オルメニアに向けて⑫〜神木の森林〜
里の中は開けており里の周辺を大木の森林が囲っている。その上から健人たちを見下ろしていたエルフ達だったが健人とヴニトラが里長の所に向かってからは普段通りの生活を再開していた。
一方の健人たちは里長が居ると言う神木の園へと立ち入っていた。花が咲き誇り匂いが、香りが身体を包みこみ、差していなかった筈の日光が周囲の景色を照らし輝きを放つ。
〜神木の園〜
「ここに来るのも何時ぶりだろうな...。」
懐かしむ様に目を細め花園の奥に鎮座する一つの建物を見つめる。健人は周囲を見渡し、この神秘的な光景に目を釘付けにしていた。二度目の訪問は無いとも言えるしアミットやミティーネにも土産話にする為にも。
「すっごい綺麗だな。なんて言うか...」
「神秘的...ですか?」
背後から声が聞こえる。それは先程、神木の里まで案内してくれたエルフにも似た透き通る様な、自然に吹く風が如く耳の中へと浸透していった。
「あ、あなたは?」
「よぉ!元気だったか?やっぱりまだ貴様が里長だったかフルール!!」
「えぇ、ヴニトラ様。お久しゅうございます。何年、いや何千年ぶりでしょうか?」
旧友の再会を懐かしむ様にお互いがお互いに慈しみの目線を送り合う。周囲の花園が今この二人を取り囲み一つの花弁の様に会話が咲き誇る。健人はその様子をただじっと傍観していた。
「ん?あ、おっと、忘れていた。フルール紹介しよう!こいつがこの里を....」
「ええ、存じています。貴方が、この里を守ってくれた使い人様ですね。はじめまして、アマミ ケント様。私がここの里長フルール・デ・フリーエと申します。以後お見知り置きを」
「え、」
口に出してすらいない名前を言われ戸惑う健人。フルールと名乗ったその女性は大人っぽく、少女っぽく。どちらとも言えるそんな雰囲気を醸し出していた。蜜の様に甘く、色鮮やかで綺麗なその表情は妖精みたいで
「私とした事が....すいません。大体分かってしまうのです。お気を悪くしたなら謝ります。」
「い、いえ、少し驚いただけで」
「おい、フルール!だから私が紹介しようとしたんだろ?いつも貴様はそうやって勝手に落ち込んで...はぁ、全く変わらんな貴様は......」
萎れた顔は枯れた花の様に、シュンとして丸で太陽が無くなってしまったみたいで
「いや、別に...。本当に気にしてないって...、フルールさんも全然大丈夫ですから」
「ほ、ほんとですか?き、気持ち悪くないのですか?」
「きも、きもちわるい?ハハッ!驚いただけで、そんな事思う筈ないですよ!」
健人は本音で語り思わず笑いが零れた。それは思っても無い事を言われたからだ。確かに驚きはしたし困惑もしたが、不快感を覚える事は無かったし悪意も感じない。そんな相手に対して「気持ち悪い」と感じるのはあまりにも失礼だ。
「!!!!!」
「え?どうしました?」
健人の言葉を聞いて固まったままになるフルール。目を見開き口をあんぐりとさせたまま表情は硬いままに動かない。
「ハッハハハ!!ケント、貴様はやっぱり面白いな!!こんな顔のフルールを見るのは何年ぶりだろうな!」
固まったまま不動のフルールを抱き抱え奥に鎮座する里長の住居へと歩みを進めるヴニトラ。その後をついて行く健人なのであった。
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「さ、先程はお恥ずかしいところを...。大変申し訳ございません。」
フルールは住居に入るなり正気を取り戻した。冷静とは言えないまでも普段通りの行動と言動を心掛けている。対してヴニトラと健人はフルールの向かい側に座り、ヴニトラは笑みを浮かべ健人は少しだけ緊張していた。
「いえ、全然大丈夫ですよ。それよりヴニトラ」
「ああそうだな。悪いフルール、私たちは人を待たせるんだ...だから」
「ええ、分かっていますとも。」
ヴニトラに被せるように会話挟み込み
「先ずはお礼を。感謝してもしきれません、本当にありがとうございます。それと同胞の御無礼、誠に申し訳なく思います。」
深々と頭を下げ健人とヴニトラに対して感謝と謝罪を伝える。床に座っているのもあり殆ど土下座の状態だ。
「そ、そんな頭を下げなくても...」
「いえ、私たちエルフはヴニトラ様達龍人と同じ傍観者。この森が例え厄災で汚されようと、私たちが滅びようと決して手出しすることは出来ないのです。ですから、ケント様たちが来てくださらなければ私たちエルフは今日この日に神木の森林と共に滅んでいたでしょう...。それを、人間だから、魔の気配がするからといって感謝するどころか不届きな視線を送るなど...エルフの長としてこんなにも恥ずかしい事はありません。本当に申し訳御座いません。」
再び深々と頭を下げるフルール。そんな姿を見て何故か余計に居心地が悪くなり、一刻も早く里から出たいと思ってしまう。だがそれは、彼女には伝わってしまう。
「はっ!た、たいへん、も、もうしわけ」
「フルール!!それ以上は謝ってやるな。貴様が悪い訳でもケントが悪い訳でもないだろう。それに、長である貴様が感謝を伝えそれを私たちに示した,それだけで十分だ...」
「ヴニトラ様...ありがとう...ございます。」
健人は何も言えなかった。口から出る言葉が全て嘘になってしまいそうで、そう感じられてしまいそうで。
「な〜に!気にするな!私たちの仲ではないか....。さぁ、そろそろ時間だな、邪魔したなフルール、また近い内に会いに来る、久しぶりにゆっくり話そう!」
「は、はい!お待ちしております!ヴニトラ様!」
「うむ!よし、行くぞケント!」
「あ、うん。」
スっと立ち上がり里長の住居を後にする。里の外に出るまでは龍化できないらしく神木の園を通り外へと目指す。神木の園を出る一歩手前、フルールが健人に声を掛けた。
「あ、あの!ケント様!」
「は、はい?」
「そ、その.....。....そ、その!また、ケント様も来てくださいますか?」
目に涙を浮かべ丸で親に縋る子供の様に健人を見つめる。だが、健人は嘘が通じないと言うことを深く理解していた。それは、先程までの少しの会話でも十分すぎる程に。だからこそ健人は嘘偽りなく本心を伝えた。
「.....。里の皆様が歓迎してくれるのなら、俺個人としてはまたフルール様にお会いしたいと思っていますよ。」
少しの沈黙が場を支配する。その場に居た三人にはその沈黙がとても長く感じた。そして、グッと両手拳に力を入れフルールは言葉を紡ぐ。
「ケ、ケン....ケント様はお優しいですね。」
大粒の涙を流し乍、再び笑顔を見せてくれる。そんな姿に少し見惚れる。その後、別れの挨拶を交わし健人とヴニトラはエルフ達住まう神木の森林を後にするのだった。




