「銃」の危険性
哀しみって……乗り越えても乗り越えなくても、結局哀しいままなんだよね。
じゃあ、乗り越えるだけ損!
というわけで投げやりになっておりますが、二人は階段を登って三階部分にやって来ていた。
その目的は――
「やっぱり開かないわね」
「じゃあ、それぞれの階で、ファンファーレ鳴らさないとダメな感じなんだ」
こっちの仕掛けを確認するため。
ああね。これはね。バレると思ってましたよ。
というか、そういう仕掛けだから。
「……じゃあ、またどこかの部屋で……」
「僕は歓迎」
「ケダモノ……童貞のクセに」
「違うのわかってるよねぇ!?」
仲のよろしいことで。
そういう点でも、二人はテストプレイヤーとしては適任なんだけど、やっぱりちょっと……自分の立場がなくなるというか……
「それに仕方ないよ、ハーレム要素を組み込んでいることは説明されたんだし」
「どうしてそこのところに、疑問を持たないのよ!?」
……あ、そうか。その可能性もあるのか。
ムータンがいなくて良かった。
「僕はマイちゃん相手なら、何の文句もない。いや、むしろ歓迎。今日も――」
「今日は迷宮を攻略するって決めたでしょ! さかってんじゃないわよ!」
そう言いながらマイは、駆け足で階段を降りてゆく。
今回は、一番下の階(迷宮だけで数えた場合)から攻略するらしい。
マイが一度開けてるからね。
その上の階の扉も開いてるんだけど、順番にやっていくつもりのようだ。
やっぱり日本人は、キッチリしてるなぁ。
それを見込んで作ってみたんだけど、これは正解だったみたいだ。
「それで、あたしはワルサーなのね。ただのエアガンだけど」
「あ、それはあんまり気にしなくて良いよ。銃という形が重要なんだ。何かが飛び出すって事が」
二人は一階の扉の前で、改めてミーティングを行っている。
そう、銃ね。ワルサーって銃の名前だって、あとからわかった。
ただ銃というのがねぇ。これが問題なんだよなぁ……
「ムータンは銃を知らない感じだったんだけど」
「マイちゃんもそう感じた? じゃあ、多分銃は教えないことになってるんだと思う」
た、タケルは……どういう日本人なの?
どうして正解にたどり着くんだ?
「銃を“使えない”じゃ無くて“教えない”? どういうこと?」
マイも負けずに鋭い。
自分もそこを確認したいから、本当に助かる。
「ああ、それは……『まおゆう魔王勇者』って覚えてる?」
「タイトルだけは……ん? でもあれは異世界ものじゃ無いでしょ? 日本人関係無くて、メイドが叫んでた奴」
それはまだ調べてないな。
メイドが叫んでる?
「アニメだけだと、そうなっちゃうか。そう言えば、あのアニメ『狼と香辛料』のスタッフが結構被ってた気がするな。監督と中の人は同じだ。そうだ。マンガがあるなら上司にも勧めるべきタイトルだったかも……」
はい! 承っております!
「狼と香辛料」だな。後で確認しよう。
「で、『狼と香辛料』は関係あるの?」
「あ、ごめん。関係ないや。話を戻すけど『まおゆう』はアニメの続きが原作にはあって……アニメになってたかな? 銃を作る展開があるんだよね」
銃を作る?
それは……
「ああ、何か国作るみたいな話だったっけ? それで兵隊に向けて?」
「そう。ただ『まおゆう』で初めて気が付かされたんだけど、銃って簡単に強くなりすぎるんだよね」
「簡単に? そうかな?」
「そうだよ。銃があったら引き金引くだけで戦えるようになるんだよ。昨日まで素人だったのに」
「そんなの、すぐには無理でしょ?」
「でも弾が当たる確率は、剣を振り回して当てる確率は圧倒的に高いだろ。それに当たればダメージが尋常じゃないし」
その可能性に気付いている物語もあるんだ。
「狼と香辛料」より先に調べた方が良いのかも知れない。
「それに多分、魔法の優位性もなくなると思うんだ。階級制とか身分とかに向こうの世界がこだわっているのなら、日本人が銃の知識持ちだしてもそれを無視するか、何とかして抑え込むと思う」
「みんなが銃で強くなっちゃうと、叛乱起こされるからね。それでムータンには“教えない”のか……上司は知ってると思う?」
「コナンに金田一調べてるんだよ? 知らない方がどうかしてる」
……ま、マズいのかな、これは?
確かにムータンに教えないのは、そういう理由があることは確かなんだけど――
「銃が出てくる異世界ものはあるの?」
「ザッと思い出すだけでも結構あるよ。タイトルまではちゃんと覚えてないけどハーレムものもあるね。あと、恋人に裏切られて恋人がラスボスの奴」
あるんだ。
何だか、調べるものがどんどん増えてくるな。
「恋人に裏切られる奴? カテ公とかいうキャラが出てくる奴だったっけ?」
「Vガンダムは、異世界ものじゃ無いし、カテジナは恋人では無いと思う」
どんどん増える。
増えるのは助かるんだけど……この二人をテストプレイヤーにして本当によかったのだろうか?
「ガンダムか~。あたし苦手なのよね」
「マイちゃんはロボットもの、だいたい苦手だろ? それでも付き合ってくれるんだから感謝してる」
「そ……それは……まぁね」
マイの頬が赤く染まっている。
仲のよろしいことで。
「ところで、タケルは何を持ってきたの?」
「カッターナイフ」
そう言って、タケルはカチカチと音を立てた。
そうすると手に持っている短い棒から刃が飛び出す。
こんな仕掛けがあったなんて……この世界、物騒なんだな。
マイも眉を潜めながら、タケルに尋ねていた。
「……いいの?」
「エヴァみたいだけど、この際仕方ない」
エヴァはさすがにわかるぞ。
ただ、タケルの反応の仕方がよくわからない。
今回は誤魔化して描いてる部分と、本気でわからない部分が。
異世界でいじめられた主人公が。リボルバー作って復讐する作品のタイトルが本当に思い出せない。
「まおゆう」の銃のくだりはアニメでやったのか否か。商人出てきてたのは何となく覚えてるんですけどねぇ。
やっと次回から迷宮探索が始まります。




