63=〈剣の勝ち抜き戦〉 (1)
やや長文です。
☆ ★ ☆ (2)
子供たちは朝から私たちの気持ちが伝わったかもしれない。
今朝の彼らの食事はおりこうさんにスプーンで食べていた。
私は彼らの正面で二人の食べている姿を見ていた。
何かしら感じているようで、何だか元気がなさそうだ。
コーミンはコーリンの相手をしていた。
マーリストン様は百七十五センチほどに背が高くなった。この時代の人間にしては背が高いと思う。出会った頃は私よりも小さかったのに、こんなに大きくなってしまった、と子供たちの食事の様子を見ながら考えていた。
ホーリーとコーミンが朝食の食器を片付けてくれた。この屋敷では毎朝いつもと変わらない同じ光景だった。
ミーネ様はコーリンの相手をしていたので、私はリストン様を先に捕まえて抱きしめると、リンリンがそばに寄ってきたので二人を思いっきり両手で抱きしめてから、彼らの短く髪の切られた頭をたくさんなでてやると、マーリストン様はリストン様を両肩に乗せてから天井に手を届かせた。私はリンリンの両脇をつかんで回転させた。これをやると疲れるけどとても喜ぶ。
マーリストン様はリンリンを右手で抱きかかえて、何か心の中で話しかけているかのように、左手で彼女の頭をなでながら、黙ってリンリンを見つめ、コーリンもミーネ様から受け取ると、同じように頭をなでながら見つめていた。
明日から彼らが起きたら私たちの顔を見られない。
彼らはその状況で何かしら考えるかもしれない。
それを言葉に言い表すことはできない。
感覚的にしか分からないと思う。
私たちはいつここに戻れるかも分からない。
明るい時間に来られるかどうかも分からない。
暗くなれば彼らは寝てしまう。
その内に私たちを忘れてしまうかもしれない。
そのようなことは今まで何百回も考えたことだ。
私は黙って彼の光景を見ながら考えていた。
私は子供たちに心の中でお別れを言い放った。
☆ ★ ☆
子供たちをホーリーに預け四人で隣の部屋へ異動した。
「ゴードン様、後はよろしくお願いします。ミーネ様もよろしくお願いします。コーミン、必ず城に迎え入れるから俺を信じて待っていてください」
マーリストン様がそう言ったから、
「えっ、どういう意味ですか」
コーミンが彼の方に向き直ってそう言うと、
「俺が城で出世したら必ず迎えに来ますからね。子供たちをよろしくお願いします」
「初めて出会っときもたいしたものだったが、今日もたいしたものだな。コーミンのことはよろしくお願いします」
ゴードン様は感慨深いような面持ちでそう言う。
「はい。ありがとうございます。必ず迎えに来ます」
マーリストン様はゴードン様を見ながらそう返事をしている。
「子供たちをほんとうによろしくお願いします。私はそれ以外の言葉はありません。コーミンも三人の母親だと思って後をよろしくお願いします。必ず迎えに来ますからね」
「はい。分かりました。今日は頑張ってください」
コーミンは私を見つめながらそう言ってくれる。
「後のことは考えずに、今日はお二人とも頑張ってくださいね」
ミーネ様は私を見ながら優しそうな声の響きでそう言ってくれる。
今日は二人で一緒ではなく別々に頑張るしかないのだ。
私たちは子供たちに会わずにこの部屋から二人で出た。
☆ ★ ☆
「リリア様、今からもう一度ソードを出して集中します」
「私もやるからね。最後の八人までは必ず残り二人で王様に会いましょう。王様やシンシア様やバルソン様の前で最後まで勝ち抜きましょうね。私やシューマンのことは何も考えなくてもいい。自分のことだけを考えてね。子供たちのことも忘れなさい。これ……私からの二回目の最後の命令です。最後まで勝ち残ってね」
私は命令の言葉を使ってしまう。
「はい。私はその命令に従います。リリア様も子供たちのことは忘れてください」
彼がそう言ったから、
「分かりました。子供たちのこともバミス様のこともすべて忘れて集中するからね。お互いに一発勝負で勝ち残ろうね。この短剣を忘れないように、直接王様に見せなさい」
私は力強くそう言って、短剣の箱を両手で持って前に差し出すと、マーリストン様は右手でしっかりとその箱を握りしめ、胸の合わせの奥深くにしまう。
「シューマンと話す機会があれば、彼に自分のほんとうの名前を伝えなさい。そうすれば最後まで勝ち残ると思います。よろしいですか」
その言葉は最後に伝えようとずっと前から考えていたのだ。
もうここまで来てしまい、よけいなことを言っても仕方がない。マーリストン様は最後まで悩んでいたが、最後はケルトンの名前で申し込んだのだ。
「分かりました。自分の言葉で伝えます」
