102= 〈文字の存在〉
☆ ★ ☆ (25)
二人がこの部屋から出て行ったので、私はラデン様が座っていた椅子に移動し、バルソン様と対面どうして座ることにした。
「今夜は驚くことばかりで参りました。遅くなりましたがリリア様にはフィッシャーカーラントの市場では大変お世話になりました」
彼がそう言ったから、そう言えばあれから二人で会ってなかったのだと思い出す。。
「いえ、シューマンの話しはシンシア様から聞きました。私もそうした方がいいと思います。めでたい話しが重なることはいいことです。それまでに、お互いがほかの家臣から認められるくらいの位置づけに成長していると思います」
私はそう言ったけど、マーリストン様の方が先に赤の編み紐に挑戦する機会が早いと思うけど、シューマンだって赤色の編み紐を手に入れ、バルソン様の後を継がなきゃいけないと思うので、そうなれば、この城は少なからずリストン様が大人になるまでは安泰だよね。リストン様も自分で考えられるようになるだろうし、世襲という意味も理解できるようになると思う。
「私もそう思います。今夜はどういうことからお聞きしたらいいのでしょうか」
「ラデン様とルーシーのことを最初に話したいと思います。私は二人に食事をして城に戻るように話しましたので、ここにも食事が運ばれてくると思います」
「分かりました。リリア様と一緒に食事をするのも久しぶりですね。こうやって落ち着いてよく見ると、少し顔が小さく見えますがお疲れではないですか」
彼からそう言われてしまった。体重計なんてずっと乗ってないけど、ちょっと痩せたのかな。太ったと言われるよりはましだけど、腕も足も筋肉が付いたことは否めないな。
「何かと慣れないことが多くて、最近は少し疲れ気味ですけど大丈夫です。今度は女の編み紐のことを考えますので、気が張り直せると思います」
「ドーランのことで十日に一度は休息日を考えてほしいと言われたそうですね。私にも王様が与えると言われました。その日は城に来るなとも言われました。屋敷からも出ない方がいいとも言われましたよ」
「屋敷でのんびりされてはいかがですか」
「マーリストン様のことは落ち着きましたが、黒い帝国の話しが一向に進展しません。そのことがいちばんの問題です。マーリストン様が西の城に出向いて話しを直接聞きたいとおっしゃっていますが、近いうちに二十名ほどの家臣を連れて向かわせようと思います」
「えっ、バミス様とラデン様とシューマンも一緒ですか」
私は驚いて、彼らの名前も連打したように言ってしまう。
「そうです。その時にはラデンの下にクーリスも付けます。シューマンには今度の男女統合訓練で試合をさせ、青の編み紐を取らせようと思います。彼はマーリストン様と一緒にシーダラスの屋敷で訓練をさせています。勝ち残ればシューマンは城での位置づけが決定します。私が選んだ黄色の編み紐の者を二名と土色を八名選んでの配下に付けます。そのことは王様に許可をいただきました。そうしないと周りの者たちに示しがつきません。今後のことを考えてシューマンの位置づけも大事だと思います。それと、マーリストン様には緑の編み紐を目指していただきます。今回はリリア様も男女統合訓練に参加することをお願いします」
彼はそう説明してくれたのだ。シンシア様が私にルーシーとマーヤを配下に付けてくれたように、シューマンも勝ち残れば配下の者が付くわけだ。マーリストン様にはバミス様とラデン様とシューマンと、マーリストン様が緑の編み紐になっても変わらないと、そう言っているのだろうか。自分よりも下の色を持つ者が二名ずつ付くのね。
「分かりました。よろしくお願いします。それで、最近はマーリストン様にお会いできないのですね」
私がそう言うと、『食事をお持ちしました』と入り口の外から声が聞こえたので、『ありがとうございます』と私は返事をしたのだ。ラデン様とルーシーにもお任せみたいなメニューになっていて、一人分のお盆のような台に、肉や魚や野菜などが二口サイズほどで見た目よく並んでいたけど、バルソン様とラデン様にはお酒も用意してもらった。
「リリア様もお忙しそうですが立場が違いますから、西の城に出かけるまでにシューマンの位置づけを確定したいと思っています」
