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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第三章 『出会いから、八年ほど過ぎて……』
64/165

64=〈剣の勝ち抜き戦〉 (2)

少し長文です。

     ☆ ★ ☆ (5)


 私が王様と話している間に、負けた四人はいなくなっていた。毎年上位に勝ち残った人間が何人ほど、この城に定着するのか分からない。この城でのシステムが分からない。この場所まで残れた八人はまたどこかに会いそうな気がした。


 区分けをしてある建物の入り口には、外に必ず二人の門番がいるようだ。その門を入っていくと、学校の教室のような横長の通路があり、私を含めて最後に勝ち進んだ四人は、最後に私と戦った彼女の案内で知らない部屋へと導かれる。位置的に東の門を隠すように正面に造られた一角だと思う。

 

 そこは教室の半分ほどの部屋で真ん中に長方形のテーブルが置かれ、椅子が六個置かれている。彼女の指定で対面に腰かける。


「初めまして、私の名前はマーヤと申します。私は自分が負けてしまったことよりも、リリア様の戦い方に感銘を受けました」

 彼女は私の名前を言っただけではなく、私のことを様付けで呼んだので、私のことを最初から知っていたに違いない。


「ほんとうにすごかったね。見ていてとても興味深かったわよ。私はマーヤに負けてしまったけど、私の名前はパージュよ」

 マーヤの隣に座っている彼女が私の顔を見てそう言う。


「私の名前はリリアと言います」

「リリアの名前は覚えておくからね」

「ありがとうございます。私もパージュの名前を覚えておきますね」

「ありがとう」

 彼女は意外に気さくそうな声の響きでそう言う。


「マーヤはひょっとして誰かの配下の者ですか」

 私が前回の剣の勝ち抜き戦でのマーシーのことを思い出しそう聞くと、

「はい。ここでは話せません」

「分かりました。これからはよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 マーヤはこの場所ではその名前を伝えることができないような顔付きで、私の顔を正面からぐっと見てそう言う。


「その話しは何なの? 誰か知り合いがいるの? 私も仲間に入れてもらえるの?」

 パージュがそう聞いたので、

「パージュも私の仲間になりたいですか」

「えっ、意味が分からないけど、リリアは強いから一緒にいてもいいと思うけどね」

 彼女からそう言われてしまう。


「ありがとうございます。私たちは気が合いそうですね」

 私がそう言うと、

「それは王様が決めることなのでしょう? 私の名前はローランよ。私は遠慮しとくわね」

 彼女が私たちの会話に反発しているかのようにそう言ったから、彼女の方がこの会話の雰囲気を的確に判断しているような気がする。


「私にはたくさんの仲間がいますから、ここで友だちになってもいいのでは、私たち四人は最後まで勝ち残った戦友になりますよ」

「そういう考え方もあるのね。そうよね……ここまで残れた戦友よね。私も友だちになってもいいのかしら?」

「はい。ローラン、右手は大丈夫ですか」

 私は無意識に寸止めをすることもなく打ち込んだことを思い出しそう言うと、

「まだ少し痛いけどこれくらいは大丈夫よ。肘から下には盾のように皮の覆いを左右に付けているからね。私が避けきれなかったのがいけないのだから気にしないくていいからさ」

 彼女はそう言いながら、左手で右手の肘下を軽く叩きその存在を示しているが、彼女の左右の袖口は赤い飾り紐みたいな物で閉じられている。そういうカバーの存在を自分は何も考えていなかったことに気付く。


 剣道における小手の装備など、すっかり頭の中から消えていた。そういう準備を前もってしなくてはいけなかったのだ。皮でも簀の子みたいな物でも、足も手も邪魔にならないように考えればよかったな。


「……分かりました」

「私もつい棒を左手で握って悪かったわね。今考えると、なぜそんなことをしたのか分からないのよ」

「私もなぜ一回転して外したか分からないです。体が勝手に動きました」

 私がそう言ったからなのか、

「お互いに日頃の練習で身についた行動がとっさに出たのですね」

 マーヤは私たちの言葉を丸く収めようとしているような気がする。


「頭で考えるよりも勝手に体が動いたみたいですね」

 私はそう言ったが、あの刹那の空白を思い出し、気付けば彼女の右手に打ち込んでいたのだ。


「私も分からないけどそんな感じだったみたいね。戦いの最中に相手のことなんか考えないものね」

 ローランがそう言ったから、確かにそのとおりだと思う。お互いに勝つことしか考えていなかったと思う。


「私はリリアの声には驚いたのよ」

 パージュがそう言ったから、

「私も意外だった。あんなに気合いの入った声は……今まで聞いたことがないような気がするけどね。目の前で叫ばれたマーヤは気の毒だったわね」

 ローランもそう言っている。


「私も聞いたことのない言葉でした。とても気迫が感じられて、私が前に出ようとする気持ちがだんだんと押されていきました。そこで隙が出てしまったのですね」

「確かに凄かった。王様が拍手された意味が分かったような気がするわね」

 パージュがそう言ってくれたので、剣道の装備はすっかり頭の中から抜けていたが、面・胴・小手と、相手に攻め込む前に声として知らせているような動作は、この世界では使われていない言動だと思う。弱者の叫びとして自分を奮い立たせるのに役だったのだ……三人とも気の合いそうな人たちだと思う。


