歩む者、繰る者
カイルの後についていきながら、辺りを確認するために目を動かしてみる。
理由はエリーナが言っていたエルフたちがいるかの確認だ。
エリーナを疑っているわけではないが、百聞は一見に如かずだ。
この目でどんな状態なのか、確認しておきたい。
半数以上を占めているのなら、確実に何人かは見れるハズだ。
そんなことを思っている間に目に生気がなく、どこかぎこちない動きをしているエルフ二人が目に入る。
会話をして、笑っている様に見えるが、その動きはどこか不自然だ。
顔も笑顔というよりは引きつった笑みと言った方がいいかもしれない。
もし、アレが『人形遣い』の操る人形だと言うのなら、驚きだ。
表情が不自然とはいえ、ああやって操作することさえ可能だと言うことなのだから。
【まだぎこちなさは目立ちますが、あの笑顔を浮かべさせたりする技術を見る限り、もし『人形遣い』が操っているのなら、まだ荒いところがありますが、有望な者かもしれません】
え? マジで?
【ハイ。表情……つまり『感情』を表現することがある程度できると言うのは『人形遣い』の中でも更に珍しい方です。人形に心を宿った様に見せる『心魂の人形遣い』と呼ばれる人たちは世界に三人しかいないほどです】
心魂……俺の世界でも、人形やぬいぐるみには魂が宿りやすいと言われていた。
魂が宿ったことによって、心ができた人形ということで『心魂の人形遣い』ということか。
ぎこちないと言うところを考えるに、その『心魂の人形遣い』の様な才能を持つ奴が『悪魔神教』にいると言うことであり、まだ成長中ということなのだろう。
ただ、それでも引きつった笑みだとしても、できることは凄いと思う。
「なるほど~。ボクもあのエルフ……エリーナだっけ? あの子が言うまで気にしてなかったけど、確かに不自然だね。でも、アレは人形というよりも……」
そこまで呟いて、顎に手を当てて考え始めるシルフ。
まさか、『人形遣い』の力を利用して、魂がない体を動かしていると言うのだろうか?
「うん、そう。まさに君が考えている通りだよ。風を操作して、少し探ってみたんだけどさ、人形じゃないんだよね。だって、生体反応はあるからね。魂が抜かれて、空っぽになった器を『人形遣い』が操ってるって感じだね」
「そんなこと可能なのか?」
「さぁ? ボクは『人形遣い』じゃないからね。聞いた話だけで考えると、アレがもし本当なら凄いことだと思うよ」
「どうして?」
小声でバレない様に肩に座っているシルフに問いかける。
「わからないの? 今は魂のなくなった抜け殻を操るだけしかできない様だけど、それだけでも十分凄いことなんだよ。ボクが知っている一人の『心魂の人形遣い』でも、そんな芸当はできないって言ってたかな。とは言っても、ボクの知っているそいつは勇者のパーティーにいた一人だし、人間だからもう生きてないだろうけどさ」
「いや、そこは別に言わなくていいけど……」
シルフのことだから、そうだろうとは思ってたけどさ。
「あぁ、ゴメンゴメン。話が逸れたね。それでだけど……あ、『心魂の人形遣い』の説明いるよね?」
「いや、大丈夫。俺の持つスキルから教えてもらったから」
「君の持つスキルが教えてくれた……? また変わったスキルだね。昔の勇者が持っていた『解説者』みたいなスキルでも持ってるのかな」
俺の場合は『教導者』だけどね。
「まぁ、とりあえずさ。本来『人形遣い』っていうのは生き物を操る力なんてないんだよ。でも、アレを見る限り、それを可能としている。その子、下手すれば『心魂の人形遣い』よりも凄い『人形遣い』になるかもしれない。成長の見込みがあると考えるとその内……抜け殻だけじゃなくて、魂がある人や生き物を操ることさえ可能となるかもしれないね」
「それは……」
それはやばいのではないのだろうか?
その『人形遣い』がもし、シルフの言う通りに成長するのなら、メフィストフェレスたちと同様のやばさとなるのではないのだろうか?
