162=〈ラデン様とルーシーの会話〉
やや長文です。
☆ ★ ☆ (12)
一方では、ラデン様とルーシーが庭の椅子に対面に座って話をしている。
『ラデン様、先ほどのリリア様の言葉ですが、私はリリア様から色んなことを話していただきました。申し訳ありませんがすべてを話すことはできません。そのことを最初に伝えた方がいいと思いました』
私はラデン様にそう説明したけど、自分自身でも理解できないことが多いので、上手く説明できないし、リリア様の日常はシンシア様と同じでほかの人には話していけないことであり、彼もそのことを理解していると思う。
「俺の本心では聞きたいですが、リリア様は何度も知っていいことと悪いことがあると話されています。それはルーシーが判断してください。シンシア様のことでも話せないことがたくさんあると思います。俺もマーリストン様のことは話せません。お互いに立場があるので隠しごとになりますが、それは自分だけにしか分からないことなので、ルーシーは気にしなくてもいいと思いますよ」
彼がそう言ってくれたので、よかったと思い気分が少し上向きになる。
『ラデン様、私は王様をゴードン様のお屋敷にお連れすることは初めて聞きました。そのことも信じてください』
「分かりました。それはいいですが……リリア様の話された理由はほんとうのことですか」
『ラデン様、それは私にも分かりません。向こうに行けば意味が理解できると話されたと思います。そのことは秘密にしなくてはいけないことなのですね』
私は彼の瞳の中を真剣に見ながらそう言ったけど、王様とゴードン様がお話しをすることがほんとうの理由なのかもしれないけど、半信半疑ではあったが、王様がマーリストン様の子供たちに会いたがっているのではないだろうか。
「確かに王様の行動は秘密でしょうが、ゴードン様と話す理由が何かあるのでしょうね。俺は屋敷には一度も行ったことかないけど、ルーシーは行ったことがありますか」
『ラデン様、リリア様がゴードン様に話しがあると言われたので、アートクの市場の帰りに寄りました。私たちはゴードン様のお孫さんと遊びました。三人とも歩けるようになり、あちこちと動き回りかわいかったです。私はリリア様のお陰でアーリスとラートンを抱くことができ、二人ともお利口さんでぐずることもなくとても嬉しかったです』
私は彼がゴードン様の孫がいることを知っているのでそう言ってしまったけど、彼の子供たちを抱き上げてみると泣きもせずに、マーヤは手慣れているように子供たちを抱いていたけど、私はあの時はおっかなびっくりで抱いてしまい、私の方が彼の子供を抱いた、という感情が先立ってしまい嬉しくて、リリア様が話しを上手く進めてくれたことに感謝をしていたのだ。
「ありがとう。ルーシーは子供が好きですか」
『ラデン様、シンシア様やリリア様がマーリストン様を守り抜いたように、小さな子供は親が守らなくてはいけないと思います。私に子供ができるとお屋敷を構えていただけるのですか。この前話しましたが……私たちは戻る屋敷がありません』
ここで子供の話しになったので、私は一気にこれから住むことになる屋敷の言葉を持ち出して確認してしまう。
「まだそこまでは考えていません。確かに屋敷が必要ですね。ドーラン様とそのことを話してみましょう。俺たちはここで仕事があります。いつもそばにはいられない。マーシーと一緒の方が心強いでしょう?」
彼がそう言ってくれたので嬉しくて、私は言葉が話せないので細かな感情は人を雇っても説明ができないし、そのことで子供に何か影響を及ぼすと……そう思うと一緒の方が今まで通りに意志の疎通ができるので、マーシーが私の気持ちを相手に伝えてくれると思い、こちらの都合ばかりを考えても、ドーラン様がどう返事をしてくれるのかが心配だ。
『ラデン様、マーシーと同じ屋敷に住めるのですか』
「その方がいいと思います。言葉の問題もありますからね。俺がドーラン様にお願いしてみましょう。まだ先の話しだと思いますが、リリア様のように前もって考えることはいいことですね」
『ラデン様、ありがとうございます』
「ルーシーとは今まで子供の話はしたことがなかったですね。あなたの考えを聞けて今日はよかったです」
『ラデン様、シンシア様がマーシーに一人でも自分の子供がいれば力をもらえると話されました。私たちに子供が産まれると嬉しいと話されたそうです。それで……私たちもそのように考えました。シンシア様の屋敷は遠いです。ゴードン様の屋敷は近いです。リリア様とゴードン様にお願いしようと話し合いました。この考えはいかがですか』
