にしてない。)
気を取られていた視線を元に戻し、持っている可愛らしい花々を見つめ――。
『私にグラス取ってくれたわー!!』
『『きゃ〜!王子様みたい』』
『あぁ、令嬢方、そんなに押さないで。危ないですよ。』
(…あんなの気にしてないわ、私は本物の王子に会うんですもの。)
身を引き締めようと姿勢を正すと国王がステージの前に現れてガヤガヤしていた周りが一斉に静かになった。
「それでは、隣国ヴァレンタ王国から来られた第二王子ベルタ王子に花束の贈呈を。」
国王陛下の声掛けによって大勢の視線がステージ上の私に注目してる。拍手が次第に大きくなるにつれて、私の期待も膨らんでいくのを感じた。
「あぁ、いよいよなのね!」
赤いベルベットのカーテンから大きい歩幅で歩いて来る人影が見える。あの威厳ある歩き方は王子様に違いない!カーテンの影でよく見えないけど、一つ確かなのは骨格がとてもしっかりしているって事。
緊張で下を向いているから今見えているのは王子の靴だけ。さっきの影は随分と大きかったかったので殿下は筋肉質なんだろうな。
筋肉イケメンも良いかもしれない……えへへへ
「お嬢さん、花をありがとう」
声は若くはなかったけど、優しそうな柔らかい声だった。ただ一つ違和感があって、私から花束を取った王子の手がぽっちゃりして見えた……
考えすぎよね、きっと筋肉付け過ぎたんだわ♡
「顔を上げてくれないか?」
期待に胸を躍らせながら顔を上げると、激しい稲妻に打たれた様な衝撃が走った――。
絵に描いたような『煌めく様なストレートの金髪で長くスラッと伸びた足。極め付けはうっとりする様な甘いマスクの王子』
は、何処にも居なかった。
その代わりに、王子っぽい白い服を着た人が目の前に立っていた。
(だけど信じたくない……)
「ん?どうしたんだ?」
目の前にいる王子様が…こんなに『太ったおじさん』だってことを!
若いイケメンを勝手に想像したこっちも悪いけどさ、まさかおじさん王子が出てくるなんて思わないじゃない?目の前には、筋肉質なイケメンなんて居ない。居るのは体のフォルムが丸い王子。
《私の妄想では長髪の金髪で薔薇が似合う爽やかなイケメンだったのにぃ!》
それに花を受け取る際、当たった左手が脂ぎっていた……。身長は低身長な私より若干上ぐらいで、その至近距離から私をを見つめるもんだから……
あぁ。言葉が出ない。
今の私の顔が血の気のない真っ青な顔をしている。そんなの誰の目で見ても明白。今の私にはこの王子に価値を見出せないみたい。
《この王子、今の私にはまだ早いみたいだわ》
「本当に、どうしたんだ?令嬢」
「あっ、こんなに王子様を間近で拝見したのは初めてでオホホホホ〜」
何度目を擦ってみても目の前に立ちはだかるのは、30半ば〜40代ぐらいのおっさん王子。白のぱっつぱつなズボンが痛々し――失礼。
えーと……プリっとしたつぶらな瞳の王子で、目元は可愛いカモシレナイネ!
ざわついているのは、私だけではない様子で、ステージの下に目をやると先ほど選ばれなかった令嬢達は『やらなくてよかった……』と口にしているのが聞こえてくる。皆の表情からは内心ほっとしているのが見て取れる。
あぁ、厄介事押し付けられたみたい……。
私が先ほど唱えていた『王室は顔が良い』は嘘だと確信した瞬間。確信をもって言える……
《王室は美形集団ではない!》
絶賛体験中な私は逸らしていた視線をゆっくり王子に戻す――。
「どうしたかね?あまりに私がタイプで呆然としているのかな?ッハッハッハ」
おじ王子の痛い一言に、ボーと考えていた頭が冴えてしまい、目の前におじ王子が鮮明に写った。
……ひぃっ!
こっちに近づいて来るから後ろに後退りすると、ドレスの裾に足を取られ、あわや転びそうになった。『危ないっ』と私を抱き止めた殿下のその脂ぎっしゅたるや……
あぁ、ジーザス。
「すごく良い香りだな、何の香水を?」
「……あっ、アクアシャボンの香水です……ゲド」
「それは良い。ぜひ同じものを持ち帰ろう。君の事も自国へ持ち帰りたいくらい気に入ったよ。ハッハッハ」
いやぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!
笑えない冗談も込みでいやぁぁーーーーーー!
今日が人生で最も最悪な1日であることは間違いない。オリバーと結婚した日と比べても比じゃないぐらい今の方が嫌だ!
《一刻も早くこの場から立ち去りたい!》
そう思ったのに、体の力が全て抜けて仰向けに倒れた。幽体離脱したみたいに魂が抜けて行く。脳が混乱している今の私は、気絶した方が幸せかもしれない。
「あっ!令嬢?!どうされた?!」
走馬灯の様なものが頭の中に次から次へと流れて来る。
おじ王子が何やら喋っているけど聞こえないし、走馬灯に出てくるオリバーがイケメンすぎて目の前にいる王子が現物なことに目を逸らしたくなった私は………
《早く夢の中へ行かせてくれっ!》と、切実に願った。
これ程エオリバーを見て感動することは人生でそう無いだろう。目を閉じる間際、ステージ上からオリバーが目に止まった。彼のプレイボーイに名を恥じない女を侍らせる姿と、おじ王子を相手する私との差に天を仰いだ。
「あぁ、元々仰向けで倒れてたわ…。」
ガクッ
「令嬢ー!気をしっかりー!」
耳元でうるさい王子の声が薄れゆく意識の中で聞こえた。申し訳ないけど『気絶の間際ぐらい静かにしてろ!』と思ったのはここだけの話。
……っプツッ
ここからばったり記憶が無い。
気絶させるなんて、おじ王子…‥‥罪深い男




