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食事

俺たちはリオンさんとルフェさんに連れられて、食堂へとやってきていた。

リオンさんとルフェさんはいつも座る席があるのか、そこに行くと執事やメイドの人が椅子を引いてもらい、座っている。

俺はどこに座ればいいのだろうか、と少し悩んでいると青い髪をした爽やかそうな青年の執事が椅子を二つ分引いてくれる。


「こちらへどうぞ。ユージ様、メイ様」

「あ、ありがとうございます。えっと……」

「自己紹介が遅れましたね。ワタクシはこちらで執事長兼魔将を勤めさせてもらっております、フォルネウスと申します。種族は『銀魔鮫シルバーシャーク』の魔人です」


そういうと一瞬だが、フォルネウスさんの顔にヒレが浮かび上がるが、すぐに消える。

まぁ、あの見た感じとシャークと魔物名についている辺り、水中系の魔物なのだろう、元は。

地上で特徴を出してきても、苦しいか何かあったりするんだろうな。

俺とメイは引いてもらった椅子にところまで行って腰を下ろすと、スイムは俺の頭の上に乗ってきて、ノワールは近くに来て、俺の足に頭を甘える様にこすりつけてきている。

さっきテイムしたばかりなのに、この懐きよう……さすが、『魔物へのお菓子モンスタースイーツ』だな。

まだきび団子とオーク肉のステーキしかないけどな。

ちなみに席はリオンさんとルフェさんの向かい側に座っている。


「それじゃ、楽しく食事をしようか。俺が魔王だからとか、堅苦しいのはなしでね」


無理な相談だよな、それ。


「無理な相談じゃないと思うんだけどな~」

「……ハァ、もういいや」


顔に出やすいのはよくわかったし、一々反応するのはやめておこう。

反応していたら、もう色々とメンドくさそうだからさ。

リオンさんは反応してくれないの? という感じでこちらを見ている。

うん、この人は俺の反応を見て、楽しんでいたのがよくわかったよ。

そう思っていると扉がノックされ、開かれると、カミオさんと複数のメイドが料理を持ってくる。

そして、俺たちの前に次々と置かれていく。

パンにスープ、サラダと何かの魚料理、そしてメインディッシュであろう何かの肉のステーキ。

さて、さっきから何かという理由はまず、ここは異世界である。

絶対出てくる魚料理とか、肉料理が知っている物を使っているはずがない。

牛とかならいるんだろうが、魔族が食べるんだし……ね?

一応、何の肉とか聞いておこうか……。


【解析の結果、肉料理はドラゴンの尾肉ステーキと魚料理は魔鮭デビルサーモンのムニエルです】


うん、どれも魔物の肉を使用した料理でした。

デビルサーモンとやらは、どんなのか知らないが、ドラゴンの尾の部分の肉のステーキときた。

食べるのに少し抵抗を覚えるが、オークの肉の件もある。

食べてみないとわからないことだってあるだろうし、もしかしたら、魔物へのお菓子モンスタースイーツのレシピが増えるかもしれない。

未だにきび団子とオーク肉のステーキしかない、レシピを!


「さてと、それじゃ、食べようか」


リオンさんから食べていいという許可も出たことだし、早速食べようかな……。

俺は手を合わせる。


「いただきます」


礼儀は大切だよね。

俺は早速フォークを手に取ったのだが……何やら視線を感じて、そちらへと視線を向けると、向かい側に座っているリオンさんとルフェさんが、珍しそうにこちらを見ているのだ。

いや、メイもこっちをジッと見ており、やはり、その目も珍しそうにしている。


「あの……どうしたんですか?」

「ユージ、『いただきます』って何? 会得した知識では、そんなの記憶にないよ?」

「え? 何って……普通に食べる前の挨拶だよ」

「挨拶……ですか?」


メイの質問に答えると、次はルフェさんが反応した。

うん、この反応を見る限り、食事前の挨拶がこの世界にはないのだろう。


「ハイ、俺の世界……って言っても、俺が住んでた国では、食事前にこうやって挨拶するんです。食べ物に感謝を込めて。料理を作ってくれた人、野菜を作ってくれた農家の人とかにです。宗教によっては、神に感謝を込めて、という場合もありますが」

「へぇ、そうなんだ。神に感謝するのは嫌だけど、作ってくれた人たちに感謝、っていうのはいいね」


神に感謝するのは嫌って……さすがは堕天使だな。

天界ってとこが、どんなところかは知らないが、追放されたのには、少なからず神様が関係していそうだな。


「いただきます」


俺が苦笑いしながら、そんなことを思っていると、メイが俺がやったことを見様見真似でやったのだ。

メイはいただきますを言い終えると、俺の方を見てくる。


「これでいい?」

「あぁ、それでいいよ。感謝は忘れちゃいけないからな」

「うん!」


元は魔物と言っても、魔人となった今では人とそう変わりないのだろう。

メイは笑顔で頷くと、フォークを手に取り、料理を食べ始める。

ルフェさんもそんなメイを見てか、手を合わせる。


「それでは私も。いただきます。こんな感じでしょうか?」

「ハイ。でも、別に俺の世界の国のやり方を真似なくても……」

「ダメでしょうか? 感謝する、というのは良いことだと思います。これらを作ってくださった料理人や農家の方々などに。これからは、この『いただきます』をしてから、食べる様にします」

