初めての朝チュンは散々だった
「……うぅ、頭が痛い」
チュンチュンとした小鳥の囀りで目が覚めた。
昨日飲んだワインのせいでズキズキ頭痛がして寝起きは最悪。起きたばかりで視界がぼやけて見えるのが、また気分を落としてくる。
「ワイン一杯だけでこんなに酔うなんて。あ〜まだ寝ていたい……5分だけ」
言い訳をしてコロコロ転がったら生暖かい何かにぶち当たった。何だ? 壁か?
「いやいや〜ベッドに壁なんて、そんなもんが……」
ボヤけた目を頑張って凝らすと、いきなり飛び込んできたのはオリバーの寝顔。
「ち、ちかぁっ」
至近距離すぎて、無駄に整った無防備な“寝顔”とシャツから覗く“鎖骨”で私の視界が埋まってんのよ。
驚いて頭が冴え渡ってきたわ!
視界も、クリアになった事で昨日まで使っていた部屋じゃないことに今更気がついた。
同じベッドで一夜を共にするなんて、はしたないかも。やだぁ〜いつもの妄想の方がよっぽどはしたない?
それは言わないお約束☆
「とにかく、髪の毛を整えないと!」
テーブルの上に鏡なんて置いてないから銀のお皿を鏡の代わりに癖毛を直して……。
ついでに寝巻きも整えて……。
よし、これでオリバーがいつ起きても大丈夫。
そんなこんなで意気揚々と布団を被って寝たフリをすること3分。
「……全然起きる気配ない」
愛読している小説の男主人公達は、先に起きてて『随分遅い目覚めだね〜』なんてキザな挨拶を言ってくれるものなのにぃ〜。
まぁ、これはこれで可愛いけどさ。
起きている時よりアンニュイでいつもより幼く見える寝顔。それに目元にかかった淡いオリーブ色の金髪が、カーテンの隙間から差す光でキラキラと輝いているみたい。
「起きてたらあんなに意地悪なのに……眠ってる時は儚くて幻想的になるのずるい。それにしても全然起きないな……。」
無意識に、オリバーの目元に掛かった髪を払おうと手を伸ばす。
――その瞬間。目を開けたオリバーと視線が合ってしまい謎に緊張感が。
「いや、これは……違くて!」
「……ん……るさい……」
――ガシッ!
否定する両手を難なく片手で掴まれた。おかげで私の心臓が跳ね上がった。
「は、離してよ……って、また寝るんかい!」
寝ぼけて掴んだだけみたいで、オリバーは再びスヤスヤと寝息を立て始めた。
ん?
ちょっと待てよ……。という事はオリバーが再び目覚めるまで私の両手は掴まれたまま!?『強引でカッコいいシチュエーション♡」……なんて一瞬でも浸りそうになった私、バカ野郎!
身動き取れないのは話が変わってくるんよ!
――頭を抱えた矢先、耳元をブーーンと不快な音が通り過ぎた。あぁ〜今このタイミングで“蚊”とか本当に勘弁して…。しかも腕に止まった。逃げられないのにぃーー!
「もう!オリバー離してよぉー!」
ブンブンと腕を解こうと試みた。それでもガチガチに掴まれてるせいでびくりともしない。
真っ赤に腫れた刺された痕。痒いけどどうすることも出来ないから目を瞑って無かった事に……は、ならなかった!そ・れ・に・痒いことにプラスして、何度も何度も耳障りな羽音が聞こえてイラつきがピークに達している。
渋々目を開けるとそこには、私を煽る様にオリバーの上で八の字で飛び回る蚊。アイツ絶対に煽ってるよね?
ここは、もう最終手段に出る事にしよう!
「オリバー……オリバー………起きて!」
「……ん……どうしたの?」
ようやく薄目を開けたオリバーが、私のホールドを緩めてくれた。
あぁ、手首が解放された!
これで……あの蚊を潰せる!
すぐさまベッドから立ち上がり、空中で飛び回る蚊を退治すべく躍起になった。右に行って〜左にいって〜無我夢中で叩きまくったわけ。
「君は一体、朝から何をしているのかな?」
案の定、オリバーからは『心底理解できない』そんな目で見られた。だがしかし、今の私にそんな視線は些細なこと!
