食事が終わり、疑問は再燃する
「主よ、今日の糧に感謝を」
とペテロがつぶやき、食事を見下ろすと、夕食が始まった。
パンとスープとサラダ、若干のベーコン。
水と食料は、これで確保できたのかな。
俺は、いまさらながら、船のアスリアとパウロに思いを馳せた。
こんな足止めを食らっていなければ、いまごろ俺たちはとっくの昔に、船出して次の目的地に向かっているところだ。
もっとも、聖剣ジェマイルの手がかりが、まだわかってないけれど。
「こんな貧しい食事しか用意できませんで、申し訳ない」
ペテロは、涙ぐんでいる。
「このあたりは、死霊が出るようになってから、狩りがなかなか出来なくなりましてな」
「う、ま、気にするな」
俺は、腹がグウグウ言うのをこらえて、スープを口にした。薄っ!
「死霊の現れる原因を突き止めなければ、また来ますよね」
デリラは、当たり前のことを言った。俺はちょっとイライラした。
「せっかく食べてるんだから、思い出させるなよ」
ペテロは、上品にパンをちぎりながら、
「『モンスター事典』によりますと、死霊たちは棲み家となる館を持っていて、その館を壊すと、拠点を失って消滅するんだそうです」
「へー」
『モンスター事典』か。『ギデオン号』にも、似たような事典があったっけ。やっぱりモンスターに悩まされている国だけはあって、研究は熱心だ。対処がイマイチって気もするが。
そういえば、エメット神は、本は貴重だって言ってたな。娯楽小説とかは、ないのかもしれん。実用書ばっかりだったりして。
実用書。
それなら、俺の知らない情報も教えてくれるかもしれない。
「死霊のことはそれで片付くとして、宝珠や聖水が効かなかったのは、どういうわけなんだ?」
「信仰が足りなかったんだろ」
ラハブは、一刀のもとに切って捨てる。そう言えば、彼女は十字教徒だった。ていうか、この国の連中は、みんな、十字教徒だ。アスリア王女も含めて。
どんだけー。だよ。ったく。
「信仰って、そんなにたいしたものなのかよ」
俺は、反発と、イライラがどんどん増してきて言った。
「信仰が全てだったら、人間が生きてる意味ってねーじゃん」
「人間は、神に生かされているのだ。神の命令に従うのは当然だ」
ラハブはきっちり言い返す。それに、と付け加え、
「からし種ほどの信仰があれば、山をも動かせるってジェスさまは言ってる」
ラハブは大まじめである。デリラはギューッとパンを絞った。
「からしには、二種類あるんだよね」
「?」
ラハブは、目をあげた。
「からし、からくねーし、の二つ」
「アホ」
ポカッとラハブはデリラを殴りつけた。
冗談はともかくとして、信仰という言葉には、俺は納得いかないところがあった。
まえに宝珠が奇跡を起こし、アスリアを復活させたときには、俺はエメット神に対して、どうのこうのと祈ったり訴えたりしていなかった。
十字教のジェスさまというのは、ラハブによると、礫刑になるとき、
「我が神、我が神、何ゆえ我を見捨てたもうや」
と嘆いたらしい。
そして、彼は、人類の罪を背負って、亡くなられたのだという。
―――その後、ジェスは復活した、というのだが。
俺は宝珠に嘆いたことはない。
たしかに、宝珠はエメット神の刀の柄からいただいたものだ。だから、神の道具だというのはわかる。が、それも偶然手に入れた力なんだ。俺にしか使えねえ、なんてそれは違う。俺でも使えてねえ。というのが真相じゃねーか。
発動しろ、と言ったときには、反応しなかった。
でも。
アスリア王女が死にかけたとき。
あのときは、別だった。
なんだかわけのわからんうちに、宝珠が発動してしまったのだ。
それを考えると、信仰というよりは、もっと理屈に合うなにかがきっかけになった、と思いたいところである。
使いこなせない能力なんか、意味ねーじゃんか。




