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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第四章 『城の中は……』
87/165

87=〈ドーラン様の恋物語〉 (1)

少し長文です。

     ☆ ★ ☆ (8)


 五月一日に祝賀会が終わり城の中もひと段落ついたように思え、今日から六月に入ったけど、王様も忙しかったのだろうか。その後王様からの呼び出しは一度もなかったけど、今朝いちばんで出し抜けのように呼び出されたのだ。


 フィッシャーカーラントの市場にあるシンシア様の屋敷に王様は一度も行ったことがないそうで、その話しを聞きたいと言われ、呼び出しの意味はほんとうかどうか分からないけど、私はフィッシャーカーラントの市場の見学とお屋敷の話しをした。もちろんシューマンの話しはしない。そして、私はドーラン様の話しを王様にしてみる。


「ドーラン様、王様がお呼びです」

 王様は声をかけるのを嫌がったので、私がそう言って彼を呼びにいく。


「お呼びでしょうか」

「ドーランか、奥に入れ」

「かしこまりました」

 彼がそう言って中に入ったので、私もその後に入り先ほどの椅子に座る。


「リリアの隣に座りなさい」

「えっ、私が座ってもよろしいのですか」

「話しがあるから座りなさい。私はこういうことは聞きづらいが、リリアがしつこく聞いてくれと話すから仕方がない。ドーラン、お前は誰か好きな女はいるのか」

「えっ、どうしてそのようなことを聞かれるのですか」

「リリアが誰かいるか知りたいそうだ」

「私は王様にお仕えする身ですから」

「それとこれは話しが違うと思うけどな」

「そうですよ。どなたか気になる人がいらっしゃるなら、早く伝えないと他の人に奪われてしまいますよ。そうなってからでは手遅れです。思っていらっしゃるだけではだめです。王様のように勇気を出さなくては……ですよね」


 私は左を向いてそう言い、最後の言葉は正面を向いてそう言ってしまう。


「……確かに勇気はいるが……リリア、それ以上は話さないでくれ」


 王様はやや苦虫を潰したような顔付きたけど、私は余計なことを言ったと反省する。


「……分かりました。王様のそばにいつもいらっしゃるとお話しする時間がないのでは、相手がいらっしゃるなら私がお伝えしましょうか。この城にいらっしゃる方ですか」

「いるならこの場ではっきり話せ。リリアに任せれば間違いないと思うが」


 王様も嫌がっていたわりに私の言葉を手伝ってくれ、いいやつじゃないの、とか言葉にできないけど思ってしまう。


「いや参りました。このような話しになるとは」

 彼は私たちの言葉にやや圧倒されているようだ。


「やはり誰かいらっしゃいますね? お話しはしたことがあるの? 名前はご存じなの? 考えているだけではだめですよ。名前を教えてください」

「私は命令するつもりはないが名前を教えろ、自分で言えなければリリアに任せろ」


 私と王様は立て続けに言葉をかけ、彼に聞き出そうとしていたが、私がしつこく王様に話したので、彼もその気になってくれたみたいだ。


「いや参りました。私ごときがお二人に申し上げることではありません」

「ドーラン様、この部屋の意味はご存じでしょう。もう私なんかいいたい放題ですよ」

「ドーラン、リリアの話しを聞いていたら楽しいぞ。セミルもシンシアもそれぞれ話し方が違うと思うが、リリアの話しを聞いていると、城の外での生活が今まで以上に理解できたような気がする。マーリストンは城の中と外の考えを持ち合わせた王子になっていくと思う。今後はマーリストンのこともよろしく頼むぞ」


 王様はそう言ったけど、ちょっと話しがずれたよ。ドーラン様の相手の話だよ!


「はい、承知しました」

「ドーラン様はいつも朝早くから夜遅くまで王様のそばにいるので、他の人と話す機会が少ないような気がします。十日に一度くらいは休息日を作っていただくように話しました。そのことをシンシア様にも伝えようと思います」


 私がドーラン様の方を向いてそう言ってしまう。彼の家臣としての制約された時間のことなどよく理解してないが、ルーシーやマーシーを見ていると、休日のような自由時間があるのかないのか、シンシア様の側にいない時間がそうなのか、ルーシーはずっと私のそばにいるのよね。


「私はそういうことは考えたこともなかったが、他の者にも何気なく聞いてみようと思う。私も気晴らしが必要だ。毎日人と会い話しを聞いていると、たまに嫌気がさしてくる。ここだけの話しだが、そう思うとリリアの話しは一理あると思うな」

 王様はそう言ったけど、またまた話しがずれたよ、って私が話しをずらしているのかしらね。


「ドーラン様は王様を守ることがいちばん大事ですが、その次は自分のことを考えてください。気になる方はいらっしゃいますか」

 私は主題を修正するように声の響きが強くなっていく。


「あっ、はい。その……シンシア様のそばでお仕えしている……マーシーです」

「えっ、ほんとうにマーシーなの?」


 私は彼の発した名前に非常に驚きそう言ってしまう。自分の声が大きくなったようで王様を見ると目が合ってしまい、マーシーの顔が私の頭の中に浮かび、この名前を本人の口から聞くとは信じられない。でもよかった。