彼がそう言ったので私は自分の部屋へ戻った。
私がソードの集中を終わらせて入り口の引き戸を開けて外に出ると、彼もその音を聞きつけかどうかは分からないが、引き戸を開けて出てきた。
二人で馬屋の入り口へ向かうと入り口が開いていた。
ホーリーが私たちの馬を準備してくれていたのだ。
「ホーリー、子供たちのことをこれからもよろしくお願いします」
私がそう言うと、彼は何も言葉を発しなくて頭を軽く下げてくれた。
子供たちの声がうっすらと聞こえていたが、ここで影からでも子供たちを垣間見れば、私の気持ちが萎えると思い、ゴードン様の屋敷の裏口から、私たちは左右に分かれて東西の門へ自分の馬で別々に向かった。
☆ ★ ☆ (3)
ソーシャルの話しだと、彼は二回戦目までは勝ち残ったみたいだ。私はこの前は三戦目でマーシーに出会い苦戦したけど、今回は事なく終え、後二戦勝ち残れば最後の八人に入ることができる。
今まで短時間で終わらせようしたが、四戦目は長引いて苦戦をした。追い詰められても私の足は十分に動く。あの竹での練習がここで発揮できたと思う。私の足と腕が連動してついに五戦目も勝ち残ることができた。これで彼らの前に登場することができる。
ここでしばらくの休憩がはさまれ場所が移動になる。五戦目で私の負けた相手は剣客と見なされたのか、最後の八人の中に含まれたようで、この試合の広場が城の中心部に移動するときに彼女の存在に気付いた。
私は上空から確認済みだったけど、ここを地上から見るとさすが広くて、遠くにこの城における正客たちの姿を左手の先に見ることができ、この場所から見ると右側が東の屋敷でその横が西の屋敷になる。
八人の名前がくじ引きみたいにランダムに選び出されたようで、私の六戦目の相手が決まったみたいで二番手に相手をするようだ。
私はソードのようにこの棒に集中し、中段構えのように棒の先端を相手の喉元に向け、相手から二メートルほどの距離を保ち慎重に様子見をしていると、相手も同じように用心深く構えているが、私の方から先に飛び出す。あちこち飛び回って受けや打ち込みの連続で止まることがない。
距離を保つために横に移動して動きが一瞬止まり、そのとき『剣道』の試合を思い出し、静止の状態に戻して左足を強く踏み出し、中段の構えで一発勝負を狙うと、一瞬の行動で相手の喉元を寸止まりで突くことができ、彼女はその反動で後ろに下がって動けずじまいで呆然とし、これが決まって私の勝ちになった。
後二回、ここまでくれば上できだ。私の七戦目は五戦目の相手ではなく、最後にもう一度彼女と戦うのだろうか。
七戦目もこの棒に集中すると、さっきよりもパワーを感じたようで、先ほどよりも強者のような気がしする。今回は止まらずガンガン打ちにいき、相手も負けじと打ち込んできた。
私も自分が打ち込んでいるのか受けているのか分からなくなり、一瞬頭の中が空白になり、私が相手の右肘に強く打ち込んだみたいで、相手の剣が落ちる音で自分の意識が蘇ったようで、即座にだめ押しの面取りで打ち込むと、相手がその棒を左の手のひらでつかんだから、自分の体を素早く一回転して棒を相手の手の中から外し、相手の右の首に剣を当て、私の勝ちになったようだ。
その間の動作は二・三秒の時間だったような気がして、さっきの一瞬の空白は何だったのだろうか。よく見ると五戦目の彼女も勝ち残っているようで、次の相手は五戦目の彼女だった。
私はさっきよりもこの棒に集中した。今度は最初から左足を後ろに引いて膝を少し曲げて構えた。私の心はこの体勢が落ち着く。ここに来てからずっと最初から構えていた『剣道』のような基本の形である。
一発勝負で狙いたいと思い、ここにいる審判と呼べる人間が『剣道』を知っているわけでもないので、思い切った立ち回りをしないと勝ちにならないとも思った。
最初は丹念にお互いに様子をし、二回目の彼女とのにらみ合いは長かったような気がするが、腹の底から声を出そうと思い、今までの声の出し方と違う言葉を使おう。
私は面、胴、小手と順番を変えながらも力いっぱい叫んで突き進んでいくと、弾かれることもあったが後ろには引かなかった。だんだんと相手は私の声に圧倒され続けたのだろうか。
胴でも決またと思ったが、相手が私の行動で一瞬ひるんだすきに、私の力強い小手の動作で相手の剣を下にたたき落とし、二度責めをしてきっちり周りの人間に知らしめたつもりだ。
彼女が右手で棒を拾い、下にさげ負けたことを認めたみたいで、私に対してお辞儀をしたので、私も頭を下げたような気がする。審判はいてもいないような感じだとも思う。
