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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第五章 『アートクの市場』
104/165

104=〈フィットスの宿とディーペスト〉


タイトルは『ヨーチュリカ大陸』です。


主人公の名前は夏川(なつかわ)燈花(とうか)、二十八歳。隕石と遭遇する。

花火のような緑色の灯り、時空の狭間は、夕焼け空のような薄明かりだ。

燈花の名前の一文字を絡め、その隕石の名前を(あかり)と呼ぶ。

魔法が飛び出す異世界で、燈花と燈の運命は……。


四年ぶりの新作小説です。よろしくお願いいたします。


      ☆ ★ ☆ (1)


 西の屋敷から見ると、カーラの手前にある長屋みたいな建物は馬屋になっている。昨日の夕方は久しぶりにリースに会いたくさん話しかけてブラッシングをしたけど、リースも私と同じように歳をとったので、今回は最後の長旅になるような気がする。


 六月八日の朝一番の五時の鐘が鳴り、私たちはアートクの市場を目指し、途中で二度だけ休憩して食事もとらずに一気にポスタルの家に向かった。


 久々の長距離で少しお尻も痛くなり疲れてしまったけど、奥様からいただいた蜂蜜水を今回は飲めたので、私は嬉しくて一気に力が(みなぎ)ったようになり、二人も甘くておいしいと喜んでいる。


 この市場に来るといつもポスタルの家で馬の面倒を見てもらい、市場の南側にあるポスタルの家は、大通りの南端から北に向い右手である東の方に入った場所、最初にバミス様がトントン屋敷を見つけ、しばらくひとりで住んでいたときに捜してくれた家で、もう八年近く利用していた。


 彼女たちがサガート様の店に来ることがある。ここに預けることを教えポスタルにルーシーとマーヤの名前と顔を覚えてもらい、ここから市場の中心までは歩くことになる。


 コントールの里にも市場はあるが、食料品及び日用雑貨を手に入れるには事足りていた。この市場はこの辺りでは最も大きな市場で、私たちも滅多にここまで足を伸ばすことがなかった。


 その代わり、ゴードン様の屋敷に行ったり来たりするときは、たまにこの市場で一泊していたが、ここまでの道のりを優先し、馬に乗ったり歩いたりしながら沿道の風景を楽しみ、バミス様がいないときには馬を隠しソードで横道に入ったりし、ケルトンと二人で探索するのが楽しかった。


 父の影響でわが家ではアウトドアが大好きで、季節を問わずにキャンプにも出かけ、剣道の練習をするというよりも、こことは違うがアウトドアの自給自足の体験をしていた。


 高校時代でも大学時代でもクラブ活動の合宿はコテージを借り、皆で順番を決めて自炊をしながら体力作りをしていたので、それが楽しかったから剣道をずっと続けていたのかもしれない。


 向こうでは、ほかの人より強くなろうなんて考えてもなく、欲がないと言えばそれまでだが自分が楽しかったから続けられたのだ、と思っていたけど、ここでは生きていくために剣客でなくては、子供たちのためにも自分の立場を作らなくては、と焦っている自分の姿を何度も夢で見た。


 私のこれからの人生はすべて子供たちのためだ。アートクの市場は私たちが二人で覚醒した記念すべき市場でもあり、私たちの思い出深い市場になっていた。


 サガート様が住んでいるこの市場で女の編み紐を作ってもらえば、ここにはラデン様の家族もいる。切っても切り離せない市場になると思い、ルーシーも彼の家族と会うことができる。彼女は私みたいにこの市場を好きになってくれるのだろうか。


     ☆ ★ ☆


「ここに来たらフィットスの宿にいつも泊まるからね。何かあったらこの名前を言えば教えてくれから忘れないでよ」


 私はルーシーとマーヤに念を押すように、何回もその宿の名前を伝えたけど、聞く方は大きなお世話だよな、と思いつつも、こうして三人で出かけることは初めてで、私自身も過去において、女同士で出かけることはなかった。


