76=〈家族会議のような……〉
前回の続きです。
「こうやって……こんなに背も高くなり目の前にいますから、昔のことは話さなくてもいいです。これからのことを考えてください」
シーナ様がそう言ったので、過去の干渉に浸ってはいられない。私は未来のことを考えなくてはいけない。子供たちのことをいちばんに考えなくてはいけない、と思ってしまう。
彼女は顔つきからして優しそうな品のある人だと思い、私の母親とはまったく雰囲気は違うけど、お母さんに会いたいな……。
「リリアはマーリストン様のことばかりを考え、王子として私に返すことばかりを考えて今まで生きてきましたので、今度は私がリリアのことは考えますからご安心ください。今まで色んなことがあっても詳しくは話せません」
シンシア様がそう言ってくれたけど、彼女は私の上司・義母・恩人、その両親である二人は私の身内となるのだろうか。
「私はこれからのことも考えました。数年経って私がもう少し大人になるとお話ししますからお待ちください。私も色んなことが考えられるようになりました」
マーリストン様がそう言ったから、
「王子様からこのような言葉を聞けるとは、その話しを聞くのを楽しみに待っていますね」
そう言ったシーナ様の顔は、よけいに穏やかな顔つきになっている。
これが家族なのだと思っていると、やけに私の意識が向こうに飛んでしまい、いかんいかん、私の家族もここにすでに脈打ち、私の守るべき家族が掌中にあるのだ、と思い直す。
「マーリストン様の話しを聞くと、今度は腰を抜かさないようにお願いしますね」
シンシア様がそう言うと、
「シンシア様、王様とバルソン様がいらっしゃいました」
パーレットの声が聞こえる。
「えっ、王様ですか」
シンシア様は椅子から立ちあがり、驚いたように私の顔を見るのと同時にそう言う。
王様とバルソン様とドーラン様が部屋へ入ってきて、バルソン様は来るかもしれないとは思ったけど、王様が来るとは信じられなくて、バルソン様が連れてきたのだろうか。
「ドーラン、私たちだけで話しをするから下がりなさい」
王様がそう言うと『かしこまりました』と、彼がそう言ってから先頭に立ち、この部屋からそば仕えの者たちが下がっていき、彼らはこの部屋の入り口から中央廊下へと消えていく。
「こちらへどうぞ」
シンシア様がそう言って王様に椅子を勧めると、
「皆様もお座りください」
王様はそう言う。
「マーランド様、お久しぶりです」
シガール様が先にそう言うと、
「お久しぶりです。シンシアから連絡が行きましたか」
王様がそう尋ねるのだ。そういう話しも段取りとして決めてあったのだろうな。何となく意味が理解できそうだ。連絡がいかないと勝手に来られないような気がする。
「はい。昨日連絡があり、今日はお迎えが来たので二人でやって来ました」
シガール様は説明をしている。
「私はずいぶん前にマーリストンの話しはシンシアから聞きました。その話しを聞いたときは大変驚きましたが、やっと私も二人に会えました。色んなことがあったようですが私も待ち遠しかったです。すでにセミルとリリアも二人で話し、私もリリアと二人で話すことができました」
王様がそう説明すると、
「そのようなことにもなったのですか」
シガール様は王様の顔を見つめてやや驚いたようにそう言うと、シーナ様は『まぁ』と、ひと言呟く。
「お互いに自分の意見もあると思いまして、私がそうするように二人に言いました」
王様がそう言ったから、お互いの意見の調節のために私に会うことになったのだ、とその経緯を知ることができて、私にも説明しているかのようだった。
「私は城のことは分かりませんので、シンシアをよろしくお願いします」
「分かりました。セミルとシンシアは周りの者が噂するほど仲が悪くはありません。ご安心ください」
「はい。シンシアは前からそう話していましたので心配はしていません」
「それはよかった。今度はリリアもその中に入りました」
「彼のことは話していません」
シンシア様は慌ててそう言う。
「分かった。マーリストンもリリアも剣客です。この城を守ってくれます。私はそういう人たちに守られていることを誇りに思います。私は話しをすることは好きですが剣は苦手です。王子は私だけでそのまま王になりましたが、剣客でなくては人が集まりません。シンシアもマーリストンもリリアも剣客です。それを引き継いでいます。私はそう思っているのでそのことを覚えておいてください」
王様がそう説明したからよかったけど、私も一瞬驚いたのよね、彼はやはり話しが上手だわ。王様の子供時代はひとりの王子様しかいなかったのだ。そのことを私に伝えているのだろうか。
「承知しました。バルソン様みたいな剣客には人が集まります。私はそれを信じています」
シガール様は王様の顔を正面に見ながらそう言っているが、お互いの見解がどこまで共通なのか、今の私には分からない。
「その通りです。その人たちが私を守ってくれています」
王様がそう言うと、
「私は王様の考えを直接聞けて安心しました」
シガール様がそう言ったけど、二人の会話の意味が私には今一理解できないな。ここに来て八年も経ってしまったが、突然城に飛び込んだ私の立場では、ここにいる人たちの歳月のことを考えると、話しを聞いても埋め尽くすことはできないだろうな。
そうであれば、私が知ることよりも私のことを少しでもほかの人に理解してもらえればいい。この城の人たちに私のことをアピールした方がいい。何をすればそういうことができるのだろうか。
