森を抜けて
アレから数分くらい待っただろうか。
スイムとじゃれながら、メイの上達した会話を聞いていると、先ほどのエルフの少女が何かを包んだ布を持って現れる。
「待たせました。食料とお水です」
そういって、こちらに手に持っている食料や水を包んでいるであろう布を差し出してくる。
「ありがとう、助かるよ」
「いえ、助けてもらったお礼をしているまでです」
俺が笑顔でそれを受け取ると、ポケットに当てる。
すると、どうだろうか!
掃除機か何かに吸い込まれる様に包まれた布が入っていくじゃありませんか!
……入るか不安だったけど、スゲェな、オイ。
「いやぁ、助かった。これでしばらくは困りそうに……どうした?」
「い、今のって、まさか!? 次元鞄!?」
「い、いや……次元倉庫だけど」
「次元倉庫!?」
うおっ!? そんなに驚くことなのか!?
あ、でも、エクストラスキルっていうくらいだからな……習得するのが難しいスキルなのかもしれないな。
もしかして、あまり人前で使わない方がいいスキル?
「貴方、どうやって、そのスキルを」
「どうやってって……こっちに来た時に?」
「こっちに? 思えば、貴方の服装……装備も見たことないものをしていますね」
そりゃ、パーカーとか、ヘッドホンがこの世界にあるはずないもんね。
「異世界人……ですか?」
「え?」
今、なんて言った?
俺はエルフの少女が思わず言い放った言葉に反応する。
「異世界人って……まさか、俺以外にもいるのか!?」
「その反応……やっぱりですか。いえ、古い文献で人間が勇者を召喚したという文献がありまして。その時に巻き込まれた人たちもいたとか……」
あ、あるんだ……勇者召喚。
っていうか、巻き込まれた系の人達もいたのね。
だが、古いと言っても、どれくらい昔なのだろうか……。
少なくとも、俺の様な服装をしている人が召喚されたことがあるっていうくらいだから……つい最近?
もしかしたら、召喚する時は時代とか関係なく召喚できるとかか?
まぁ、わからないことを気にする必要はないか。
「ですが、異世界人なら持っていても不思議ではありません。勇者も持っていたらしいですし……まさか、貴方は勇者」
「いや、魔物使いですから」
何か、ハッ! と何かに気付いた様な顔をしているけど、全然違うから。
最初から魔物使いだって名乗ってるから。
「そ、そうでしたね。むしろ、勇者とは真逆のタイプですよね」
あぁ、そうかもしれない。
勇者が魔王を倒すのに対して、俺は魔物や魔族を使役する様なタイプだからな。
真逆だと言われれば、確かにそうだ。
だからと言って、エルフの反応を見る限り、悪い奴というわけではなさそうだ。
「それよりも、君は……あぁ、お互い名前を知らないのは不便だな」
「人間に名乗る名はありません! と言いたいところですが、貴方は助けてくれた恩人。理性もある良い人間の様なので、教えてあげます」
「お前って、丁寧な言葉遣いの割に所々とげのある言い方だよな」
普通、最初に出会うエルフとかって、人間に対しては好印象じゃないの、普通。
まぁ、好印象ではないが、嫌われてはないのだからマシか。
と言っても、バカにされているような気分でもあるが。
「私の名前はエリーナ。エリーナ・スフィアです」
「俺は久遠 裕司。気楽に裕司って呼んでくれ。で、こっちが俺の友達のメイとスイムだ」
「よろしくね、エリーナ」
「!」
メイは笑顔で答え、スイムは跳ね上がって反応してみせる。
エリーナはそんなスイムを興味深そうに見ている。
「やっぱり、スイムは珍しい?」
「そうですね。テイムされたスライムでも、単純な思考能力しか持たないはずなのです。主人の命令を忠実に聞く単純な、ね。だから、さっきの戦いや今やってる、自分をアピールするような行動……普通はあり得ないんです。野生なんて思考がないから、食欲だけで動いて人に襲い掛かったりするのに」
あ、スイムは最初そんな感じだったな。
メイに食べられるかもしれないという時でも、逃げる様な動作も見せなかったし。
となると、スイム……どうして、ここまでの思考力を?
「スライムって、そういうとこもあって、弱いからFランクの魔物なんですが……あの魔法とこの思考能力……スイムはDランクの魔物だと言ってもいいかもしれませんね」
「ランク……?」
ランクっていうと、ゲームとかでも見る様なあのランク?
