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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第四章 『城の中は……』
100/165

100=〈懐かしい思いで〉


 ラデン様が赤の編紐を取得するための材料に絶対なる、とそういうことを話したり考えたりしていると『お連れ様がいらっしゃいました』と、突然声がしたので入り口を見ると、そこにはクーリスがいる。

 

「リリア様、お久しぶりです。バルソン様に急用ができて少し遅くなることを伝えてほしいと話されたので、この場所を教えていただき連絡に来ました」

 彼はドア越しに立ったままでそう説明する。


「ありがとうございます。今夜はマーリストン様が忙しいので、ラデン様も忙しいとは思いますが一緒に来ていただきました」

「私もバルソン様からそう伺いました」

「ルーシーは私の側近ですから一緒に連れて来ました」

「そのこともお聞きしました」


 クーリスがそう言ったので、バルソン様も苦心してそう説明してくれたのかしら、とか思ってしまう。


「私は編み紐が男だけの制度だとお聞きしたので、女の編み紐を作ろうと考え、バルソン様に詳しく話しをお聞きしようと思い、マーリストン様は忙しそうで捕まらなくてね。ラデン様から直接伝えていただこうと思っています」

 私がこの場の現状をそう説明する。


「リリア様はそのようなことを考えられたのですか」

「シンシア様にも話しましたが、バルソン様がこの制度を作り替えたとお聞きしたので、その説明を伺うために、やっと今夜はバルソン様と会えることになりましたよ」


 私はやんわりと今夜の会合の意味を追加説明をする。バミス様からクーリスは謹直で真っ直ぐな性格だと聞いたことがあったので、それを聞いたときに『あなたもよ』と思いにんまりと笑みを浮かべると、彼から怪訝な顔をされたことを思い出したけど、クーリスはバルソン様のそばにいることが多いような気がして、彼は今夜のことを他言するような人物ではないと思っていたので、簡単でも今夜の説明をしなくては、お互いに不信感を招くといけないと思ったからだ。


「バルソン様は城の中でも外でもお忙しく、今夜は遅くても必ず伺うのでお待ちいただくようにとも言われました。私はそのことを伝えたので城に戻ります」

 彼は椅子に座ることもなく話し終えたみたいだ。


「お忙しいのにありがとうございました」


 私がそう言うと『失礼します』と言って、部屋から姿を消したけど、久々に彼の顔を正面から見たけど、雑誌で写真として見る芸能人にありがちな精悍な顔つきが伺え、見た目で判断してはいけないけど、私としては好感度のある顔をしている。


「リリア様はやはりお話しがお上手ですね」

「クーリスにもこの状況を説明しなくてはね。バルソン様も同じ考えでよかったです。バルソン様も急用ができたときは、どうしていいのか悩んだでしょうね」


 バルソン様の雰囲気を思い出しながら、私の口元が少し上向き加減でにやにやしていたかもしれない。


「ほんとうですね」

 ラデン様はそう言って苦笑いをしているから、もちろん私とは違う意味だよね、と心の中で呟く。


「編み紐の話しを聞くことはほんとうのことですからね。二人のことを話し終えればこの部屋でバルソン様の話しを聞きます。二人はいったん外に出て先ほど人に尋ねてください。別の部屋を用意して食事を頼んであります。夜中の鐘が鳴るまでに戻って来ればいいと思います」

「ありがとうございます」


 彼は一瞬ルーシーに視線を向けてからそう返事をする。


 東西の正門は片方だけはいつも開け放され、夕方の六時の鐘で閉まるけど、その横の通用門は真夜中の十二時まで開いている。


 朝は五時と六時、九時と十二時と、午後の三時と六時と九時に大きな鐘が三回鳴り響くけど、真夜中の十二時の鐘は、夜中だからやや寂しそうにひっそりと一回だけ、打者が鳴らしたくないような雰囲気で、そう感じるのは私だけかしら?


