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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第六章 『シーダラスの屋敷』
127/165

127=〈王族の話し〉 (1)

前回の続きです。やや長文です。


「確かにな。マーリストンも今からたくさんの試練を乗り越えなくてはいけないのに、リストンのことは気が早すぎる話しだな。しかし……二人の子供である以上は考えられることだぞ」

「私はその言葉に感謝します。ほんとうにありがとうございます」

「誰かが王となり存在しなくてはこの城は守れない。マーリストンとリストンが続いて王になれば、側室から三代の王が輩出される。リリアは私たちのことは詳しく知らなくてもいいので、リストンをその次の王にしてくれないだろうか」


 王様からそういうことまで言われてしまい、私はまた驚いて言葉を失ってしまう。


「……私は自分の子供のことだけを考えていきます。もう終わったことは考えないようにします」


 嬉しい反面言葉がなくて苦し紛れにそう言ったけど、王族の過去を知らないので現状が分からない。それは私には話せない内容なのだろうか。シンシア様に聞いてもいいのだろうか。


「それがいい。私もマーリストンのことを考えこの城を守ろう」

「分かりました。そう言っていただきありがとうございます。今夜はドーラン様のお姿が見えませんが、どうかされたのですか?」


 私はこの話しの流れを変えようと思いそう尋ねてみる。ちょっと心配なのよね。


「リリアがドーランの仕事は朝早くから夜遅くまでと言ったので、今夜は早く下がらせた。グルスキーは緑の編み紐だ。ドーランを尊敬しているぞ。そういうつながりはとても大事だ。これからリリアも色んな家臣に尊敬されていくと思うけどな」


 そう話した王様の言葉を聞いて、もうどうなってしまったのよ、と私の頭の中が今までの王様の言葉がこびりついて、理解不能な状態なんですけど。


「……マーランド様の大事な家臣の方たちにですか」

「そうだ。バルソンみたいな位置づけになれると思う。それを私は期待している。セミルもシンシアもそれを望んでいると思うけどな」


「……ありがとうございます。そうなるように精進しますので、よろしくお願いいたします」


 私はそう言ってしまったが、彼は自分自身の独裁的な権力を行使しせずに、何ごとにも丸く治めようとしているのだろうか。自分が動くよりも家臣を動かそうとしているのだろうか。


「話しは変わるが、私はマーリストンをこの腕に抱いた回数が少ない。リストンを今のうちにこの腕の抱いてみたいと思った。バルソンにもその話しをしようと思う。今度は内密にゴードンの屋敷を尋ねてもいいのだろうか。バルソンから報告を受けてから考えたことだけどな」


 また意外な王様のそう言った言葉をを聞き、驚いたというよりも彼も親なのだ、と思ってしまったけど、リンリンとコーリンもいるのですけど、彼女たちはどうなってしまったのよ。


「私も嬉しいです。リンリンやコーリンもいます。今だと彼らもマーランド様から抱かれたことを大きくなっても覚えてないと思います。そういう話題が子供たちの口から飛び出すと、今後は内密に出かけることができなくなると思います」


 私はそう言ったけど、物心が付いたら内緒にすることを言い含めることはできるけど、彼らがポロリと何気なく他人に話すと最悪だな、とか思ってしまう。


「……なるほど。私は覚えていてほしいと思うが、リリアの考えにも確かに一理はあるな」

「ありがとうございます。私たちが協力してゴードン様のお屋敷にお連れします。今度はそのことを考えて息抜きをしてください」

 私はそう言ってしまう。


「……分かった。楽しみに待っているとするか」

「マーランド様にも心の安らぎが必要ですね」

「その言葉を聞くと、今夜は朝までご一緒しませんか、と言ってしまいそうだがな、今夜は遅くまで話して疲れた」


 王様から笑みを含めた顔で、こういう言葉まで聞いてしまい焦ってしまう。


「私もアートクの市場に出かけた疲れが残っているようで、そう言われたらお断りをしようと思いました。申し訳ありません」


 一応は謝罪の言葉を口にしたけど、私の言葉運びで彼の口からそのような言葉が飛び出さないようにしなくては、と考えてしまう。


「……なるほど。お互いの気持ちが同じだったとはな……」


 そう言った彼の顔はややにやけていたけど、バミス様のためにもしっかりお断りをするけどね、と考えながらも、もうどうなっているのよ。


「……そのようですね。自分の部屋に戻ってもよろしいですか」

 私は次の言葉が思いつかずにそう言ってしまう。


「……分かった。グルスキーに部屋まで送らせよう」

 彼がそう言ってくれたので、もう帰れるのだと思い、何だか一気にどっと疲れてしまった。



     ☆ ★ ☆ (3)


