オルメニアに向けて⑬
健人とヴニトラが馬車を出発してから数十分。馬車の中はいつもよりも静かで会話も殆どない。歩みを止めない馬車に揺られながらそれぞれが心配し、健人たちの帰りを待っていた。
アミットとミティーネに関しては三人の事を任されているのもあり警戒心を強め周囲の索敵も怠らない。だが、その現状が緊迫し、張り詰めた空気を醸し出す一端にもなっていた。
「そろそろ街が見えてきますが、本日は其方でお休みになられますか?」
「え、でもまだ時間は...」
「はい。ですが、ケント様とヴニトラ様が不在ですし、このまま進むよりはお二方を待った方が安全面を考慮してもよいかと」
それは、御者なりの配慮であった。いつもは騒がし過ぎて寧ろ煩いくらいなのに今日に限っては誰も口を開かない。いや、正確には会話が著しく少ないのだ。勿論、健人が居ない所や寝ている時にガールズトークもしたし、オルメニアに向けて帝国を経ってから二週間以上が過ぎていた。そんな中、仲良くならない方が難しい。だからこそ、今の状況は異常であり、普通では無いのだ。
「そ、そうですね!このまま先に進んでしまっては私達を見失ってしまう可能性も御座いますし、今日は少し早いですがここで宿を取りましょう!」
「かしこまりました。到着次第、直ぐに手配してまいります。」
「はい、お願いします。」
「で、ですがお母様、本当によろしいのですか?」
戸惑い気味に質問をするルシエラ。健人の事が心配じゃない訳ではないが、皇族としての責任からか尋ねてしまう。
「ええ、ルシエラ。ケント様達が居られなければ どのみちこの先も不安はあるでしょうし、それに、私達が国に帰ってもやれる事はそんなに無いでしょうし。」
ジュビアナは淡々と語った。オルメニア皇やセリルの事は心配だし同時に無事を知らせて安心もさせたい。しかし、ジュビアナ本人が国の為に出来ることが少ないのも事実。だからこそ今、待つ決断した。
「わたくしはジュビアナ様に従いますわ。」
「私もです、それに....ケントも心配ですし」
「はい、そうですね。私も賛成です。」
そんなこんなで目的地よりだいぶ手前に有る街で停泊する事になった一行。街に到着すると暗雲立ち込めていた天気に一筋の光が差し込む。軈てそれは穴が空いた様に幾数も雲を突き抜け世界を照らすが如く現れた。
「あ!ママ〜!!見て見て!晴れたよ〜!」
嬉しいそうな声を上げる子供に釣られ空を見上げる。晴れ渡る青は先程までの暗雲が嘘みたいに彩り広がる。
「雲が....」
「きっとケントだよ!厄災を倒したんじゃない?」
「ああ!私もそんな気がする!」
アミットとミティーネに何時もの明るさが取り戻される。肩の荷がおりた、憑き物が取れた、二人の表情はとても柔らかで穏やかになっている。
「皆様、宿屋の手配完了致しまた。ご案内致します。」
その声を聞き見上げていた空から御者の人へと目線を変える。二人以外は既に歩き出しておりアミットとミティーネは急いでその後を追うのだった。
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「フルールさん、辛いんだね」
神木の森林を発ちヴリトラに背負われ乍空を飛行する健人。会話が出来ないからと人の姿で移動しているが龍の時より最高速度は劣る。
「そうだな....長生きってのも碌なもんじゃねぇってことだよ」
「心が読める感じなのか?」
「う〜ん......説明すると難しいんだが、心が読める訳ではねぇんだ。なんつうか、分かるらしいんだよ。そいつの考えてる事とかが.........。自然が教えてくれるんだとよ。」
「自然が?」
「ああ、神木の森林にに生えている植物達が...。確かにエルフは自然と共存・共生している種族だが、アレは特別だな。あんな事が出来るのは歴代で見てもフルールだけだろう」
「そうなんだな...さっきの別れ際...アレっ「大丈夫だ、アイツもそんなに弱くない。それに、また行ってやればいいさ私が居れば絶対に大丈夫だ!」
「ヴニトラ........うん、そうだな!また行こう!それに、今度は皆で一緒に行こう!」
「ああ そうだな!フルールの奴、絶対喜ぶぞ!」
角と翼の生えた女性が男性をおんぶ しているその光景は傍から見れば摩訶不思議である。だが、先程よりも楽しげに会話する健人とヴニトラはそんな事を全く気にもしていないのだった。




