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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第四章 『城の中は……』
89/165

89=〈ドーラン様の恋物語〉 (3)

     ☆ ★ ☆ (12)


「シンシア様、ドーラン様と話しが終わりました」

 私たちが奥の部屋で話していると、マーシーが入り口を開けて入ってそう告げる。


 私が彼女を見ていると、彼女の視線はやや困惑したような表情でルーシーに向けられているような気がして、この部屋は男子禁制なのでシンシア様を先頭にして四人で部屋を出る。


「リリア様、私はマーシーと話しが済みました。今度は城の外で話していただけることになりました。今日はこのような機会を作っていただき、ほんとうにありがとうございました」


 彼はやや笑みを含みながらも少し照れているような雰囲気ではあったが、私の正面でしっかりとした口調でそう話してくれたので安心する。マーシーのドーラン様に対する思いは、この時点よりも早くルーシーに伝わっており、そのことを心の言葉で直接ルーシーに聞いたので、お互いの気持ちが確認できてほんとうによかったと思う。


「おめでとうございます。ほんとうによかったですね。私も二人に話しが済みました」


 私は彼の薄茶色の瞳をぐいっと見つめて、私よりも先にシンシア様に言わなくちゃだめよ、とそう思いながら、ゆっくりとシンシア様の方に視線を移す。


「シンシア様、今後とも私たちのことをよろしくお願いします」


 彼はその意味を組みしてくれたかどうかは分からないけど、今度はシンシア様の方へと向き直りその言葉を伝える。


「ドーラン様、マーシーのことはよろしくお願いします。こういう話しをリリアの口から聞くとは参りました。二人のことは私が責任をもってやらなくてはいけなかったのに……自分のことしか考えてなかったのね。またリリアに助けてもらいましたよ」


 私は自分のことを考えて行動したまでで、別に助けているつもりではないけど、彼女から何度も同じ言葉を聞かされて、彼女はやや落ち込んでいるようにも感じていた。


「そういうことはありません。私はマーリストン様の子供たちのことまで考えました。そうすると、子供は子供同士で一緒に成長してもらいたいと結論づけました。そしてお互いにお互いの立場で守り合えばいいとも考えました。皆でマーリストン様を守り、彼が皆を守ればお互いさまです。今の王様も同じことだと思います」

 私が自分の考えを掻い摘んでそう説明する。


「いつも感じることだけど、何だかリリアの考えははじけ飛んで私の方がついていけない。ドーラン様もそう思いませんか?」


 シンシア様はそう言ったけど、飛び跳ねているか、これからはもっと飛び跳ねますよ、とか思ってしまったけど、彼女の質問は私に対する自分の気遣いを彼にも求めているのだろうか。それとも私に対する彼の胸の内を聞き出そうとしているのだろうか。


「はい。私としてはリリア様に大変感謝しています。リリア様を知ることができて王様や皆さまの話しを伺う限りでは、その飛び跳ね方が正しいと思ったからです」


 彼がそう言ってくれたから、私は何だかホッとした。最初は無口で何も話さずシンシア様の部屋へ案内してもらったけど、彼は王様にはなくてはならない立場の人間だし家臣だと思えるので、その二人が両思いだと分かると、私がこの場で飛び跳ねたいくらいに嬉しい。


「私もそう思います。私もリリアの考え方には反対ができない。今まで私やバルソンに何でも相談してくれ、私たちには考えられないことがリリアには考えられるみたい。説明を聞いていても納得がいくから不思議なのでしょうね。王様と同じで話しが上手なのよ。でも……王様と違うことはリリアが剣客ということね。バルソンみたいに剣客には人が集まると思います。ドーラン様もリリアと話したら納得がいくでしょう?」


 彼女はそう言ったけど、自分が私のことを深く知っていることを彼に説明してくれたのだろうか。何だか、彼女の言葉の一つ一つが私の説明になっているような気がして、彼女に感謝していいのか、私の心が対応し切れていないような気がする。


「はい。考えられないことも考えられるようになりました」

「そうよね……そうなのよね。マーシーもよかった。これは気づかなかった私の落ち度ね。ルーシーがドーラン様のことを話してくれました」


 今回の彼女の言葉はマーシーに振り替えられているというのか、私がルーシーから聞いた言葉をシンシア様に伝えたからだ。シンシア様の言葉は自分に対して呟いているように聞こえるけど、話せないことが多い私のことを説明するのは大変だ、と申し訳ないような気持でいっぱいになる。


「シンシア様の落ち度ではありません。このようなことはルーシーにしか話せませんから、でも一言でいいからルーシーの口から先に聞きたかったです」


 マーシーはそう言っているけど、ルーシーの口から先に……この言葉は私には衝撃が強い。シンシア様が『そうよね……そうなのよね』と話した意味と同じような気がするけど、ほかにも理由があるかもしれないが、自分だけが……と思っていたルーシーの胸懐(きょうかい)を考えると居たたまらないよね。


「私がルーシーに許可を取って話せばよかったのね。ルーシーことはシンシア様にも話せませんでした。ごめんなさい」

 私はシンシア様よりもマーシーの言葉に対して謝ってしまう。


「謝らなくてもいいのよ。お互いに仲よくすればいいことよ。リリアが切掛けを作ってくれたのだからいい方向に向けなさい。セミル様の三姉妹にも誰か考えてあげたいわね。でも私はそこまで口出しすることができない。何かの折にリリアが話したければ話してもいいけど、王様はセミル様にもお話しになるかもしれませんね」


 彼女の声の響きはいつもと少し違い、母親がこどもに諭すような雰囲気で話してくれるような気持ちになったことは、私の独り()がりだろうか。


「もし……私が話す状況になってもシンシア様にはご迷惑はおかけしません」

 