「はい。もう覚えました」

「マーヤ、昨日も話したけど、シンシア様みたいに年上だと今までの話し方でいいけど、私たちは歳が近いし、ここでは友達という設定にしたいので言葉に気をつけてね。他の人は聞いてないので気にしなくていいのよ」


「……はい……でも困ります」と、マーヤ。

「今度から出かける用事も増えるし、城から出たら普通の話し方でいいからね。ここで一気に慣れてよ。マーヤにも友達がたくさんいるのでしょう。その友達だと思って話せばいいからね」


「……はい……でも困ります」と、マーヤ。

「分かった。年上の友達だと思えばいいよ。そうすれば大丈夫でしょ。普通に話せばいいことだからね。そう思ってよ」


「……はい……でも困ります」と、マーヤ。

「困るのはこっちの方だよ。私が命令したら切り替わりますか」


 私はここまで話してしびれを切らせてしまい、この言葉を使いたくなかったけど、堪忍袋の緒が切れたようにやや大きな声で言ってしまう。


「リリア様……それも……困ります」と、マーヤ。

 彼女がややしゅんとしたようにまたそう言ったので、私が逆の立場だと、こうしなくてはいけないのかな、とつくづく考えてしまう。


「……私は命令とかそういう言葉を使うこと自体が嫌いだけど、それくらい大事なことだと思ってくれない。私みたいな話し方でいいのよ。すぐに慣れるわよ。今日は最初に宿に行ってからフィード様にご挨拶に行くからね。そしてサガート様の店に行こうと思っているから、店に行く前に何か買いたい物があったら買ってもいいのよ」


 私は先ほどの話しはもう諦めて話題を変える。


「ありがとうございます。サガート様の店で買ってもいいのですね」

 彼女は先ほどと違い嬉しそうにそう言う。


「……それがいいのかもしれない。装飾品の店だから見るだけでも楽しいと思うよ」

「楽しみです! 仕事ですがほんとうにここに来れてよかったです!」

 彼女は先ほどと違い、はち切れそうな声でそう言ってくれる。


 仕事と言えば仕事なのだけど、私の我が儘に付き合わせて悪いと思い、ルーシーと内容の濃い話しをするにはこのシチュエーションは最高だ。ルーシーと二人だけだと傍から見ていると会話が少ないのよね……人混みの中ではそれが気になるのよね。


「お腹空いたから何か食べようか。ここに来たら鹿肉の店を捜そうと思っていたのよ。人に聞いてみるからね」


 私はそう言って、前に食べた店を雰囲気的に探したけど、あの時はうろうろとしてケルトンが人に聞いたしよく覚えてないのよね……何という店だったか名前すら思い出せない。


 『ミーバ』から取りだした本によると、鹿肉は牛肉よりも赤みがあり鉄分が多いと書かれていて、写真で見た限りでは牛肉みたいで、当時は焼き肉にした方がいいと思ったのよね。


 私は人に聞くことができ、外で並んで待つこともなく鹿肉の店に三人で入ると、この前と違いこの店の内外は石と木がふんだんに使われ、ほとんど四人がけのテーブルが設置されていた。


 ここって、シンシア様の父親が経営している、ラントークの店みたいな高級店のような気がするけど、ほかの客の話しをこっそり聞いてみると、二階には個室があるみたいで予約席になっているようだ。


 探せばこういう店があるのだと初めて知ったような気がして、ここはチャークラの里にも近いので、鹿肉の需要が満たされているのだろう、とひとりで納得してしまう。


 鹿肉ジャーキーを作らせたのはいいけど、ここでの経営理論とか知らなくて、ゴードン様とバルソン様にお任せで頼んであるからな……勉強しなきゃいけないよね。


 ここでは鹿汁みたいな物もあったけど、周りをよく見るとサンドイッチみたいにパンの間に挟んで食べている人が多く、私たちも同じような物を注文すると、レタスっぽい緑色の濃い野菜と一緒に、焼かれて黒ずんだ色のややごっつい鹿肉が二枚、手のひらサイズのパンの間からややはみ出し、茶色っぽいパンが二個ずつ木の皿の中に入れられ、食べてみると柔らかいし臭みもなくておいしい。タレというよりも一つかみの『塩』がうまい具合に生きて、ハーブみたいな香辛料も使われているような気がする。この店は『ディーペスト』という名前であり要チェックだよね。


