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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第五章 『アートクの市場』
122/165

122=〈セミル様の部屋へ〉 (2) 


〈私はマーランド様からその内容は聞いてない。リリアからも何も聞いてない。リリアは王様から聞いたのだろうか〉


「……マージュン様の考えですか……それをお聞きになったのですか」


 私はセミル様の話した言葉を聞いてそれしか言葉が出ずに、今まではそのような話しを二人でしたことがなく、マーリストン様が次の王になることを彼女は認めてくれた。遠回しに私に話してくれたのだ、と私の意識が走ってしまう。


「シンシアの気持ちはリリアの影響をたくさん(こうむ)ったのね。マーリストン様もリリアの所見を大事にしているみたいだしね。マージュン様は自分のやりたいことがあるそうよ」

「あ、ありがとうございます」

 私はその言葉しか使えない……それほどの驚嘆だ。


「私たちは王様とは違ったやり方でこの城を守りたい。シンシアの口からリリアを中心にする話しを聞けてよかった」


 セミル様は先ほどよりも穏やかな笑みを浮かべそう言ったけど、ほんとうに自分の真意を話してくれたのだろうか。


     ☆ ★ ☆


「セミル様、遅くなりました。最後にパージュが取りだして全員結び終わりました」

 私は部屋に戻り向こうの状況を説明したのだ。


「何だか大騒ぎになってなかった。ここまで声が聞こえてたわよ」

「あっ、申し訳ありません。九人も一同に揃いましたからお互いに見せ合って、順番に結んでいたので大変でした」


 私は追加の言葉も使ったけど、全員が引き出し終わり蝶結びを教えながら、一人ずつ腰紐を外して蝶結びをしてから、輪の部分に腰紐を通して付け替えていたのだ。


 中心の輪の部分に紐を通せば、正面から見たら真っ直ぐに見えるので、自分でやってみて確認済みだけど、ふと気付くと動いているので、どちらかに若干傾くのよね。相手のことはよく見えるけど、自分の蝶結びは見にくいのよね。


「私の部屋に皆が集合するのは珍しいわね。楽しそうな声が聞こえてましたよ」

 セミル様はそう言ってにこやかに笑っている。


「ほんとうですね。セミル様、今度は私の部屋にいらしてください。庭で話してもいいと思います」


 今度はシンシア様が自分の部屋に誘っていたから、この紐一つでこんな状況になるとは、私の思惑とは違った方面に事態が展開したので、いいのやら悪いのやら私の方が面食らってしまう。


「そうね。何か用事を作ってシンシアの部屋へ行きましょうね」

「よろしくお願いします」


 シンシア様はそう言いながら、彼女の視線はセミル様から私の顔に移動し、私の瞳を覗き込むように見つめて『よくやった』みたいな表情で、頭を下にやや傾けてくれた。


「そう言えば、私はリリアの顔を見るのは久しぶりね。元気にしてたの?」

「はい。少しここにも慣れましたので、色んなことが理解できるようになりました」

「それはよかった。この前王様とお会いしてリリアの考えた女の編み紐のことをお聞きしたのよ」


 セミル様は女の編み紐のことを口にしたけど、私がいない間にシンシア様と話し合ったのかもしれないな。


「今日はそのことをセミル様にも説明しようと思いました」

「私が聞いてもね。私は剣客ではないからね。バルソンに聞いてシンシアと相談した方がいいと思います。バルソンみたいにリリアが中心になって作ればいいと思います。リリアは話しが上手だと王様はおっしゃってたわよ。お話しの上手な王様がそう話されたので、間違いがないと思いますけどね」


