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看破する不死鳥

フェネクスさんの姿を俺が何とか目視しながら、指示を出し、ノワールに後を追うと言う感じにしてもらっているのだが。

どんどん速度が下がってきている辺り、もうすぐ目的地なのだろうと言うことは伺える。

まだ走り出して、一分も経っていない様な気がするが、森の中での範囲なのだと考えると、それが妥当か。

ノワールの背中に乗るのも段々慣れてきたおかげか、この速度のせいで息が吸いにくいと言う感覚はない。


「感覚はないではなくて、私が風を操作してるんですよ。これだけ速いと人間である貴方やエルフの私はまともに息を吸うのは難しいですからね」

「え?」


エリーナの言葉に反応して、後ろに少し振り向いてみると、エリーナの右手の掌に魔法陣が展開されており、指が何かを操るかの様に動かしているのが見える。

恐らく、風を操作しているのだろう……というよりも、表情見えてないのに、なんで考えてることわかったんだよ、コイツ。


「ユージなら、これくらい考えているのではないでしょうか、という予想が出来ましたので。合っていたみたいですね。もうわかりやすくて、ホント面白いですね」

「アハハ……」


とうとう予想まで簡単にされるほどになってきたか、俺の思考回路よ。

ちょっと心配になってきたな、そこまで行くと。


「まぁ、私がいてよかったですね。今はもう私しかいませんが、この森に住むエルフは風魔法が大得意なので、風の操作くらいはお手の物なんです。私がいなかったら今頃、息が吸えないあまりに過呼吸くらいにはなってたんじゃないですか?」

「まぁ、何度か乗ってるから過呼吸になるっていうのはないだろうけど、息苦しくはなってただろうな」

「そうでしょう? 私に感謝してもいいんですよ? ユージはテイマーとしては優れている様ですが、それ以外はからっきしみたいですからね!」

「悪かったな」


フェネクスさんの後を追うために視線を上空へと向けていたため、エリーナがどんな顔しているかわからないが、俺でもこれくらいは予想できる。

絶対ニヤニヤしながら、俺を見ているに違いない。

そんなことを思っていると、先を飛んでいたフェネクスさんが止まり、ゆっくりと降下をし始める。

メイとルフェも、フェネクスさんの行動に反応し、降下を開始する。


「ノワール、少し先でフェネクスさんが下りた。頼むぞ」

「ガウッ!」


俺の言葉にノワールは軽く吠えて、頷いてくれる。

それから十秒も経たずに降り立ったメイたちが視界に入る。

ノワールもメイたちの姿を確認したからか、速度を下げ始め、三人の元に辿り着く頃にはゆっくりと歩いて近づくほどのスピードになっていた。

メイたちの元までノワールが近づいてから、俺とエリーナは背中から降りる。

それと同時にスイムが俺の手の中から飛び上がり、空中で魔人の姿に変身すると同時に同化していたルーフス、ウィリデ、フラウムが分離し、華麗に着地してみせる。


「うみゅ~!」

「凄いですね、スイムちゃん」

「うん、パフォーマンスを見ているみたいだった!」


キメポーズを取ってみせるスイムにルフェとメイは拍手しながら、賞賛の声を上げる。

いや、まぁ、確かに見事だったけどさ。

褒められたスイムは恥ずかしいのか、少し頬を朱に染めながらも、嬉しそうな笑みを浮かべてみせる。

フェネクスさんも笑顔で拍手してるし。

というよりも、先ほどのスイムの変身と同化に目を輝かせている様にも見える。


「ガルムの背中に乗る時のアレは気のせいかな、と思ってたんだけど、どうやら気のせいじゃなかったみたいだね! スライムの特徴がない魔人だなぁ、なんて思ってたけど、変身を可能とすることでスライムの魔人である証明をするとはね。いや、他にもまだ秘密があるとか? それに他のスライムと同化しての変身……! まさに神秘的だと言っても過言じゃない! 精霊でも、そんな真似はできないのに! いや、逆に水そのものであるスライムだからこそできるのか? となると、精霊も実はやろうと思えば出来たりして」