彼はそう言ったけど、シューマンの実力主義にするのか、隠れた親の立場で少し甘くするのか分からないけど、最初の編み紐が取れれば後は実力で勝ち上がってほしいな。今後は二人でライバルとして競争してもらいたいような気がするけど、マーリストン様の方が強くなくては、彼は精神的に辛いだろうな。
「分かりました。シューマンのことは複雑な心境ですがよろしくお願いします」
「私も同じです。五日に一度はこの城に関する情報を王様に報告するためにお会いします。今回の編み紐の話しもその時に聞きしました」
彼がそう言ったから、彼が色んなことを報告しているのかと思ったけど、色んな人から話を聞いて信憑性を高めるのも大事だよな。
一人の意見だけではこの城は守れないから、それをセミル様やシンシア様も人を使って把握しているのだろうな、とも思ったけど、私の側近としてはルーシーとマーヤしか見てないけど、シンシア様は配下を十人付けてくれると言っていたけど、それはどうなっているのだろうか。
「分かりました。ラデン様が右手にブレスを付けているのをご存じだとは思いますが、私がバルソン様の左手にブレスを付けたことと同じで、私はルーシーの右手にブレスを付けました。それで私たちは直接話せるようになりました。ここも落ち着いたのでラデン様と話せるかもしれないと思い確認すると、二人は話せましたが三人では一緒に話せません。私とルーシーは直接心の言葉で話せますが、彼は私たちの心の言葉は聞こえますが、普通の言葉で話します。お互いに二人で話した内容は聞こえませんでした。それはラデン様と一緒に確認しました」
私が長々とそう説明すると、
「このブレスはそういうことができるのですか。私も話せるのですか」
彼は不思議そうな顔をしてそう言いながら、黒い布で隠してあった自分の左手のブレスを見たようだ。
「バルソン様は左手ですから話せるかどうかは分かりません。確認してもいいですけど、これ以上仕事が増えても大変だと思うので、現状のままでお願いします。いずれそのブレスが役立つ日が来ると思います」
私はそう説明したけど、ソーシャルから聞いた話しでは、私の右手のブレスと彼の左手のブレスを三度触れ合わせると、乗れないけどソードが飛び出すと言っていた。
これも確認しなくてはどうなるか分からないけど、今はその状況ではないし、私はソーシャルにはそこまで聞いてないけどが、私のブレスが親になるのだから、私の左手とラデン様の右手のブレスでも可能かもしれない、と考えられるのだ。
「ルーシーは会話が不器用ですから、二人で話しができることはよかったです。ルーシーはとても喜んでいました。そしてラデン様のことが好きになったと話してくれました」
「ラデンの市場での立場はご存じですか」
「はい。子供たちのことは二人で話し合い解決したようです。それでもルーシーはラデン様が好きだと言いました」
私はバルソン様にそこまではっきりとそう伝えたけど、どうなのかな。よかったのかな。何だか心配だよね。
「私たちはアートクの市場のサガート様に、女の編み紐として何か提げる物を男性とは別口に考えていただこうと思います。この話し合いの前にマーヤと三人で行くつもりです。シンシア様には説明しましたが、王様にはサガート様の名前は伝えていません。内緒でお願いします」
「分かりました。その話しも伺いましたがこの城から外に出るには許可証が必要です。青の編み紐を持っていると自由に出入りできます。それらを王様に許可をいただいて色別に可能にしました。男と女ではその内容が違ってくると思います。前もって考えてください。シンシア様と相談するとよろしいかと思います。それはここでの決まり事の一つになったと思います」
彼はそう説明してくれたのだ。男は城への出入りが多いと思うが女の場合はどうしたらいいのか、私はシンシア様に許可してもらい木札を受け取っているが門番のこともあるし、提げる物を家臣に知らしめなくてはいけないし、と思いながらも、外に出るだけでも手続きが大変な状況なのだ、と思ってしまう。
「ここではそれくらい大事な位置づけになるのですね。それでシンシア様は下準備をゆっくりした方がいいと話されたのですね」