【実際に大変なことになるかと。味方なら心強い能力ですが、敵であるのなら、こちらの仲間を操られる可能性がありますからね。それにそれぞれの国の上役などを操れれば……】
「内部崩壊とか、内部情報とか、色々できるってわけか……」
コレはその『人形遣い』をどうにかする必要があるかもしれない。
説得すべきか? それとも何かしらの方法でやめてもらうか……。
「オイ、人間」
「あ、ハイ。何ですかね?」
「入れ」
そういって、カイルは顔を前にクイッと動かす。
その先を見てみると、他のツリーハウスよりは立派な建物が立っていた。
恐らく……いや、間違いなく村長の家だろう。
もし、村長が先に魂を抜かれた抜け殻なのなら、この村は敵の手の中ということになる。
俺は無意識に固唾を飲み込み、ゆっくりと歩き出す。
扉に手をかけて、ゆっくり開くと、そこにいたのは若いエルフの男。
とても娘が一人いる男とは思えないくらいに若いが、そこは長寿のエルフだからだろう。
身体的老化もきっと遅いに違いない。
だって、エリーナで百年以上は生きているのだから。
中に入った後、カイルが片膝をついて、首を垂れる。
「エル村長。コイツがエリーナから『風の護石』を奪い取った人間です」
「ふむ……」
「奪い取ったって、人聞き悪いですよ。アレはエリーナから」
「うるさい! 貴様に発言権はない!」
横暴じゃねぇですかい、それは?
いくら人間嫌いであっても、やっていいことと悪いことがあると思うんだけど。
エリーナの父……エルって言ったっけ?
エルさんへと目を向けて、様子を伺う。
一瞬だが、エルさんの口角が吊り上がった様に見えた。
ホントに一瞬だったから、気のせいという可能性もあるが……何故だろうか。
本能というべきだろうか? 第六感というべきだろうか?
俺の中の何かがエルさんへ対して、警告を鳴らしている。
【私という可能性は考えなかったのですか?】
いや、ヘルプさんは言うから、また違うじゃん……。
なんて、ヘルプさんとの会話をしていると、エルさんはゆっくりと立ち上がり、こちらに近づいてくる。
「テメェが……。なるほどなぁ」
まるで値踏みするかの様に俺の足から顔までジロジロと見てくるエルさん。
その視線を受ける度に俺の中の何かの警告が強くなっていくのを感じる。
わからない……わからないけど、わかっていることは一つある。
コイツの『異質さ』を感じている。
なんでこんなことを感じるのかはわからない。
俺の『可能性』である『魔王』としての覚醒が始まったから、と言われたら納得は行くが、何故ここまで『異質さ』を感じ取れるんだ。
まるで目の前にいるのはエルフじゃないと言っている感じで。
「ほぉ、メフィの奴から聞いていたが、お前。ホントに考えが顔に出やすいんだな」
「メフィ……? まさかッ!?」
「貴様、発言権はないと」
「テメェはもう黙ってろ」
その瞬間、エルさんの拳がいつの間にかカイルの腹部に打ち込まれていた。
メキメキ! という嫌な音が聞こえてきて、くの字に折れ曲がったカイルはそのまま殴り飛ばされて、家の壁を貫いて外へと吹き飛んでいく。
どこまで吹き飛んで行ったかはわからないが、弾丸か何かかと疑いたくなる様な勢いで吹き飛んで行ったのを見る限り、無事ということはないだろう。
【言い方を変えますと確実に死んでいると思います】
「ちょっとは希望的に考えようぜ、ヘルプさん……」
【時速200キロは余裕に超えて、吹き飛んで行ったんですよ? 華奢なエルフでは一溜りもないでしょう。守りのスキル系統を持っているのなら生きているかもしれませんが、それでも重症でしょう。それほど強く、速く、重い一撃だったのですから】
「マジかよ……」
一瞬だけでも見えた辺り、本当に肉体が変化していっているんだと実感するな。
そして、エルさん……いや、謎の男の姿はエルフから同族『人間』の姿へと変わっていく。
やっぱりエルフじゃなかった。
「一々戻るのに『人間道』を使わないといけねぇのはホント面倒だな」
「アンタ、『悪魔神教』の者か?」
「そうさなぁ。まぁ、ある意味合ってるとは言っておこうか。ただ訂正させてもらうと、俺はあくまで『悪魔神教』の奴らに雇われてる傭兵、みたいなもんだよ」
