討伐
そういった直後、ムルムルさんは目の前から姿を消した。
その後に俺へと襲い掛かってきたのは地面が力強く蹴られたためか、抉れるように壊れ、台風か何かと疑いたくなるような風が吹いた後に、風を切る音が聞こえてきた。
俺はその風に耐えながらも、辺りを見渡す様に目を動かすとムルムルさんはいつの間にか他の首をすり抜けて、司令塔である捕食スキルを持つ頭の目の前へと来ていた。
音や風、その後に起こる現象などを置き去りにしていくほどの移動速度。
アポカリプスさえ気付かないほどって……どんだけのスピードで移動したんだ。
その手に持った黒い槍を構え、投擲の構えを取る。
「……速攻で終わらせる。穿て、『影の女王』!」
ムルムルさんと捕食スキルを持つ頭の間までに魔法陣が幾重も展開されていく。
まるでそれは槍が進むべき道だと言わんばかりに。
そして、投擲されようとした瞬間だ。
「GAAAAAA!」
捕食の頭も黙ってやられるつもりはないために魔法陣を捕食しながら、ムルムルさんへと迫る。
流石にムルムルさんも投擲しては槍が喰われると判断したためか、魔法陣を足場にして、再びその場から姿を消す。
足場にした魔法陣は喰われ、ムルムルさんは天井へといつの間にか移動しており、どうやってかはわからないが、天井を足場に立っているのが見える。
忍者ですか……?
【自身の『影』を天井へと張りつかせることで、落ちてこない様に工夫している様です】
なるほど……自分の影だから、それを応用し、利用すれば影から離れることができないと言う事象を生み出し、引っ付くことを可能としていると……ん? 何気に凄いことしている様な気がするんですが。
【凄いことしてますね。一つの能力で兵を生み出したり、転移したり、壁や天井に引っ付いたり、アイテムを出し入れしたり、潜ったり……応用範囲が広いです】
「ムルムルさん、スッゲェ……」
思えば、他にも道案内とかもさせることが可能だったよな……?
まさかとは思うが、影を奪う的なことも可能だったりするのだろうか?
影一つで色々と応用が利きすぎな様な気もするけど……。
そう思いながらも、メイたちへと視線を移すと、メイの足に変化が起きているのが見える。
兎の様な足に変わっているのは跳ね回るスピードを上げるためだろう。
それは理解できる。
だが、俺の言う変化と言うのはそこではない。
兎の様な足元から雷が小さく迸り、風が集まり出し……足の裏から火花が散っているのが見える。
まさか『疾風迅雷』に火属性を付与して、更に加速しようとしている?
『属性使い』を持つメイなら、『疾風迅雷』を自分風の魔法にアレンジすることは可能かもしれない。
気のせいだろうか、メイの口が少し動いている……まさか、ぶつぶつと独り言言ってる?
「練り上げて……。『疾風迅雷』と火属性のつり合いをうまくとらせないと。どちらかが強すぎてもダメ。炎はブーストへと変化させて、そのまま『疾風迅雷』の速度も上乗せして」
【などと呟いております】
「う~ん、気になってたけど、無理して拾わなくていいよ、ヘルプさん」
ヘルプさん、色々と補助してくれるのは嬉しいんだけど、そういう独り言は拾わなくてもいいと思うんだ。
気にはなっていたけどさ。
だけど、メイがやろうとしていることは理解できた。
『疾風迅雷』に火属性をジェット噴射することによって、更にスピードを底上げしようとしていることだ。
メイなりに考えて、そこに至るのは凄いと思う……のだが、それを行って、果たして生物の体が耐えきれるのかどうかだ。
確かに魔物であるメイは人間とは違う体の構造だってしているだろうから、それなりに頑丈だろう。
だが、魔物だと言っても生き物だ。
今からやることを行ったとして、自身にかかるGと言うのはかなりのものになるはずだ。
下手すれば、肉体が大変なことになる可能性も……。
【心配はいらないかと思います。貴方の居た世界とは違うのです。それにですが、個体名:メイは『魂喰い』によって、肉体そのものはかなり強靭なモノとなっておりますので。それに今は装備スキルである『月夜ノ衣』を纏っているのです。闇が彼女の体を保護してくれます】
確かに俺の世界の生物の様な常識はこの世界に当てはめられないのは確かだ。
