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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第五章 『アートクの市場』
106/165

106=〈サガート様からの招待〉


タイトルは『ヨーチュリカ大陸』です。


主人公の名前は夏川(なつかわ)燈花(とうか)、二十八歳。隕石と遭遇する。

花火のような緑色の灯り、時空の狭間は、夕焼け空のような薄明かりだ。

燈花の名前の一文字を絡め、その隕石の名前を(あかり)と呼ぶ。

魔法が飛び出す異世界で、燈花と燈の運命は……。


四年ぶりの新作小説です。よろしくお願いいたします。


     ☆ ★ ☆ (4)


 私はよく考えると十三個のお土産を買おうと思っていたが、この考えは日本人独特なのかな、とか思ってしまったけど、子供たち三人、マーリストン様とコーミン、ゴードン様とミーネ様はお揃いのものを買いたい。バミス様とシューマンには短剣を買うつもりで、シンシア様とバルソン様もお揃いにしようかな、とか思ったけど、隠し持つぶんにはいいのかもしれないけど不味いよね……ホーリーには何を買おうかな……いちばんの問題は王様に何を買うかである。


『ルーシー、私はドーラン様とマーシーには買わないので何か買ってあげてね。二人で買うと有り難みがないような気がする。感謝されるほどの物を買えるわけでもないけどさ。全部で十三個も探そうと思うので大変なよね……』

 私の最後の言葉は自分の呟きとして言ったような気持ちになり、彼女に呆れられるかな。



『……分かりました。ゴードン様とミーネ様にも何か買おうかと思いました』


『それはいいかもね。私は子供たちに短剣にしようとか思ったけど、それを渡すのはまだまだ先の話しだけどね。城に入るようになれば内緒で渡そうと思うのよ。そっち店にも行きたいし……確かこの近くにあったような気がしたけどね』


 私たちは店の前で別れ各自自由に見ることにして、あちこち見回りながらルーシーと心の言葉で話していたけど、道に面したというのか歩道に面した場所には、台の上に色んな小物が整頓されているかのごとく並べてあり、奥行きよりも幅の長い店舗だと思う。


 奥の正面の壁に沿って棚が作られ、彼女たちと同じ場所で鉢合わせもしたけど、私の視線はほかの客よりも商品に向けられていたが、この時代に機械化があるとは考えられず、すべて手作りなのだと思うと、製造者と販売者の連係が成り立っているのだろう、と思いながらも商品に見入っていた。


 子供たちの短剣とルーシーには説明したけど、ほんとうはバミス様とシューマンに渡そうと思い、子供たちにはマーリストン様と私が隠し持っている『小さなダイビングナイフ』を考え、子供たちが手入れをしなくてもいいと思い、内緒で渡そうと考えている。ケルトンがコーミンに『危ないから抜かないのがいちばんです』と話した言葉を思い出す。

 

 シンシア様には髪飾りを見つけ、刺す部分が二本に別れて先端が扇形になり、貝殻か石なのか分からない物が埋め込まれていたけど、材質も分からないけどこの形が気に入ったので、後から材質の説明を聞いてみよう。


『ルーシー、もう少し見るとさっき別れた場所に戻ってね』


『分かりました。私はゴードン様とミーネ様に短剣を買うことにしました。それを別の場所で買いたいと思います。私の子供を守っていただきたいですから、子供が十歳になったお祝いに、その使っていただいた短剣を私からだと譲り渡してほしいです。その説明もお願いしてもよろしいでしょうか』


『すごいわね。もちろんいいわよ。私から二人に説明するから任せておいて』

 私の最後の言葉は力が入ってしまったけど、ここでは十歳という年齢に何かあるのだろうか。


「何かお探しですか」

 ルーシーと内緒で話していたから集中力が途切れてしまい、私の後ろから男の声がしたから驚き、『私ですか』とそう言って振り返ってその人を見る。

 

「あっ? 大変失礼ですが、以前に翡翠の指輪を買われたときのリリア様ですか」

 その男の人は突然振り向いた私の顔を見てから、驚いたようにそう言う。


「……あの時の……私も思い出しました。今日はサガート様にお会いしようと思って伺いました。その前に店の中を見させてもらいました。たくさんあって迷いますね」

 私は彼の顔を見て驚きながらもそう言ってしまう。


「ありがとうございます。旦那様をお呼びします。少々お待ちください」

 彼はすぐ奥の方に入っていく。


 年齢的には四十歳を過ぎていそうな眼の細い彼ではあるが、ケルトンの買った翡翠の指輪のイメージが強かったのかしら……ケルトンが赤い翡翠がないかと尋ねると、自分は見たこともないと言っていたけど、私が見たことがあるというと慌てて奥に入ってサガート様に報告したのよね。


