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それぞれの

洞窟の奥へと足を運ぶ度にスライムたちと交戦している『悪魔神教』の者達が目に入る。

剣や槍などと言った武器だけが転がっていたりしているのを見る限り、スライムたちに食われたんだろうな。

俺たちはそんな交戦真っただ中を駆け抜けていくわけだが。


「待て! 貴様ら、見ない顔だな! これを引き起こした奴らだな!?」


剣を持った人間の男が俺たちの前に立ちはだかるが、メイが一歩踏み込んで、前へと飛び出す。


「邪魔!」

「ぐえっ!?」


飛び出した勢いそのままに回転蹴りを相手の頭の側頭部に叩き込み、蹴り飛ばす。

その際、ゴキャッ! と頭蓋骨を砕く様な音が聞こえてきた気がするが……うん、どのみち助かってないかもしれない。

だって、蹴り飛ばされた男はメイの攻撃によって吹き飛んだ後、頭から壁に大激突したのだから。

何かが潰れる音が聞こえてきた気がするが……想像しない様にしておこう。

俺はまだそういうのを見る根性はない。

ムルムルさんは止まっている暇はないと言わんばかりに走り続けているので、俺たちも止まるわけにもいかない。

それに恐らくだが、俺たちに走る勢いは合わせてくれているのかもしれない。

もし、そうだとするのなら、少し悪い気がする。

俺がムルムルさんに気にしないでくださいと声をかけようとした瞬間だ。


「うみゅ?」


スイムのその一言の後に聞こえてきたのは時計の針が進む音。

その瞬間、洞窟の道を走っていたはずの俺は……見たこともない部屋に立っていた。

俺は驚き、辺りを見渡すが、そこにはメイもスイムも、ノワールもアルフの姿も、ムルムルさんさえいない。

一体自分の身に何が起こったのか。

これは俺だけが転移させられたと考えるべきか?

そういうトラップに引っかかったとか……いや、ムルムルさんの後ろについていっていたんだぞ?

もし、そうだとしたら、先にムルムルさんが引っかかっていてもおかしくないはずなのに。

ということは転移魔法?

いや、それなら魔法陣とか、それが起きる前の兆候がなかったが……。

あれこれ考えるが、答えが出てこない。

出てこない以上、やるべきことは一つ。


「メイたちと急いで合流しないと」


そう、俺が孤立してしまっている状況はまずい。

俺はテイマーであるからして、弱点があるとするなら、仲間のモンスターたちがいなければ、ほぼ無力だと言うことだ。

それに向こうでも、俺が消えてしまったことには気づいているはずだ。

こちらから行動するのも大事だが、ムルムルさんが気付いていてくれれば、『影転移』で駆けつけてくれる可能性も……いや、そうやって期待するのはよくないのかもしれない。

俺がこういう目に遭っているのだから、もしかしたらメイたちの方にも何かしらの……メフィストフェレスやロキが。


「その考えは外れかな。何故かって? 何故なら! ロキは今、ここにいるからでーす!」

「なっ!?」


聞こえてきた声に驚きながら、視線をそちらへと向けると、そこには子供の姿をしたロキが無邪気な笑顔で、こちらを見てきていた。


「ロキ……!?」

「そうだよ、ユージお兄ちゃん。わざわざロキの約束を守るために来てくれたんだよね? アンラマンユが復活する前に。ロキ、嬉しい!」


ロキは小躍りしながら、嬉しそうな声色で喋る。

お前に会いに来たわけじゃないんだけどな……。

だが、今のこの状況はまずい。

ロキは謎のスキルを持っているうえに、俺は魔物がいなけりゃ無力な人間。

このままじゃ……。


【確実に殺されます】


うん、考えたくもなかったことを言わないでくれるかな、ヘルプさん!

事実だけども! そんな絶望的なこと言わないでほしいな!


【現実逃避はよくないかと思いまして】


したくなる状況だから、してたんだけどなぁ……。


「フフフ、ユージお兄ちゃん。安心してよ、殺しはしないから」

「え?」


思わずマジで? と聞き返したくなるも、それは口に出さない様にする。

なんか、言ったらいけない気がするから。


「うん、だって、ロキは遊びたいだけだからね」


先ほどまでの無邪気な笑みとは違い、微笑んでみせるロキ。

だが、何故だろうか。

それが嫌な予感を感じさせるのは。

背筋がゾクゾクと震えてしまった。


「殺しはしないからね。だって、あの時言った通り、興味津々なんだよ。ユージお兄ちゃんのこと」


ロキが懐中時計を腕からぶら下げて見せた瞬間、秒針が一つ進み、時を刻む。

その瞬間、ロキの姿は目の前から消える。

またいきなり消えた……!