 セミル様がそう言ったので、話しの食いつきどころに迷う。


「いえ、私は王様のお話しには負けてしまいます」

 私は最後の共通の話題である王様の言葉を使ってしまう。


「セミル様、私が今までリリアの話しを聞いた限りでは、王様には大変失礼ですが、リリアの方が一枚上手のような気がしました。セミル様、ここだけの話しでお願いします」


 シンシア様が最後に口止めしていたけど、これくらいの会話だと何ごともないような気がするけどな。


「分かりました。三人だけの内緒話もいいわね。女同士ですからね」

 セミル様は柔らかな笑みを含ませてそう言ってくれる。


「ありがとうございます」と、シンシア様は返事をしている。


 三人で話すと私の言葉が短文になってしまうのよね。今までの二人の思惑と、突然現れた私とでは立場が違うので、何を話すかが難しい。


「シンシアには悪いけど、リリアを中心に考えたらどうですか」


 セミル様は突然確信めいた言葉を使ったから、やんわりと前置きを話してこの言葉を使いたかったのだ、とか思ってしまう。


「私もリリアにそう言ったのですが、リリア、セミル様も私と同じ考えなのよ。あなたを中心に考えた方がいいわよ。私はリリアみたいにこれから新しいことを手がける気力がないのよね。この城の外には自由に出れないからね。そのようなことも含めると、自由なリリアがやった方がいいと思います。私の親しい人を紹介するので、その人たちの意見もよく聞いて自分で考えた方がいいと思うけどね」


 彼女はそう言って、話しの流れを作ってくれたみたいだ。


「私の親しい人も紹介しましょうか。リリアに興味を持っている人がいるのよね。会わせてほしいと頼まれたのだけど、リリアと二人で話す機会がなかったからね」


 セミル様がそう言ったから、シンシア様に知られてはいけない人なのかしら、と思ってしまう。


「セミル様、よろしくお願いします。シンシア様もよろしくお願いします」

「その人の屋敷というよりも密かに会った方がいいと思いますよ」


 セミル様がそう言ったけど、密かに会うとはどういう意味なのだろうか。


「分かりました。私がその方の予定に合わせますのでよろしくお願いします。シンシア様もよろしいでしょうか」

「よかった。そのように伝えますね。名前はフォーナ様というのよ」

「えっ、フォーナ様がリリアに会いたいとおっしゃってるのですか」


 シンシア様がやや驚いたような声の響きで話したから、私はシンシア様の横顔しか見れなくて、彼女の視線はセミル様に向かっている。


「前から言われてたけど私も話す機会がなくて、今日はちょうどよかった」

「シンシア様もご存じの方ですか」

「今のフォーナ様はセミル様のお屋敷の方です」

「えっ、私はセミル様のお屋敷の話しは聞いたことがありません」

「そう言えば話したことがなかったわね。今度詳しく話すからね。セミル様、よろしいでしょうか」

「私の屋敷のことは話してもいいですが、シンシアの前でこの話しをしたけど、自分のことは内緒で会わせててほしいと言われているのよ。だから……私もリリアだけに話そうと思ってたのよ。でも……その機会がなかなか訪れなかったからね」


 セミル様はこのように説明をしているが、どういうことなのだろうか。


「分かりました。リリアにはその方がいいかもしれませんね」

「私は意味が分かりませんが、この城では重要な人なのですね」

「重要かどうかはその意味合いで違ってきます。私は何とも言えません。後からシャーニンに連絡をさせましょう」


 セミル様がそう言ったから、あくまでも本人に会ってから判断しなさい、と言っているのだろうか。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」と、私。

「私も女の編み紐のことは協力します。シャーニンたちもよろしくお願いしますね」

「もちろんです。私がこの布を渡した人たちを中心に考えてますから、私を助けてもらわなくてはいけません。こちらこそよろしくお願いします」

「私からも彼女たちには話すからね。彼女たちにも他の参加者を考えてもらいましょう。シャーニンによく話しておきますね」

「ありがとうございます。こちらはシンシア様がご存じたと思いますので、ほんとうによろしくお願いします。私は城に入って日が浅いですから、その方たちのことは何も知らないので、シャーニンとはたくさん話し合いたいと思います。よろしいでしょうか」

「もちろんよ。シャーニンはリリアのことを尊敬してると言ってます。私が色んなことを王様から伺い、私なりに考えてそのことを話したからだと思います」


 セミル様がそう言ったから、私がシンシア様に王様から聞いたことを話したことは、伝えてもいいと判断したことだけで、セミル様もシャーニンに話したことは同じ考えだと思うし、彼女なりに考えた脚注も説明したかもしれないな。


「ありがとうございます。こちらのことはシャーニンに任せますのでそのこともお伝えください。今度はシンシア様と三人で話しをしたいと思います。許可を先にいただいてもよろしいでしょうか」