 私はそう言ってしまう。セミル様の側にいる三姉妹のことはよく知らないし、まずはマーシーを介してシャーニンと個人的に話しがしたいけど、彼女と手合わせをするのが手っ取り早いのかしら、と考えていたのだ。こちらも何かの切掛けがなくては話しが進まない。


 私からシンシア様にシャーニンとの手合わせの話しはしてないけど、向こうから連絡を受け取ってないのだろうか。シンシア様が私に話さないだけで、彼女のそばでストップしているのだろうか。それとも私が話し出すことを待っているのだろうか、と色んな考えが頭の中を横切る。


「分かりました。ドーラン様は王様からも許可をいただいたそうですね。忙しいドーラン様の予定を聞いてマーシーの予定を合わせましょう」

「ありがとうございます」


 彼は返事をしているが、お互いに忙しいから、いちばん大事な段取りをすることを聞いた彼は、やや硬直していた気持ちが解れたような気がする。


「シンシア様にいうのを忘れていましたが、私は十日に一度くらいはドーラン様の休息日を作っていただきたいと王様に話しました」

「えっ、そういうことまで話したの?」


 シンシア様の声の響きは驚いて大きな声になり、また彼女を驚かせてしまったようだ。


「それくらいのことはしないと、朝は早くから夜は遅くまで王様のそばにいると、ドーラン様の自由がなくなると思ったからです。働きすぎて病気にでもなればそれこそ大変です。王様もこの話しには一理あるとおっしゃいました」

「そういうことまで話したとは、まったく私には考えられないわね。それを王様が考えていただけるということなのでしょう?」

「はい。ドーラン様のためにそう言いましたが、忙しそうなバルソン様のためにも考えていただければと思います。その適用者がどなたになるかは分かりませんが、それは王様に判断していただきたいと思います。よく考えると……また王様の仕事を増やしてしまいました。申し訳ありません」


 私はそう言って謝ったけど、自分が言葉として王様にそう伝えた後から、じわじわと彼の仕事を増やして申し訳ない気持ちが増していたのだ。


「私に言われても困るけどね。個人的に用事があればリリアもゴードン様の屋敷に戻ったりしているでしょう。私はそれでいいと思うけど、誰に該当するのか……これは難しい問題ね」


 彼女からそう言われたけど、私は身近な人しか知らないし、バルソン様とか位置づけの高い人と相談して決めてもらいたいな。


「これからは二人で会う時間も大事ですから、確実に前もって会える日が分かっていれば、お互いにその日が来ることが楽しみになると思います。それは心の安らぎを感じることだと思います」


 私は『心の安らぎ』という言葉を使いそう説明したが、この時代に労働基準法とか存在しないことくらいは理解しているけど、一週間に一度はお休みが決められている現状を考え、それを十日間に一度に変更して話してみたけど、丸一日の休みでなくても、少しでも朝が遅いとか早く切り上げてくれるとか、私なりに考えた期間であった。


「確かにね。私がマーリストン様に会える日を楽しみに待っていたことと同じことね」

「私がシンシア様に彼をお返しすることをずっと心待ちにしていたこととも同じです。もうすでにお返しできましたから、私の心が安らかになりました」


 今までずっとそのために頑張ってきて、途中で子供が産まれて変更になってまったけど、マーリストン様を返すだけではなくて、リストン様を守りたいために、私まで着いてきたのが現実なのだ。


「私もマーシーに伝えることができたましから、私の心が安らかになりました」


 ドーラン様も同じようなことを話してくれたから、彼のもやもやしていた心がすっきりと晴れ渡ったのだろうか。


「私も直接ドーラン様から話していただき、私の心が安らかになりました」


 マーシーまでが同じ言葉を繰り返してくれて、何だか一気に場の雰囲気がほのぼのと優しくなったような気がする。


「私がリリアを信じて彼を預けてほんとうによかったと思った。あなたたちのこともほんとうによかったと思える日が必ず来る。今度はそのことを心待ちにしているからね」


 シンシア様は何だかしみじみと話しているように感じて、男女問わずほかの人たちにもこういう感情を少しでも味わってもらいたい。暖かいそよ風がまろやかにこの部屋まで届いているようで、この部屋の空気というのか雰囲気というのか、心地よい肌触りがお互いの視線の中に感じられる。


「私もそう思いたいです。何だか楽しみですね」

 私が彼女の言葉に追従するかのようにそう言うと、

「話しが盛り上がっているときにたいへん申し訳ありません。私は王様のそばに戻らなくてはいけません。シンシア様、これからもよろしくお願いします。リリア様、今日はほんとうにありがとうございました」


 彼がそう言ったから、夢想の世界が一変にして現実の世界に戻ってしまう。


「そうね。今度は五人でいつ話せるか分からないけど、ここでお祝いでもしたい気分ね」


 シンシア様はそういう言葉を使ってくれたから、私はほんとうに嬉しい。私の視線がシンシア様から彼の方へと移り、その先はルーシーへ移動をさせたけど、私の目配せの意味を彼は理解してくれたかな?


「ありがとうございます。ルーシーもよろしくお願いします」

 彼がそう言ったてくれから、私はホッとした。


「はい」

 彼女はにっこり微笑みながらそう言って頭を下げている。


 彼の視線はルーシーとマーシーを交互に見ているようだ。

 彼女の存在も姉妹として身近に感じてくれたような気がする。


「それでは失礼します」


 彼はそう言いながら、今度は二人で話しましょう、と言っているかのごとくその視線の最後には、マーシーの顔をぎゅっと見たような気がして、それから後ろを振り向いて部屋から出ていく。


「シンシア様、私はルーシーと少し話したいのですがよろしいですか?」

「いいわよ。マーシーと奥で話しているから庭で話しなさい」

「ありがとうございます」


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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