 朝以外は三時間おきに鐘を鳴らして時を告げていたのだ。

 マヤやエジプト文明みたいな天文台があるのだろうか。

 太陽の光を三百六十度として追従しているのだろうか。


 私が『ミーバ』から最初に出した、周りがステンレスで囲まれたシンプルな懐中時計は、ネジを巻くのを忘れるくらい使う頻度が少なかったけど、手が滑って落としてして壊れてしまい、今度は周りがゴールドで作られた、私の手の中に隠しきれるほどの小さな、蓋付きの懐中時計を今でも内緒で使っている。


 直径が三センチほどで、表の中央に小さな菊の花びらのような模様が描かれ、そこから周りに放射状に線が延び、中は白くてアナログで、小さな数字がくっきりと十二まで書かれているけど、短針と長針がストレートに真っ直ぐ延びて見やすく、正確な時間というよりも、鐘の鳴る間の時間を大雑把に確認するために、手の中に隠してたまに見ている。


「私はゴードン様の屋敷に今夜は泊まります。シンシア様にも許可をいただいています」


『リリア様、彼に子供たちのことはほんとうに話してないです』


『ルーシー、ここで私の子供のことを話してみようか。いずれ分かることだと思うけど、ラデン様だったら誰にも話さないと思います。そう思わない?』


『リリア様、私には分かりません』

 彼女からそう言われてしまう。


 彼女の『わかりません』という言葉はたまに聞いていたけど、どうしたらいいのか分からない、と言っているような気がしていたので、話さない方がいいのかな。話して悩むよりも話さない方がいいのかな。


 最初のころに、シンシア様にケルトンのソードが乗れることを話すかどうするかで迷ったときに、話さない方がいいと結論づけたけど、今回もその方がいいのかな。悩むな。


『ルーシー、彼に子供のことを説明しやすいように、今夜は子供の存在だけを話そうかな?』


『リリア様、ありがとうございます。よろしくお願いします』


 彼女はそう言ったから、この意見には賛成してくれたみたいだな。相手によって教えていいことや知らせてはいけないことがあるように、ルーシーは私の側近として何でも話して相談したいけど、ソーシャルみたいな存在にはなれないよね。苦慮するな。


「ラデン様、ゴードン様の屋敷には三人の子供たちがいます。ゴードン様のお孫さんたちです。かわいいですよ。久しぶりに子供たちに会ってきます。今月に入ってから行くのは初めてなのよ。子供たちもたくさん歩けるようになったと思います。ゴードン様の屋敷は中庭も広いですから、屋敷の外に出なくてもたくさん遊べます。子供は遊びの中で色んなことを学ぶと思うので、一人ではなくてよかったですね。面倒を見る方は大変でしょうけど、私だと怪我をしないように見てればいいですけど、私が行ったときくらいは彼らを休ませてあげたい。今の私にはそういうことしかお手伝いはできないです」

 私が彼を見つめながらそう長々と説明すると、

「私は初めて知りました。ゴードン様にはお会いしましたが、家族のことまでは知りません。三人もいらっしゃると大変ですね。でも可愛いでしょうね」


 彼がそう言ってくれたので、何だかほんわりし気分になったけど、彼にも子供が二人もいるから考えられることで、親にならなくてはそういった言葉は出ないよな、とか思ってしまう。


「娘さんが一人いらっしゃるのよ。私はバルソン様の二人の子供たちのことも、シンシア様のお屋敷のこともずっと知らなかったし、シンシア様から聞いてとても驚きました。祝賀会の前に彼女たちと四人でシンシア様の屋敷へ行くことができ、シガール様やシーナ様とお話しができて楽しかったです。広くて立派なお屋敷でした。おいしかったけどお魚料理には参りましたけどね。お昼もそうだし夜にもたくさんの魚料理が出できて、近くの河でたくさん捕れるそうです。シガール様はその仕事をしていて、この城にも魚を運ばせているそうですよ。シンシア様もはつらつとしてとても楽しそうで、馬にもたくさん乗れて嬉しかったと話していました。城とは違い誰にも気兼ねせずに遅くまで二人でお話しができて、私はとても楽しかったですよ」


 私は何か話さなくてはいけないと思いそう言ったけど、シンシア様の屋敷のことは知らないような気がしたので、これは隠さなくてはいけない言葉だったかもしれないけど、ゴードン様のことを話したから、彼女のご両親や屋敷のことも話す。