私はもうすでにリリア様にもゴードン様にも話しは通していたのだけど、勝手に先に決めてしまったことに負い目を感じていたし、こういうことは二人でじっくりと話し合わなければいけないことであり、私たちの両親のことも話せる状態ではないのでどうなるのか、とずっと心を痛めていたのだ。
「二人でそのようなことまで考えたのですか」
『ラデン様、話しの流れで考えました。私たちには戻る屋敷がないからです。リリア様のように先々まで考えました。リリア様にお願いしてもよろしいですか』
私はリリア様の名前を言葉として強調して使ってしまう。
「分かりました。俺がドーラン様にも話してみましよう。それから四人で考えればいいと思いませんか。二人が一緒の方がいいとは思いますが……彼の考えもあると思います。俺たちはこれから始まります。まだどうなるか分かりません」
彼がそう言ったことは事実であり、私はラデン様との子供がほしいと考えているけど、マーシーがドーラン様を好きだということは理解しているのだけど、これから先どうなるのかも分からない。私だけが幸せの頂点に立つことに対して、マーシーの今までの気持ちに変化が訪れてしまえば、私たちは仲違いのようなことになるかもしれない。ドーラン様に対してのマーシーの気持ちが変わらないことを祈るばかりである。
『ラデン様、マーシーはドーラン様のことが大好きだと話しました。マーシーのことをよろしくお願いします』
「分かりました。二人で話すことがいちばん正しいのでしょう。これはマーシーの本心ですね。そのことも内緒で伝えます。俺は何を話せばいいのか悩みましたが、彼と話すことがあってよかったです。俺はドーラン様のように赤の編み紐目指しますからね。リリア様からもそう言われました。それと、バミス様がマーリストン様から外されるかもしれないとも言われました」
『……ラデン様、私はバミス様の話しは聞いたことがありません。そのようなことを話されたのですか、知らなかったです。驚きました。このことは聞かなかったことにしますね』
「……そうですね。この話しは内緒話です。しかし……これはバミス様の話しですからね」
彼はバミス様の話しだと言ったけど、今までリリア様からそういう話しは聞いたこともなくて、バルソン様が外すと言っているのだろうか。
『ラデン様、ほんとうに私は驚きました。そうすると……バミス様はどうなるのですか』
「……分かりません。そこまでは聞いていません。リリア様が考えたことのようです。何か理由があると思いますが、俺に編み紐を取らせるために話されたのかもしれませんね」
『ラデン様、確かにそのことは考えられます。バルソン様もこの前お話しになっていたので、今度はそのことをいちばんに考えてください。そうなれば私も嬉しいです』
私はそう言ってしまったけど、リリア様は何ごとにも前もって考えているのを知っていたので、いずれ、バミス様がマーリストン様から外されることは確定しているような気がする。
「ありがとう。お互いに二人の側近として頑張りましょうね。俺はルーシーと出会えたことに感謝しています」
『ラデン様、ありがとうございます。私も感謝してます。リリア様にもです。シンシア様にも感謝していますが、今の私はラデン様に出会えたことがいちばんの感謝です』
「……そのようなことを言われると何だか緊張するし照れますね」
彼は私の顔を見ながらも、彼の口もとが緩んで照れ笑いのような顔つきをしていたので、自分の気持ちが何とも言えないほどに焦ってしまい、私の顔が少し赤くなったかもしれない。
『ラデン様、私も自分の言葉に照れました。申し訳ありません』
「いいですよ。お互いに同じことを考えることが大事です。こうやって話せることも大事ですね。ここには二人しかいないので落ち着いて話せます。この前リリア様とここで話してこの庭が好きになりました。もうそのようなことはないかもしれないけど……ここで……ルーシーと二人で話せてよかったです」
『ラデン様、私もそう思います。私もこの庭が大好きです。ここでブレスをいただいてリリア様と最初に話せるようになりました。それから……会話できる、私の話しを聞いてもらえるという私の人生が変わりました』