 グルスキー様から自分の部屋へ送ってもらう間に、私はソーシャルと話しをすることにした。


『ソーシャル、今夜の王様の呼び出しには驚いたけど、私が買ってきたお土産に興味があったのね。早く手にしたかったのでしょうね。フォーナ様のことは聞けてよかった。マーリストン様と同じで親のそばで育ってないのね。母親の存在が身近に感じられなかったのでしょうね。リストン様にはそうならないようにするからさ、今度はそのことを王様にも話そうと思うのよ』


 私は外を歩いて少し夜空の星を眺めながら、自分のことであり母親の存在のことを彼女に話す。


『リリアが城での決まりごとをあまりいじくり回してはご迷惑になりますよ』

 彼女からそう言われてしまう。


『……親子の関係はこの城を維持していくには大事なことだと思います。マーリストン様だってシンシア様からずっと離れていたわけだし、お互いに辛かったと思うよ。この城の人がそのことに気づいているのか知らないけど、子供の成長過程では親子のふれあいは大事なことだよ』


 私は強調してそう言ってしまったが、王子であるマーリストン様の子供時代の半分ほどは自由に城の外で生活をし、私の子供であるリストン様には私の考え通りに親子の触れ合いをさせたいけど、マーランド様はそうすることを望んでいるのだろうか。


 せめて小学校時代までは両親との触れ合いが大事だと思うけど、中学校になればクラブ活動や友達との交流が、お弁当という母親の存在があると思う。共働きとか専業主婦とか片親の場合もあるし、一つとして同じ家庭環境が存在するわけではないが、かつかつの生活や時代背景があるかもしれないけど……親子の触れ合いは大事だと思うけどな。


『確かにそうですが五歳まではそばにいられます。早い時期から自分の立場を学ぶわけですから、一日が終わればリリアの部屋に挨拶に来て、それから自分の部屋に入るようにしてはどうですか』

『すごい! さすがソーシャル。そうすれば毎日抱いてあげられるしね。私が少ししか話さなくてもリストン様の話しはたくさん聞けますね。たくさん話しを聞きたいからね』


 私は嬉しくてハイトーンな声の響きになってしまい、今でも早く子供たちと話しがしたい。


『その時間を作ってもらうように話すことは大丈夫だと思いますよ。バミス様が連れてくれば毎日リリアも会えますね。二人で少しは話せると思います。一石二鳥です』

『すごい! さすがソーシャル。さっきはそこまで考えてなかった』

『リリアはリストン様のことばかり考えているからです。私はいつも自分のことも考えてください、と言っていますけどね』


 毎日リストン様と話せてバミス様の顔を見ることができる、何と幸せな毎日が送れるのだろうか。私の流れるような言葉で王様を絶対説き伏せてみせる。


『考えているけど頭が働かなかったのよ。やはり相当疲れているみたいね。アートクの市場の疲れが出ているみたい。何だか……歳を感じるわね』


 この未来設定の喜びの感情を打ち消すように疲れたと言ったけど、ソーシャルの言葉で元気になったのよ、ほんとうに感謝ね!


『城に入ってまだ二ヶ月が過ぎただけですよ。しっかりしてください』

『もう何年も城の中にいるような気がする。知らないことがたくさんあるとは思うけど、女の編み紐は私がやってもいいと話しが先行しちゃってさ、シンシア様に書庫の本の話しもしてないし、アートクの市場に先に行けたことはよかったよね』

『そのようですね。あそこで色んな発見がありました。私もよかったと思います』

『今度は城の中だけでよさそうね。リースも歳だから長旅には連れていけない。そろそろ新しい馬を見つけなくてはいけないのよね。城の中の馬は嫌だな。フィードにお願いしようかな? 今度会ったときに話す切っ掛けになっていいと思わない? バルソン様は忙しそうだからね』


 私の頭の中がさっきのソーシャルの言葉で、やや前向きに考えられるようになりそう言ったけど、前から考えていた馬の話しをこの場でソーシャルに話したのだ。


『コーミンの馬はラデン様が見つけてくれたのでしょう?』

『雌の馬だけど賢そうな感じがしたのよ。私の馬もあそこの近くで見つけてほしいと思ったのね。ラデン様にそのことを聞いてみようかな?』

『そのようですね。馬を育てる場所があるかもしれませんね』

『馬の話しなんて日本ではほとんど知らなかったけど、そういう里があるのかもね。ここの自然は天然のような気がする。放牧された育った馬は野性味があふれ、それでも人間に飼い慣らされてお利口さんに思える。根本的に何か違うような気がするのよね』