『ルーシー、入り口に行けなくなったので少し待っていてね』


『分かりました。マーヤと入り口で待っています』


「リリア様、お久しぶりです。ようこそいらっしゃいました。城での祝賀会は盛大に行われましたね。お忙しそうで声をかけられませんでした」

 サガート様の方から先にそう言われてしまう。


「あの時はお話しできなくて申し訳ありませんでした。ラデン様から少し話しを伺いました。申し訳ありませんが入り口に連れの者を待たせてあるので、今から呼びに行きたいと思います。少しお待ちいただけますか」

「承知しました」


 彼がそう言ったので慌てて外の道へ直線的に進み、手招きして二人を呼び寄せる。

 

「お待たせしました。私の連れの者でルーシーとマーヤです」

「この店の主人でサガートと言います」

「ルーシーは話すことが苦手ですのでよろしくお願いします」


 ルーシーが話せないことを最初に説明すると、『初めまして、マーヤです』と彼女がそう言ったので、サガート様の視線はマーヤに向いたけど、すぐルーシーに戻ったようで、彼は何を思ったのだろうか。


「分かりました。今日はこのような遠くまでお仕事でいらしたのですか」

 彼からそう尋ねられたけど、今から話す内容は極秘なので彼にだけしか話せない。最初から決めていたことだけどお忍びにすることにする。


「今日はお忍びで来たことにしていただけますか」

「承知しました。どうぞ奥の方にお入りください。アルロン、店の方は頼みましたよ」

「承知しました」


 そう言った彼の後ろ姿を見ると、私より少し背が高く肩幅が前から見たよりはがっちりしているような気がした。彼の名前はアルロンと呼ばれていたけど、外見だけで人を判断してはいけないな、とか思いながらも、こういう商売人にしてはひ弱な体型ではなく、何だか用心棒も兼ねているような(たくま)しさを感じるのは、私だけだろうか。


「どうぞこちらにお座りください」

「ありがとうございます。先ほど三人でフィード様にご挨拶をしてきました。今日はこの店で買い物をしようと思い別れて先に見せていただきました。すると、先ほどの方から声をかけられて驚きました」

「そうですか。名前をアルロンと言いますが、彼も驚いていましたよ」

 サガート様は私を見ながらそう言ったから、

「翡翠の指輪のことを言われて思い出しましたけど、私の名前まで知っていました」

 私がその経緯を知りたいと思いそういう言葉を使うと、

「私はアルロンにこの店を任せてあります。もちろん、ラデン様とアーリスのことも知っています。彼にお二人のことを祝賀会から戻って少し話しましたから、すぐさまリリア様の名前が閃いたのでしょう」


 彼がそう説明してくれたのだ。サガート様はアルロンのことを信頼しているのだ、と思いながらも一応の挨拶が終わったと思い、今度は私がこの店を訪れた経緯を少し説明した。


     ☆ ★ ☆


「そういう大事な物を私が考えてもよろしいのですか」

「考えるというよりも作っていただきたいです。腰に巻く紐とそこに提げる物をお願いしたいのですが、紐は両方とも同じ色にして、その提げるものも考えていただきたいです。その紐の作り方を工夫して誰にも真似のできないような作り方、理解できないような特別な折り方を考えていただきたいのです。細くてもいいですから適当な太さでお願いできないでしょうか」


 私が考えていた具体的なことも追加で説明し、彼の意見を聞きたいと思う。


「なるほど。紐の織り方を特別にすればいいのですね」

「はい。色は男の編み紐と同じで黄色、青色、緑色、赤色です。腰紐にすると目立つと思い、それに女性は提げるのが好きそうですからね。この二つで位置づけを決めようと思います。一つの組み合わせで銀を十粒ほどでお願いできますか」

