ラスボスはベタなアイツ
――ここまで苦難を乗り越えてきた勇者たちよ――
――今、その勇気をたたえるときがきた――
――名誉と、財宝と、獲得した力が燦然と輝くだろう――
――さぁ、扉を開けて前に進め――
――一切の望みを捨てよ――
リボンがよじれることで文字になり、それが燃え上がり、最後の扉が開くという仕掛けだ。
テストで何回も試しているので、それほどの感慨はないな。
さて、二人の反応はどうだろう?
ムータンが同時通訳しているんだが……おや、あまり好評では無い感じだけど……
「……ムータン、訳間違ってない?」
マイがムータンに尋ねる。あ、そこが問題だったのか。
「間違ってませんよ。この仕掛けについては何度も試したんですから」
フワフワ……
何か言葉に軽さを感じてしまうなぁ、今のムータン。
「間違ってないのか……四行目までは言葉よりも何よりも、こういう仕掛けに本当に感心してたんだけど」
「あ、あたしも」
そうか。好評ではあるんだな。
じゃあ、何がおかしいんだ?
「一切の望みを捨てよ、ってあれでしょ? 『地獄の門』でしょ?」
「というか、格好良いから色々使われてるんだよね。ここだけ日本人臭い」
に、日本人臭いって……いや、確かに一時期この言葉流行ったんだよね。元はこっちに来た日本人だったのか。
「問題はまったく脈絡がないこと。確かに元は門に対する詩だったと思うけど『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』より無茶苦茶だ」
た、タケルにひどい事言われてる気がする。
そっちだって無茶苦茶じゃないか!
「ま、まぁ、扉を開ける仕掛けはいい感じだったんだし、言葉だけ変えればいいんじゃない?」
マイにフォローされてしまった。
……そんなにマズいのか。日本人がクスッと笑う感じでいけると思ったんだけどなぁ。
「ダメ出しついでに考えると、これラスボスから逃げる場合、どうするんだろう? 逃げるのは良いとして、仕掛けは解除されてるわけだろ? で再挑戦時はもう門が開いてるわけだ。アレって萎えない?」
「ああ、そういう気持ちにあたしもなるわ。逃げれないゲームにも腹が立つけど、苦労してアイテム集めたのが、何か無駄になった感じ……無駄じゃないんだけど」
「リボンが燃えてしまってるのがなぁ」
そうか……一回きりの挑戦と言うことにしで、最初からやり直しさせるパターンもありか。
ムータン、お礼を言っておいて。
「上の者から、感謝の言葉を伝えるように今指示が出ました。参考にさせていただきます」
フワフワ……
軽いなぁ。
「あ、そんなにインタラクティブなんだ、今。じゃあ、このままラスボスに行ってみよう。……ラスボスなのよね?」
「と思うけど。だいたい、そろそろテストプレイ終わらせておきたい」
こ、ここはあえて無言で。
二人がムータンをジト目でにらんでいるけど、ようし、良いよ! ムータンの対応の軽さが、二人の追求をかわしまくっている!
「開けるか……えい!」
相変わらずのためらいの無さ。
マイが扉を蹴り開けようとするけど――
「固い。というか重い」
「二人で開けよう。そもそもそういった仕様の迷宮だし」
凝ったデコレーションにも注意を払って欲しかったなぁ。
というわけで、マイが右を。タケルが左を担当して、ゆっくりと両開きの扉を開けてゆく。
そして二人に見えてくるのは、ラブホテルの屋上、ではもちろん無くて円形の広場。
おおよそ三グラッソ――こちらの単位では五百メートルほど――あって、普通ならかなりの広さを感じられるところだろう。
だけど今回はばかりは――
「うっわ~、ベタ」
「やっぱりドラゴンか」
べ、ベタとか言うなや!!
ドラゴンさんの気持ち考えたことある!? しかもけっこう大きいの配置してみましたよ!
二百メートルクラスで、翼を広げればもっと大きいだろうし。
今は“曖昧な”空間にいるから、空の色がマーブル状なわけで、そんな状態で黒い鱗の輝きが、どれほど映えるのか!!
「攻撃してこないわね」
「近付いたら、攻撃してくるんだろう」
こ、この二人に情緒というものは無いんですか!?
もっと叙情的に行こうや!(語彙だけは間違いなく増えている)
いきなり攻略法練り始めるとかさぁ。
「じゃあ、波動ガンで良いわね」
~~~~~~~~!!
「だ、ダメだって!! それは洒落にならないんだから!!」
そうだタケル! 今、そのマイを止めることが出来るのは君だけだ!
「前は壊しちゃったからダメなんでしょ? でも屋上に出たから壊すもの何にもないじゃ無い。撃ち放題よ」
壊れる! 世界の壁が! その上、レベルアップ重ねてるんだから、きっと前より洒落にならない!
ダイレクトに世界が潰れる!!
「だから、波動ガンはそういう物理的な怖さは……それに、これ攻略する手順があると思うんだ。さすがに無理ゲーが過ぎるし」
そ、そうなんだよ。手順があるんだ。
いっそのことムータンに伝えてもらおうかな。
このままでは世界はとにかく、カルバッハ商会が潰れてしまいそうだし。
「て、手順?」
「コンセプトとして、ハーレムだろ? 竜は酒に酔わすなんてのもあるし……八岐大蛇も出したわけだし」
そ、その誤解はまだ解いてないんだけど、これなら――
「ハーレムと酒? よくわかんないわ」
「だから一例だよ。屋外に出たわけだし、もしかしたら青姦とかも――」
青姦って……いやいや、そんな仕掛けないよ!
タケルがケダモノなだけだから!
タケルもダメだ! ま、マイの肩が震えてる。
そして両手で構える、いつの間にか変化していた波動ガン。
「星になれーーーー!!!」
や、やばい!!
というわけで、ラスボスと言ったらやはりドラゴンかなぁ、と。
最近はどうなんでしょうね?
ドットの頃は、強いという希望を持ってる存在って、やっぱりドラゴンだと思うので、やたらにドラゴンばっかりだったような。ザナドゥとかも。でもあのシリーズ、基本的に「ドラゴンスレイヤー」シリーズなんですよね。
最後「みんな星になってしまえ」は何故かそのまま使う気になれなくて勇者王と混ぜてみました。




