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学者

「すみません、ユージさん! アユムさんとアイリさんを行かせてしまいました!」

「うみゅ! ご主人様たち、大丈夫みゅ!?」


ニャルラトホテプ達によって、シルフが連れていかれてすぐに少しボロボロなルフェとスイムが部屋に飛び込んできた。

ボロボロと言っても、服はエンチャントのおかげで修復されてはいるが。

ルフェさんのはした覚えがないが、服だけ綺麗になっているのを見る限り、元々つけていたのだろう。

飛び込んできた二人は俺たちの暗めの雰囲気に気付いてか、心配そうな顔で中に入ってくる。


「ご主人様、メイちゃんも、どうしたみゅ? 何かあったみゅ?」

「スイム……助けられなかったよ」

「うみゅ?」

「目の前で……連れていかれるシルフを助けられなかったよ……!」


悔しそうで、泣きそうな震えた声がメイから聞こえてくる。

そうだ、解除して見え始めた時には自己紹介する暇なんてなかったが、メイからすれば、見えなくても、一緒に行動していた仲間同然だったんだ。

メイの大切な仲間を守りたいと言う気持ちを考えると、目の前で連れ去られたのは辛かっただろう。

俺だって、次はルフェの様なことはさせないと思っていたのに、結局目の前で連れ去られて……。


「ユージ、少しいいですか?」

「何だ?」


エリーナに声をかけられて、振り返る。


「聞きたいことがあるんです」

「聞きたいこと……ね。シルフのことか?」

「そうですね。何故、人間であるユージがこの森の守護精霊である『風の乙女シルフ』様と共に行動していたのでしょうか? 少なくとも、ユージ達の反応を見る限り、ついさっき出会ったと言う感じではなさそうですが」


変なとこで鋭いと言うか……そういうとこはエルフなんだな、と感じるな。

まぁ、シルフに指示を出しているのを見た時点で不思議には思っていたんだろう。

ニャルラトホテプ達の襲撃もあって、その疑問は後回しにしていた様だが。


「まぁ、そうだな。隠す必要もないし、話すよ。俺たちがお前を助けにくることになったのはシルフと出会ったことが始まりなんだ」

「そうなんですか? 偶然にしては出来過ぎているとは思っていましたが、そういう理由があったんですね。てっきりユージに私の念が届いたのだとばかり思ってました。まぁ、ユージにそこまで期待したのも間違いでしたけど」

「こういう時でも、俺に対しては毒吐くのな?」


こんな空気の中でも、俺に対して、平気で毒を吐くエリーナに少しイラっと来てしまう……ということはなく、逆に少し笑みが零れる。

コイツなりに、俺を元気づけようとしているのだろう。

少し目が泳いでいる辺り、これでいいのだろうか? という感じでいるのは確かだ。

俺の考えは表情に出やすいと言っていたが、エリーナも動揺や困惑などは顔に出やすいタイプの様だ。


「まぁ、俺に対しての毒は置いておくとして、話を元に戻すぞ。シルフによって、お前が『風の護石』を俺に貸し出したことによって、牢屋に入れられてるって聞いたんだよ。それでこの『風の護石』を返しに行って、お前の釈放をお願いしようとして」

「今回の事件に至ったわけですね」

「そういうこと」


シルフからこの村の状況を聞いていた時点で、何かあるな、とは考えていたけどさ。

まさか、アユムがエリーナの父親に化けてるとは思って……アレ?

そうなると、エリーナの本当の父親はどうなったんだ?

普通なら、殺されている可能性が高いが……。


「なぁ、エリーナ。お前、自分の父親に何か違和感を感じたりしたか?」

「と言いますと?」

「なんだか、別人の様な気がするとか、そんな感じの」

「いえ、特には……。お父様に関して、そんな風な違和感は感じませんでしたが」


違和感を感じなかった……?

そうなると、アユムの演技がそれほどまでにうまかったと言うことになるのか?


【それはないかと。エルフは魔力に対しての感覚は鋭く、本人じゃなければ、違和感を覚えるハズです。それなのに、違和感を感じさせず、エリーナの父、ここの村長になりすますことができた。ここまで来たら、何かしらの力が働いていたと考えるべきでしょう。それもアユム自身の個人の力でです】


そこまで、アイツは可能なのか?

