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夢の国を行く帆船    作者: 鈴宮とも子
魔法の船のLTBG
12/43

エメット神のバカッ!

種が身体を衰弱死させる。

 冷静になって考えてみると、どこかで聞いたようなストーリーだ。このネタを考えたヤツは、オリジナリティがないに違いない。

 次の日、俺は船の資料室にいた。

 どうやらこの船は魔法の船であるらしい。俺が必死で、


「なにか情報を」

 と念じていると、不意に扉が現れたのだ。中に入ると、そこはズラリと本が並んでいた。

 タイトルを見ると、

『邪神ブラークルのモンスターたち』


 とか、

『ネルビア国の歴史』

 とか、

『西方教会とエメット神』


 といった、それだけでそそられる本がいっぱいだ。しかし一ページ目をめくってみて俺はがっくりきた。

「こんな細けー字、読めねー!」

 女の子の挿絵すらないんだもんな! 


 すっかり読む気がなくなって、ダラダラと資料室のなかを眺めて過ごしている。

 ぎいっ、ぎいっと船がかしいでいる。暖かい日差しが、窓から差し込んできた。眠気を催してきた。

「YO! はかどってるかい!」


 突然、耳元で聞き慣れた声がした。振り向くと、あの金髪美女神が、腕を組んでウンウンとひとり、うなずいている。

 俺は、頭がくらくらするほど強烈な怒りがこみ上げてきた。俺のことはいい。こんな目に遭うのは、弟の自殺を食い止められなかった罰だと思えば、少しは納得できるかもしれない。だがアスリアは? どんな罪を犯した?

「おまえなんかと話す気にはなれん」


 絶対零度の声で言ってやると、エメット神は深ーく傷ついた表情になった。

「あたしだって、ベストは尽くしてるのよ?」

「アスリアはどうなんだ? 見殺しにするつもりなのか?」

 俺はペッと床につばを吐いた。


「世界を創造したわりには、ずいぶんなやりようじゃねーかよ」

「あたしは、創造物をすべて愛しています! 平等に愛してるんです!」

「だからモンスターにアスリアを食われてもへっちゃらなのか? 歪んでるな」

 ぴしゃりと言ってやったら、エメット神は指をあごに当てた。


「うーん、生きとし生けるものには、それなりに行動様式ってのがありましてねー。弱肉強食っていうのかな、捕食動物とか被食者とかー、いろいろあるわけよー」

 俺は無視して再び書物に目をやった。パラパラと、『ネルビア国の歴史』をめくってみる。難しい字がずらずら並んでいた。くそ。思うに、この世界の言葉は、自動的に日本語に変換されているのであろう。この本の文字は、日本語には思えないほど難しいが、ひらがなは読める。

「ヒントをくれないんだったらさっさと帰れ。俺は暇じゃねーんだ」


「あれー。少しは読む気になったんだ、えらいねー」

「おまえ、馬鹿にしてるのか?」

「えへっ。バレた?」

もう、やってられない。俺は本を神に投げつけた。


「あ、やーん!」

 素早く身体をひねってそれを避けると、エメット神はニコニコと、

「本は貴重なんだから、大切にしよーね」

「帰れ!」


 俺は怒鳴った。エメット神は、両手を合わせてほっと息を継いだ。

「人間ってや~ね、短気だもん」

「人格者じゃねーんだ俺は!」


 大声でわめくと、かちゃっと音がして背後のドアが開いた。

「おや、先客がおったのー」


 祭司長パウロの声だ。俺は、後ろを振り返り、親指でエメット神を指しながら、

「祭司長、コイツなんとかしてくれよ」

「コイツ、とは?」


 キョトンとするパウロ。振り返ると、誰もいなかった。

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