『ルーシー、部屋は二つ取るから今夜はマーヤと早く寝てくれる? サガート様と二人で話すこともあると思うからね。暗くなるとトントン屋敷の様子を見に行きたいのよ』


 私は食事をしながら彼女に話しかけ、食べ物が口に入っていても話せるというのは便利よね、とまた思ってしまう。


『分かりました。私もラデン様とマーシーに何か買いたいと思っていました』

 彼女の視線はサンドイッチを見ているような雰囲気でそう言う。


『ドーラン様とマーシーに同じ物を買ってあげたら喜ぶと思わない?』


『ほんとうですね。私たちも同じものを買います。私も楽しみです』


「仕事とは言え、こういう機会はめったにないので友達にも何か買ってあげたら?」


 私はサンドを一個食べ終えた後で二人に話しかけたけど、追加注文で鹿汁も三人分頼んでしまった。


 豚汁みたいに野菜が主体で煮込んでありみそ味で、スライスというよりも小さめにぶち切られたような鹿肉が入り、脂もほどよく浮かんでジャガイモみたいな大きな塊も入っていたけど、どう見てもジャガイモだよね……でもおいしい。


「親しい友達にも出かけることは少し話したので、彼女たちにも何か買います。ほんとうに場所は話していません」

「二人とも、戻ってもこの場所だけは絶対に秘密だからね」

「はい。そのことは十分に承知しています」


 マーヤがそう言うと、ルーシーも頭をこくこくと上下に揺らしている。


「マーヤは何を買うか決めてあるの?」

「買えるかどうかも分からなかったので、その……まだ決めていません」


 シンシア様の朝食は何を食べているか分からないけど、私たちが朝食として食べている城の食事は物足りない。食堂みたいにレパートリーがあるわけでもなく、やや堅いパンは二個までで、ただ淡々と作られている汁物を器に入れてくれるようで、そのパンをちぎって中に入れたりそのまま食べたりと、ホーリーが作ってくれたパンの方が柔らかくておいしいかった。食事の改革……したいよな。


『ルーシー、これは内緒の話しだけど、前にマーリストン様がシンシア様に髪飾りを買ってあげたのよ。それを王様に見せたときに、何か買ってほしそうな話しぶりだった、と彼女から聞いたのよね。今度は私が王様に何か買ってあげようかと思っているのよね』


『……すごいですね。私には考えられません』

 彼女のパンに向かっていた視線が、私を捕らえてそう言う。


 確かに考えられないことだと思うけど、ルーシーには王様が雲の上の存在ではなく、普通の男性だと考えてほしいな、とか思ったけど無理な話しよね。


 バルソン様もそうだけど、王様も人当たりがいいというのか、偉そうにしてない所が素敵なのかな、それって私たちの前だけなのかな。


『まだ何も考えてないけど、何か見て閃いたらそれにしようと思ったのよね。他にも買いたい人がいるので明日ものんびりと買い物しようね』


『私もシガール様の店で何か買いたいです』


「ルーシーもシンシア様とマーシーに何か買えば喜ぶと思うよ」

「はい」


『せっかくここまで来たのでね、そのつもりで三日間泊まることにしたのよね。シンシア様と王様には別に泊まる理由を説明した。それとなくマーヤには後からサガート様に話しがあると話すので、明日の朝は遅めに起きてね』


『分かりました。買い物ができることは楽しみです。ありがとうございます』


 私たちが何も話さないのも変だと思い、差し障りのない会話を飛び飛びに話しながら食事をし、私は心の言葉でルーシーとも話していたのだ。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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