「もちろんよ。私が聞いてもよく分からないから、シャイールとシャミールのこともよろしくお願いしますね」

「はい。ほんとうにありがとうございます。今日はここに来てよかったです。セミル様の言葉を聞いてとても力が涌いてきました」

「マーリストン様がリリアはすごいと言ってたわね。今まで色んなことがたくさんあったからでしょうね。何もなければその言葉は使わないと思います。何事にも乗り越えられるリリアの底力を見てみたいわよ」


 シンシア様は今までの私のリアリティーを彼女には説明できないから、そう言ってくれたような気がするけどな。


「えっ、そのような力はありません。皆さまの意見を聞いてよく考えるだけです」


 私は考えるだけだ、としか伝えることはできない。武力行使なんて反乱軍みたいで、この時代でも可能なのかしら、と頭をかすめたけど、私の武力は『言葉』なのよ、と思ってしまう。


「その考え方にリリアの底力が発揮されるのでしょうね。今回のことはリリアが中心になってやりなさい」


 セミル様は私の目をダイレクトに覗き込んで、力強くやや命令的にそう言ったような気がして、私はその言葉と視線に驚いてしまう。


「セミル様、私もその考えに心から賛成します」


 このスカーフは軽いお土産として、女の編み紐の代理みたはいな気持ちもやや含まれてはいたけど、セミル様もシンシア様も配下の者たちも仲良しじゃないの、と私に気付かせてくれ、意外な結果を生み出したこのスカーフは自分で買ってきた物だけど、元を正せばマーリストン様があの時に気付いて買ってくれ、それを見てマーヤが同じ物が欲しいと言ったからであり、それがこのような思惑になるとは、皆の不思議が一同に具現したのだろうか。


「リリア、私たちは二人で協力するから女同士で一致団結しましょう。そうすれば正室と側室が仲がいいことが家臣に理解できるのよ。今回のことはそのことを皆に知らせるためには絶好の機会よ。そのことでシンシアが中心になるのではなく、リリアがなればあなたの立場も今まで以上に家臣に認められるわよ。私はそう思いますが、シンシアはどうかしら?」


 セミル様は先ほどの言葉の続きとしてやんわりと、シンシア様と私に確認しているかのごとく説明しているのだな、と思ってしまう。


「私もセミル様の考えと同じです。他の言葉はありません」

「ほんとうにありがとうございます」

「セミル様、女同士で一致団結の言葉は最高ですね。この言葉は王様には理解できないかもしれません。男の方は考えられないような気がします。リリアがこの前王様に女の立場を話しましたが、私はあの時は考えられませんでした」


 そう言ったシンシア様は、二人で王様の部屋へ押しかけたことを説明しているのだ。あの時は少し無視されたようで、二人の世界で話しをしていたよな。私の話しはここの人たちには考えられない言葉のようだ、と後から少し反省したのよね。


「私はその話しは聞かなかったけど何のことなの?」

「リリアが王様に話しました。一つの屋敷を考えても男の方が強いし偉いと考えてると思うと、要するに男は偉そうにしてるということだと思います。女の使用人がすべていなくなったら男は食事もできないと話しました。私はリリアの話しを聞いてからいろいろ考えてしまいました」

「えっ? リリアはそのようなことを王様にお話ししたの?」


 セミル様はやや小首を抱えたような雰囲気でそう言ったから、言葉の意味が理解できてないような気がする。


「確かに女がいなければ男は子供も産めません。そう思うと女の立場も考えていただきたいですね。リリアはそのことも含めて話したと思います」


 シンシア様が言葉を追加してそう説明してくれたような気するが、物心がついてからの二人の生活環境が違えば、自分が知り得た知識の中でしか考えれないような気がするので、シンシア様の方が幅広い考え方できそうな気がする。


「リリアはそのようなことまで王様に話せるの?」

「セミル様、これはリリアの底力ですね。私は考えたこともない言葉であの時はとても驚きました」

「私はそのような深い意味で話したのではありませんが、つい話しの流れで言ってしまいました。申し訳ありません」

「前から考えてたからあの言葉が出たのでしょう? 私がリリアに詳しく聞くと王様に言ってしまったのよ。近いうちに聞かれるかもしれないわね」


 シンシア様は『困ったわね』といいそうな雰囲気で私を顔を見ていた。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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