私もどうなっているのか理解に苦しむことだけど、ラデン様にはリリア様からブレスをいただいたことは前に話していたので、お互いにこの庭にも感謝しなくてはいけないと思ってしまう。
「俺も……リリア様とアートクの市場で偶然に出会い人生が変わったと思います」
『ラデン様、これから先のことは分かりませんが、リリア様に対しては感謝以外の言葉はありません。ほんとうにそう思っていることを覚えておいてください。リリア様のためでしたらこの命は惜しくないと思いました。でも……私は自分の子供がほしいです。子供が産まれると子供のために死ぬわけにはいきません。子供を守らなくてはいけません』
私はリリア様には自分なりの忠誠は尽くすつもりだけど、自分の子供が産まれるとその考えがどう変わるのか、ということが今の私には分からないので、そのことを思うと不安でしかない。
「ルーシーの考えはすごいですね。俺がルーシーの子供も守りますよ。近くにいなくてもアーリアもラートンも同じです」
『ラデン様、私に子供が産まれると自分の子供だけしか守れません。リリア様も守らなくてはいけません。申し訳ありません』
「向こうのことは気にしなくてもいいですよ。サガート様の家族が大事に育ててくれます。俺が両方考えるので、ルーシーは自分のことだけを考えればいいです。フィードには男として頼みましたからね。ルーシーの側近としてマーヤのことはよかった。いずれ俺の側近として城に戻れるでしょう。俺は立場的にバルソン様には直接話せません。リリア様がバルソン様にそう話してくれることを願います」
『ラデン様、ありがとうございます。私もそう思います。リリア様はマーリストン様のことをいちばんに考えています。必ずフィード様はここに戻れると思います。そうなれば……マーヤもすぐに会うことができますね。リリア様は皆で幸せになろうと話されました。すぐ話せなくても近くにいることがいちばんですね。私は西の城にラデン様が行くことがとても心配です』
彼らが私の知らない西の城に出かけることが心配なのでそう言ってしまったけど、私だけてはなくリリア様もシンシア様も不安に思っている。そのことをここで伝えた方がいいと思い口から出てしまう。
「戦いに行くのでないですよ。マーリストン様が下調べに行くと話されました。向こうで王子様に何かあるといけないので俺たちもご一緒するだけです。俺は一度も行ったことがないので戻ればその話しもしましょう。楽しみに待っていてください」
『ラデン様、残された者は皆が心配します。そのことも覚えておいてください』
彼は残された人たちの気持ちを意外と考えていないような気がするので、私は少し言葉を強調して言ってしまう。
「……そうですね。ルーシーのことをいちばんに考えます。これで安心してください」
『ラデン様、ありがとうございます。出かける前に外で会いたいです』
私はどれほどの期間で出かけるのかも知らないし、下手をするともう会えなくなるかもしれない、と心の片隅での不安を隠しきれないので、私の方から会いたいと言ってしまう。
「分かりました。出かけることが決まれば目で合図を送るので、ルーシーが心の言葉で俺に話しかけてくれれば合図で返事をします。リリア様も知りたいと話されたのでルーシーが教えてあげてください。外で会うのは出発の日付が決まってから考えましよう」
『ラデン様、ありがとうございます。リリア様の側近として早く情報が手に入ることはいいことですね。よろしくお願いします。これは特別な仕事と言えますね』
これは特別の仕事だと思い、私は少し強調してそう話す。
「ほんとうにそうですね。このような時には役立ちますね。前もって考えるよりもその場で考えた方がよさそうですね。長話しはできないけど言葉一つで足ります。ほかにも何か考えたことがあるのですか」
『ラデン様、私はリリア様の考えた女の編み紐のことをいちばんに考えていきます。私はリリア様の側近として言葉では手伝えません。リリア様に近づいてきた人たちをよく観察し、生意気ですが彼女が気付かないような別の角度から判断したいと思い、協力していきたいと思いました』
私は自分の立ち位置を考えもしないで偉そうにそう言ってしまったけど、彼は私の言葉に関する悔しさを理解していると思っているので、私の気持ちを理解してほしいと思うのみだ。
「ルーシーは自分のことをよく理解して考えているのですね。その気持ちをリリア様が知ることができると感謝されると思いますよ。自分のことは自分がいちばんの理解者です。あなたのことはもちろん、今の俺はマーリストン様から外されないようにすることと、赤の編み紐を取ることをいちばんに考えています」