シンシア様が話したことを思いだしてそう言うと、
「その内容が書かれた物が書庫にあります。近いうちに見てはいかがですか」
彼がそう言ったので驚いたが、図書館と言うよりも、この城に関する決まり事や累積された出来事、王族や家臣に関する重要な書類のような物が置かれているのだろうな。
書庫と言えば、私が城の見取り図がほしいとゴードン様に話したときに、ケルトンが書物がたくさん置いてある部屋があると言っていたけど、そのことだろうな。
「分かりました。シンシア様と一緒に拝見します。やはり、見るための許可が必要でしょうね」
「私が書庫の係りの者に伝えておきます。それを探し出すのは大変ですから用意をさせておきましょう。外への持ち出しは禁止されていますのでその場で見ることになります。その部屋もありますし二人で確認してください。一度では内容は覚えられないと思うので、係りの者にその旨も伝えておきましょう」
彼がそう言ってくれたけど、バルソン様は忙しそうなのにそういうことまでしていたのだ、と思った瞬間に、私は日本語しか分からないよね。今まで文字の存在が頭から抜けていた。私が読めるのかしら、参ったな。
「……ありがとうございます。シンシア様にもそう伝えて二人で見させていただきます。シンシア様から女の編み紐のことをバルソン様と相談したいので、外で会いたいと言われました。いつがよろしいでしょうか」
私はやっと言うことができた。
「分かりました。近いうちにリリア様にお知らせします」
「よろしくお願いします。ドーラン様とマーシーのことはこれから始まります。まだ外で会う日が決まってないのですが、シンシア様と私が王様にお会いしたときに、ルーシーと三人で控えの部屋で話しをする機会があり、三人でとても気が合ったみたいです」
「それはよかったですね。シンシア様も喜ばれたでしょうね」
「とても喜んでいました。シンシア様は自分が気づかずに、また私に助けてもらったと言われました。私はドーラン様とラデン様に子供が産まれれば、その子供たちがこれから産まれるマーリストン様の子供たちを守っていただきたいと話しました。それで、女の編み紐の制度を作り城の中を守りたいと思います」
私の正直な気持ちを彼に話すことができたけど、男と女の立場は違うような気もする。
「なるほど。今回もその意味で女の編み紐を作りたいと思っているのですね」
「はい。マーリストン様の姫様たちを女の立場で守りたいです。これからは自分の子供たちのことをいちばんに考えることにしました」
私はシンシア様とバルソン様にはこの話しをすることができるし、隠し事をするわけではない。バミス様もそうだけど、心を許せる人がそばにいることは精神的に救われていると思う。
「この考えはこの城においてもリリア様にとっても、とても大事なことだと思います。シンシア様も私も応援をするつもりです。周りの者たちに悟られないようにしてください……今夜はご一緒してもよろしいでしょうか」
彼が突然そう言ったから驚いたけど、先ほどから彼の視線の変化に気付いていたのよね。
「……申し訳ありません。今夜はゴードン様の屋敷に行くことになっています……遅くなってはホーリーにも迷惑になります。ルーシーとマーシーが自分たちに子供ができるとゴードン様の屋敷で産みたいと考えたそうです。そのことも……早めに伝えようと思います。シンシア様の屋敷は少し遠いですので、それに……屋敷に迷惑がかかるので自分たちは子供を置いてはここに戻れないと思い……シンシア様や私を守れなくなると二人で考えたそうです」
私は一瞬焦ってしまったけど、その言葉が頭の中で回転している。
「確かに……私もその方がいいと思います……それでは次回によろしくお願いします」
またバルソン様にお願いされたけど、シンシア様が先じゃないの、とは言わなかったけど、私の視線で気付いてくれたかな。
私はバミス様の子供を産むまでは誰とも会わないと決めていたので、ルーシーの話しでその場の流れを変えたつもりだったけど、彼にはその意味が理解できただろうか。参ったな。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




