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夢の国を行く帆船    作者: 鈴宮とも子
魔法の船のLTBG
14/43

むちゃくちゃだ! ラハブの反撥

「むちゃくちゃだ」

 ゴスロリ少女ラハブは、真っ向から対決してきた。

「無茶は承知だ。だけど、これしか方法はない」

 俺は頑固に繰り返した。給仕役サライは、両手で顔を覆って、手の指のあいだから俺たちを見守っている。サライはどうやら給仕役から、王女の身の回りを世話するメイドに昇進したらしい。おめでとうと言いたいところだが、今はそれどころじゃない。

「いいのです。どうせ三ヶ月後には死ぬのですから、この計画に乗ってみても損はないでしょう」


 アスリアは、意を決したように唇を噛みしめた。ただでさえ痛いのに、この上負担をかけるのかと思うと、俺は胃が痛くなった。パウロも一緒にいて、顔色をどす黒くしている。

 計画は単純だ。この船は魔法の船。ならば、アスリア王女の『魔力増幅力』でこの船のスピードを増幅し、ジャミシテ国へひと月で到着。その後、俺が水差しを持ってひとりでエリコに潜入し、ウォーターメロンマンの魔手をくぐり抜けて温泉水をゲット、戻ってくる。そしてアスリア王女は、その水を飲んでめでたく全快だ。

 パウロの助言で、この計画を思いついた。本当なら俺だって、種で弱っている彼女をムリに働かせたくはない。こんなことをさせるのは、冷酷な人間のすることだ。それでも、宝珠が使えないとなったら、これしか方法はないじゃないか。

 そう、まえに俺は、宝珠をアスリア王女の目の前で使ってみたのだが、スイカの種は剥がれたりはしなかった。その後のアスリアへの俺の夢判断によると、どうやら宝珠の威力は、『成獣』にのみ使えるのだ。だから、アスリア王女の夢の中に、『成獣』のモンスターが出てきたのだ。この計画を打ち明けたとき、アスリア王女は自分にしか出来ない、と魔力増幅を受け入れた。あらがってもあらがっても、アスリア王女のこの想いは正しいような気がしてきた。


「ひとりで行くと言いましたね」

 王女の表情は、イマイチ読みづらい。俺はわざと胸を張って見せた。

「その方が、行動しやすいかなってね」

「ラハブを連れて行きなさい。なにかと役に立つでしょう」


「な!」

 親衛隊長は、カッと頬を赤く染めた。

「王女さま、こんな役立たずの意見を取り入れるのですか!」

「ラハブ、ほかに方法があるのなら、申してみなさい」


 ラハブは絶句して、王女を見つめた。どこか、見慣れない珍獣を見つめるおねえさん、という雰囲気だ。

「決まりだな」

 俺は、手を打ってその話を閉じた。ラハブは恨めしそうに俺を見上げ、アスリアは希望に満ちた目で俺を見つめた。サライはオイオイ泣いていた。

 魔力増幅をするために、アスリアはベッドから降りてフラフラしながら、狛犬の彫刻へと近づいていった。


「これはこのギデオン号の心臓部とも言えるところです。ここに魔力を集めて、推進力にしているのです」

「人力も補助しているんだな」

「風がないときに、人力で推進するわけですが、この帆船の魔力だけではどうしても、足りない部分はあります。つまり、魔力の容量が減っているので、人力が必要なのです。わたくしがその魔力を増幅します」

 アスリアは、狛犬の彫刻に手を触れて念じた。


 ぐいっ。

 いきなり船が、巨人の手につかまれたように前へ進んだ。

「あっ」

 ぐらっとよろめいたアスリアは、肩に手をやった。服に血がじんわりと広がっていく。

 ラハブは、顔を背けた。

「ちくしょ……」


 俺は、血がにじむほど唇を噛みしめた。代わってやれたら。俺が、彼女の力の半分でもあったなら。だが、俺は、ほとんど使い物にならない夢判断の力を得ているだけだ。血だらけの彼女を見ていられないのは俺もそうだ。

「キミはこれを見届ける義務がある。アスリア王女が勇気を持って行動しているのに、俺が逃げ出してどうするのじゃ」


 パウロは、したり顔で言った。俺はパウロをにらみつけてやった。この冷静さと冷酷さ。こいつがアスリア暗殺未遂の犯人かもしれない。だが、動機は? なぜ、彼がアスリアを苦しめる? 必要もないのに、人を殺すようなタイプには見えないが。

 教会の責任者が、邪神ブラークルの手先になるというのは、ありがちな推理だ。違う犯人がいる可能性もある。もっと情報を集めなければ。

 こうしてアスリアは、その日一日じゅう、狛犬の魔力増幅に力を注いだ。


 空を行く船の推進力は半端ではなく、俺たちはすさまじい風に吹き飛ばされそうだった。

「もう、おやめくださいアスリアさま……」

 ゴスロリ少女ラハブは、むせび泣いていた。

「勇者は、わたくしを、必要としているのです。その願いを、かなえるのは、王族のつとめ」

 ぜいぜいとあえぎながら、アスリアは俺にほほえみかけた。その瞳に宿る強い力に、俺は身震いするほどの感銘を受けた。


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