75 =〈シンシア様の両親に会う〉
69=〈セミル様の存在〉が二回、同じ内容で投稿されていたので、消しました。
気づくのが遅くなり、申し訳ありません。
☆ ★ ☆ (41)
今日はシンシア様の部屋でマーリストン様と私がいて、色んな人が挨拶に来た。私はどこの誰だか分からないし覚えきれないし、でも、ソーシャルは顔が分からないけど音声で名前はすべて覚えると言ってくれたので、彼女の得意分野である音響効果は心強いと思う。私は顔だけは覚えようと努力した。
セミル様とセミール様も一緒にいらっしゃって、娘である姫様とのご対面もでき、セミル様が話している間もセミール様の視線はマーリストン様よりも私に向けられていたようだ。
視覚的に私の視線は話している相手の顔を見ていたが、その範囲内にセミール様からのぞき見をするような、好奇心を示しているような視線を感じていたが、いやな雰囲気ではなかった。
何ともまろやかで気の合いそうな、自分と話しをしてほしいような、私としても興味を惹き付けられそうな思いがして、マーリストン様は口元が王様に似ていたが、彼女の顔は王様よりもセミル様に似ているような気がしたけど、根っからの姫様なのだろうな。男女問わず訳が分からない状態だった。
☆ ★ ☆ (19)
三日目の夕方に、やっとゴードン様の屋敷に戻れ、子供たちに会うことができ嬉しくて一気に疲れが飛び去り、リンリンよりもリストン様の方が私にべったりくっつき、私のそばから離れようとはせず、私がまたいなくなることを感じているような気がした。
私は子供たちと触れ合いながら遊ばせていると、彼らを寝かしつけるのが少し遅くなってしまったけど、今夜はおまけよね、とそう思いながら彼らの寝顔を見ていた。私の不安な心が少し癒されたようで、子供たちを寝かしつけてから、隣の部屋で城での状況を三人に報告した。
コーミンはマーリストン様の名前と王子である彼の状況を聞いて、おったまげて気を失うかと思うくらいに、何か言いたそうだが口がぱくぱくして、私の顔を見ていたがその向こうに彼の顔を探しているように、しばらく呆然として目の焦点が空中を漂っているようで、マーリストン様の存在を初めて知ったみたいでとても驚いている。
「ケルトンが城の王子様……」
やっと言葉に出したときに、彼女の瞳は私の目の中をえぐるように見つめているから、ゴードン様もミーネ様もその事実を知っていた、と私が説明をする。
「ケルトンが城の王子様……」
マーリストン様の名前は言わずに、またケルトンの名前を使い『信じられない』とも言ったけど、私がいつも二人のそばにいるわけではないし、二人だけで話した内容は知らない。二人の関係は私には分からない。
私がバミス様とたまに会い色んなことを話していたことと同じ状況だと思えばいい。私は秘密が多すぎてバミス様とは無理そうかな、とも思ったこともあったけどな。
黙っていれば分からないことなのかな。精神的に辛すぎるよね。子供をぎゅーっと抱きしめれば大丈夫だよね。うん。今日はコーミンを見ても私は大丈夫だ。
私はバミス様との子供の話しはゴードン様だけにしか話さなかったけど、皆がいなくなると寂しくなるので自分たちが育てる、と言ってくれたので、私は二人には感謝以外の言葉がない。
バミス様をゴードン様の養子にしてもらいたい気分で、そういう制度がここにはあるのか分からないけど、一人っ子の私は友達に兄弟姉妹がいることが羨ましいかったのだ。
リストン様が五歳になる前に産みたいよな、とか思いながらも、城での自分の立場も作りたいし、考えることは山のようにたくさんある。これからもぎゅーっと子供を抱きしめると、私は何でも乗り越えられると思う。
☆ ★ ☆ (42)
四日目の昼過ぎに、シンシア様のご両親とやっとお会いすることができた。
「シンシア様、リリア様が戻られました」
パーレットがそう言う。
「リリア、ちょうどよかった。父のシガールと母のシーナです。今来たところなのよ」
シンシア様が二人を紹介してくれる。
「初めてお目にかかります。リリアです。お会いできて光栄です」
「こちらこそ光栄です。ほんとうにありがとうございました。 昨日はシンシアからの使いの者が屋敷に来まして、私たちは大変驚きました。シンシアは何も話さなかったから信じられません」