「マーランド様、今度はリリアと二人で私の屋敷に戻ってもよろしいですか」
シンシア様がそう言うと、
「分かった。ここでは話せないことを話してきなさい。マーシーとルーシーを従えて三日ほど泊まってきなさい。リリアがそばにいれば安心だ。シガール様はよろしいですか」
「承知しました。そばの者たちにも部屋を用意します」
シガール様がそう言ってくれて嬉しいけど、王様はとっても話しの分かる人じゃないのよ。三日間の宿泊は前もって相談してあったのだろうか。
「今までの話しを聞いていればそのくらいはかかるでしょう。リリアは話しが上手そうですからね。シンシアと二人で話しをされると私は負けてしまいそうですよ」
王様が笑みを含めてそう言うと、
「シガール様、私はリリア様の話し方を真似してうなまく話せるようになりました。リリア様は物事をはっきり表現しますから、その言葉に驚かないようにしてください」
マーリストン様は私の話し方が城の人間と違うことを、二人に説明してくれたのだろうか。
「そんなに私ははっきり言っているのかしら? 皆さまからそう言われますけど、自分の思ったことを話しているだけで、自分ではよく分かりませんけど……」
私が少しひがみっぽくそう言ってしまう。
「……色んな話し方がありますからね。言葉の奥に隠れていることをはっきりいう人と、それを考えてもらいたいと思っている人、私はそう思いますが人それぞれでしょう」
王様からそう言われてしまう。
「私の場合は隠れている部分も言葉にしてしまうのですね」
私はそう思って言ったけど、私だって隠すところはしっかり隠していますよ、と言いたいけど、王様と話しているときに、立場的に敬う言葉や態度が少なかったのかしら?
「……そうみたいですね。それはそれでいいのかもしれません」
「リリア様は王様とこのような会話ができるのですか」
シガールは少し驚いているようだ。
「えっ、私は何かいけないことを言いましたか」
「リリア様の話し方は天真爛漫だと私は思います」
ここで初めてバルソン様は言葉を発したから、私は一瞬驚く。
「確かに、バルソンもいいことをいいますね。だからここまで隠し通せたのね。私は今までリリアと話す機会が少なかったけど、マーリストン様のことを聞いていると楽しかったですよ」
シンシア様がそう言うと、
「私もリリアと話して楽しかったです。何と表現するのか、普通の会話でしたからね」
王様がそう言ったから、私はその言葉にも驚く。
「私もリリア様とお話しするのが楽しみです。女同士でも話しましょうね」
シーナ様がそう言ってくれる。
「はい。よろしくお願いします。私も楽しみです」
私は元気に喜んでそう言ってしまったが、相手に対して敬語を使っているつもりだが、それが変なのだろうか。
「マーランド様、こういう時には男は邪魔者ですな」
「ほんとうですね。マーリストンもバルソンも剣客の女性には負けないようにしましょう。私を含めて男は女には弱いです。シガール様、そう思いませんか」
王様がそう発言をしたから私はビックリする。
「王様がこのような言葉をおっしゃるとは、私は信じられません」
シガール様も驚いたようで、王様からシンシア様の方へ視線を動かす。
「ここには私たちだけしかいません。そばの者は外しました。こういう機会は滅多に訪れません。見せかけの言葉はいつでも話せます。そう思いませんか」
王様がそう言ったので、私はまた驚く。
「そのようなことをおっしゃるとは……私は今まで王様のことを少し勘違いしていたようです」
「シンシアはもうずっと前から気づいていたと思います」
「そうか。シンシアは幸せなのだな。マーランド様、これからもよろしくお願いします」
「今度は王様のことをシンシアから、今以上によく聞きたいと思います」
シーナ様も王様の顔を見ながら、優しそうな声でそう言っているけど、この家族会議みたいな状態は何なのよ、と思ってしまう。今までこういう顔合わせはなかったのだろうか。
「分かりました。私はリリアの登場でこの南の城は変わって行くと思います。私はリリアに期待しています。マーリストンもそのことは覚えておきなさい」
王様はマーリストン様に話しを振ったけど、リストン様のことも言っているのだとは思うけど、何で私に期待するのかな。何を期待するのか分からない。
「はい。ありがとうございます」
「今日は皆さんにお会いできて楽しかったです。今度は祝賀会でお会いしましょう」
彼はそう言ってからから立ち上がったので、私たちも皆立ち上がり、王様はバルソン様を従えて部屋を出て行く。
☆ ★ ☆
『ソーシャル、マーランド様はシンシア様のことがほんとうに好きなのね。バルソン様のことも知っているのよね。それでバルソン様をシンシア様のそばから外さなかったのね』
私の脳内はそのことを決定づけたようだ。
『リリアもマーランド様を好きになりましたか。彼の一言は拒めませんよ』
『それは分からないわね。シンシア様が何度も話していると彼を理解できるようなことを話してくれたけど、剣は弱いけどお話しが上手なのね。好きになると大変だから会わないのがいちばんね』
私はそう言ってしまい、王様が会いたいと言えば会わなくてはいけないとは思うが、それを私サイドから拒否できるのだろうか。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