一体、幾つのスキルを……いや、そういう感じではない。

恐らくだが、その変装も、シルフの攻撃を吸収し、撃ち出したのも、瞬間移動かと疑いたくなる様な移動方法なども恐らく、全てアユムの持つユニークスキルの力。

どういう方法なのか、どういったスキルなのかは全く想像はつかないが、なぜかそう思える。

ヘルプさんなら、何か。


【難しいですね。ロキとは違い、スキルで出来ていることに一貫性がありません。一つのスキルで、全然違うことがいくつもできる、というのは今まで聞いたこともありません】


確かに言われてみれば、ロキとは違って一貫性がない。

ロキがやってみせた瞬間移動、年齢操作、加速や停止も全て『時』が関係していた。

アユムの力に一つのスキルでできる様な一貫性がないのは確かだ。


「ユージ、何故ここで父の話が? と聞きたいところですが、そういう話が出ることを考えると、あそこにいた誰かが父に化けていたんですね?」

「あぁ、シルフを捕まえていた男……アユムがな。それでだが、お前の父親は」

「言わなくてもわかっています。敵が成り代わっていた、ということはもう殺されてしまっているかもしれません。どうやってお父様そっくりの魔力に化けたのかは知りませんが、余程高度な変装スキルを持っていたみたいですね」


やっぱり、普通ならそう思うよな。

となると、やっぱりスキルを複数持っていると考える方が妥当なのだろうか。

だけど、なんだろうか。

そう思えないのはどうしてだろうか。

何故か、そうじゃないと俺の勘というか、第六感というか……そんなものが語り掛けている気がする。


「……考えるのは後でいいな。とりあえず、今は」

「シルフの奪還だよね」


俺の言いたいことを先読みしたかの様にメイが口を開いた。

先ほどまで泣きそうだった声が嘘に思えるかの様な力強い声。

恐らく後悔する時間は終わりだと、自身に言いつけたのだろう。

ここからはシルフを奪還するために動くんだと。

まぁ、メイらしいと言えばメイらしい。


「奪還する、というのはいいと思いますが、私が知らない人や魔物達がいるんですが? というよりも、そちらにいるのは確か『フェルシオン』の」

「ハイ、傲慢王の元妹、ルフェです。今はユージさんのテイムモンスターであり、ルシフェルの名をいただきました。なので、今はルフェ・ルシフェルと言います」

「え? どういうことですか?」


まぁ、そうなるよな。

とりあえず、ルフェに関しての説明は後回しにしてもらい、ノワールたちの紹介を済ませ、これからどうするかの話し合いを開始する……と言いたいのだが。


「エリーナ、今はそういう時じゃないから、やめてくれるか!?」

「え?」

「うみゅ~……」

「ガウ……」


疲れた様な声を上げるスイムとノワール、そして驚愕の表情で振り返るエリーナ。

何故、二匹が疲れているのかというと、伝説の魔狼、ガルムと魔人となったスイムにエリーナが興味を示し、色々と触って確かめ始めたからだ。

スイムの頬を突いたり、髪を触ってみたり、体中を弄ってみたりし、ノワールに対しては毛並みを確かめたりと色々としていたのだ。

本当に今することじゃねぇ……。


「今はシルフを一刻も早く助けに行かなきゃならないのに、そんなことをしている場合じゃないだろ」

「うっ……。わ、わかっていますが……どうしても気になってしまって。自分の知的欲求を抑えきれず、つい」

「ついじゃないよ。たくっ……」

「……ユージさんって、エリーナさんと仲良しなんですね」

「そうですね。何となく私とユージは気が合うんでしょうね。ねぇ、ユージ」

「いや、気が合うとか、それはほぼないわ」

「ほぼ否定されました!?」


ルフェにとって、俺とエリーナはどう映って見えているのだろうか。

少し羨ましそうな表情で言っている辺り、本当にそう思っているのかもしれない。

気が合うと言うより、自然と漫才に近い流れになっているだけの様な気がする。


「と言うか、その話は一旦置いといてだな。シルフを助けに行くにしても、どうやって連れていかれた場所を見つけるか、だよな」

「そうだよね。移動はあの鏡でされちゃったから、ニオイでも探せないし。それにこうしている間にも、シルフの身に何か起きてるかもしれない」

「うみゅ、刻一刻を争うみゅ」


メイの言うことに同意する様に頷くスイム。

せめて、敵の本拠地さえわかれば……。


「何だ、覚えのある気配があるなぁ、と思って来てみたら、姫様じゃないか」

「その声はフェネクスですか?」


声がしてきた方向———牢獄の扉の方へと視線を向けると、そこにいたの炎を思わせる様な赤い翼を持つ白衣を着た赤髪の青年。

いや、思わせると言うよりも、翼から熱が発せられているのか、その青年の周りの空間は少し歪んで見える。

青年……ルフェにフェネクスと呼ばれた彼はこちらへと視線を向けてくる。


「お、『可能性』を持つテイマー君と珍しい魔人たちもいるじゃん。あ、そういえば、ムルムルの奴がなんか言ってたな。姫様について……」


顎に手を当てながら、何かを考え込む様にしており、少しするとポン! と手を叩く。


「あ、そういえば、姫様はリオン様によって、勘当されたんでしたね! それでテイマー君について行ったって!」

「えぇ、そうですよ。せっかくですから、ユージさんたちと行きたくて」


えぇ、そこは言わないのがお約束じゃないの?