 私はそう言ったけど、この金額は自腹で支払うつもりだ。


「分かりました。何か考えてみましょう」

「ありがとうございます。それで今日のこの話しは内密にしていただきたいですがよろしいでしょうか」

「分かりました。作り手は別の者を頼みますが、私自身が誰にも相談しないで考えてみましょう」

「よろしくお願いします。私がここに来られない場合にはマーヤに来てもらいますので、マーヤのことをよろしくお願いします」

 私はそう言ってマーヤの存在を彼に意識づけさせる。


「分かりました。リリア様はいつまでここに滞在されるのですか」

 彼から意外な言葉を聞いて私は戸惑ってしまう。


「私たちは今夜からフィットスの宿に三日間泊まります」

「それでは……明日の夕方は何か予定が入っていますか」

「いえ、別にありません。日中は買い物をしようと思っていました」

「このような機会はめったに訪れません。明日の夕方私の屋敷へご招待したいのですがいかがでしょうか」

「ほんとうによろしいのですか」


 私は驚いてそう言ってしまったけど、考えてもないことを先に言われてしまい、行きたいような行きたくないような、でもアーリスと子供たちにも会いたいし、暗くなると早めにトントン屋敷とリズに会いに行きたかったので、今夜は半分徹夜状態になりそうな気がするけど、何とかなるかなーと思い、彼の頭の中では招待の言葉が突然に閃いたのだろうか。


「はい。マーリストン様が王子様と認められた話しはここまで届きました。私の店で翡翠の指輪を三つも買われたとほかの者に話すと、ほかの者が信じられないと言いました。先日の寄り合いでフィード様がラデン様からそのことを聞いた、と口沿いをしてくれ、やっとほかの者に信じてもらえました。ましてラデン様の位置づけは、わが家においても特別な存在です。ほんとうにありがとうございました。リリア様とラデン様の知り合いとして私は鼻高々です。ぜひ私の屋敷にお立ち寄りください」


 彼がそう説明してくれたので、あの時は先を見込んでおまけしてくれたのかなと思い、彼には先見の明があるようで、ぜひ女の編み紐を作ってもらいたいと願う。


「ありがとうございます。ラデン様のことは本人から伺いました」

「ラデン様には申し訳ないですが、私の一人娘を南の城に一緒に連れて行かれては、こちらも跡取りがいないものですから、そのことを理解していただけました」

「ラデン様の子供は母親の元で育つ方がいい、とおっしゃいました。それで、子供たちの産まれた日を前後に三日ほど休息日を作っていただくことを、責任を持ってマーリストン様に話します。マーリストン様から王様に許可をいただくようにしたいです。そのこともラデン様には話しました。重要な仕事で来られないかもしれませんが、それは仕方のないことだと理解してください」


 城での仕事も理解してもらいたいし、来られなかった場合のことも考えてそう言ったつもりだけど、早めにマーリストン様やバルソン様に話して了承してもらわなくてはいけないよね。


「仕事では仕方ないですが、ぜひ私の家族にも会ってください」

「ありがとうございます。私たちが三人で押しかけてもよろしいのですか」


 私だけではなくて二人も誘ってもらわなくては、と思い三人を強調して言ってしまう。


「もちろんです。私が夕方にフィットスの宿に使いの者を出しましょう」

「ありがとうございます。お待たせするかもしれませんが、その頃には戻りますのでよろしくお願いします。それでは、店の方で買い物をしたいのですがよろしいでしょうか」

「もちろんです。皆さまに買っていただけるなら大歓迎ですよ。マーリストン様みたいに『大おまけ』をしましょう」


 サガート様の顔は真面目モードから口もとを緩めてにこやかに変化し、強調してそう言ってくれる。


「ありがとうございます。よく覚えていませんが、前に来たときはこの店の並びに色んな物が売られていたような気がしました。今日と明日は順番に回ってみたいと思います」

「私の店の前の道はアートク通りと皆が呼びます。いつのまにかそう呼ばれるようになりました。ここではいちばん賑やかな通りですので楽しんでください」

「なるほど。道に迷えばこの名前を聞けばいいのですね。この市場の見取り図はありますか。店の名前と商品の紹介があれば便利だと思います」


 私は何気なくパンフレットみたいな物があれば、とても便利だと思いそう言ってしまう。


「なるほど見取り図ですか。今回は無理のようです。しかし私が何とかしましょう」

「最初の頃にゴードン様から西の門の市場の見取り図をいただき説明を受けました。あれはゴードン様の手書きだったのかしら?」

「この市場を知らない人には便利ですね。ここの見取り図を作って宣伝することもできますね。そうすれば訪問者がたくさん増えるでしょう。フェスクラップは有名になりつつありますが、それ以外では訪れる人がそれほど多くはありません」

「私には分かりませんが今度のフェスクラップまでにたくさん作り、買うのではなくて配ったらどうでしょうか。それともこの通りを中心に寄り合いに参加している皆さまの店の名前と、どんなものを売っているかを書き出し、文字を読めない人もいると思いますので絵図にしてはいかがですか。店の目印を書いてあちこちに貼りだすのはいかがでしょうか」