それならメイを信じるのが一番なのは確かか。
「行くよ。『疾風迅雷・焔』」
メイの足の裏から火がジェットの様に噴射されたかと思うと、その場から姿を消した。
直後、凄まじい轟音と突風が吹き荒れ、地面が割れて剥がれていく様に浮き上がっていく。
お前まで起きるはずの現象を置き去りにしていくんじゃねぇよ。
なんて思っているが、メイの頼もしさを嬉しく思いながら、恐らくいるであろうアポカリプスの付近へと目を向ける。
そこには咆哮スキルを持つ頭の首に月光の刃を食い込ませているメイの姿があった。
「一つ目……! 焼き切れ! 『黒炎ノ刃』!」
次に月光の刃から伸びているのは黒炎を圧縮したことによってできた熱線の刃。
まさか……ビームサーベルもどきまでやってしまうとは……。
「やぁぁぁぁぁぁ!」
驚いている俺を余所にメイはそのまま振り抜き、咆哮スキルを持つ首を焼き切る。
もちろん、飛ばされた頭は黒炎によって燃やし尽くされていき、傷口は黒炎によって焼かれてしまい、新たな首が生えてくることはない。
よし、このままなら……ッ!
「メイ! ガードだ!」
「ッ!」
俺の言葉に反応したメイは自身の両腕を強固な装甲を持つ茶色の腕に変わり、自身の前でクロスして、防御の構えを取る。
その瞬間、メイの元で爆発が起き、爆煙の中から少しボロボロになったメイが吹き飛んできて、何とか体勢を立て直して着地する。
メイが咆哮スキルの頭を斬り飛ばしたと同時に目が光ったのが見えたから咄嗟に指示を出したが……正解だった様だ。
メイは自身の腕を人の腕へと戻してから、月光を構える。
だが、相手の頭一つ吹き飛ばすことには成功したんだ。
これなら、相手にも少しの隙が生じるはず。
「GUOOOOOO!」
『ッ!』
残ったアポカリプスの頭が雄叫びを上げ、俺たちが怯んだと同時に再び動き出そうとする。
いや、翼を広げている辺り……この洞窟を破壊してでも、外に逃げようとしている。
このままじゃ、俺たちは落ちてきた瓦礫などの下敷きにされるのは間違いない。
それに逃げようとしていると言うことは……自身が不利だと言うことを理解していると言うことだ。
そんなチャンスを見逃すわけにはいかないだろ。
「だから、もしもの時の仕込みは完了している……!」
「GURU!?」
俺の声と共に残ったアポカリプスの五つの頭に光の球体が現れる。
「爆ぜろ、『閃光』!」
その瞬間、光の球体が爆発した。
それによって目を潰されたアポカリプスは苦しみ始め、見えないことでパニックに陥っているのか、腕や尻尾を振り回して、敵を近づかせまいとしている。
それに反応して、メイたちや影の兵士たちも素早く離れていき、その中で弓兵の影が弓を構え、スイム達が魔法陣を展開、ノワールは口に獄炎をため込む。
「……なかなか面白い魔法を使うね。だけど、隙ができたのは感謝する。アレでも飛び立とうとするだろうから、私が更に動けない様にする……!」
天井から降りてきたムルムルさんは着地したと同時にジャンプし、再び空中へと躍り出る。
その構えは槍を投擲する構え。
「……貴方を移動させるわけにはいかない。縫い付けろ! 『影の女王』! 『影縫い』!」
投擲されたスカアハと呼ばれた槍はアポカリプス目掛けて……ではなく、影へと投擲され、突き刺さった瞬間、アポカリプスの動きがピタリと止まる。
それに驚いたかの様なアポカリプスは動こうと一生懸命抵抗し始める。
「アハハ……。『影縫い』までできるとは……」
「……まぁ、『影の女王』を使えば可能だよ。『影の女王』には影に攻撃することが可能な力を持っている。『影ノ死』っていう力。これで影を攻撃すれば、攻撃した場所にダメージを与えることもできる。『影縫い』を使えば、ああいう風に縫い付けることも可能。私の天敵でもあるけど、私が使うに関しては相性がいいと言っても過言ではない。後は『分裂』とか色々あるけど……また今度教えてあげる」
「お、おぉ……」
流石魔将の武器と言うべきなのか、どうなのか……。
影を攻撃可能とする武器……しかも、自分自身の天敵とも言えるって。
その名前といい、俺が知ってる神話といい、その弟子と同じ末路を辿るなんてないよね……ないよね?
