たぶん出会いは最悪だった
五月の風が憎い。
こんなにさわやかに吹かれたら、一人で怒っている私がものすごいバカみたいじゃない。
誰もいない校舎裏。さっきまで目の前に立っていた男は、さっさと教室に帰っていった。
『俺達、別れようぜ』
その言葉を聞いたとき、私は本当に自分の耳は大丈夫かと思った。だけど、あの男は確かに気まずそうにこっちを見ていたんだ。
『そう、わかった』
言いたいことはたくさんあったはずなのに、実際に出てきたのはたったそれだけのセリフ。その瞬間のあの男のほっとしたような顔を、私はきっと忘れない。
泣かなかったのは最後の意地だった。
「……バカは私一人か」
こんなところで突っ立っていても、あの男が戻ってくるはずはない。頭ではわかっているけれど、何となく動けない。
「……好きだったんだから……」
つぶやいた言葉は、チャイムの音に消されてから風にさらわれた。
*
「やっぱりかっこいいよね!」
クラスの女の子たちの、そんな声で目が覚めた。
いつのまにか授業どころかホームルームまで終わって、もうみんな帰っていく時間らしい。
今までずっと眠っていた、ということは、昼休みにあったあのことは夢だったのかもしれない。そうならば、あの男は今日も下駄箱のところで一人突っ立って私を待っているはずだ。急いで荷物をまとめて教室を出ようとした。
そこで静止した。
扉の向こう側。あの男が歩いている。おまけにかわいい女の子がついて、2人笑いあいながら。
「夢じゃ……なかった、んだよね」
とことん自分はバカだと思った。2人が見えなくなってから教室を出る。
下駄箱までの道のりが長い。階段が永遠に続いているような、そんな気分。
いつまで経っても一階につかない。
イライラして、むかむかして……何だか泣きたくなってきた。泣いちゃおうかな。
「とろとろ歩いてんじゃねえよ、ぼけ」
出掛かっていた涙は、一瞬にして奥にひっこんだ。横を通り過ぎていった奴のせいで。
ちらっと見えたあの顔は、ついこの間この学校の生徒会長になった男だった。
「……さぎ師じゃない」
演説のときはさわやかな笑顔を振りまいていたくせに。
ボケって何よ、ボケって。
階段を一段飛ばしで駆け下りてやった。