 私はこういうアイデアを言ってしまう。


「なるほど。ここでは紙が貴重なものですので、書いてどこかに貼るのはいい考えですね。私が今度の寄り合いで提案してみましょう」

「今日の私はお忍びです。私の考えだとは言わないでください。あくまでもサガート様の考えだと説明ください」

「分かりました。ありがとうございます。毎回寄り合いにはフィード様もいらっしゃいますが、リリア様の考えだと内密に伝えてもよろしいでしょうか」

「賛成していただける人も必要ですね。教えるのはフィード様だけにしていただけますか。今回の女の編み紐のことは極秘でお願いに上がりました。お互いに何が起こるか分かりません。私はそこがいちばん心配です。ほんとうに秘密です」


 私は強調してそう言ったつもりだ。


「承知しました。すべて王子様のことと同じだと考え、フィード様にも秘密にしましょう」

「ありがとうございます。明日は楽しみにしています。家族の皆さまにもよろしくお伝えください。私たちは買い物をしたいと思います」

「どうぞゆっくりと店内をご覧ください。お探しのものがあればアルロンに声をかけてください。彼が説明をしてくれると思います。私はもう少しすると出かける用事がありますので、今日お買い上げいただいた物はこちらで預からせていただき、明日私が屋敷の方で渡しましょう。代金も明日の支払いで結構です。私がその品を見て代金を決めますので、こちらが損をしない程度に『大おまけ』をしますよ」


 サガート様は先ほどよりもにこやかに笑い、おまけする言葉を強調している。


「ほんとうによろしいのですか」

「はい。今後ともラデン様のことをよろしくお願いします」

「分かりましたと言える立場ではないですが、今後ともラデン様には彼のそば仕えを続けていただきたいですので、今日のお願いのこともありますし、こちらこそよろしくお願いします。三人で別々に預けしますので、代金も別々にお願いします。それぞれ差しあげる方への気持ちや思い入れがあると思います。自分自身で買いたいという気持ちです」

「よく分かりました」


 私の意を介してくれたかどうか分からないが、サガート様はにっこり笑ってそう言って部屋を後にしたので、私たちは別々に買い物をすることにした。


     ☆ ★ ☆


『ルーシー、ラデン様はフィード様にこの前会ったときに少しは話したみたいね。男同士の会話をしたのでしょうね。彼はサガート様には何も話してないと思うよ。彼は口止めされたことは必ず守る男だと思う。何も心配しなくてもいいからね。最後の日に二人で話して確認すね。すべてにおいてお互いに信じ合うことがいちばん大事だからね。当人同士が信じ合えば他の人には関係ない。私は今までそう思ってきたしシンシア様にもそう話した。私の考えを真似しろとは言わないけど、ルーシーもそう思ってください』


『……はい。分かっています。リリア様は秘密をたくさんお持ちですから、相手によっては話せないこともあるので大変ですね。リリア様の好きな人は、マーリストン様とシンシア様とバルソン様がご存じだと話していただきましたが、バミス様の名前が出なかったので、私はバミス様ではないかと思いました』


『えっ?』

 私は驚いてそう言ってしまった。


『バミス様には剣を教えていただいていた、と何度も話されていたからです』


『……いずれ分かることだけど、ルーシーには前もって教えてあげるね。私は彼を心から信じているからね。私はバミス様のことがいちばん好きなのよ』


 私はそう言ってしまったけど、理由まで話してくれるとはさすがルーシーです、とは言えなくて、でも、私の隠し事が一つ消えて何だかほっこりしたのよね。


『教えていただきありがとうございます。ラデン様には教えていただけなかった、と必ず伝えます』


 彼女がそう言ってくれたので、仲間であり友達としてその言葉を信じたいと思う。


『いずれ分かることだけど、私は大好きなバミス様の子供がほしいのよ。私の立場も複雑だけど、ルーシーも色んなことを乗り越えて一緒に頑張ろうね』


『はい。今後とも私たちのことをよろしくお願いします』


 彼女からそう言われてしまったけど、こうやって同じ話題を共有できる友達ができたと思うと嬉しいよ。私たちは下見をしていたので、短時間で自分の買いたい物を預けることができ、また何かあれば明日も来てもいいと二人に話した。


 今度は短剣を捜したいと思いこの店を後にすると、付き添いのワイースとエポークが同じ場所で待っていたけど、女の買い物には時間がかかると思ったのかしら、それよりも手ぶらではまずかったかな、二人は男だしここで売っている物は小物だし、そこまで気付かないかな?


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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