やはり、この世界にも危険度とか、強さを表す様なランク分けがあるようだな。
「貴方は異世界人だから知らないのも仕方ないですね。わかりました、森の出口に案内するまでにこの世界の常識を教えてあげます」
エルフって、森暮らしだろうに……。
「森暮らしだから、人間社会のことはわからないとは誰も言ってませんからね?」
「アレ? 声に出してた!?」
「いいえ、顔が物語っていたので」
「嘘ッ!?」
さっき思っていたのが表情に出ていたのかよ!?
思わず大声上げてしまったじゃないか!
エリーナはそんな俺を見てか、クスッと笑う。
「面白い人間ですね。どうやら異世界人は変わり者の様です」
「変わり者って……」
そんな風に見えているのか、今の俺って。
メイへと視線を向けるが、ただニコッと笑ってみせるのみ。
スイムへと視線を移すが、ただ元気よく跳ねてアピールするのみ。
うん、君らに聞いてみるのは間違っている気がしてきたから、聞くのはやめとこう。
今後、表情に出ない様に気を付けなければ。
俺がそう決意してから、歩き出し、森の出口を目指して歩き出す。
その間に聞けることを聞かなくちゃならない。
「それでは、まずは魔物ですね。魔物は大まかなランク分けでF~Sまでのランク分けが存在します。一つずつ説明していきますと」
そこから、エリーナからランク分けはどういうものなのか、丁寧に教えてくれた。
Fランク……武器を持った一般人でもなんとか倒せるランクらしく、ほとんどが本能や単純な思考で行動する魔物が当てはまる。該当するのだとスライム、ゴブリンなどらしい。
Eランク……新人冒険者や戦士が倒せるランク。まだ弱いスキルでも倒せるらしく、ある程度の思考能力を持つ。該当するのだとゴーレム、リザードマンなどらしい。
Dランク……一人前になった冒険者や戦士が倒せるランク。ここまでくると魔法を使う魔物らしく、思考も人のそれに近いらしい。当てはまるのならゴブリンメイジ、ワーウルフなどらしい。
Cランク……一人前とプロの間のそれなりに成長した冒険者や戦士が倒せるランク。中級魔法を使うことが可能で、それなりに強いらしい。一体で村一つを滅ぼすほどの脅威だそうだ。コレにはヘルハウンド、ワイバーンが当てはまるらしい。
Bランク……プロの冒険者や戦士が何とか倒せるランク。上級魔法を使うことが可能で、かなり強いとのこと。一体で、街を滅ぼすほどの脅威だそうで。コレにはサイクロプスやマンティスブレイドなどが当てはまるらしい。
Aランク……プロの冒険者や戦士が五人以上で犠牲を出して倒せるランク。強力なスキルを持っていること多いらしく、そのためにプロでも苦戦するそう。凄い人は一人で倒すそうだが……。ちなみに、国一つを滅ぼすほどの脅威らしく、厄災とまで呼ばれるほどらしい。ドラゴンやサンドワームなどが当てはまるとのこと。
Sランク……こればかりはやばいらしく、基本的に魔人に当てはめられるランク。プロの冒険者や戦士などが数十人いて、倒せるかどうからしい。ちなみに大陸一つ滅ぼすほどの脅威で、接触禁止、天災、禁忌など呼ばれる者達ばかりらしい。
それら全てを聞いて、俺はふと思うことがあった。
キメラ……いや、魔人のメイとヘルハウンドに襲われて、よく生きてたよな、俺!
「理解できましたか?」
「あ、あぁ……っていうか、メイはそんなにやばいのに入るのか……」
「いえ、魔人だからと言って必ずSランクだとは限らないんです。Aランクの可能性もありますので。基本的と言っても、それほどの魔人がたくさんいるわけでもありません。魔人は強さがわからないために、基本的にSランクとされているんです。恐らくですが、メイさんはAランクかと」
「それでも十分スゲェよ」
俺、厄災クラスの敵から生き残ったんだぜ。
誰か褒めてほしいくらいだよ。
「次はお金でしょうか。銅貨、銀貨、金貨でお金がなっています。銅貨十枚で銀貨一枚分、銀貨十枚で金貨一枚分にもなります……あ、単位の順番ですが、銅貨、銀貨、金貨という感じになります」
「最初に言った順番まんまじゃん……。それにすでに銅貨十枚でって言ってる時点でわかるし……」
「それでもです」
得意げそうな顔に少しイラっと来るのは気のせいだろうか。
とはいえ、お金がどういったものなのかは知らなかったから、教えてもらえるのは助かる。
ヘルプさんは教えてくれそうにもないしな。
【食料や衣服の買い物の場合、大体は銅貨で済む】
今更遅いかな。
後は収入源か……やっぱり、冒険者ギルドとかかな?
