表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の国を行く帆船    作者: 鈴宮とも子
禁断の木の実をめぐる争い―――呪わしい命たち
27/43

食事が終わり、疑問は再燃する

「主よ、今日の糧に感謝を」

 とペテロがつぶやき、食事を見下ろすと、夕食が始まった。

 パンとスープとサラダ、若干のベーコン。


 水と食料は、これで確保できたのかな。

 俺は、いまさらながら、船のアスリアとパウロに思いを馳せた。

 こんな足止めを食らっていなければ、いまごろ俺たちはとっくの昔に、船出して次の目的地に向かっているところだ。


 もっとも、聖剣ジェマイルの手がかりが、まだわかってないけれど。

「こんな貧しい食事しか用意できませんで、申し訳ない」

 ペテロは、涙ぐんでいる。


「このあたりは、死霊が出るようになってから、狩りがなかなか出来なくなりましてな」

「う、ま、気にするな」

 俺は、腹がグウグウ言うのをこらえて、スープを口にした。薄っ!

「死霊の現れる原因を突き止めなければ、また来ますよね」

 デリラは、当たり前のことを言った。俺はちょっとイライラした。

「せっかく食べてるんだから、思い出させるなよ」


ペテロは、上品にパンをちぎりながら、

「『モンスター事典』によりますと、死霊たちは棲み家となる館を持っていて、その館を壊すと、拠点を失って消滅するんだそうです」

「へー」

 『モンスター事典』か。『ギデオン号』にも、似たような事典があったっけ。やっぱりモンスターに悩まされている国だけはあって、研究は熱心だ。対処がイマイチって気もするが。

 そういえば、エメット神は、本は貴重だって言ってたな。娯楽小説とかは、ないのかもしれん。実用書ばっかりだったりして。


 実用書。

 それなら、俺の知らない情報も教えてくれるかもしれない。

「死霊のことはそれで片付くとして、宝珠や聖水が効かなかったのは、どういうわけなんだ?」

「信仰が足りなかったんだろ」

 ラハブは、一刀のもとに切って捨てる。そう言えば、彼女は十字教徒だった。ていうか、この国の連中は、みんな、十字教徒だ。アスリア王女も含めて。

 どんだけー。だよ。ったく。


「信仰って、そんなにたいしたものなのかよ」

 俺は、反発と、イライラがどんどん増してきて言った。

「信仰が全てだったら、人間が生きてる意味ってねーじゃん」

「人間は、神に生かされているのだ。神の命令に従うのは当然だ」

 ラハブはきっちり言い返す。それに、と付け加え、

「からし種ほどの信仰があれば、山をも動かせるってジェスさまは言ってる」

 ラハブは大まじめである。デリラはギューッとパンを絞った。

「からしには、二種類あるんだよね」

「?」

 ラハブは、目をあげた。

「からし、からくねーし、の二つ」


「アホ」

 ポカッとラハブはデリラを殴りつけた。

 冗談はともかくとして、信仰という言葉には、俺は納得いかないところがあった。

 まえに宝珠が奇跡を起こし、アスリアを復活させたときには、俺はエメット神に対して、どうのこうのと祈ったり訴えたりしていなかった。


 十字教のジェスさまというのは、ラハブによると、礫刑になるとき、

「我が神、我が神、何ゆえ我を見捨てたもうや」

 と嘆いたらしい。

 そして、彼は、人類の罪を背負って、亡くなられたのだという。

 ―――その後、ジェスは復活した、というのだが。

 俺は宝珠に嘆いたことはない。


 たしかに、宝珠はエメット神の刀の柄からいただいたものだ。だから、神の道具だというのはわかる。が、それも偶然手に入れた力なんだ。俺にしか使えねえ、なんてそれは違う。俺でも使えてねえ。というのが真相じゃねーか。

 発動しろ、と言ったときには、反応しなかった。

 でも。

 アスリア王女が死にかけたとき。

 あのときは、別だった。


 なんだかわけのわからんうちに、宝珠が発動してしまったのだ。

 それを考えると、信仰というよりは、もっと理屈に合うなにかがきっかけになった、と思いたいところである。

 使いこなせない能力なんか、意味ねーじゃんか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