ロキがどこに消えたのか、辺りを見渡そうとした時に、誰かに後ろから抱き着かれる。

反応して、首を動かして確認すると、そこにロキがいた。


「いつの間に……!?」

「いつの間に? 今だよっていうしかないよね。それにしても……ふむふむ、なるほど」


今って……一体どういう。

いや、それよりもロキは一体何をしているんだ?


【警告です。ロキがこちらの情報を読み取りを開始し始めています。恐らく、スキル『検索者』によるものかと思われます。『抵抗レジスト』を開始します】


なんか、知らない間に俺の何かしらを調べようとしてきていた様だ。

精神や記憶に働きかけるスキルだからだろうか、俺の精神内? 脳内? かはわからないが、そこにいるヘルプさんがレジストを開始してくれた。

それにロキも気付いたのか、何かを理解したみたいな頷きを行っていたロキの動きがピタッと止まる。


「何これ……。私の検索が止められた? 確かに強いスキルじゃないけど、何もしないでこれにレジストするなんて……。ユージお兄ちゃん、テイマーとしての力以外に、特別なスキルを持ってるね?」


流石にそういう結論には至るよな。

向こうが普通のスキルに対して、こっちはリオンさんから与えられた、スキル『教導者ヘルプ』さんだからな。

意外とエクストラだったりする?


【ユニークです】


あ、そこを肯定しに来ますか。

だが、ヘルプさんのおかげで、ロキに一瞬の隙を作らせることは成功したわけだ。

この間に……アレ?


「あ、足が……動かない!?」

「やっぱり逃げようとした。逃がさないよ、ユージお兄ちゃん。ますます興味湧いてきちゃった。だって、あの魔王ルシファーにわざわざ異世界から呼び出されたんでしょ? きっと、特別な人間に違いないもん」

「なっ……!?」


そこの情報だけは読み取られていたのかよ。

だけど、それよりもこの足が動かない現象は一体……。


「今、ユージお兄ちゃんの体は『停止状態』にあるんだよ? ロキが許可するまで勿論動けない。魔力も停止……って言いたいけど、ユージお兄ちゃんの魔力量だと、停止しなくても関係ないかな」

「悪かったな! 戦闘向きじゃなくて!」


気にしていることをあまり言ってほしくないんだけど!?

いや、それよりもロキは気になることを言っていた。

『停止状態』と……確かにそういっていた。

拘束魔法の一種だろうか?

……いや、その線は薄いだろう。

何故かって聞かれると、魔法を発動する素振りがなかった。

この世界に来て、まだ日は浅いが、わかったことは一つある。

それは魔法を使う時は、必ず魔方陣を展開することだ。

だが、ロキはそんな素振りを一度も見せず、俺を拘束してみせた。

ということはそれ以外の……スキルによっての拘束。


「う~ん、『検索者』じゃ、ユージお兄ちゃんのスキルに邪魔されるね。じゃあ、仕方ない。『抵抗レジス』しているスキルそのものを停止に」


ロキは前に回ってくると、ゆっくりと俺の顔へと手を伸ばしてくる。

ヘルプさんが『CAUTION』と警告を何度も語り掛けてくる。

頭の中がその文字一色になりそうなくらいにだ。

ヘルプさんが警告を発するほどの何かしらのスキル。

避けたりできるのならしたいところだが、動けない現状で回避は不可能。

俺は歯を食いしばり、無駄なのか……と思った瞬間だ。


「うみゅ~!」

「え!?」


聞き覚えのある声が聞こえたと同時に俺の懐からスライム状態のスイムがロキ目掛けて飛び出してきた。

流石のロキも予想外だったのか、スイムの奇襲に反応できなかった様で、そのまま体当たりをくらい、三歩ほど後退する。

そして、スイムは着地と同時に魔人の姿へと戻り、手を伸ばすと、そこに水が集まり、形を形成していく。

そして、水が弾け飛ぶと、ムルムルさんから貰い受けたトライデントが姿を現す。

スイムはそれを軽く回してみせてから、身構え、ロキを睨みつける。


「スイム……お前、いつの間に」

「うみゅ! うみゅみゅ! うみゅ!」


うん、何かを伝えているんだろうけど、わからない。

恐らくだけど、勘で俺の懐に素早く潜り込んで、ついてきたのだろう。

そう思っていると、スイムの護衛でいたファイアスライム、ウイングスライム、ランドスライムがスイムの服の中から飛び出してきて、着地する。

オイオイ、まさか……服につけられた刻印エンチャントの『同化』を利用して、自身がスライム化する時に服が同化すると同時にスライムたちも同化させたのか?

