表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き風竜はときをゆく〜ドラゴンに転生した俺の悠久譚〜  作者: やまぐっち
【第三部 覚醒のサイバー・パンク編】未来への架け橋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/130

第109話 怪物の腹の中

 膠着状態が続き、俺の焦りが頂点に達しようとしていた、まさにその時。


『見つけたぞ、ヴァイス殿!』


 タカギの興奮した声が、途切れがちだった通信回線を通して、クリアに響き渡った。地上の司令部では、アーニャ博士のチームが、アークから回収した膨大なデータの中から、奇跡的に破損を免れた一枚の設計図の断片を発見していたのだ。


『アークの航海日誌の断片から、奴の構造パターンを解析した! やはり、本体の最深部に、この巨体を制御する「コア」があるはずだ!』

『だが、その場所がわからん! 奴の表面は分厚い装甲と、あの忌々しいシールドに覆われている!』


『……いや、わかるかもしれない!』


 アキラの声が割り込む。その声には、徹夜続きの疲労と、世紀の発見をした科学者のような興奮が混じっていた。彼は、アーニャが復元した設計図の断片と、リアルタイムで観測されるエネルギーの流れを、自身の端末上で猛烈な速度で照合していたのだ。


『ヴァイスさん! 奴のエネルギーの流れを読んでくれ、あんたならできるはずだ! 奴が攻撃する時、全身のエネルギーが一つの場所に集約される瞬間があるはずだ、その中心地こそが、奴の心臓コアだ!』


 アキラの言葉に、俺は集中力を極限まで研ぎ澄ませた。

そうだ、俺にはそれがある。魔力の流れを読むのは、俺の最も得意とするところだ。

俺は、奴の放つ対消滅エネルギーの光線を避けながら、その巨体内部のエネルギーの流れを、竜の第六感で探っていく。


見えた。

 奴の分厚い装甲の、さらに奥深く。その中心部で、ひときわ巨大で禍々しいエネルギーが、まるで銀河のように渦巻いているのが。


『……中心部だ。この怪物のド真ん中に、心臓がある』


 俺は、そこへ向かって突進した。

全身全霊を込めた、最大速度の突撃。

俺自身が、一本の白銀の槍となって、奴の装甲を貫く。

 だが、俺が接触する寸前、デボアラーの表面に、黒い亀裂のようなものが無数に走り、それが網の目のように広がって、俺の進行方向を完全に塞いだ。

位相転移シールド。俺の物理攻撃は、空間ごと捻じ曲げられ、届かない。


『ぐっ……!』


 弾かれた衝撃で、俺の身体がきりもみ回転しながら宇宙空間に投げ出される。

どうすればいい。ブレスも、物理攻撃も通じない。

このままでは、エネルギー切れで宇宙の塵となるだけだ。

焦りが、再び俺の心を黒く覆い始めた、その時。


『ヴァイスさん、諦めるな!』


通信の向こうで、アキラが叫ぶ。


『コアの反応を解析した! 奴は、コアの周囲に何重もの防御フィールドを張っている! だが、そのフィールドを維持するため、逆に内部構造は驚くほど単純だ! つまり、内部はガラ空きのはずだ!』

『……どういうことだ?』

『奴の体内は、中心のコアにエネルギーを供給するための、ただの巨大なパイプラインだらけなんだ! 外から壊せないなら、中から壊せばいい!』


 中から、壊す。

俺の脳裏に、かつて地下施設でメカドラゴンを倒した時の記憶と、魔王大戦で、超巨大ゴーレムの動力炉を破壊した戦術が蘇った。

そうだ。方法は、一つしかない。


『……ヴァイスさん、まさか……!』


俺の意図を察したアキラが、息を呑む。


『ああ。その「まさか」だ。俺は、デボアラーの表面にある無数の巨大な捕食口の一つに狙いを定める。奴が周囲の小惑星を吸い込む、その一瞬を狙って、俺自身が「餌」となって、奴の体内に飛び込むんだ。そして、内部から、全てを破壊する』

『……正気か、ヴァイス殿! それは自爆行為だ!』


タカギが制止する。


『戻ってこられる保証はないぞ! 内部の環境も、どうなっているか……!』

『……他に手があるか?』


俺は、不敵に笑った。


『……俺の命一つで、この星が救えるなら安いものだ。それに、俺はそう簡単には死なんさ。約束したからな』


俺は、仲間たちに最後の言葉を送った。


『……アキラ、タカギ、アーニャ。……後のことは、頼んだぞ。俺が道を開く。お前たちは、未来を繋げ』

『待て! 待ってくれヴァイスさん! まだ何か方法は――』


 アキラの制止する声を背に、俺は加速した。

デボアラーの巨大な口が、すぐそばの隕石群を飲み込もうと、巨大な工業用シュレッダーのような刃を回転させながら開かれた、その瞬間。

俺は、シールドの切れ目を縫うようにして、その闇の中へと自ら飛び込んでいった。


 ズズズズズ……ッ!