また思考の海に沈み始めているので、メイへと目配せ。

メイは頷いてみせると、フェネクスさんの元へと近づき、頭を一発叩く。


「あいたっ!? また!? いくら俺がお喋りだからって、すぐに人? いや、魔人の頭を叩くのはよくないと思うんだよね!」

「だって、普通に声をかけても止まらないでしょ?」

「いや、確かにそうだけど! ムルムルやベリアルみたいなことを言わないでほしいな。学者にとって、頭は大切なんだよ? 頭を叩くだけで脳細胞が幾つ死ぬと思って」

「フェネクスさん、目的地には着いたんですよね? 話は後にして、案内してもらえませんか?」

「だからさ、頭を叩くのはよくないと思うんだよね、俺は。というわけで、俺が喋り出した時でも、普通に声をかけてもらって」

「……メイ、拳骨」

「了解」

「あああああああああ! 待って! 待ってってば! 多分俺が悪いんだよね!? 恐らくだけど、声かけたのに、喋り続ける俺が悪かったんだよね!?」


メイがゆっくりと一本一本指を折り畳んでいき、拳を作っていくと同時にフェネクスさんがタンマという感じに目を前に突き出して叫ぶ。

話している時はどれだけ周りが見えてないんだ、この人は。

だけど、メイに叩かれるのはもうこりごりなのだろうか、すぐさま反応はしてくれたけど。


「それで、フェネクスさん。目的地には着いたんですよね?」

「ん? あぁ、そうだね。ここで間違いないよ」

「ここで間違いないって……あるのは木だけみゅ。前みたいな洞窟とかの様な場所はないみゅ」


スイムの言う通り、俺たちが立ち止まった場所は木々が生い茂るだけの森のどこか。

ルフェを救出しに行った時の様な洞窟があるわけではなく、本当に木々が生い茂っているだけ。

とても、悪魔神教の奴らの拠点がある様には見えない。


「まさか地面の下に空間が……?」

「なら、掘ればいいよね」


メイの両手が人のものから犬の様な手へと変わる。

いざ! という勢いで地面を掘ろうとメイが行動に移す。


「いやぁ、そっちじゃないんだよね。確かにこういうところに奴らの拠点があると言われたら、下か!? と考えるのが普通だよね」

「もしかして、幻術ですか? 実は木が生い茂っている様に見えるだけで、洞窟の入り口なり、拠点なりを幻術で隠しているとか」

「そうでもないんだよね、姫様。その線も濃厚だろうけど、奴らもそれじゃ簡単にバレるとわかっているのか、そういう隠蔽はしていなかったんだよね」

「それじゃ、シルフの様に透明になったりしているのでは?」

「それも違うね。それやるなら、幻術でも使えばいい」


エリーナの考えも否定される。

まぁ、確かに透明になるのも、幻術使うのも一緒だと言えるな。

なら、考えられる可能性があるとするなら。


「ニャルラトホテプの鏡がどこかにある?」

「そのニャルラトホテプの鏡っていうのが、どんなのかはわからないけど、移動系スキルだと言っているのなら、あながち間違いじゃない」

「ホントですか!?」

「うん。だけど、俺が見つけたのは『鏡』じゃない。『道』だ」

「『道』?」


道って……敵の拠点までつながっている道ということだろうか?

フェネクスさんは辺りを少しキョロキョロと見回してから、何かを見つけたのか、視線を向けた方へと歩いていく。

フェネクスさんは一本の木へと近づき、何かを探すかの様に木を触り出した。

あの木が一体どうしたと言うのだろうか?

見た限りだと、他の木々と違うと言うところはない。


「急にどうしたんだろう、あの人」

「道を見つけたって言っていたけど、一体どういうことなんだろうな」


メイも流石にフェネクスの行動には首を傾げてしまう様だ。

まぁ、傍から見れば、ただ木を探っているだけの変な人にしか見えない。

そんなことを思っていると、ルフェが俺とメイに近づいてくる。


「フェネクスに任せておけば大丈夫ですよ。彼、ユニークスキルの『看破せし瞳トゥルーアイ』っていう魔眼スキルを持っているんですよ」

「『看破せし瞳トゥルーアイ』? それって一体どういう」

【個体名:フェネクスが所持するスキルであり、隠された事柄、物、事象を看破する力があります。恐らく、その魔眼によって、あの木に隠された道というものを看破したと思われます。この場所を見つけるのには、また別のスキルを使ったと思われますが】

「なるほど……」


学者というだけにそういう魔眼を持っていてもおかしくはないかもしれない。

視線をフェネクスさんへと戻すと、ちょうど隠された道を見つけたのだろうか、動きがピタリと止まり、満面の笑みで振り返る。

ちょっとその笑みが不気味に見えたりするけど。


「フフフ、入り口を見つけたよ。うまく隠してるっていうか、見つけたとしても、使い方がわからない限り、発動しない様にしている様だけど、俺にとっては無意味なんだよ!」

「あ、そうっすか」


ドヤ顔気味で語り始めるフェネクスさんに思わずそう答えてしまう。

この人、凄い人なんだろうけど、性格がなぁ……。


「まぁ、エクストラスキルの『千里眼』を使っただけじゃ、ここを見つけられなかったかもだけどね。『看破せし瞳トゥルーアイ』と並行して使うことでやっと見つけることができたわけだしね」