男の顔もエルフから人の顔へと戻り、エルフの整った顔立ちから刃物か何かと疑いたくなる様な鋭い目つきをした強面の顔へと変わる。
体つきもエルフの華奢な体から筋骨隆々とは言わないが、鍛え抜いたであろう筋肉質な体へと変わり始める。
いや、この場合は戻り始めると言った方がいいだろうか。
着ていた服は元々華奢なエルフの体に合わせていたためか、体が元に戻ったことによって、服はパツパツとなっており、今にも破けそうだ。
男も窮屈なためか、服をすぐさま脱ぎ捨て、髪を掻き揚げて、オールバックにすると、笑みを浮かべる。
「自己紹介がまだだったな。俺はアユム。『アユム・ローウィア』だ。まぁ、ニャルの奴に雇われてる傭兵って認識で構わねぇ」
「傭兵……」
「そう、戦うことが生き甲斐な戦争好きな野郎共と思ってくれたらいい」
「冒険者とはまた違うのか?」
「違うね。冒険が好きでロマンを追いかける様な奴らと一緒にしてもらっちゃ困る」
男———アユムは笑みを浮かべながらそういっていると、どこからともなく服が浮いて現れる。
それに気付いたアユムは服を手に取って着ると、俺の方……いや、正確には俺の後ろの方へと視線を向けている。
「ありがとよ、アイリ」
「服ぐらいちゃんと着た方がいい」
「ッ!?」
いつの間に俺の後ろに立っていたのだろうか。
振り返るとそこには一人の黒髪の少女が立っていた。
メイと同じくらいだろうかと思える少女で、俺の横を通り過ぎると、アユムの隣に立つ。
しかも、俺を睨みつけながら。
「ユージだったな? 紹介するぜ。コイツはつい最近『悪魔神教』に入った期待の新人、『人形遣い』の『アイリ・ルードア』だ」
「……」
ペコリと軽くお辞儀はしてくれたが、未だに睨み続けてくるアイリと呼ばれた少女。
いや、それよりもアイリのことを『人形遣い』と呼んでいた……まさか。
「そのまさかだよ。ここに来るまで見かけてんだろ? 生気のないエルフ共。アレを操っているのはコイツなんだよ」
アユムは笑みを浮かべながら、アイリへと目を向ける。
アイリ自身は恥ずかしいのか、アユムの後ろに隠れる様に動く。
微笑ましい、と言えば微笑ましいのだが、していることは人のすることではない。
それをまだ十四くらいであろう子供がしているのだ。
「なんで……誰がそんなことを」
「なんで……か。そればっかりは教えられねぇな。雇われてる以上、雇い主の命令にある程度従うのも傭兵の務めだよ。それよりもだ」
それよりも? 非人道的なことをしておいてそれよりもって。
「お前さん、メフィから聞いているぜ。なかなか面白いテイマーなんだってな? 何でも珍しい魔人を二体も引き連れて、あの『獄炎魔狼』も連れてるとか。今はいない様だが、それでも二体、面白いの引き連れてるよな? お前」
「ッ!」
「へぇ、ボクを感じ取れるなんて、なかなかだね」
シルフは俺の肩から降りると、手を一振りしてみせる。
恐らく、今のでアユムとアイリには見える様にしたのだろう。
ウィリデも俺のフードの中から飛び出して、俺の前に着地すると、透明化を解除して姿を現す。
アイリは突如姿を現したシルフとウィリデに驚くが、アユムは面白いものを見つけた、と言わんばかりの笑みを浮かべる。
少しそれが不気味に感じる。
「ほぉ、見たことねぇスライムに風の精霊『風の乙女』まで引き連れているとは。確かに、メフィの言う通り面白そうなテイマーだ。こちとら、変装なんて慣れねぇマネしたから、少し体が訛っててな。一つ、運動がてら手合わせ願おうじゃねぇか」
「……」
アユムが拳を構えると、アイリも指を動かし、周りに小さな剣や槍を持った小さな人形たちが姿を現す。
数は六体……か。
シルフとウィリデの方を見ると、二体ともやる気満々と言わんばかりのオーラを感じる。
「人間相手がボク相手に運動の相手になれと? 面白いこと言うね。君がどれだけ強いか知らないけど、運動では済まないことは先に言っておくよ」
「フゥ」
「そうなることを願っているぜ。俺を楽しませてくれる『道』だと言うことをな。行くぞ」
読んでいただき、ありがとうございます。
救出 Ⅰでの話にあった獣人と獣系の魔族の見分け方を追加し、書き直しておきました。
それではまた次回。