『ラデン様、お魚はおいしくて食べ過ぎましたが、マーシーと二人でたくさん話せて私も楽しかったです。今までは泊まったことがなくて三日も泊まりました』


「よかったですね。私も三日ほどは戻りたいですね。シガール様はそういう仕事をされているのですね。名前は聞いたことがありましたが仕事までは知りませんでした」


 ラデン様はそう説明してくれたから、やはり知らなかったのだ。


 ゴードン様の家族のことも知らずに、混みいった話しではないし話してもいいのかな、と思いながらも、ラデン様はもう聞いたかもしれないけど、シンシア様と彼女たちのつながりも、今後は話さなくてはいけないことだと思い、なりそめだけでも知らせておけば、二人の会話もスムーズにいくのかなと勝手に思ってしまい、余計なことだったかな。


「私がマーリストン様に話しますから、前日の朝一番で出かけて誕生の日を迎え、翌日の夜の鐘が鳴るまでに戻って来たらいいと思います。そうすればゆっくりできますね」

「ありがとうございます。そのようにしていただけますか」

「私に任せてください。フィード様ともお酒が飲めますしね。アートクの市場の情報もたくさんお聞きになりたいでしょう?」

「ありがとうございます。フィードは月に一度はここに来ますので、その時にバルソン様と会うことにしています。私もここに戻って日が浅いですから知り合いも少ないです。フィードとは長く一緒にいましたから気心が知れています」


 彼がそう言ったから、月一で市場の状況を報告したり、徴収された税金を持ち運んでいるのだろうかと思ってしまうが、すべてバルソン様が仕切っているのだろう。直接バルソン様に報告する義務や、ほかの人が受け取る市場とか、その市場の規模で担当者が違うのだろうか。


 信頼のおける青の編み紐の家臣を各所の市場に置けば、バルソン様は色んな市場の情報が詳しいわけで、ソーシャルじゃないけど、私が知らなくてもいいような、隠された城での裏事情通なのだ、とか思ってしまう。


 そう考えると、ソーシャルがバルソン様に張りついていれば、彼女がそこまで聞いているとは限らないが、この城のことは裏も表もシーカーみたいに苦労せずとも情報が手に入るわけだ。


「……男同士の付き合いもいいですね。そういうことをマーリストン様にも教えてあげてください。立場が違っても男は男で女は女ですから、私はそう思いますよ」

「承知しました」

「私もルーシーとマーヤと出かけることを楽しみにしています。ラデン様から教えていただいた宿にまた泊まろうと思います。あそこは何だか思い出がありますね」


 ケルトンとバミス様と一緒に宿泊していた宿は、旅の途中の宿泊施設として滞在しただけで、ほとんど外に出歩くこともなく、同じ宿にも滞在したこともなく、二回訪れて泊まったフィットスの宿とは違う。


 毎回ポスタルの家に馬を預け、彼の奥様から毎度ではないけど蜂蜜を入れた水を出してくれ、それを飲むのがおいしくて嬉しくて、次回も飲めるのかなーとか期待しているんだよね、近くで養蜂とかやっているのかしらね?


「ほんとうですね」

「ルーシー、私たちは四月のフェスクラップのときに知らずに出かけ、私がこそ泥を捕まえてラデン様とはお会いしたのよ」

「こそ…………泥?」

 ルーシーはそう言ったけど、重ねて言えるようになっている。


 彼女の言葉をすぐ連想して応えなければ、ゆっくり続きが言えるのだ。その言葉の意味を知らないのかな、たまにあるのよね、ここでは使えない言葉が……。


「私が見張りをしていると、目の前で人のものを鷲づかみにしたから追いかけました。そうしたらリリア様が剣を投げてそいつの足に絡ませて捕まえてくれ、ほんとうに偶然の出会いでしたね。ケルトン様を弟と言っていましたね」

 彼も思い出したかのようにそう説明してくれる。


「ルーシー、ラデン様が最初に紫の編み紐に気づいてくれたのよ。当時は編み紐のことを知らなくて、バルソン様がシンシア様に頼まれて短い剣を作ってくれたのよ。私たちはそれを持っていたからよかったのね。それで部屋を頼んでくれたのよ。あの時はフェスクラップ開催されて泊まる場所がなかったので助かりました」


 私はあの現状を思い出しながらそう説明をしたのだ。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。


今回で100回目を投稿することができました。

まだまだ続きますので、今後とも、よろしくお願いいたします。

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