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#134

 そして、彩音の周りでは大きな変化もなく夏休みを迎えることになりました。慌ただしく過ごしている時間は気を使うことも多く大変ではありますが、平穏なはずの時間は前に進んでいる感覚がなくなってしまうので不安感が増してしまいます。


 東雲樹生が来訪する前日、楓から連絡が入りました。


『悪い、明日行けなくなった。……東雲さんには連絡してあるから問題ないと思う。』


「何かあったのですか?」


『あぁ、急用が入った。悪い。』


 小声で淡々とした楓の話し方にも違和感しかありません。急に予定をキャンセルして理由も言わず、『悪い』を繰り返すだけになっていました。

 それだけを伝えて楓は電話を切ってしまいます。



 東雲樹生の訪問は、かなり前から予定していたことなので急用であることは間違いありません。彩音は嫌な予感しかなく、落ち着かない気持ちになっていました。


「東雲樹生様から彩音様へお電話が入っております。」


 と、一人で考え事をしている彩音のところにタエがやってきました。樹生は突然の連絡を詫びて、明日の予定を延期したいと申し出てきます。


『九条さんもご心配なのではありませんか?』


「えっ!?」


『彼のことです。……彼から行けなくなったと連絡があったのではありませんか?』


「は、はい。ございました。何かご存じなのですか?」


『ええ、細かなことは聞けませんでしたが妹さんが入院されたそうです。』


「……えっ?…………紅葉さんが?」


『そうですか、紅葉さんというのですね。彼も動揺していた様子だったので大事なければ良いのですが。』


「楓さんが動揺されていたのですか?」


『はい。ですから、そんな中でお伺いしても意味がありませんので、日を改めさせていただこうかと思います。』


 楓がいないことを意味がないと感じている樹生の言葉を気にするべきでしたが、彩音は紅葉のことばかりに意識が向いてしまいます。

 樹生との電話を終えると、皆にも明日の中止を伝えました。


 心配して返信も来ていましたが、彩音としては状況を確認することが優先となってしまい千和に連絡します。



『……昨日、楓さんのお母様も早退されていて今日もお休みみたいです。』


「やはり本当なんでしょうか?」


『兄からは『個人的な事だから教えられない』と言われてしまいましたので、詳しくは分かりません。……お役に立てずに申し訳ございません。』


 千和は彩音からの連絡を受けた後、急いで兄の会社に行って確認してくれました。結果としては、『何かあった』ことが確定しているだけで紅葉の状況は分かりませんでした。



 浩太郎が帰宅すると、彩音は何か知っていることがないか聞いてみることにします。楓や紅葉の状況など浩太郎が知っているはずもないので、彩音が冷静であれば浩太郎に聞くことなどしなかったこと。


 ただ、彩音から話を聞いた浩太郎は慌ててタエを呼びます。


「楓君とはわたしが話をする。」


 とだけ言い残して、彩音の疑問に答えることもなく自室に入ってしまいました。いつの間にか知世が彩音の背後におり、


「……紅葉ちゃんのことは、お父様にお任せすればいいわ。あなたは楓さんのことを助けてあげなさい。」


「何かご存じなのですか!?」


「紅葉ちゃん、生まれつき身体が弱かったみたいなの。」


「どうしてお母様がそんなことを?」


「以前、紅葉ちゃんが教えてくれたのよ。」


 そんなこと彩音は知らなかった。

 以前、浩太郎と知世と紅葉の三人だけで話をしていたことがあったので、その時に話があったのかもしれないと彩音は考えます。

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