しかも、ルフェも笑顔で肯定しながら、答えてるし。

というよりも、フェネクスさんはよくよく思えば、あの時の魔将たちが勢ぞろいしていたであろう、あの時にいた気がする。


「思えば、紹介がまだでしたね。この人は魔将兼学者の『フェネクス』です」

「どうも、あの時は紹介していなかったね。まぁ、ベリアルとか、ナベリウスとか、マルバスが騒がしかったからね。まぁ、ご紹介に預かりました。『不死鳥フェニックス』の魔人、『フェネクス』だ。魔将なのは確かだが、学者と言っても、俺は色々な分野をやっていてね。神秘学から、魔法学、悪魔学やら色々ね。まぁ、全部言うのはメンドくさいからひとまとめにして、学者と言ってるけどね」

「は、はぁ……」


フェニックスの魔人だ、なんて聞いた時は一瞬驚いたが、次々と出てくる言葉に驚く暇は与えてもらえなかった。

そういうところは学者っぽいな、と思ってしまった。


「それで君たちはこんな閉鎖的な村で何してるのさ? あ、俺はちょっとここの森にいると言う守護精霊の『風の乙女シルフ』が気になって、通い詰めてたんだけどね。そしたら、何やら変な気配を感じるわけだよ。で、駆け付けてみたら、なんかエルフたちは魂が抜けた状態で倒れてるわ、姫様の気配を感じるわでさ、もうなんていうんだろうね! 学者として、ここで何があったのか、スッゲェ興味あるっていうか!」


理由を話す前にマシンガンか、と疑いたくなるほど放たれる言葉の弾丸。

というか、聞いてないことまで喋り出したぞ、この人。

いや、なんでいるのかは聞くつもりだったけどさ。


「というかだよ! 俺、君たちにも興味があってさ! ぜひ、研究に協力してもらったんだけど、事件を解決したら、そのまま出ていったっていうじゃん! 俺、残念と思いながら、こっちの調査に来たら、まさかの遭遇! これは正しく運命というべきじゃないのかな! だからこそ、俺が言うことはただ一つ! ぜひとも、俺の研究に協力を!」

「うるさい」

「あいたっ!?」


止まらない言葉の弾丸にメイはムカついたのか、フェネクスさんの頭を叩いて止める。

この人は多分、アレだ。

自分の言いたいことを言い終えるまで止まらないタイプの人だな、誰かが止めない限り。

ルフェも変わらず笑顔で見ている辺り、いつもそんな感じなんだろう。

恐らくムルムルさん辺りが頭を叩いて止めている気がする。

とりあえず、魔将であるフェネクスさんが来てくれたのは心強いし、事情を説明してみるのもありかもしれない。


「フェネクスさん、俺たちがここにいる訳を話します。それとお願いがあるんですが」

「ん? なんだい?」

「この話を聞いた後で決めてくれていいので、もしよかったら、ここの事件を解決するのに手を貸してほしいんです」

「ふ~ん、その言い方からだと、君の話はここに起きている状況と何かしら関係あると見ていいんだね?」

「ハイ、その通りです」


フェネクスさんは顎に手を当て、少し考える素振りをしてから、何度か頷いてみせる。


「うん、それでいいかな。話次第では、って言ったけど、どんな話でも君に協力してあげるよ。なんでかって? それは君がリオン様と姫様のお気に入りだからね。あの人に仕える身としては、そんな大事な客人を見捨てるわけにはいかないからね。あ、でも、やっぱり学者として、君たちには興味があるっていうのも本音かな。やっぱり、傍にいた方が何か面白い現象を見れるだろうし。そう思うと、不謹慎だとわかっていても、姫様の救出作戦の時にムルムルが君たちと行ったのは羨ましかったな。なんか、ムルムルまで君のこと気に入ってるんだから、やっぱり何か面白いことでもあったと考えるべきだと俺は思っていてさ」

「うるさい」

「あいたっ!?」


再びメイが頭を叩くことによって、フェネクスさんのマシンガントークは止まったが、少し不安になってくる。

この人、俺の話を聞いてくれるのだろうかと。

特にシルフ辺りの話が出てきた瞬間、再びマシンガントークを始めそうな気がする。

そう思いながらも、事情を話すと言ってしまったので、俺はメイに目配りをして、メイが任せて、という感じで頷くのを確認してから、フェネクスさんに何があったのかの事情を話し出した。

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