視界が、一瞬で闇に包まれる。

まるで、巨大なクジラに飲み込まれた小魚だ。周囲の岩石やデブリが、螺旋状の刃によって凄まじい音を立てて粉砕され、俺の巨体もその奔流に巻き込まれる。


ガギン!ガギン!と、俺の鱗に回転刃が食い込み、激しい火花と嫌な金属音を立てた。


『ぐっ……!』


痛みに耐えながら、俺は必死で体勢を制御し、シュレッダーの刃をブレスで溶かしながら、その奥の、食道とも言うべき通路へと強引に突き進んだ。

同時に、通信機から激しいノイズが走り、仲間たちの声が途絶えた。


『……アキラ! タカギ! 聞こえるか!?』


 ザザ……という、死を宣告するような砂嵐の音だけが虚しく響く。

デボアラーの体内は、強烈なジャミングと、あらゆる物質を分解するエネルギー粒子で満たされていた。俺は、完全に孤立した。

 俺は、通信が途絶えた孤独な闇の中、怪物の体内を突き進んだ。そこは、無数のパイプラインが複雑に絡み合い、エネルギーが奔流となって流れる、巨大な化学プラントの内部のようだった。

壁面からは、強酸性の消化液のような液体が絶えず染み出し、俺の身体を包む魔力のヴェールを、バチバチと音を立てて削っていく。


 通路のあちこちからは、直接生えた触手のようなものが現れ、執拗に俺の行く手を阻んだ。


『邪魔だ!』


俺は咆哮し、それらをブレスや爪で薙ぎ払いながら、ただひたすらに、コアの中心を目指して突き進んだ。

 壁に体をぶつけるたびに、強酸性のエネルギー粒子が俺の鱗を溶かし、肉を焼く。焼けるような痛みと、骨まで染みるような冷気が交互に襲い、体力を容赦なく奪っていく。

 だが、止まるわけにはいかない。

俺はアキラが最後の瞬間に示してくれた、最もエネルギーの流れが強い方向だけを頼りに、進み続けた。

 どれくらいの時間が経っただろうか。

数分か、あるいは数十分か。


 体感では、永遠にも感じられる苦難の道だった。

俺の身体はすでにボロボロだった。純白だった鱗は、消化液とエネルギー粒子で焼け爛れ、見るも無惨な黒灰色に変色している。翼はところどころ穴が開き、魔力のヴェールも、もはや風前の灯火だった。


(……まだか……。まだ、着かないのか……)


 焦りと疲労で、意識が朦朧とし始める。

もう、ここまでか。

仲間たちの顔が、脳裏をよぎっては消える。カイル、リリ、そしてアキラ……。

すまない。俺は、約束を守れそうにない。

俺の足がもつれ、ついにその場に膝をついた、その時。

前方の闇の奥に、微かな、しかし確かな光が見えた。


赤黒く、心臓のように脈打つ、不吉な光。

あれだ。


 あれが、奴の心臓だ。

俺は、最後の力を振り絞り、再び立ち上がった。

そして、最後の通路を抜けた先に、ついにたどり着いたのだ。

デストロイドラゴンの時よりも遥かに巨大な、デボアラーの心臓部。


赤黒く脈動する、直径数百メートルはあろうかという、巨大なエネルギーコアの前へ。

そのコアは、無数のパイプラインとケーブルに繋がれ、まるで巨大な蜘蛛の巣の中心で獲物を待つ蜘蛛のように、不気味に鎮座していた。周囲には強力な重力フィールドが渦巻き、近づくもの全てを原子レベルまで分解してしまう、まさしく死の領域。

残された魔力は、もうほとんどない。


俺の身体はボロボロだ。

だが、ここで、俺の最大最後の、全てを賭けた一撃を放つしか、この星を救う道は残されていなかった。

俺は、自らの生命そのものを燃やし尽くす覚悟を決める。


さよならだ、アキラ。

さよならだ、カイル。

さよならだ、俺の愛した世界。


 俺が最後のブレスを練り上げようとした、その瞬間。

完全に途絶えたはずの通信機から、ノイズ混じりの、しかし必死な叫び声が、奇跡のように俺の脳内に飛び込んできた。


 地上の司令部では、俺との通信が途絶えた瞬間、絶望的な沈黙が支配していた。

メインスクリーンには、俺の生命反応を示す青い光点が、デボアラーの巨体の中に吸い込まれ、そして急速に弱々しくなっていく様子だけが、無情に映し出されていた。


「……ヴァイス殿……」


 タカギが、絞り出すような声で呟く。

誰もが、最悪の結末を覚悟していた。

だが、アキラだけは諦めていなかった。


「……まだだ! まだ終わってない!」 


彼は、他のオペレーターたちが呆然とする中、一人だけコンソールに向かい、猛烈な勢いでキーボードを叩き続けていた。


「博士! 奴の体内のジャミングパターンを解析してくれ! 必ずどこかに『波の隙間』があるはずだ! どんな微弱な信号でもいい、ヴァイスさんに俺たちの声を届けるんだ!」


 アーニャもハッと我に返り、すぐさま解析チームに指示を出す。

「全スーパーコンピューターのリソースを、ジャミング解析に集中させて! あらゆる周波数帯をスキャンしなさい! 0.001秒でもいい、通信が可能なタイミングを見つけ出すのよ!」


 それは、砂漠の中から一本の針を見つけ出すような、絶望的な作業だった。

だが、彼らは諦めなかった。友が、たった一人で戦っているのだ。自分たちがここで諦めてどうする。

そして、数十分後。


「見つけました!」



若いオペレーターが、歓喜の声を上げた。

「ほんの一瞬ですが、コアのエネルギーパルスが変動するタイミングで、通信が可能な周波数帯の窓が開きます! 次のウィンドウまで、あと15秒!」

「よくやった!」


タカギは、すぐさま通信マイクを掴んだ。祈るような気持ちで、友の名を叫ぶ。


『―――待て、ヴァイス殿! 早まるな!』


その声は、時空を超え、怪物の腹の中の絶望的な闇を切り裂き、確かに俺の魂へと届いた。

希望の光が、まだ尽きてはいないことを告げる、奇跡の声だった。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