 私は本での知識のことを思い出し、この時代の本来の姿である草原や草木の素晴らしさを実感しているからそう言ったけど、広い草原があるかどうかは別として、豊かな自然の中に放牧された動物や家畜や馬などは生きること自体が、特に無農薬というのか飼料が違うような気がして、馬の四本足が細くなく逞しいのよね。


『馬の存在は知っていますがそこまで理解できません』

『ソーシャルには視覚がないから言葉だけの説明になるわね。忘れていたけど普通の会話には支障がないのでしょう?』

『私たちは音で判断しますので、トーンでもイントネーションでもアクセントでも雑音でも、すべてを考えると視覚と同じになりますよ』

『すごいね。人間の視覚以上の判断ができるのね』

『私には視覚がないので比較ができません。馬の話しはどうなったのですか』

『えっ、そうよね。馬の話しをしていたのよね。マーヤに話してフィードに頼んでもらう。そうすればお互いに話題ができると思うよ』

『そのために新しい馬を手に入れたいのですか』

『リースは歳だから私から卒業してもらうのよ』


 私はそう言ったけど、さっきのソーシャルじゃないけどこっちも一挙両得なのよ、と心の言葉では言わなかったけど、ラデン様がマーヤとフィードの近くにいれば、ソーシャルは話しを聞こうと思えば聞けるけど、マーヤが私に何か言わない限りは、二人の進展がどうなるか分からない。


『リリアの考えることはすごいし素晴らしいですね。周りの人間のことをよく考えていると思います。ほんとうにそう思いますよ』

『ありがとうございます』


 私はグルスキーとは一言も話さず自分の部屋に着いてしまう。最初はドーラン様とも何も話さなかったのよね……ちょっとまずかったかな。



     ☆ ★ ☆ (4)


「昨日はあんなに遅い時間に王様から呼び出しがあり驚いたけど、朝まで一緒だったの? 言いにくい話しでリリアには失礼だけどね」


 シンシア様は朝一番で私にそう質問してくる。


「いえ、昨日は自分の部屋で休みました。私が買ってきたものが気になったみたいで昨夜の内に渡してきました。王様には失礼ですが、そう思うと何だか子供みたいですね。これは内緒の話しでお願いします」


 私はセミル様のことを考えてそう言ってしまったけど、調べれば分かることだし、初っぱなからの彼女の言葉には驚いたけどね。


「内緒でいいわよ。私の方がちょっと失礼な言葉だったけどね。私にももらったのかと尋ねたので内心は喜んでいたのよ。彼の雰囲気で分かるし早く何か知りたかったのね。うわべだけの贈りものではないと思ったのよ」


 彼女はほかの人にも同じ物を買ったことを知っているのにそう言ってくれ、買ってきたこと自体に意義がある、と私に話しているのだろうか。そう思うと袋だけは色違いにしたからよかったのかしらね。


「袋の色と模様だけはすべて違うのを買いましたので、お渡しすると袋ごと持っているとおっしゃいました。マーランド様は青色の生地に黒い細い線が入っています。シューマンには同じ青色の生地で、黄色の細い線がたくさん入っています。バミス様には緑色の生地に白のやや太い線が入った格子の柄にしました」


 私は彼女の身近な人たちの袋の柄をそう説明をしたけど、女性と違い男性陣に買ってきた袋は、中身が同じなので頭を使って考えたのよね。


「小さいので袋は必要かもね。そのまま持っていると中身は分からないわよ。いい考えね。セミル様に渡した方法も発想が面白いと思ったのよ。渡す方ももらう方も中身が見えずにお互いに迷わなくてよかったのね」


 シンシア様がそう言ったので、この方法では不思議の言葉を使わないので、ここでも考えられることなのだ、と思ってしまう。


「ありがとうございます。自分で選ぶのがいちばんです。マーランド様はリストン様を自分の腕の中で抱きたいとおっしゃいました」

 私はそう言って彼の言葉を伝える。


「うそっ、そんなことをおっしゃったの? 私はリリアのお陰で抱くことはできたけど、私が前に話してからそう考えたのね。私にはそういうことは一度もお話にならないけど、私からもお願いできますか」


 シンシア様からそう言ってお願いされたけど、自分だけ抱いて彼にも抱かせてやりたいと思ったのだろうな。


 一般的に自分の子供よりも孫がかわいいとよく聞くけど、自分の子供が親離れをするので孫に感心がいくのよね。ここでも同じような気持ちや考え方があるのだろうか。ここには娯楽施設がないような気がするから、何か作ってもいいのだろうか。


 コーリンも含めて子育ては大変で、ゴードン様やミーネ様、ケルトンとコーミン、そしてホーリーにも家族同然にたくさん手伝ってもらい、一緒に育てた子供たちは言葉で言い表すことが出来ないほどに大変だったけど、こうやって離れていると愛おしさが感じられ、考えているだけどほっこりとする。


