表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の国を行く帆船    作者: 鈴宮とも子
禁断の木の実をめぐる争い―――呪わしい命たち
29/43

意外な人物の背信行為

駆ける。駆ける。森の中を、ひたすら走る。

 足元で落ち葉がかさこそと音を立てた。今にも腕を差しのばしてきそうな枯れた枝、ツタの絡まる木の幹、ホウホウと鳴く鳥の声。オオカミの声のような、悲しげな吠え声。

 すうっ。

 頬に冷たい風があたった。

「ううっ」

 こういうの、苦手なんだよな。

はやいとこ、デリラを見つけて館をぶっ壊し、さっさと教会に帰ろう。死霊を退治すれば、ジェマイルの手がかりも、簡単に教えてくれるだろう。もちろん水や食料などももらえるはずだ。期待値たかまる! でも、こわい! ドキドキするほどこわい! 期待値と恐怖とで、心臓が壊れちゃうかもしれない。

 あたりには木々がびっしりで、おばけのように曲がりくねった枝がはえている。


 すでに夜になっていて(よりによって、なんでこんな時間に死霊の館へ行くんだ、と俺は唇を噛みしめた)、一面の闇に光る白い爪痕のような三日月が、とても禍々しく光っているのである。それほどあたりの闇は暗く、そして冷たかった。おまけに、これほど静かな森は、とてもないだろうと思われた。生き物は、鳥や獣ぐらいかもしれない。


 街の喧騒に慣れていた俺には、この森は不気味だった。あんまり静かすぎて、森がざわざわとうなり、何事かが起こらないくせに、何かが待ち構えているような、剣呑な感じなのだ。なにかが待ち構えているようなのに、ただひたすら静か。

「館は、この向こうにあります」

 ペテロは、聖水の入った水差しを抱きしめた。

「見ればすぐ、それとわかりますよ」

 言われたとおりだった。

 ひとことで言って、「お化け屋敷」そのものである。屋根は雨漏りしそうなほどボロになっているし、壁は穴があちこち空いている。


 影のように忍び寄ると、俺たちは館の壁に張り付いた。

「デリラ、デリラ?」

 俺は、そっと呼びかけてみた。

「おい、返事がないぞ?」

「きっと、死霊を退治しまくって、消耗しているんでしょう。早くデリラさんを助け出して、さっさとこの館を破壊し、浄化します」


 ペテロはかなり、張り切っている。エリヤはペテロの腕を抑えた。

「もうじきアスリア王女が来ます。待ちましょう」

「なぜ彼女が? 危険じゃねーか!」

 思わず口走ると、エリヤは、

「彼女には、『魔法増幅』の力がある。【ターン・アンデッド】を増幅してもらうことが可能です」

「……俺は反対だな。わざわざ殺されに来るようなもんじゃねーか」

「一度復活しているんだ、死など怖くないはずだ」

「そーゆー問題じゃねーよ!」

 俺は、さらに言いつのろうとしたが、エリヤはスルーして、

「交戦したあとに入るのなら、充分に気をつけろよ、ラハブ。死霊の死骸は、病気の原因になると言われてる」

 ラハブはそれを聞いて、顔をしかめた。

「ペストだったらいやですね」

「なぜだ?」

「両親は、それで死んだのです」

「それは……」

 エリヤは絶句したが、


「ともかく、潜入していこう。デリラが人質に取られてる可能性もあるからな」

 さすが上級親衛隊のリーダーだけあって、的確な指示をする。俺はじゃっかん反発を感じつつも、

「じゃあ、エリヤは見張りをしていてくれ。俺とペテロが中に入る」

「見張り? 俺様が?」

「死霊あいてに剣は通じないだろ? それとも、なにかテがあるのか?」

 俺が言い返すと、エリヤは厳つい眉をつり上げた。


「俺は【禁断の木の実】を持っている」

 それを聞いたネルビア国一同は、愕然と口を開けた。

「―――エリヤ! そ、それは教会の極秘事項です!」

 ペテロは、あわを食ったように言った。

「【禁断の木の実】? それはなんだ?」

 俺は、その慌てぶりをいぶかった。

 エリヤは鎧の下から、小さな袋を取り出した。

 ラハブは、まっさおな顔になった。

「それは、エデンの園にあった、〈命の木の実〉ではありませんか?」

「そのとおり。神に禁じられた二つの木のうちの、一つの木になっていた実ですな」

 エリヤは答えた。

「それ、どういうこと?」


 俺は、用心深くエリヤに近づきながら、無邪気そうに問いかけてみた。

「天地創造の時代に、楽園エデンにいた人類最初の男女、アダムとイブが、神に、〈善悪を知る木の実〉と〈命の木の実〉を食べてはいけない、と禁じた。だが、蛇にそそのかされてアダムとイブは、〈善悪を知る木の実〉を食べてしまった。そのため、楽園から追放された」

 エリヤは、高らかにそう言った。


「俺様は、そのもうひとつの木の実が、秘かにこの西方教会に託されていることを知って、サウル国王に命じられて、ここに来た。死霊たちの協力を得て、〈命の木の実〉を得ることができたのだ。これを食べれば、俺は永遠の命を得ることが出来る!」

「ちょ、ちょ、ちょーっと待った」

俺は、あきれて言った。

「あんた、永遠の命をマジに信じてるの?」


「その目で復活を見た人間が、いまさらなにを言う」

「いや、このイカれた世界じゃあ、なにがあっても驚かねーけどよ、永遠の命だぜ。もうちょっと、慎重にした方がいいんじゃねーの?」

「うるさい!」


 エリヤは、腕を振るった。館がぼうっと膨らんだ。

 と、同時に、ウサギたちの死霊の群れが、館から現れた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