先ほどの頑固たる意識が揺らいでいき、私の視覚は彼女の顔を捕らえているようだが、その視線の先にはリストンの顔がゆらゆらと浮かび、『勝った』という言葉が脳天から突き刺さったように聞こえたのと同時に、リストンの顔が私の脳裏にくっきりと現れ、現実の世界に意識を引き戻してくれ、一瞬立ち竦んでしまう。
相手の彼女が正客の彼らの方を向いて頭を下げたから、私も彼らの方を見て深く頭を下げるようとすると、手をたたく音が響いたので軽く頭を下げた状態から、正面を向くように上げてよく見ると、王はもちろん彼の左右の者たちが手をたたいていた。
私の時代の言葉でいうと『拍手』を送ってくれたみたいだ。私がアートクの市場でこそ泥を捕まえたときにも拍手をされたが、私たちの戦い方は感動する試合だったのだろうか。
☆ ★ ☆
『ソーシャル、やっと終わったよ。泣きそうなくらいに嬉しいよ。リストンの顔が目の前に浮かんだ。もう飛び上がって踊りそうだよ。今は自分の気持ちを抑えるのに必死なのね。マーリストン様に最後まで勝ち残ったと伝えてください』
私は自分の気持ちを隠しきれなくて、拍手している彼らの方を見ながらソーシャルに話しかける。私の頭の中が満杯状態だった。気持ちを抑えるためにさっきから右手の棒をぎゅーっと握りしめていた。
『必ず伝えます。おめでとうございます』
『今までありがとうございました。ゴードン様やバミス様にも早く知らせたい。リンリンから最後まで勝ち残ったって二人に言葉が伝えられないかな? リストンでは無理そうだからね』
『分かりました。マーラに頼みましょう。そう言わせてみますね』
『よろしくお願いします』
☆ ★ ☆ (4)
「王様がお会いしたいそうですので、あちらへご一緒にお願いします」
「ありがとうございます。この棒はお返しします」
私は心を切り替えて冷静にそう言ったつもりだ。
握りしめていた棒を彼に渡そうと前に出すと、渡し終えた自分の右手のはらを見ると、五本の指も手も腕も少し震えているようで、私は彼の後ろを歩く。その間に大きく深呼吸をして自分の気持ちを落ち着かせる。
私たちは王様の前に到着する。
「名前は何というのですか」
王様から尋ねられたので、
「リリアと申します。手をたたいていただきありがとうございました」
私がそう言うと、彼は私の瞳の奥まで覗き込むように見つめているようで、私も見ていたけど想像していた人物とは違っている。
「少々感動した戦いでした。最後の言葉は大きな声でしたね。何と言ったのか聞き取れませんでした。今の声は先ほどの声とは響きが違いますね」
王様からそう言われたけど、もっと上から目線で偉そうにしているかと思っていると違っている。ぶよぶよと太っているわけでもなく、顔つきからしてスッキリしているみたいで、彼もまた瞳の中は薄い茶色で、マーリストン様の口元は王様に似ていると思う。
「面、胴、小手と大声で叫びました」
私がそう言うと、
「何か意味があるのですか」
また王様から尋ねられたので、どう説明していいのか一瞬困る。
「……面は頭のことを示し、胴とは体のことを指して、小手とは手首のことを言います。今回は連続して言ったのでうまく決まりました」
私がそう説明すると、王様はその間もずっと視線を外すこともなく私を見つめている。
「……なるほど。その言葉はリリアの不思議なのですか」
王様からそう尋ねられ心が動揺する。
「……集中するために……その……私の頭の中で閃いた言葉です」
説明が難しいので、自分で閃いた言葉だとそう言う。
「……なるほど。ここで聞いていても声の響きに気合を感じました」
王様からそう言われたけど、自分の声ではなかったような気がして、以前、フィードに対して発した言葉と同じようだと思う。今回も同じような現象が起こったみたいだ。うまい具合に火事場の馬鹿力が発揮されたようだ。
「ありがとうございます」
「後でまた会いましよう」
王様からそう言われたので、呼び出してもくるのだろうかと思ってしまう。
「はい。ありがとうございます」
私はそう言ってから、先ほどよりも深く一礼をして顔を上げると、彼の視線はまだ私に向けられ、二人でやや目視状態になり、私の方から視線を外し左側にいるバルソン様を見ると、王様は立ちあがる。
「毎回最後の試合は見応えがあります。おめでとう」
バルソン様はそう言って、王様と一緒にこの場からいなくなる。
「感動した試合だった。おめでとう」
シンシア様もそう言ってから彼らの後ろに続き、マーシーもルーシーもシンシア様の後を着いていった。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