「はい。名前は間違いありません。今までバルソン様が開催している『男女統合訓練』で何度か手合わせをしたことがあります。それに……王様がシンシア様とお会いするときに少し話したこともあります」


 私は彼の横顔しか見えないが、雰囲気や声の響きで真剣に話しているような気がする。正面にいる王様にずっと彼の顔が向いている。


「なるほど、私も訓練は何度か見たことがあるが、あれで気に入ったのか」

「はい。申し訳ありません」


「……そうか」と、王様は何を考えたのかは知らないが、ひと言しか話さない。


「謝ることはないですよね。私はとても嬉しいです。バルソン様がそのようなことをされていることは初めて知りました。私も参加させていただけるのでしょうか」

「今度は六月十五日だったな」

「はい、毎月十五日です」

「バルソンが報告に来たときにリリアのことを話してみよう。参加者はバルソンの判断で任せてあるが、男女共に毎回参加できるとは聞いてない。これも城での決まり事の一つだな」


 彼がそう言ったから、やはりバルソン様はすごいな、とか思ってしまい、理由は何であれ、彼はとてつもなくこの城に貢献をしているのだ、とまた思ってしまう。


「ありがとうございます。よろしくお願いします。バルソン様から編み紐のことを少し聞きましたが素晴らしいですね。皆が上の編み紐を目指して自分で鍛錬することはとてもいいことだと思います」


 私がそう言ったけど、またまた話しが脱線してしまったことに気付いたが、とてもいいことを聞いたと思う。


「バルソンが編み紐の制度を作りかえたのは驚異的なことだ。この城のことを考えると、バルソンの立場はセミルやシンシアやリリアと同じだと思っているからな」


 王様がそう言ったから、すごい、そういうことまで私に話していいのかしらと考えてしまい、裏があっても言葉だけでもそのように言われると、彼を知っているだけに何だか嬉しくなるよね。

 

「バルソン様や私の位置づけを、そのように思っていただきありがとうございます」

「私はドーランがいないと仕事にならない。そう思うとドーランも皆と同じ存在だな」

「皆さまと同じように考えていただき恐縮です。ありがとうございます」


 彼は椅子に座っていたお尻をやや前にずらし、頭を少し下げて返事をしている。


「セミルもバルソンのことは理解している。一部の家臣がバルソンのことを妬んで嫉妬していることも分かっている。そういうことをいちいち考えているとこの城は守れない」


 王様の声の響きは力強く言っているような気がする。バルソン様の存在はそういう状況だったのだ。いいと思う人もいれば悪いと思う人もいるのは当然のことだよね。バルソン様に対して王様の考えが聞けてよかったと思う。王様が何だかよさそうな人だと思えて、彼に対してまたポイントが上がったよね。一緒にバルソン様のポイントも上がったよね。


「切り捨てる部分は切り捨てないとこの城は守っていけませんね。それは王様の判断で間違いないと思います」

 私は偉そうにそう言ってしまう。


「だから私はこの部屋で、身近な者だけでも皆の本音を聞きたいと思っている」


 王様はそう言ったけど、この言葉は本心のようだと思う。嘘かほんとうかと判断するのは王様自身なのだ。私も情報収集は大事だと思ったからね。色んな人の考えを聞くことはいいことだけど、話す本人の都合の悪いことは隠すだろうな。人の悪口だけは言わないようにしよう。


「ドーラン様、この部屋は素敵な部屋ですね。ほんとうにマーシーのことはよかったです。本人には聞いたことがあのませんが、マーシーにも誰かいないかと心配していました。ルーシーのことはご存じですよね。彼女はラデン様と話しています。ルーシーの会話のことをお話してよく考えてくださいとお願いしました。彼に話しを聞くとアートクの市場で色んなことがあったみたいですが、マーリストン様のそばに付くようになり、アートクの市場にはほとんど戻れないと思いました。向こうとこちらと別々に考えてください、と強くお願いしました」


 私が一気にそう説明したが、さっきは王様にそのマーシーのことまで話してない。


「マーリストンのそばにいるラデンか」

 王様が驚いたように私の瞳の中をぐっと見つめて尋ねる。


「そうです。ルーシーは会話が不器用ですが、ラデン様とは心の言葉で会話ができました。私もルーシーとは話せますが、彼女の言葉をラデン様も聞くことがでました。彼は口で話す普通の会話です。詳しくは説明できませんが申し訳ありません」

「ルーシーの話しはシンシアから聞いたが、リリアとルーシーが話せることは意味が理解できないと言っていたぞ。マーシーと一緒に産まれたそうだな。ラデンと普通の会話ができればいいことだ」