「ありがとうございます。皆で王様のことを守りましょうね」

 私がそう言うと、

「私は王様を守ることも大事だけど、自分の家族を守る方が大切なのよ。そのために……仕事を得るためにこれに参加したのだからね」

 ローランがそう言ったから、彼女の意識は家族に向けられているのだと思い、このような場所では口にしてはいけないような言葉だとも思ったが、ローランは家族思いのようだ。


「なるほど、確かにそうですね。自分の家族は守らなくてはいけません。私は王様もお守りするけど自分の家族も守ろうと思います」

 私は家族の言葉よりも、王様の言葉を先に使った方がいい、と思いそう言ってしまう。


「それがいちばんよね。お互いに守ればいいことよね」

 パージュはそう言ったので、人それぞれ考え方が違うけど、この試合に参加した意義が違うのは当たり前のことだ。


 彼女たちはどういう経緯でこの試合に臨んだのか分からないけど、どういうなり染めで剣の道に入ったのかも定かではない。理解できることは自分の力で稼ぎを手にする方法を見つけた、言うことかな?


「ここでは王様を守る前に、誰かの下に付いて城のことを学ばなくてはいけません。その付く人によってこれからが変わっていきます。その現実も理解してください」

 マーヤがそう説明すると、

「そうよね。ここのことを教えてもらわなくては、私たちは何も知らないのだからね。あなたはここで働いているの?」

 パージュはうさんくさそうにそう尋ねたから、

「はい。剣の勝ち抜き戦では最後まで残る人たちのために、城の者が必ずひとりは参加します。参加者の人数が多ければ、二人になったり三人になることもあるそうです」

 マーヤはそう説明をする。


「なるほど、そんなことになっているなんて知らなかった」

 パージュはそう言ったから、

「私も初めて知りました」

 私はマーヤの顔を見ながらそう言うと、彼女も私の顔を見ていたけど、そういう取り決めがあることは知らない。シンシア様からも何も説明を受けてなく、すべては地力で勝ち取れと言われているみたいだ。私もその方がいいと思う。


「私はあなたたち三人に説明することにもなっています」

 マーヤが私から視線を逸らして、二人を見ながらそう言ったから、

「あなたがここのことを説明する役目ということなの?」

 ローランがそう聞いたので、

「はい。ほかの人たちには違う人が説明をします」

 マーヤは自分の立場をそう説明する。


「でもあなたが最後まで勝ち抜くなんて分からないじゃない?」

 ローランがそう言うと、

「私は五戦目でリリア様に負けましたが、ここでは最後の試合まで残りました。ここに残った人たちの対戦相手は必ずしも劣っているわけではありません。それは見ている方で判断します。そして八人の中に組み入れられます。場合によっては十人になることもあります」