「アハハ……」


ルフェさんは純粋っていうか、なんていうか……。

リオンさんまで「いただきます」と言ってから食べだすのだから、驚きだ。

別に真似しなくてもいいと思うんだけどね。

俺はそう思いながらも、ステーキをナイフで切り分けて、フォークで刺して口へと運ぶ。

あ……うまい。

ドラゴンの肉とか、よくうまいという様な感じで描かれていたが、実際に食ってみると、本当にうまいもんだな。

なんと言えばいいのだろうか……牛とか、豚とかとも違う……こう、お上品な味? 旨味?

とりあえず、うまいの一言しかないんですが!


【新たな知識を所得しました。レシピが増えました。『竜の尾肉ステーキ』『竜の尾肉の唐揚げ』です】


お、やっぱり増えた。

これが食べ終わった後、どんなのが増えたのか、確認しておかないとな。

そんなことを思いながら、魚料理やサラダへと手を付けていった。

言わずもなが……デビルサーモンやサラダもおいしく、ついでにレシピも増えました。

食事を終えた俺が「ご馳走様」というと、またもやメイやルフェさん、リオンさんが真似をする。

このまま流行らせてしまおうか、いただきますとご馳走様を。

まぁ、流行らせたところでどうだっていうんだけどね。


「さてと、それじゃ、食事も終えたことだし、今日はもう疲れたでしょ?」

「まぁ、一日で色々あり過ぎて……」


いきなり異世界に召喚されて、助けてもらう様な形で出会ったメイから逃げて、友達になって、スイムも友達にした後に、エルフのエリーナが盗賊に襲われてて、etc……うん、色々あった。

一日だけでも結構濃いと思うよ、コレ。

確かに疲れるわけだよ、コレは。


「じゃあ、案内させるから、今日はゆっくり休むといいよ。カミオ」

「ハイ」

「ユージ達を部屋に案内してあげて」

「かしこまりました。ついてきて」


カミオさんが一度リオンさんにお辞儀してから、俺の方へと向いて言う。

俺はカミオさんに言われて、急いで立ち上がる。

そんな俺に続くかの様にメイも椅子から立ち上がる。


「それじゃ、すみません。おやすみなさい」

「うん、おやすみ」

「おやすみなさい」

「おやすみ!」

「!」


俺に続く様にメイも答え、スイムがジャンプしてみせる。

ノワールも俺たちの後についていく様に歩き出す。

そのまま俺たちは食堂を出て、前を歩くカミオさんについていく。

メイたちは一人と二匹で楽しそうにじゃれながら、ついてきている。

それは微笑ましいのだが、俺はカミオさんと何もしゃべらないため、気まずい。


「あ、あの。魔将について聞きました。凄いんですね、カミオさんって」

「そう? あまりそういう自覚ない。魔将を貰って、百年は経つから」

「そ、そうですよね。百年も経ったら……百年!?」


俺は思わず、カミオさんが口にした数字に驚きの声を上げてしまう。

いや、人間じゃないのだから、それくらい生きていてもおかしくはないか……。

とはいえ、見た目はどう見ても、若い女性……二十代くらいだろうと思えるから、百歳くらいだと言われたら、驚くしかないだろう。


「うん、百年。ルシファー様から名前を貰ったのがそれより二十年前。魔人になったのは十七年前。で、そこからは気づけば、魔将になっていた」

「アハハ……」


リオンさんから名前貰ったのが更に二十年前って……。

いや、この世界であまり年齢のコトは気にしないでおこう。

エルフとかいるわけだしな……。


「思えば、ユージに一つ聞きたいことがある」

「何でしょうか」

「召喚したとルシファー様は言っていた。ということはいきなり、この世界に連れてこられたというわけだけど……辛くない?」

「え?」


カミオさんの急な一言に思わず目が点になってしまう。

辛くない? とは一体どういう意味だろうか。


「辛くない? とは……?」

「だって、急にこの世界に召喚された。普通は意味が分からないって焦ったり、泣きたくなったりすると思う。家に帰りたいとか、こんな……まぁ、今は平和な方だけど、危ない世界なんてって」


確かにカミオさんの言うことには一理あるかもしれない。

普通なら、召喚されたら、誰だって驚くし、焦るだろう。

実際、俺だって焦った……だって、穴に落ちて、出てきたら空中だもん!

そりゃ、誰だって焦るでしょ!?

そのせいなのか、おかげなのかというべきなのか……異世界に来たんだって、冷静に考えることもできた。

まぁ、二度と空中に放り投げられるのは勘弁だけどね!