「『千里眼』……」


だから、あそこから動かずして、探すことができたのか。

ああやって、長い話をしている間にも、二つの魔眼スキルを使って、ここを探していてくれたのか。

フェネクスさんは手を道があると言う木に手を当てる。


「それじゃ、御開帳と行こうじゃないか。道のさ」


魔法陣が展開されたかと思うと、そこに更に小さな魔法陣が六つほど出現。

そして、金庫のダイヤルでも合わせるかの様に外側から一つずつ小さな魔法陣が動き、決められた位置で止まる。

そして、最後の小さな魔法陣が止まると、ガチャッ! と鍵が開く様な音が聞こえたと同時に木の幹に魔法陣が現れ、そこからどこかに繋がっている証であろう光が溢れ出してくる。

まさか、ピッキング……?


「まぁ、そんなものかな。冒険者たちが宝箱の鍵開けをするのと同じ様な感じだよ。俺はその鍵を開けただけさ」

「そんなことも可能なんですね、魔法って」

「いや、魔法はそこまで便利なものじゃない。『施錠ロック』という魔法はあったりするが、ここまで複雑にはできないんだよね。どちらかというスキルで作られたものかもしれない」

「スキルで……」


そういわれた瞬間、アユムの姿が脳裏に過ぎる。

アユムの姿が過ぎったのは恐らく、彼ならやってのけるかもしれないと言う確信があったからだ。

幾つかのスキルを持っているかもしれないと予想されているアユムなら。

ということは目の前にある転移系の魔法であろう魔法陣も、アユムが用意したものだと考えてもいいかもしれない。


「さてと、そろそろ突撃するわけだけど、君たちに確認だ。ここから先は敵の拠点。どれほどの敵が、戦力が待ち受けているかはわからない。不思議なことに、魔法陣の先を『千里眼』で見ることはできなかったんだよね。もしかしたら、君たちや姫様が交戦したと言う奴ら以外もいるかもしれない。もしかしたら、強敵だらけかもしれない。それでも行くかい?」

「もちろんだよ! シルフは私達の代わりにユージを守ってくれた大事な友達だもん!」

「俺もシルフとは一日だけの付き合いですけど、大事な友達なんです。だから、助けたい」

「うみゅ! 私達も一緒みゅ!」

「そうですね」

「ガウッ!」

「メラ!」

「フゥ!」

「ドン!」

「キキッ!」


スイムの言葉に同意するかの様にノワールやルーフス達も頷いてみせる。

そんな俺たちを見て、フェネクスさんはわかった、という様に軽く頷いてから、エリーナを見る。


「君も大丈夫かい? 手伝うとは言っていたが、無理してついてくる必要はないよ。ここで待っていると言う手もあるけど」

「そうですね。正直言うと怖いです。怖いですけど……一族の、仲間の魂を奪った奴らを許せません。そして、ユージを連れてきてくれたシルフ様を助けたい。ユージ達の手助けをしたい。だから、ここで待つなんて、私はするつもりはありません」

「そう」


エリーナの気持ちを聞いて、フェネクスさんは目を閉じる。

そして、俺たちの方へと手を向けると、足元に赤い魔法陣が展開される。

そこから炎の渦が発生し、俺たちを包み込む。

その行為に俺たちは驚くも、不思議とその炎からは息苦しさや身を焼かれる熱さは感じない。

むしろ、温かくて、心地よさを感じる。

ルフェの方を見てみると、この行動の意味がわかっているのか、特に驚いた様子はなかった。

炎の渦が消えると、フェネクスさんが笑みを浮かべる。


「常に俺が傍にいて、守ってあげられると言う保証はないからね。俺から特別に加護を与えておいた。とは言っても、助けてくれるのは一度きりだけどね。『不死鳥の加護』をね」

「加護って……それは一体どういう」

「それは後のお楽しみ。大丈夫! 体に異常をきたしたりはしないから安心して! まぁ、ちょっとした驚きはあるだろうけどね。君たちを必ず一度だけ『死』から守ってくれる加護だと思ってくれればいいさ。それじゃ、行こう! 俺に続けェ!」

「ちょっ!? フェネクスさん!?」


加護の説明くらいちゃんとしてほしいものだが、フェネクスさんは先に魔法陣の中へと突撃していく。

俺は少し軽いため息をついてから、メイたちの方へと振り返る。


「それじゃ、行くぞ!」


俺のその一言に皆は頷いて、魔法陣へと一緒に突撃していく。

この先にシルフがいる。

シルフ、待ってろよ……!

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