なんという荒業を使うんだ、うちの子は……。

だが、スイムが来てくれたのは嬉しい限りだ。

これなら逃げ出せるチャンスはある。

正直ロキには勝てる気はしない……だからこそ、相手の隙を作っての逃走が一番だろう。

その時、何やらぶつぶつ言っているのが聞こえてきて、それに反応すると、目の光が消え、濁った様な目でこちらを見てくるロキがいた。


「どういうことかな? どういうことかな? なんでロキの力の合間を縫ってくる様なことをしているのかな? 意味わかんない。今、ユージお兄ちゃんと私の二人で遊んでいたのに、なんで邪魔するのかな? メフィストだって、そこらへんは空気を読むよ? なんで邪魔するの? あ、もしかして、絶望を味わいたいのかなぁ? そうだ! きっと、そうなんだね!」


正直、背筋が凍る様な感覚だ。

あの光を宿さぬ濁った瞳で、どこか歪な笑みを浮かべながら、ぶつぶつ言っているのだから恐ろしいこと、この上ない。

スイムと配下のスライム三体もそれを感じ取っている様で、その不気味さに負けまいとするためか、強く睨みつけている。


「じゃあ、教えてあげないと。私という魔人にケンカを売ったことに絶望させてあげないと。『虚の魔物』が一体、『虚空ヴォイド』のロキの恐ろしさを」


ロキの顔に影がかかった瞬間、紅い瞳が妖しく光って見せ、より一層歪な笑みを浮かべてみせるのだった。



その一方で、突然姿を消した裕司にメイたちは驚き、足を止めていた。


「ユージ!? ユージ! どこにいるの!?」

「……転移魔法の罠? そんなはずない。私の影が罠を看破できないなんてありえない。なら、コレは魔法による……アレ?」


ムルムルが考察している途中で裕司以外にもいない人物がいることに気付く。

そう、それはスイムと護衛のスライム三体だ。

まさか、転移に巻き込まれて……?

いや、そもそもコレは転移魔法によるものなのか?

もし、そうなら何故自分が気付けなかったのか。

魔方陣を展開した様な感じもなかった……違和感しかない消失。


「一体……何が起こって」

「それは私の仲間の一人の仕業でしてねぇ」

「この声!」


ムルムルの呟いた疑問に答える様に聞こえてきた声。

メイはその聞き覚えある声に反応し、そちらへと向くと、そこには笑顔を浮かべ、軽い拍手をしながら近づいてくるメフィストフェレスがいた。


「メフィストフェレス……!」

「はぁい! メフィストフェレスですよぉ?」


呼ばれたメフィストフェレスは嬉しそうに声をあげる。

そんなメフィストフェレスを睨みつけ、右腕をマンティスブレイドの腕へと変えて、それをメフィストフェレスへと突き付ける。


「ユージをどこにやったの!?」

「どこにやったの……と言われましても、やったのは私ではありませんからねぇ。どこへ行ったかまではさっぱりですねぇ」


メフィストフェレスは考える様な素振りを見せながら答え、それを聞いたメイは身構える。


「そう……。なら、貴方を倒して、ユージを探して、ルフェを助けに行く」

「私を倒して……ですか。ちょうどいいですねぇ。人間様があの子に奪われてしまったから、私は貴方で遊ぼうかと思っていたところなんですよぉ」


その瞬間、メイとメフィストフェレスの足元に魔法陣が展開され、魔法陣から闇が溢れ出すと二人の体を包んでいく。

それに驚いたメイは抵抗しようとするが。


「あぁ、抵抗は無駄ですよぉ。『闇の誘い』……。転移魔法ですのでねぇ。私達は私達で邪魔が入らない場所で遊びましょうかぁ?」

「……そういうことなら受けて立つ」


そういったメイは視線をムルムルとノワール、アルフへと向ける。


「ムルムル! 私がメフィストフェレスをどうにかするから、ノワールとアルフを連れて、ルフェをお願い」

「……わかった」


ムルムルが同意する様に頷いて見せたと同時に闇は二人を完全に飲み込み、地面に溶け込むように消えると、そこにはメイとメフィストフェレスの姿はなかった。


「……」


ムルムルはそれを見送るとノワールとアルフへと視線を向ける。

二匹ともいなくなった主人とメイとスイムを心配してか、どこか元気がなさそうである。


「……ノワール、アルフ。ルフェ様救出に手を貸してほしい。いい?」

「……ガウッ!」

「……キキ!」


二匹とも、メイの言葉が聞こえていたからなのか、ムルムルの言葉に頷いてみせる。

それを確認したムルムルは再び走り出し、二匹もそれについていくのだった。

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