島に到着、そこで待ち構えるものへ覚悟を決めて……
たしかに島が見えた。こんもり、森が覆っている。
ラハブが、指をさして、「小さな島だな。モンスターがいるだろうな」
と言い、剣を抜いて、「こいつの露にしてやる」と嘯いている。
「モンスターといえども、話せるのですから、交渉して水と食料をわけてもらいましょう」
アスリア王女は、とんでもないことを言い出している。
「アスリアさま! 襲ってくる相手に対して、交渉なんて考えられません!」
ラハブはきっぱり、言い切った。俺もそのとおりだとうなずいてやる。アスリアは、一度死んでいるのだから、モンスターのこわさはよく知っているはずなのだが。
「敵意に対して敵意を返していたら、いつまでも争いは終わりませんよ」
アスリアの言葉は、たしかに理想論だ。真顔で言うところがこわい。
「ああ、救世主ジェスさま! この戦いを終わらせ、勝利をもたらしてください。義也さま、ひとつお願いがあります」
「なんでしょうか、王女さま」
「あなたにさしあげた首飾りに、祝福をあたえたいのです。少しお借りしても、構いませんか?」
「―――別にいいけど」
エメラルドのネックレスを外してアスリアは熱心に祈りはじめた。
「天にまします我らの父よ……」
信仰熱心だね。
「ついでに宝珠にも、祝福をしてくれないかな」
俺は、宝珠を差し出した。アスリアは、俺の手を取って少し頬を染める。
「ごつごつしてますね」
「え、ま、まあな」
「さすが勇者ですわ。あなたさまがおられたら、きっとブラークルも退散します」
キラキラひかる瞳で見つめてきた。うう。いろんな意味で、良心にとがめる。
アスリアは、宝珠に念を込めた。気のせいか、光ったような気がした。
『魔力増幅』の力が宝珠に反映されたのだろうか。だといいけど。
アスリアのおなかが、ぐうと鳴った。アスリアは、真っ赤になった。
「いま、ダイエットしてるんです」
「それ以上やせたら、死んじゃわない?」
俺は思わず口走った。
「そ、そ、そうですか? 勇者さまがそうおっしゃるなら……」
「いや、俺が言うからじゃなくて!」
焦ってアスリアを止めると、アスリアはうるうると目をうるませる。
か、かわいい。
「ともあれ、様子を見に降りていこう。モンスターがいれば、宝珠で瞬殺だ」
使い方がイマイチわからないことは、ナイショにしている。ちょっと良心がとがめるけれど、ラハブの前で打ち明けたくない。恥ずかしすぎる。