「後は……そうですね。何か聞きたいことは?」
「やっぱり収入源かな。どうやったら、お金が手に入るか」
「そうですね。魔物を倒して、その素材を売る」
うん、メイとスイムが食べちゃうから無理かな。
コイツ等、骨を残さず食ってしまうんだから。
いや、言えば意外ということを聞いてくれるか?
今度、言ってみよう。
「後は冒険者ギルドに加入するか、ですね。依頼を達成して、そのお金で生計を立てる感じですね。もちろん、冒険者ギルドに所属さえすれば、どこのギルドでも依頼を受けることが可能となりますし、冒険者ということで身分証にもなります」
「それはいいな……。そこまでわかるなんて……お前、本当に人間嫌いか?」
「ハイ、人間は怖い者ですから」
その割には詳しい様な気がするんですが……。
それとも、この世界の常識で、エルフのところにもそんなのがあるのではないだろうか。
後者なら納得なんだが、違ったら、人間嫌いとは何だったのかと問い詰めたい。
都会に憧れるけど、その都会が怖い田舎の子とか、そんな感じ?
ある程度の説明を終えたと思ったのか、エリーナはメイへと視線を移す。
「スイムも珍しいですが、メイも珍しいですね。片方が鳥の様な、もう片方は蝙蝠の様な翼が生えていて、尻尾には毒蛇……。元は何の魔人なんですか?」
「メイは「私は合成獣だよ!」……」
「合成獣!?」
メイが俺の言葉を遮る様に言うと、エリーナは驚きの声を上げる。
そんなに驚くことなのだろうか?
エリーナは驚いた表情でメイを見た後、こちらを見てくる。
「き、キメラを魔人化させるって……どうやったんですか!?」
「え? いや、俺が出会った時からこの姿で」
「出会った時から!? キメラがですか!? あり得ません!」
「何が!?」
急にあり得ないとか、何言い出すんだよ。
魔物が人の姿を取ったのを魔人って呼ぶんだし、おかしなとこなんて。
「だって、キメラは『作られた存在』なんですよ!?」
「作られた……?」
エリーナの言葉に俺は反応する。
確かにキメラとは、合成獣と書くけどさ。
「作られたって、どういうことだよ?」
「そのままの意味です。遥か昔ですが、とある魔王の一体が世界を征服するために複数の魔物、動物の遺伝子を魔法で組み合わせ、生み出したのがキメラなんです。その時に魔人として作るための実験も行われていたそうなんですが……」
「できなかったのか?」
その言葉にエリーナはコクリと頷く。
「魔人の遺伝子を入れても、元は魔物なんです……。いくら魔人として作ろうとしても、人の姿までに力を圧縮することができなかったらしいんです。結果、キメラという種族が生まれたのですが……」
「魔人であるメイはあり得ないと?」
「そうなんです!」
今の言葉から少し考えよう。
魔物が魔人となった姿は魔族と呼ばれ、強大な力を持つ。
それは魔物が持つ力を人間の形へと圧縮することで、膨大な力を手に入れるからだ。
そして、その世界を征服しようとたくらんだ魔王はキメラを生み出した。
複数の魔物、動物の遺伝子を組み込み、更には魔人まで組み込んで、キメラの魔人を生み出そうとした。
だが、そこまで圧縮するには人の姿では耐えきれないために、どうしても魔物として生まれてきた……と。
なら、確かにメイが魔人でいるのは確かに謎だ。
更には魂喰いによって、未だに魔物の性質や力を取り込み続けている。
それがあの体に内包されているのだとしたら?