シガール様から驚きの表情でそう言われる。王様に話したと聞いたときに、両親にも知らせたのかも、とは思っていたけど、何も伝えていなかったのだ。立場的には側室になっても王様とシンシア様は仲良しなのだ。夫婦なのだな、とつくづく思う。
「早くお知らせしたかったのですが、こちらも色んなことが起こりまして、連絡がた大変遅くなりました」
私はそう言ったけど、シガール様の二重まぶたの目が私の顔をまじまじと覗き込み、彼は背も高くてがっちりした体型だが、シンシア様とどことなく顔の作りが似ていると思う。
「マーリストン様も呼びに行かせているので、もう少しで会えますからお待ちください」
「分かった。リリア様、ぜひ私の屋敷にも足を運んでください」
シガール様かそう言われたから、彼女の実家である屋敷を見られると思うと、ほんのりと心が温かくなり嬉しくなる。
「ありがとうございます」
私がそう言っている間も二人の視線は私に向けられている。
「マーリストン様が生きているなんて今でも信じられません」
シーナ様は話しを聞いても信じられない気持ちが強いような面持ちで、彼女の話し方はおっとりし、座っているのを見ても私よりも身長は低そうで、ややぽっちゃりタイプであり、体型的にもシンシア様は父親に似ていると思う。
「マーリストン様がいなくなり半年ほどして、私が赤い実をルーシーとマーシーに届けさせたことを覚えていますか」
「……そう言えば赤い実が届いたな。甘くておいしかったことは覚えていたが……」
「あの時にリリアがマーリストン様に会わせてくれました」
「そんなに前から知っていたのか」
「はい。ご迷惑がかかるといけませんからずっと隠していました。背も高くなり十八歳になりました」
シンシア様は十八歳という言葉に力を込め、シガール様を見ながらそう伝えていたけど、いちばん大事な思春期と思われる八年間、私のそばにいた方が幸せだったと言ってくれたけど、あれは本心なのだろうか。
「そんなに長い間よく隠し通せたな」
シガール様は頭をコクコクと上下に揺らしながらそう言うから、
「リリアが隠してくれました。私はリリアを信じてお願いしましたから」
そう言い切ってくれた彼女の言葉を聞いて、私はとても嬉しかったけど、彼女の気持ちを考えると居たたまれない後悔を呼びさますのだ。
「感謝以外に言葉はないな。ほんとうによかった」
シガール様はまたコクコクと頭を揺さぶりそう言ってくれるから、隣に座っているシーナ様もにこやかに頷いている。
「私もそう思います。リリアは剣客です。マーリストン様に剣を教えて大人に導いてくれました。そして色んな考え方も教えてくれたのよ。ここにいるよりは幸せだったと思います。マーリストン様に会うと理解できると思います」
シンシア様はそう説明してくれて嬉しかったけど、それでも……私の気持ちは彼女の考えが半信半疑である。
彼女が王の側室であるという立場が、直接子供と接する時間が、今のマーリストン様はそのことが考えられているとは思うが、連れ去られた十歳頃の彼の胸中を考えると、母親の立場と子供の立場、リストンにも訪れようとしていることが、この私が改善してもいいのだろうか。
「言葉だけでは感謝の気持ちが伝えられない。こういうことを本人の目の前にしていうべきことではないが、私はシンシアの親として何かお礼を考えなくてはいけないな」
「私もそう思います」
シーナ様も優しそうな声の響きでそう言う。
「いえ、言葉だけで十分です。私はシンシア様にお二人のことをお聞きして、そしてマーリストン様にもお聞きして、ぜひお会いしたいと思っていました。この場で会えてほんとうに嬉しいです。私はシンシア様と話しをしてから彼女を目指そうと心に決めました。今後ともご指導をよろしくお願いします」
私はそう言ってしまう。今の私は彼女の言葉を聞いて立場を理解して、彼女を目指して突き進むしかないよな、と思ってしまう。
「私は城のことは分からないです。シンシアに何でも聞くといいですよ」
「ありがとうございます。王様からシンシア様をお守りするように命令されましたので、シンシア様のそばにいつもいられます。今後ともよろしくお願いします」
私が二人の顔を交互に見ながらそう言うと、
「王子様を助けてシンシアを守ってもらい、私には言葉がありません。こちらこそよろしくお願いします」
シガール様からそう言われ、彼の気持ちを少し垣間見た気がして、状況を踏まえず偉ぶる人間が多くいる中、彼はとても人の心が理解できているように思う。何歳になっても親は子供のことがいちばん心配だと思うし、家族がいちばん大事なのだ。