【確率としてはないわけでは……】
いや、だから無理して答えなくていいから、ヘルプさん。
そんなことを思っている間にスイム達の魔法や矢などが放たれて、動けないアポカリプスへと迫る。
アポカリプスは目を光らせ、迫りくる魔法や矢などを爆発させていくが、首一つで対処が間に合うハズもなく、魔法の直撃をくらってしまう。
「GUOOO……!」
アポカリプスは受けたダメージに苦しむような声を上げながらも、影の拘束から逃げ出そうと藻掻こうとした瞬間だ。
「これで終わらせる!」
「GRU!?」
メイがいつの間にか捕食スキルを持つ頭の後ろに回り込んでおり、再び黒炎の刃が形成されているのが見える。
司令塔である頭がやられると判断した他の頭が動こうとするが、魔将であるムルムルさんの力が強力だからか、その拘束に抵抗できずにいた。
その光景にムルムルさんは少し満足そうな顔をする。
「……コレでも魔将だからね。魔王級の力を持つ厄災の獣だろうと簡単には振り解けないよ」
「ハァァァァ!」
振り抜かれたメイの炎の刃が司令塔である捕食スキルの頭を溶断し、斬り飛ばす。
吹き飛ばされた頭は黒炎で燃やし尽くされて、首の方はさっきと同じ様に黒炎によって再生が不可能とされている。
そして、ムルムルさんが再び姿を消すと素早くスカアハを拾い上げて、飛躍して、司令塔を失って、戸惑っている残りの頭を見つめる。
「捕食スキルと咆哮スキルがない今ならこれも通用するでしょ? 姫様を返してもらう。死を与えろ……! 『死を与える影の槍』!」
投擲されたスカアハはまっすぐとアポカリプス目掛けて飛んでいき、残りの頭の一つ目を貫き、そのまま地面に突き刺さる……かと思われた瞬間、意思を持っているかの様に動き出し、次の頭へと飛んでいき、二つ目を貫く。
貫かれた二つの頭は再生するわけでも、死に絶えたかの様に力なく地面へと倒れる。
残り二つの頭も迫りくる死の槍に気付いたのか、反撃しようとするが。
「……もう遅いよ。今のスカアハは貫いた敵に必ず死を与える魔槍だからね」
残り二つの頭も貫き、同じ様に動かなくなって、そのまま地面へと倒れこむ。
そして、投擲された槍はそのままムルムルさんの手元へと戻ってくる。
それをキャッチしたムルムルさんはスカアハを影の中へとしまい込み、影の兵士たちも地面に溶け込むように消えていく。
ムルムルさんの姿は影の様な黒い肌から元の肌色へと戻っていく。
「……これで終わりかな。目覚めたばかりだったから倒せた、と考えるべきかも」
え? マジで?
思わずムルムルさんの言葉に耳を疑ってしまう。
アレで完全覚醒ではなかったとするなら……完全覚醒してたら結構やばい相手だった?
そんなことを思いながらも、完全に息絶えたアポカリプスの体をメイが月光で切り開きながら、中へと入っていく。
まぁ、何はともあれ……一件落着かな。
戦いが終わったと言う安堵から俺はその場でしゃがみ込んでしまう。
「ハァ……」
「……お疲れ様。君はここで休んでるといいよ。もうすぐメイが姫様を救出してくるだろうから」
「ユージお兄ちゃん?」
ムルムルさんの言葉を遮る様に聞こえてきた声。
それと同時に首を腕を回して、誰かに後ろから抱き着かれる……いや、誰かじゃない。
この声の主はロキ……!