「はい。そのことをご存じなのは数人しかいないと彼女からお聞きしました」

「二人の産まれがどうであれ、お互いが信頼しあいシンシアとリリアを守るという家臣としての立場の方が大事だな」

「ありがとうございます。私はマーリストン様と相談して二人を城の外で会わせました。その後の報告も受けましたが、お互いの気持ちが寄り添えたそうです」

「ラデンとルーシーのことはよく分かった。そういうことまで私に報告しなくてもいい。しかし、ドーランのことは報告してもらいたいと思うが」


 王様がそう言ってくれたので、私がしつこく話したことでドーラン様のことを気にしてくれたのだ、と思ってしまう。男女問わずに仕事の話しと色濃し沙汰には興味が出るよね。増していちばん近くにいる側仕えのドーラン様だからね。王様に対して私の評価がどんどん高くなっていく。彼のことを考えてシンシア様と話しているときに、言葉の端々や態度に出てしまったらまずいよね。何だか複雑な気持ちなのよね。


「分かりました。私がシンシア様の部屋へ戻るときに、ドーラン様に送っていただいてもよろしいですか。私が二人に話す機会を作ります。こういうことは早い方がいいと思います。ドーラン様は自分で想いを伝えてください」

「ドーラン、自分から話さなくては後悔するぞ」


 彼のその言葉を聞き、私の胸にもぐさっとくるんだよね。ごちゃごちゃとずっと思い続けていてもしょうがない。どこの世界でもなるようにしかならない。動植物には少なからず知恵があるけど、私には向こうの世界の知識もある。


 後悔先に立たずという言葉通りに、終わってしまったことは覆すことが難しい。『時間』という前向きな考え方もある。私はドーラン様のために仲人として頑張ろう。その前にマーシーの気持ちを確認しなくてはいけないな。


「分かりました。私も城の外で会ってもよろしいですか」

「分かった。私が許可しよう」


 彼は即決でそう言ってくれる。私が王様に話したことで、トントン拍子で進んでいる彼らの意外な言葉に、私の方がやや圧倒されているんですけど、とは言葉で言えないけど、何ごとにも許可、許可と家臣も大変なのだな。


 この城には王様がいて、そこそこの屋敷には家長が存在するということで、世の中がうまく巡って動いているのだから、人間がいろいろなしがらみに拘束されていることは仕方がないことであり、それが壊れてしまってはもっと悲惨な状況が起こってしまう。向こうとこちらでは規模が違うとしても、根本的なことは同じような気がする。


「ありがとうございます」

「王様、粋な計らいですね。ドーラン様の予定を聞いてシンシア様と相談し、私たちだけで日を決めてもよろしいですか」

「分かった。早い方がいいな」

「ありがとうございます。ドーラン様、頑張ってくださいね」

「マーシーに誰か好きな人がいたら私は諦めますので、よろしくお願いします」

「そういう気弱なことではだめです。何度も挑戦してください。王様のようにね」


 私としては現実的な会話も必要なんです、と言いたいです。いつも隠すことばかりでうんざりとしていたからね、とも言いたかったけど、私のストレスが知らず知らずの内に溜まっていたのだ、と自分で納得している自分がやや怖い。


「リリア、その話しは……」


 彼はそう言ったけど、私が話すかもしれないと冷や冷やしているのだろうか。そういう抽象的なことを話す私ではないので、『考えれば分かることでしょう』という視線を投げかけたけど、彼にはそのことが負い目となっているのだろうか。


「分かりました。ドーラン様、諦めたらだめです。マーシーの心を奪い取りなさい。ドーラン様だったらきっとできます。私がシンシア様にマーシーのことを話します。シンシア様にもマーシーに話していただきます。周りから攻めていくことも大事だと思います」

 私は強気になりそう言ってしまう。


「リリア、戦いではないので……攻める言葉は不必要だと思うが」


 王様からそう言われれば確かにそうだけど、剣客のドーラン様の気持ちを向上させるつもりなのよ、と私は言いたい。


「いえ、相手がいればこれは戦いです。勝ち残らなくてはいけません。ドーラン様、そう思いませんか」


「……はい。戦いだと思えば勝ち残る自信があります」


 彼はそう言ったけど、売り言葉に買い言葉のような気がするのは私だけかしらね。でも、意外と本気でマーシーのことを好きになっているような気がするんですけど。


「その息です。頑張ってください」

「まったく二人は剣客なのだな。リリアと話しているとそう思えて仕方がない。私はそういう剣客にいつも守られて幸せ者だと思っているが」


 王様はにこやかにそう言ったから、またまた彼の言葉にぐいっと来るものがある。また好印象になるポイントが高まる。

 

「ありがとうございます。マーランド様からこのような言葉を聞かされるとは、ドーラン様、やはりこの部屋は素敵ですね」

「私もそう思います。私のためにありがとうございます」

「それでは王様、あちらの部屋でシンシア様の部屋へ送っていただくように命令していただけますか。よろしくお願いします」

 私は少し調子に乗ってそう言ってしまう。


「分かった。そうすることにしよう」


 王様がそう言ったけど、彼の視線は『話すなよ』と念を押しているようで、そう思うとより一層惚れてしまいそうなんですけど、とは死んでも口に出せないよな。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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