 マーヤはそう説明する。


「それはここまで来なくては分からないことですね」

「はい。年に一度の剣の勝ち抜き戦では、選りすぐれた人たちを捜すのが目的です」

「それは言われなくても分かっているけどね。その後が問題なのね」

 今度がパージュはここまで勝ち残ったことを自慢するような雰囲気ではなくそう言ったから、

「はい。すべては王様がお決めになることですが、どこの里とかどこの市場の近くとか自分の身元を後で聞かれます。私はその内容までは詳しく知りません」

 マーヤはその内容を知っているのかもしれないけど、そう説明したから、

「確かにそうですね。城としても身元を知ることは大事ですね」

 私が彼女の言葉をフォローするようにそう言うと、

「そんなことを聞かれるなんて試合よりも緊張しちゃうわね」

 パージュがそう言ったけど、ゴードン様の屋敷をいうべきかトントン屋敷の名前を伝えるべきか、困ったな。


 コントールの里にあるトントン屋敷を言った方がよさそうだし、アートクの市場よりはずっと南の方だと説明すればいいかなとか思ってしまう。


「ここまで残ったので、また城のどこかで会いたいですね」

 話しの流れから私はそう言ったけど、マーヤもそうだけど、この二人も確かに剣客だと思い、私と同じでこの城の決まり事を知らないだけなのだ。


     ☆ ★ ☆


 そのような話しをしていると、突然マーシーが部屋に入ってきたので、私は驚いてしまう。


「リリアとマーヤは部屋を移動します。私の後に着いてきてください」

 彼女がそう言ったから『はい』と私たちはずれながらも返事をした。


「リリア、またどこかで会いたいわね」

 パージュは私が椅子から立ち上がるとそう言ったので、

「私もそう思います。それではお先に」

 私はそう言ってマーシーの後を着いて部屋から出る。


「リリア様、お久しぶりです。今からシンシア様の部屋へご案内します」

 少し歩いてマーシーがそう説明したから、

「ありがとうございます」

「マーヤはルーシーの手の者です」

 突然彼女がマーヤの説明をしたから驚いてしまう。


「この前のマーシーみたいに誰かの配下の者だと思ったのよ」

「リリア様は私たちの顔をご存じなので、私の手の者よりルーシーの手の者をシンシア様が選びました」

「そうすると五戦目は私に勝たせてくれたのね」

「それは違います。私は両方ともに真剣勝負で負けました」

 マーヤは素早くそう言う。


「私もマーヤが手を抜いたとは思いません。リリア様は毎回違う戦い方のような気がしましたが、最後にあの方法で戦うことを考えていたのですか」

 マーシーがそう尋ねたから、

「もう出たとこ勝負でガンガンいこうとは思っていたけど、ずっと私のことを見ていたの?」

「シンシア様から頼まれて、ルーシーと一緒にずっと見ていました」


「……なるほど、マーヤはどうして私の顔を知っていたの?」

「はい。市場で教えてもらいました」

「なるほど。子供たちも見たのね」

「はい。私は近くを通り過ぎただけですが、時間をずらして二回確認させていただきました。リリア様も子供たちも馬車の荷台に座っていました。もうひとり女性の方がいらっしゃいましたが、雰囲気がとてもよかったです」

 マーヤがそう説明していたから、子供たちが座れるようになり、たまに馬車でベビーカーみたいに散歩に連れ出していたのだ。


 毎回ケルトンは一緒ではないけど、ゴードン様が馬車を操り、私とコーミンが三人の子供の面倒をみながら、散歩コースは毎度お馴染みのコースを通っていたので、バミス様にも連絡をしていたし、シンシア様にも子供たちを見てもらおうとお忍びにも合わせていたのだ。


「私がこれに勝ち残ったのは子供たちのためです。子供たちに力をもらったのよ。シンシア様みたいに子供は守らなくてはいけないからね」

 私がシンシア様の名前を使ってそう言うと、

「はい。よく覚えておきます」

 マーヤはそう答える。


『リリア、マーリストン様とシューマンが最後の八人に勝ち残りました』

「えっ、ほんとうに」

『声が外に出ましたよ』

『えっ、びっくりしたからごめんなさい』


「……今の言葉は気にしないで、自分の家族とか子供のためだと思うと頑張れるのよね」

 私は一瞬心臓の血流が早鐘のように流れて、どきどきした感情を打ち消すようにそう言うと、

「はい。私はシンシア様をお守りするために頑張っています」

 マーシーがそう言う。


「私はほかの者よりも先に、リリア様と直接お話しができてよかったです」

「いずれ子供たちも城に入ると思うけど、彼女たちを守るのはマーヤにお願いしようかしらね。少しでも彼らの存在を知っているから安心だわね。シンシア様に私からお願いするからね」


「……ありがとうございます。私がこの命をかけてお守りします」

 マーヤは一瞬間を置き、力強く私の顔を見ながらそう言ってくれたが、私がそう言うべきことではないと考えたのだろうか。


 これから先はどうなるか分からないけど、私はマーヤにお願いしようと思う。私の第六感でマーヤのことが気に入ってしまったが、マーシーはそのことに関して言葉を発しない。


「よろしくお願いします。この私が城の中を歩いているなんて信じられない。少し話しを止めて見させてもらってもいいの?」

「承知しました」

 マーシーがそう言うと、その後二人とも何も話さなかった。


     ☆ ★ ☆


『ソーシャル、さっきの声は初めてね。驚いて自分の言葉になったよ。二人とも最後の八人に残れてほんとうによかった。この私が城の中を歩いているのよ。嬉しすぎて言葉がないわね。こういう時に感慨無量という言葉を使うのね』

『そのようですね。上からではなくて地に足をつけて歩いているのですね。私も嬉しいです。言葉がありませんね。リリアの努力の(たまもの)ですよ』

 ソーシャルがそう言ってくれたから、私はほんとうに嬉しかった。


『最後の試合が終わったときに、マーリストン様やバミス様の顔が思い浮かぶのではなくて、リストンの笑い顔が目の前に現れたのよ。そう思うと自分の子供のパワーはすごいのね』