「あぁ!今オリバーの方に逃げた!」
コイツ私の血ならずオリバーの血までも貪り食おうとするなんて!オリバーの首筋からシャツの隙間へと入り込んでいった。
だが、それを見逃す私ではない!
「そこかっ!」
上乗りにしてシャツのボタンを勢いよく外した。(←マジごめん)
そして、驚愕で目を見開くオリバーの首元へ向けて、思いっきりを左手を叩きつけた。
パンッとね!
「これで退治……」
ゆっくり叩きつけた手を離してみる。
蚊はどこにもいない代わりに腫れ上がったオリバーの首筋とご対面した。つまり、この勝負、私の惨敗☆
「えーん逃げられちゃった。もう少しだったのにぃ!」
悔しさを紛らわせる様にオリバーをポコポコと叩いた。
「えー……と、どういう状況なの?」
困惑したオリバーに全ての事情を話そうとした。丁度そのタイミングで訪問者が来たことによりそれは叶わなかったけど。
――ガチャ。
「奥さまぁ〜。起きて下さい。旦那様は既に着替えているはずで……す。……えぇ?!」
「え…あ、エザラ!」
今の状況といえば、私が馬乗り状態。
エザラはオリバーがとっくに起きてると踏んで今部屋に入ってきたんだろうけども……状況が状況なだけに理解できていない。そんな顔だった。
だけど、オリバーが上半身を起こしたことで真っ赤な痕と意味深はだけたシャツを目撃して顔つきが変わった。凄まじい速さで。
「あ……オホホホホ〜やだぁ。奥様ったらぁ。朝っぱらから〜」
ニヤニヤした顔で私を見て訴えてくる。距離が遠いから私が付けた痕だと思ったに違いない!
そんなエザラが『ファ・イ・ト・で・す!』って目で訴えかけてくるわけよ。恥ずかしすぎて消えたい。
「ちがっ、ちがうのよ!誤解だって」
「オホホホホ〜お邪魔しましたぁ〜」
私の話なんて聞きもせず部屋から出て行った。
絶対あの顔は、私がオリバーを襲ってるって思われたんだ。
「エザラ戻ってきて、私は冤罪よぉぉーーーー」
◇ ◇ ◇
今日は朝から街探索……の予定で、おじ王子を待っているんだけども、寝坊して支度をしている真っ最中だとじぃやからの伝言。だけど今の私はそんな事どうでもいい!エザラの誤解がまだ解けてないから。
「だからあれはそんなんじゃないんだって!蚊に刺されてね!私が付けたんじゃ――」
「はいはい。奥様わかりましたから」
そう言いながら紺色のお仕着せドレスからサラッとメモ帳とペンを取り出した。この子、メモるつもり?!
「ちょっ、こんな話は書かなくてもいいから、誰も喜ばないから。」
「えぇ〜、リリーが喜ぶはずですよ?ちょっとくらい――」
「絶対ダメよ!今朝に起こった事は1行も書かせないんわよ」
「エラのやつ朝っぱらから元気だなぁ〜……ん?なんかお前の首、真っ赤に腫れてるぞ。大丈夫か?」
めざとくオリバーの首元の刺された痕を見つけたお兄様。もしエザラみたいに私がやったと思われたら……絶対にダメ!
「蚊よ!蚊に刺されたのよ!犯人は蚊だから!」
「なんでお前が熱弁してんだよ」
「え……それは」
エザラみたいに私が付けた痕だと思われたくなくて……とかも言えない。そんなの痴女じゃん!
「そうなんだよ。エラの言う通り蚊に刺されてね――」
珍しくオリバーが私に助け舟を出してくれた!なんて淡い期待はこの後の一言で打ち砕かれた。粉々に。
「襲・わ・れ・た」
私を見ながらこの発言。更にはいい終わるとニッコリ♡微笑みかけてきやがったわ。
ま、まさかシャツのボタンを外した事言ってるの?……それとも馬乗りになった事襲われたって言ってる?せっかく蚊を仕留めてあげようと思ってたのに。 結果的に刺されたけどさ。
なんだか恥ずかしくなってきた。
「蚊に襲われたってお前らしいハッハッハ……ん?なんでエラそんな顔真っ赤にしておこってんだよ」
「別に怒ってないもんね!冤罪だもんね!」
「なんかあいつテンションがおかしくないか?えんざい?」
「あぁ、それはね、朝にエラが……」
「あぁーー!それはもういいから!」