俺はすぐさま反応して振り返ると、そこには案の定ロキの姿があった。
だが、その姿はどこかボロボロだ。
「ロキ……!?」
「やぁぁぁぁっと、追いついたぁ。あの魔王……殺せないし、強いのか弱いのかわからない実力だし、ロキでも意味不明な相手だし……。だけど、何とか隙をついてきたよぉ?」
「ご主人様!」
スイムがいち早くロキに気付き、トライデントをその手に持って走ってくる。
ムルムルさんも隣で驚いていたが、すぐさまロキを殴り飛ばそうとする。
「あぁ、もううるさい。『てい「する必要はないかな~、ロキ~?」!?」
声が聞こえたかと思うと、ロキが何者かによって引き剥がされて、俺はそれと同時にその場からすぐさま離れてから、振り返る。
そこにいたのは暴れるロキを摘み上げるかの様に持ち上げているニャルラトホテプがおり、隣にはメフィストフェレスもいる。
「ニャルラトホテプ……! それにメフィストフェレス……!」
「いやぁ、人間様に皆様方! さすがですねぇ。目覚めたばかりだったからとはいえ、あの『黙示録の獣』を討伐してみせるとはぁ。私、少しばかりあの光景に興奮してしまいましたよぉ! 普通ならあり得ない進化での逆転! 人間様も僅かながらもの助力と指示ぃ! あの特殊な魔人の成長具合! あぁ、素晴らしいですねぇ! 可能性をたくさん見れた様で、本当に興奮しましたよぉ!」
頬を紅潮させながら、興奮気味語るメフィストフェレスに思わずドン引きしてしまう俺。
いや、ムルムルさんや俺を助けるために来たスイムまでドン引き状態だ。
ニャルラトホテプはそんな様子を見て、少し面白そうに見ながらも、暴れるロキへと視線を向ける。
「離して! ニャルラトホテプ! ユージお兄ちゃんをロキのモノにするの!」
「う~ん、それはダメかな~。できるなら~ボクも興味深いから連れていきたいけど~ここは泳がせて~成長を見守るのが一番だよ~」
「そんなの関係ないよ! ロキはね、ユージお兄ちゃんが欲しいの。きっと、『虚空』である、私を満たしてくれる。きっと……!」
「う~ん、自分の正体まで教えるほどの相手か~。まぁ~、彼なら~君やボクの様な~『虚の魔物』を~どうにかできそうなのは確かかな~」
「何……!?」
今、ニャルラトホテプはなんて言った?
君はボクの様なら……って、言ったか?
つまり、ニャルラトホテプも……!?
俺が驚愕の視線を向けていると、ニャルラトホテプはロキを出現させた鏡の中に放り込み、興奮気味で動こうとしないメフィストフェレスも放り込んで、自分も入ろうとした時にその足を止め、こちらへと振り返る。
「それじゃ、また会おう。興味深いテイマーさん」
そういって鏡の中へと消えていき、その鏡が消滅すると、ムルムルさんとスイムも構えるのをやめる。
疲れてるってのに……最後の最後に本気でビビった。
もうロキに捕まるって思ったからね、俺。
「ユージ~! ルフェを見つけたよ!」
ルフェさんを抱えたメイが声を上げながら、笑顔で近づいてくる……血塗れで。
う~ん、とりあえずその血を洗い流してほしいかな!
「うみゅ!」
俺の考えが読めたからか、水の塊を生み出すと、メイの頭の上で破裂させ、勢いよく落ちた水を被り、メイとルフェさんについていた血を洗い流した。
それを見ていたムルムルさんがクスッと笑うと、俺たちを見てくる。
「……さて、戻ろうか。『フェルシオン』へ」
それに俺たちは頷いて、歩き出すのだった。
*
何処かの空間。
そこでニャルラトホテプは興味深そうに鏡を見ていた。
その鏡に映っていたのは裕司である。
「『黙示録の獣』でのアンラマンユの復活は失敗したけど……面白そうなのを見つけたし、上場かな? これからどうなっていくか楽しみだよ……人の身でありながら魔王に至る者よ」
その鏡を消して、笑みを浮かべながら、その場から去っていくのだった。
やっと……この章が終わる。
思った以上に長く書いていてしまいました……。
楽しめたのなら幸いです。
それではまた。