「まぁ、確かに急にこの世界に来た時は驚きましたよ。だけど、異世界に来たんだって思うと……少し、ワクワクしてるんです。俺の世界ではなかったものがこの世界にはある。カミナさんも、この世界ではないものがある異世界なら、凄く興味があるでしょ?」

「……確かに、それはわからないでもない」

「でしょ? だから、今は……どうして? とか、辛いとか、悲しいとかよりも、好奇心の方が勝ってるから」

「大丈夫って? そう……好奇心が強いのは人間の危なっかしいところでもあるけど、良いところでもある。この世界での生活、応援する」

「ありがとうございます」

「でも、好奇心だけで動くのはやめた方がいい」

「肝に銘じておきます」


まぁ、好奇心は猫を殺すっていうしな……。

それに、『肝に銘じておく』という言葉はこの世界にないからか、不思議そうにこちらを見てきている、カミナさん。


「そっちの世界の言葉? 意味はわかりました、みたいな感じ?」

「まぁ、大体そんな感じですかね。強く心に留めて、決して忘れない様にするっていう意味ですが……」

「なるほど」


それだけ聞くとカミナさんは納得したかの様に何度か頷きながら歩く。

淡々としている人だが、意外と話をするのは好きな人なのかもしれない。

そして、しばらく歩いてから、カミナさんの足が一つの扉の前で止まる。

ということは……ここが俺たちの泊まる部屋か。

そんなことを思っていると、カミナさんがこちらへと振り返る。


「ここが貴方達の部屋。今日はゆっくり休むといい。話も色々できて楽しかった」

「俺も楽しかったです。心配までしてもらって……」

「人として当然。まぁ、魔族だけど」


カミオさんは優しく微笑んで見せる。

この人、あまり表情変えないな、と思っていたが、いざ微笑んだ姿を見ると……ドキッ、と来てしまいます。

しょうがないじゃん……美人さんが微笑めば、男とすれば、ドキッ! としちゃうでしょ?


「それじゃ、私はこれで失礼する。後、ルシファー様がどういう目的で貴方を呼んだかは知らない。だけど、きっと、あの人のことだから凄い考えがあってだと思う。不安がる必要はない」

「アハハ、最後までありがとうございます」

「うん。それじゃ」


それだけ言うと、カミオさんは俺たちの横を通り過ぎて、来た道を戻っていった。

それを見送った俺たちは、扉を開けて中へと入る。

最初に目に入ったのは大きな部屋と大きなベッドが二つ。

他には化粧台やら、何やら……ホテルか? と言いたくなる様な部屋だ。

まぁ、ここ魔王様が住むお城なんだから、客室がこんな感じでもおかしくはないか。


「わぁ、これがベッドなんだぁ!」


メイはスイムを頭に乗せて走り出すと、そのままベッドへとダイブする。

スイムもそのまま一緒にベッドへとダイブする形となり、一人と一匹は嬉しそうにベッドの上をゴロゴロいている。

俺は空いている片方のベッドに腰掛けると、ノワールが近くで座り込む。

ノワールの頭を撫でてあげると、嬉しそうに受け入れてくれる。

可愛いな、コイツ。

それにベッドに腰かけたからか、眠気まで覚えてきた。


「ふぁぁ……。眠たい……。メイ、俺はもう寝るけど……」

「スー、スー」

「って、もう寝てるか」


まぁ、疲れてるんだろうな。

いくら魔人と言えど、遭遇した魔物との戦闘、盗賊たちとの戦闘、最後はドラゴンとの戦闘だしな。

俺以上に疲れてるかもしれないな……。

ノワールも仲間に加わったことだし、メイの負担が減らせるといいんだけどな。

俺はそんなことを思いながら、メイを見ていると、スイムが飛び跳ね始める。

何かを伝えようとしているかの様な……。

でも、一体何を伝えようとしているのだろうか?


「ピギッ! ピギッ!」

「どうした? スイム? 何か欲しいのか?」

「ピギッ!」


そう! と言いたげな様なジャンプをするスイム。

何か欲しいって言われても、俺が持っているのはきび団子だけ……まさか、スイムはきび団子が欲しいのだろうか?

なら、出してみるとしよう……飯食ったばっかなのに、きび団子を頼むって。

メイといい、スイムといい、俺は食欲旺盛な魔物と遭遇する運命にでもあるのだろうか。

俺がきび団子を取り出すと、嬉しそうにスイムは近づいてくる。


「たくっ、お前も好きだよな、きび団子」


近づいてきたスイムにきび団子を渡すと、スイムは袋ごと飲み込み、消化を開始する。

ついでに物欲しそうに見てきていたノワールにも与えると、俺は横になる。


「それじゃ、俺はもう寝るから。お前達も、食い終わったら……寝ろ……よ……」


俺はスイムとノワールにそういいながら、深い眠りへと入っていった。

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