俺……核弾頭と一緒に歩いてるようなもんだよな……。
人間サイズにまで圧縮された核弾頭……考えたくもねぇ。
「確かに話を聞く限りだと、人の姿だと肉体が耐えきれない。なら、メイは一体?」
「気になるから、聞いてるんじゃないですか! キメラは何と合成されているかで、ランクも変わるほど恐ろしい魔物なんですよ!?」
「そういわれても。さっきも言った通り、会った時から人の姿だったんだよ。メイに直接聞いた方が」
「私は気づいた時からこの姿だったよ? 言葉が話せなかったけどね、最初は」
「つまり、生まれた時から魔人態ですか……? それはあり得ません。キメラなら本当に……」
聞いていたらしいメイはそういうと、エリーナはぶつぶつと呟きだす。
確かに謎は多いが、俺の予想が正しければ、魂喰いが関係しているのではないのだろうかと考えている。
コレは相手の魂を食らうことによって自身を強化、スキルを手に入れると言ったものだ。
メイの場合はキメラということもあり、魔物の一部も手に入れることを可能としている。
このスキルをあえて持たせ、魔人の姿として生み出し、弱いモンスターの遺伝子を先に幾つか組み込んでいく。
後は魂喰いで勝手に成長していく様にされていたとすれば……いや、俺がテイムした時点で何らかのアクションがあってもおかしくはないはずなんだが……。
謎ができたぞ……メイに!?
エリーナは未だにうんうんと唸っている。
俺は苦笑いを浮かべると同時に森の奥から光が差し込んできているのが見える。
もうすぐ出口の様だ。
「一体どうやって……」
「エリーナ」
「ユージが連れてるスイムもただのスライムではない様ですし……彼は一体」
「エリーナ!」
「あ、ハイ! なんでしょうか?」
俺が少し大きめな声を出すと反応して、こちらを見てくる。
このエルフ……考え事し始めると周りが見えなくなるタイプなのだろうか。
「なぁ、アレって出口だよな?」
「え? あ、そうですね……。話している間にそこまで来ていた様です」
「やった、出口だね!」
「!」
メイが笑顔でいうと、スイムは嬉しそうに小さく跳ねまわる。
世間話って言えばいいのかな。
それをしている間に森の出口までたどり着けたんだから、よかった。
「それじゃ、ここでお別れだな」
「え? あ、そうですね。興味深いことを知れそうだったのですが、ここでお別れなんて」
エリーナは目に見てわかるほど、がっかりしているのがわかる。
知能が人間より高いってのはよく聞く話だし……それに比例して、知識への欲も強いのかもしれない。
何せ、普通ならあり得ない二体がいるのだから、そりゃそうだろう。
「ありがとう。エリーナのおかげで、色々知ることができたよ」
「そうですか。私も楽しくお話させてもらいました。貴方なら、また会ってあげてもよろしいですよ? 今のところ、私が認めた唯一の人間ですし」
「いちいちとげのある言い方だな……。だが、そうだな。もし、また来る時があれば、会えるかもな」
「そうですね……。それではコレを渡しておきましょう」
そういうとエリーナはポケットから何かを取り出し、こちらへと渡してくる。
俺はそれを受け取って、確認してみると、翡翠色に輝く石のペンダントだった。
「コレは……?」
「それは『風の護石』……。貴方の旅に風の加護がある様にとです。それと貴方が近くにくれば、それが私に貴方が来たことを教えてくれます」
「いいのか? だって、お前は」
「人間は嫌いです、怖いです。ですが、貴方は別です。貴方のテイムしたモンスターを見て、興味が湧きました。今まで誰もできなかったことが起きようとしている。なら、また会える様にしておいて、次に会った時にどうなっているのか。楽しみじゃないですか。後、不思議とですが、貴方は人を裏切らない気がしましたので」
「え? いや、そういってもらえると嬉しいけど」
「だって、表情に出やすいですからね。騙そうとしても」
「最後までバカにしていくのな……」
俺はため息をつきながら、メイとスイムと共に森の出口を目指して歩き出す。
そして、振り返ってエリーナに手を振る。
「じゃあな!」
「またいつか、お会いしましょう!」
「バイバイ! エリーナ!」
「!」
俺たちはこうしてエリーナと別れた。
そして、やっと森を抜けた先には少し遠いが、壁に囲まれた街が見え、周りには草原などが広がっている。
やっと森を抜け出せた……。
俺は安堵すると同時に街へと視線を向ける。
「よぉし! メイ、スイム! あの街に向かって、歩こうぜ!」
「うん! 行こう!」
「!」
俺の言葉にメイは両腕を万歳の様にあげ、スイムは高くジャンプする。
俺たちは街を目指して、歩き出した。
ランク分けを作ってみました。
次回は街……になるといいな。
エリーナはまたそのうち出てきます。
それではまた。