今日は離婚記念日!part2
「奥様ぁ……!こんな早朝から寝巻き姿でどちらへ?心配しました!」
寝室へ戻ると、飛び出して行った主人に困惑を隠せない侍女エザラの姿が。そりゃ驚くよね、いつもはぐーすか寝てる時間に出て行ったんだから。
「本当に驚かせてごめん。私、張り切り過ぎちゃって。実は今日が――
「あぁ……離婚日ですか?」
私が話す前より先に悟ったみたいで少し寂しそうな面持ち。
私が言い切るよりも前に察したのは、流石エザラって感じね。侍女というよりも親友…いや、妹に近い子だったから、私も別れるのは寂しい。
離婚する事は前もって話していたけど、「日にちが近づくと悲しくなる」と言うので彼女を思って伝えてなかったの。
「私、もっと奥様の役に立ちたかったです!」
「ありがとう。でも、もう十分よ。」
夫から顧みられない妻に、あんまりメイドから好かれてないんだろうな〜というのは薄々気づいていた。
それでも虐められていた訳ではないのよ。他のメイド達とは、必要最低限の話しかしない関係なだけ。だからこそ彼女の存在はとても頼もしかった。
「それでも奥様はこ〜んなにも可愛らしいのに!魅力が伝わらないだなんて!」
「本当よね〜見る目がないのよ」
今日別れた愛人は、私とは似ても似つかない美人顔。過去の彼女遍歴から見てもあの手の顔に弱いのは明白。私の事は全〜くタイプではないのが分かる。
分かるわ、私って可愛い系だもんね☆
「奥様!それでもエザラはこれからも奥様の味方ですからね!」
涙を流しながらも励ましの言葉を掛けてくれるなんて!なんて良い子なの?!あぁ、この子だけ実家に連れて帰りたい……ダメかな。
「契約がなかったらあなたの事お持ち帰りしたのに。契約があと一年もあるしね。」
「うぅ……あと一年が憎たらしい。奥様にお持ち帰りされたかった。」
「じゃあ!一年後にエレナーデ伯爵家で働かない?私が迎えに来るから。」
「奥さまぁ!!ズビ…」
「ねぇ、鼻水出てるから!これで拭いて」
取り敢えず彼女にはティッシュが必要だわ。
「はい、ティッシュ」
「お゙くさま゙〜!!」
「うわっ!気を付けて!鼻水付いちゃうじゃない」
でも、無邪気に泣きじゃくる姿ちょっと可愛い。
「そんなに泣くと可愛くなくなるわよ」
「それは大きなお世話です」
あっ、泣き止んだ。
……さてと、話がひと段落したところで、
「それじゃあ私はエドガと決着つけてくる。よし!今度こそ本物の離婚届!」
本物の離婚届だという事を確認して部屋を後にした。流石に2回も間違えたらアホ過ぎるもんね。
◇ ◇ ◇
オリバーの書斎は寝室と隣にあるからさっきと変わらない距離。
「それにしても、さっきは寝起きでテンション変だったわ。冷静に考えてこの廊下がバージンロードって……。」
廊下を見返しても全くバージンロードの見た目ではなかった。床茶色だし。どちらかと言うとお葬式感………
「あの時の私、頭がおかしかったわ」
プチ反省(?)をして今度こそ愛人のいない書斎へ入ろうとしたら、先程のはだけた服装とは無縁なきっちりした服のオリバーが書斎の椅子に腰掛けていた。
普段は掛けないメガネなんてかけちゃって!縁が細いメガネだからかインテリっぽい……。髪の毛はノーセットのはずなのになぜかアンニュイな雰囲気になっているし!
やっぱ、顔だけはいいわね。日の光に照らされたプラチナブランドは、少し動くと淡いオリーブ色にも見える。実に神々しい。顔に至ってはもはや彫刻の域。
……あぁ、神様。こんなに顔がいいのに中身を入れ忘れるなんて。貴方は生きる彫刻を創りたかったのですか?
まぁ、それでも、離婚よ!!そんだけ顔が良くても2年間も妻のこと顧みないのはクズ男!!
早く終わらせたい一心で私は離婚届をデスクの上に置いた。手荒に置いた所為でテーブルの上のペンが一本落ちたけど、そんなことに構っている暇はない!
「本当にいいの?僕は気ままに遊ぶつもりだけど、君に再婚相手が見つかるとは思えない」
確かに、離婚してからは女性側は再婚しにくいのかもしれない……。でも両親とは契約で2年経ったら自由にしていいと言っていから。それなら離婚するしかなくない?
「再婚するつもりはないの。私だけ愛してくれて、月一で旅行に連れて行ってくれる優しいハンサム夫が欲しいから。そんな人、いないでしょ?」
冗談ぽく言っているけとけど、結構本気で思っていることでもある。そんなパーフェクト夫……落ちてないかな?空からでも畑でもいいからさ。
「居ないだろうね。でも目の前にいるよ、ハンサムな男は」
「一番大事な『私だけ愛してくれる』が抜けてるの!」
確かに、顔だけは認めるわ。この国屈指の美形で良く、令嬢達から黄色い悲鳴を浴びているほどだし。そこにプラス、外交官という花形の職にもついてて身長が178センチある………
えっ?顔だけじゃなかった!けれど浮気がそれを全て台無しにしてくるから意味がない。そこに付け足して性格不一致。もうこの結婚に未練はないわ。おさらばよ!
そうこうしているうちに、オリバーは離婚届にサインを済ませたみたい。紙とペンが私に戻ってきた。
コレでやっと…フフフ……フフフフ!自由!!
「早いとこ、可愛い奥さん見つかるといいわね。でも、さっきの学の無い女が趣味なら、直ぐには見つからないでしょうけど♪」
長年の不満を言い放ちルンルンで書斎から出る。
あぁ、開放感がすごい!
◇ ◇ ◇
ヴィセント伯爵家で長年執事を務めてきた私の名はレナード。話はドアの外から丸聞こえ。
女性と遊んでばかりの主人が、出来のいい妻を娶ると思えなかった。この決断に心配しかない私はどうしても聞いてみたくなった。
「旦那様……本当に良かったんですか?離婚しても」
――どんな回答が返ってくるんだ?
「確かに、離婚したの良くなかったかもね。」
「だっ、旦那様!?!」
今まで奥様以外の女性に気を取られていた旦那様がようやく……!
「彼女の兄テイリーに、なぜ離婚したのか詰められるだろうから。」
「旦那さまぁー!そこは『離婚したら奥様と離れるのが寂しくなる』だとか嘘でも仰って下さい。」
2年間この夫婦をみてとても歯痒い思いをしてきた私は、
(あぁー!今からでも戻って来てください!エラシラ様ぁーーーー!うちのバカな主人をどうか、どうか改心させてください!)
と、顔色はそのままに、心の中で泣き叫んだ。
喉が枯れるほど、心の中で。