「分かりました。私がラデン様から聞いた話しをバルソン様に伝えたので、それでマーランド様はお考えになったと思います」

「でも……前から考えていたと思うわよ。リリアにはそういうことをお話しになるのね。リリアは私に話してくれるけど、私たちとは話しの意味合いが少し違うのね。リリアはゴードン様の屋敷に連れていくと話したのでしょう?」


 彼女がそう言ったから、確かにゴードン様の屋敷に連れていくことは話したけど、話しの意味合いが違うってどういうことなのよ。


「はい。でもソードのことは話していません。皆で内密にお連れすると話しました」

「あれは話せないわよ。それこそ何日も寝られなくなる。ソードを見せたときも大変だったみたいだし、今の私だと一日くらいで済むかもしれないけど、リリアの不思議が度重なり考えないようにしたからね。失礼な話しで笑えるけど、考えること自体が無駄なように思えたのよ。そう思うと絶対に見せないでね」


 ソードのことを話して王様を連れていくのがいちばん手っ取り早くていいのだけど、夜になると子供たちは寝てしまうしな。慣れてしまえば問題はないけどな。でも王様には話せない。シンシア様もあの時は初めてソードに乗りバルソン様とバミス様のこともあり、後から大変な思いをしたのだろうな、と思っていたのよね。


「分かりました。私もこれ以上の人には話せません」


「……確かにね。ルーシーとマーシーに見せたのは……その……私たちのことを考えてくれたからでしょうね。そのことを前から聞きたかったのよ」


 彼女は聞くか聞かないかを迷っているみたいな様子で、私は彼女たちにソードのことを話すか話さないかで随分悩んだのよね。


「シンシア様が信頼しているあの二人に話せば、シンシア様の不在を隠し通せると思い、安心して城の外に連れ出すことができると考えました」


 私はそう言ったけど、この言葉に嘘はないのだ。今の王様の考え方や性格を考えると、話さなくてもよかったとは思ったけどね。当時は私の中の王様という存在感が、活字や映像の世界で埋め尽くされていたからな。


 私の学問は不要の産物なのだ、とも考えたけど、この二十一年間のカルチャーがなければここでは生きていけなかったし、私が話せばリンリンやリストン様の知識はハーフになるのかなしらね。


「やはりね。ほんとうにありがとうございました。これ以外の言葉はないわね」

「私はシンシア様を守っている二人のことを今でも信じてます。私のソードのことで王様を巻き込みたくはないです」

「リリアがそばにいるようになって、考えもしない色んなことが起こってしまい、私も刺激があってよかった。今までマーリストン様のことばかりを考えていたけどね。今度からあなたたちの子供のことを考えられることは、私に新たな生き甲斐をもたらすわね。女の編み紐ことはリリアに任せたから、セミル様とは相談には乗るから好きにしなさい」


 彼女がそう言い切ってくれたようで、裏の部分もあるかもしれないけど、その言葉は彼女の性格がはっきり出ているような気がする。


 王様やセミル様やシンシア様は、私の言葉をいい方に考えてくれるみたいで、それはそれでありがたい話しだけど、シャーニンたちがどう思うかがいちばんの心配事で、どこまで私の言葉を信じてくれるのだろうか。これは身体的な戦いではなく言葉の戦いなのだ。


「ありがとうございます。私の人脈作りに協力していただきたいです」


「……なるほどね。フォーナ様のことを聞いたのね」

 彼女は私の言葉を理解してくれたみたいでそう言ってくれたようだ。


「母親であることと側室であったことを聞きました。それ以上はお話しになりませんでした。私もそのことだけでも教えていただけましたので、お会いするときはその立場でお話しを聞きたいと思います」

「私も詳しくは知らないけど、フォーナ様とマーランド様とセミル様がお話しになり決められたことだからね。歴代の王の子供たちはこの城に残ったり外に出たりして、そういうつながりをマーランド様は考えなくてはいけない。私は細部までは知らないけど大変みたいよ」


 彼女がそう言ったから、この城に残っている王族の話しをしているのだと思う。


 マーランド様の部屋は南の屋敷にあるので、ルーシーが私たちの剣の勝ち抜き戦後の話しでは、南の屋敷は好きではないと言っていたけど、西の屋敷は側室であるシンシア様がいて、東の屋敷は正室であるセミル様がいる。南の屋敷は前の王様の正室とか側室の王族関係の人たちが住んでいるのだろうな。 

 

「私は王様のお手伝いができれば……それでいいと思っています」


 今の私はこの言葉しか使えない。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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