エメット神のバカッ!
種が身体を衰弱死させる。
冷静になって考えてみると、どこかで聞いたようなストーリーだ。このネタを考えたヤツは、オリジナリティがないに違いない。
次の日、俺は船の資料室にいた。
どうやらこの船は魔法の船であるらしい。俺が必死で、
「なにか情報を」
と念じていると、不意に扉が現れたのだ。中に入ると、そこはズラリと本が並んでいた。
タイトルを見ると、
『邪神ブラークルのモンスターたち』
とか、
『ネルビア国の歴史』
とか、
『西方教会とエメット神』
といった、それだけでそそられる本がいっぱいだ。しかし一ページ目をめくってみて俺はがっくりきた。
「こんな細けー字、読めねー!」
女の子の挿絵すらないんだもんな!
すっかり読む気がなくなって、ダラダラと資料室のなかを眺めて過ごしている。
ぎいっ、ぎいっと船がかしいでいる。暖かい日差しが、窓から差し込んできた。眠気を催してきた。
「YO! はかどってるかい!」
突然、耳元で聞き慣れた声がした。振り向くと、あの金髪美女神が、腕を組んでウンウンとひとり、うなずいている。
俺は、頭がくらくらするほど強烈な怒りがこみ上げてきた。俺のことはいい。こんな目に遭うのは、弟の自殺を食い止められなかった罰だと思えば、少しは納得できるかもしれない。だがアスリアは? どんな罪を犯した?
「おまえなんかと話す気にはなれん」
絶対零度の声で言ってやると、エメット神は深ーく傷ついた表情になった。
「あたしだって、ベストは尽くしてるのよ?」
「アスリアはどうなんだ? 見殺しにするつもりなのか?」
俺はペッと床につばを吐いた。
「世界を創造したわりには、ずいぶんなやりようじゃねーかよ」
「あたしは、創造物をすべて愛しています! 平等に愛してるんです!」
「だからモンスターにアスリアを食われてもへっちゃらなのか? 歪んでるな」
ぴしゃりと言ってやったら、エメット神は指をあごに当てた。
「うーん、生きとし生けるものには、それなりに行動様式ってのがありましてねー。弱肉強食っていうのかな、捕食動物とか被食者とかー、いろいろあるわけよー」
俺は無視して再び書物に目をやった。パラパラと、『ネルビア国の歴史』をめくってみる。難しい字がずらずら並んでいた。くそ。思うに、この世界の言葉は、自動的に日本語に変換されているのであろう。この本の文字は、日本語には思えないほど難しいが、ひらがなは読める。
「ヒントをくれないんだったらさっさと帰れ。俺は暇じゃねーんだ」
「あれー。少しは読む気になったんだ、えらいねー」
「おまえ、馬鹿にしてるのか?」
「えへっ。バレた?」
もう、やってられない。俺は本を神に投げつけた。
「あ、やーん!」
素早く身体をひねってそれを避けると、エメット神はニコニコと、
「本は貴重なんだから、大切にしよーね」
「帰れ!」
俺は怒鳴った。エメット神は、両手を合わせてほっと息を継いだ。
「人間ってや~ね、短気だもん」
「人格者じゃねーんだ俺は!」
大声でわめくと、かちゃっと音がして背後のドアが開いた。
「おや、先客がおったのー」
祭司長パウロの声だ。俺は、後ろを振り返り、親指でエメット神を指しながら、
「祭司長、コイツなんとかしてくれよ」
「コイツ、とは?」
キョトンとするパウロ。振り返ると、誰もいなかった。