『マーリストン様はシンシア様やリリアのことよりも、リストンのことをいちばんに考えていると思いますよ。彼も父親なのです』

 ソーシャルがそう言ってくれたから、その言葉にも嬉しかった。


『この先どうなるか分からないけど、リンリンやコーリンにも幸せになってもらいたい。子供たちを守らなくてはね』

『子供たちにはソードがありますから安心してください。私を大いに利用してください』

『いつ聞いてもほんとうにその言葉は完璧ですね』

 私はソーシャルの声の響きを聞いて、ソード及び彼女の存在が今の私に取っては必要不可欠になっていることを実感する。


『ありがとうございます。私も自分の言葉にほれぼれしますよ』

 ソーシャルが意外な言葉を使ったから、彼女との会話は二人だけしか知らない存在だが言葉だけではなく、影ながら色んなことに強力をしてもらっている。


『私たちにしか理解できない魅力的な言葉ですね』

 ソーシャルはその言葉をとても気に入っているみたいなので、追い風のごとく魅力的だと付け加える。


『私は子供たちに最初はリリア様、次にはマーリストン様と発音できるように、お互いのソードに話しますね』

 ソーシャルがそう言ったから、普通は父親の方を先にいうような気がするけど、彼女は私専属の付き人のような感覚でマーリストン様は二の次になっているのだろうか。彼女に比べると私の考えは古いのかしらとか思ってしまう。


『コーリンにはマーリストン様とコーミン様の名前にしてね』

 今度はマーリストン様の方を先に言ってしまう私である。


『そうですね。一気に三人もいるとお互いに子育てが大変ですね』

『まったくーーっ、これから動き回っている子供たちを追いかける方が大変なのよ』

『動きを止めることを最初に教えた方がいいですね』

 ソーシャルがそう言ったけど、そんなことができたら苦労しないのになーとか思ってしまう。


『それは無理でしょう。子供がじっとしていることはないわよ。それは寝ているときだけね』

『なるほど。子育ての勉強をしなくてはいけませんね。こんなことになろうとは……』


『……ソーシャルはやっぱりおもしろいのね。もう子育ては始まっているのよ。これからもよろしくお願いします』

『今まで何度もリリアと子供の話しはしましたが、今日は子供たちの生活の基盤をリリア自身が作ってあげたのです。リリアとこのように子供の話しができるなんて、これは私にとっては予想外の不思議ですね』


「リリア様、もう少しでシンシア様の部屋に着きます」

「分かりました」

「後からバルソン様もいらっしゃいます」

「シンシア様の部屋でお二人にお会いするのが楽しみですね。やっとここまで来られたかと思うと言葉がないわね。今までのことがよくも悪しくも私にとってはいい思い出になりました。シンシア様の庭を見るのもとても楽しみですよ」

「シンシア様に許可をいただいて私がご案内します」

「ありがとうございます」

「ルーシーはシンシア様のそばにいると思います」

「ルーシーにも直接会って話しを聞きたいわね」

 私はそう言ってしまったが、マーヤは私とルーシーとの会話の存在を理解しているのだろうか。


 この私が明かり取りの窓から入るのではなく、西の屋敷のシンシア様の部屋の正面の入り口から入れるなんて、今日からすべてが新鮮に感じると思う。


 私たちはシンシア様の部屋へ到着すると、ルーシーと一緒に椅子に座っている。


「リリア、おめでとう。私たちもさっき戻ってきたばかりなのよ。王様の部屋でマーシーと別れて迎えに行かせたのよ。王様が想像していたよりも素敵な女性だとおっしゃったわよ」

 シンシア様はにこやかな顔つきでそう説明してくれる。


 私の顔を含めて色んなことを想像していたに違いないと思ってしまい、私だって同じですよ、と言いたいけど、雰囲気的には三角印かな? 私の印象としてはよくもないけど悪くもなく、同年代としてはバルソン様とはたくさん話したし、彼に軍配が上がるのかな。でも、第一関門は突破したみたいだ。


「ありがとうございます。私も王様の穏やかな表情を見て、お話しもできて嬉しかったです。不思議の言葉には驚きましたが、少しはご存じなのですね」

「私が少し説明したからね。よく分からないけど、少しは理解できたとおっしゃったのよ」

「ありがとうございます。私は庭を見たいのですがよろしいですか」

「いいわよ。ゆっくり見てね。ルーシー、案内してあげて。マーシー、少し話しがあるから奥に来て」

「かしこまりました」


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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