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駆け付けた衛兵たちが目にしたのは、頭からつま先までを鮮血に染め抜かれながら微笑む、この世のものとは思えぬほど美しい女だった。


「聖女様は……聖女様はどこにいらっしゃるのだ!?」


衛兵の叫びに応えるように、アリアナはゆっくりと、白磁の床に散らばった黒焦げの肉片を指し示す。


「お前が……やったのか……?」

「私が? いいえ。彼女は自らの偽善の重さに耐えきれずに、勝手に弾けたのよ」


誰の目にも、その言葉が救いようのない嘘であることは明白だった。

だが、それを指摘すれば「次は自分が弾ける番だ」と、その場の全員の本能が理解していた。


「そ、そうだ……。聖女様は人々の穢れを一身に引き受け……自ら弾け、大いなる光となられたのだ。目の前のこの御方は、その奇跡を見届けた証人に違いない……!」


一人が恐怖のあまり膝を突き、祈るように叫んだ。


「ええ、いい子ね。その通りよ」


ひれ伏す衛兵たちの波が、モーセの海割りのように道を作る。

アリアナはその間を、奪い返したばかりのしなやかな足取りで優雅に進んでいく。

もはやこの世の誰も、彼女の歩みを止められはしない。



   ◇



王都を一望する最高級の宿。その最上階。

窓辺に立つアリアナは、迫りくる夕闇の中で、かつてないほどの輝きを放っていた。


完璧な美貌。莫大な富。世界を跪かせる力。

かつて公爵令嬢として享受した日々が霞んで見えるほどの栄華を、今やその掌中に収めている。

しかし、眼下に広がる王都を眺めるアリアナの瞳に、熱はなかった。


「ああ、退屈だわ……。平穏な日常は、これほどまでに味気ないものだったかしら?」


アリアナはふと目を閉じ、鼻から、深く、長く空気を吸い込んだ。

肺を満たすのは、窓辺に活けられた花の薫りではなく、記憶の底からせり上がるあの芳香。

彼女はそれを愛おしむように、幾度も鼻腔で転がす。


その陶酔を胸に秘めたまま、アリアナは左右対称に整えられた街並みと、その中心に聳え立つ王宮をじっと見つめた。

そして、細く長い指を伸ばし、スッ、と空中に水平な線を引いた。


「ふふっ、不思議ね……。今なら少しだけ、あの女の気持ちが解る気がするわ」

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