『ラデン様、リリア様がこちらに来ています。今日はほんとうにありがとうございました』
「二人ともお待たせしました。部屋へ入りましょう」
私が二人に近づいてそう言うと、
「ルーシーとたくさん話せたので後から聞いてください。このような機会をいただき、ほんとうにありがとうございました」
ラデン様から即座にそう言われてしまい、二人の顔つきからして内容の濃い話しに進展したようだと思う。私たちもお互いの気持ちを確認しあえたので、私たちと同じ気持ちになれたようだと思ってしまう。
「それはお互いさまよ。あなたたちがいたから私もケルトンとして話せてよかったのよ」
「俺も久しぶりにリリア様と二人で話せてよかったです。今度は西の城に行く前にまた機会を作りたいですね。シンシア様の部屋に来る理由を何か考えるときに、ラデンとシューマンに協力してもらいたい」
マーリストン様がにこやかにそう言うと、
「よろしくお願いします。マーリストン様が何か考えてここに来ないといけませんね。シンシア様にもさっき話したばかりだったのよ。今日はほんとうによかった。シューマンはよけいなことは聞かないと思うけど、二人でよろしくお願いしますね」
私がそう言うと『分かりました』とケルトンがそう返事をしてくれ、『かしこまりました』とラデン様がそう言ってくれる。
「マーリストン様、私はルーシーと少し話しがあるので席を外してもらえませんか」
私がマーリストン様に顔を向けてそう言うと、『ラデン、奥に行って話しましょうか』とマーリストン様がそう言って庭の奥の方へ歩き出すと、『かしこまりました』とラデン様もそう言って彼の後から移動をしてくれる。
『ルーシー、たくさん話せたみたいね。ここの椅子に座って話せてよかったね』
『リリア様、ありがとうございました。子供の話題にもなりました。マーシーと同じ屋敷に住めるかもしれません。ドーラン様にそのように話してくれると言われました』
彼女が初っぱなからそう話したので私は驚いてしまい、先ほどのラデン様の言葉が蘇ってくる。
『ルーシー、すごい話しになったじゃないのよ。ゴードン様の屋敷のことはどっちでもいいからね。ゴードン様も二人が屋敷を構えるかもしれないと話していたでしょう』
『リリア様、お二人にはまだ話してないことになっています。そのことをよろしくお願いします。ゴードン様の屋敷にはアートクの市場の帰りに行ったことになっています』
彼女は追加するかのようにそう説明したけど、お互いの相手に話すこともなくこちらサイドで話しを進めたことは、私も反省しなくてはいけないとことだけど、ゴードン様の屋敷に二人で行ったことは事実なのだ。
『ルーシー、私が色んなことを話したから隠しごとがたくさんできて悪かったわね。その二つは分かりました。今度は四人で話しなさい。最初から四人で話してお互いに別れればいいと思わない? 話し終れば二人の時間にすればいい。ドーラン様とラデン様が男同士で話し合うのも必要だと思うけど、それはそれでいいことにして、四人で城の外で落ち着いて話し合える場所を考えるからね』
『リリア様、四人で会った方がお互いに緊張しなくていいですね。この前は三人で話したことは突然でしたからお互いに緊張しました』
『ルーシー、そうみたいね。今度は会う日を決めておけば何かしら考えられるので話しが弾むと思うよ。最初から子供の話しをするのは変かもしれないけど、そのことはラデン様と話して会話の流れを考えてよ。そうすれば話題ができて楽しく話せると思わない? このような男女の関係においては自分の立場は関係ないと思う。ここではその考えが通用しないかもしれないけど、私がそう言ったとラデン様にも伝えてよ。ドーラン様に話す機会があれば私がそう話すからね』
『リリア様、ほんとうにありがとうございます。よろしくお願いします』
やっとフォーネス様のことが一段落ついたけど、まだまだやることがたくさんあると思いながらも、私の話し合いと王様のことが終わらなくては、ドーラン様もマーシーも、ラデン様もルーシーも落ち着かないと思う。早くドーラン様の予定を聞いて日を決めなくてはいけないな、とつくづく思ってしまった。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