「シンシア様、王子様がいらっしゃいました」
パーレットはいつもの雰囲気とは違いやや叫んでいるようだ。
「マーリストン様か、こんなに大きくなられたのか」
「シガール様もシーナ様も大変ご無沙汰しております。私はリリア様に助けていただき、剣の勝ち抜き戦では最後まで勝ち残れました。リリア様も最後まで勝ち残り、二人で王様のいちばん前に並べました。そして王子だと認めてもらいました」
マーリストン様は笑顔になり最初から自分の現況を説明してくれ、二人に対して私のお株が一段と上がったよな、とか思ってしまい嬉しい。
「信じられない。助けてもらったばかりではなくリリア様も剣客でしたか」
「最後の試合は凄かったそうです。王様も拍手をされたそうですよ」
マーリストン様がそう説明すると、
「そういうことになっていたとは信じられん」
シガール様はそう言いながら、マーリストン様から私に視線が動く。
「私も同じです。背がこんなに高くなって、たくさん食べたのでしょうね」
シーナ様は女性ならではの言葉を使っているようだ。
「はい。最初の半年間はリリア様が食事を作ってくれました。それからはゴードン様の屋敷の者が食事を作ってくれました」
マーリストン様がそう説明したので、
「ゴードン様とはどなたですか」
シーナ様が不思議そうな顔をしてそう聞いたから、
「私たちがずっとお世話になっていた方です」
マーリストン様はそう説明をしていている。ずっとゴードン様の屋敷にいたわけではないが、端的に言えばそう言うことになる。すべてを集約して話すことは難しいよね。
「それではゴードン様にもご挨拶しなくてはいけないな。今日はいらっしゃるのですか」
「今日はいらっしゃいません。王様に許可をいただき、リリアと私が屋敷に戻り詳しく説明します。それまでお待ちください。ここでは話しきれません」
シンシア様がそう言ったから、確かに話しきれないほどの歳月が過ぎ去ったと思い、二人に彼を合わせることができ、安堵したというのか嬉しさの方が勝ってしまう。
「分かった。色んな人が王子様を守ってくれたのだな?」
「いえ、それは違います。私たちは隠れていましたから、数人の人しか知りませんでした」
私がそう説明すると、
「それはそうだ。私たちも知らなかったことだからな」
「リリア様がすべてを考えて隠してくれました」
マーリストン様がにこやかにそう言ったけど、彼もすべてを話せないから心苦しいよな、と思ってしまう。
「私はシンシア様とは会えませんので、たまにバルソン様に会って相談をしました」
私はそれくらいの言葉しか使えない。
「私は王子様が目の前にいても信じられません」
シーナ様がそう言っている間も、チラチラと視線が話し手に動いても、二人の視線はマーリストン様に釘付けだと思う。
「ほんとうに信じられん。バルソン様はご健在ですか」
シガール様がそう言うと、
「私が連絡をしたからここに来ると思います。もう少しお待ちください」
シンシア様はそう説明する。
「こんなに立派になられて夢のようですね」
シーナ様の声は少し鼻声になり、目の前にいる彼を見てだんだんと万感の思いになったような気がする。
「私はシンシアが産まれたときも感動しましたが、王子様が生きていたことはそれ以上の感動かもしれんな。私たちもシンシアも子供が一人しかいないです。リリア様、ほんとうにありがとうございました」
「いえ、私はマーリストン様のことばかり考え、周りの人たちのことは考えていませんでした。申し訳ありませんでした」
「いやいや、それがよかったのです。私たちが知ってしまえばこんなに長く隠し通せなかった。リリア様の考えがいちばんよかったのです。シンシアに早くそのことを知らせてくれ、ほんとうにありがとうございました。そばにいなくても生きていれば必ず会うことができます。私たちと同じです。私の屋敷にいなくてもこの城にいれば……こうやって会うことができます。シンシアも同じことですよ」
シガール様がそう言ってくれたけど、私はここに存在して生きているのに、生きていてもお互いに会えないこともある。私の両親はどうしているのだろうか。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




