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14.エスカと青年・その2

「ああいらっしゃい。おやアル坊、エス嬢の知り合いなのかぃ」


「え? あ、はい。今回の依頼人です」


「へェ……それはまた……」


スーヴィエーテは眠たげだった目をわずかに見開いた。

アルスもまた、少なからず驚いていた。


傭兵であるエスカが魔物対策用の魔機を買いに来ること自体は不自然ではない。だが、彼女がこの店を知っていたことには意外さを覚えた。


この店は住宅街の奥まった場所にある。

外観こそ異様に目立つものの、立地はかなり分かりづらい。


知る人ぞ知る名店──少なくともアルスはそう思っていた。


「まぁ……王都は広いけれど、ここ以上に品揃えの良いマジックショップって中々ないからね。店長と知り合いだったのは驚いたけど……」


「あんた達は特に印象深いよ。ウチの冷やかしツートップだからねェ」


「うぐっ……! あ、あたしは今日はちゃんとお客さんです!」


「くふっふっふ……同じこと言ってるねェ」


煙をくゆらせながら笑うスーヴィエーテの前で、エスカの顔はみるみる赤くなっていく。


「わぁ、なんか親近感」


「や、やめてください! 普段も! 普段も別に冷やかしばっかりじゃないんですよ!?」


アルスがわざとらしく手を叩いてみせると、エスカはさらに顔を真っ赤にした。

その反応が少し面白くて、アルスは思わず笑ってしまう。


常識的に考えれば、最初は誰だって冷やかし客扱いされるのが恥ずかしいものだろう。

アルス自身も新商品を眺めに来るだけで頻繁に店へ顔を出している、冷やかし筆頭だ。早くこのステージへと上がってきて欲しいと、アルスは内心で腕を組む。


「そ、そういえばアルスさんは何を揃えたんですか?」


これ以上いじられる前にと思ったのか、エスカは慌てて話題を変えた。


「ああ、僕はもう買い物終わっちゃってて。今回の魔物が何か分からない以上、ある程度幅広く持っていくしかないからね」


アルスは袋を開け、中身をカウンターへ並べていく。


「魔物の痕跡を探る魔力探知機と、近くの反応を探るアナライズ系の魔機。それと捕獲用のロープとか……最低限だけど」


どれも研究家なら誰もが扱う定番の道具だ。

手のひらサイズの板状魔機は、液晶越しに周囲の魔力痕跡を可視化できる。


ロープに関しては出番があるか怪しいが、持っていて損はない。


「へぇ……意外と少ないんですね。プロってもっと大量に持ち歩くものかと」


「いや、アル坊の準備は特別少ないよ。研究家によっちゃ大層なリュック3つ抱えて歩くやつもいるくらいさね」


スーヴィエーテが呆れたように口を挟む。

先ほど“危なっかしい”と言っていた理由も、まさにそこだった。


魔物の種類は膨大だ。

当然、研究家たちは少しでも多くの状況に対応できるよう、大量の機材や対策道具を持ち歩くことが多い。


アルスは改めて、自分の荷物の少なさを見下ろした。

心許ないのは事実だが……そこは知識と経験で補うしかない。


「アル坊が死なないように、しっかり守っておやりよ」


「ええ、もちろんです。傭兵として傷一つ付けさせません」


エスカは胸に拳を当て、真っ直ぐ言い切った。

細身で華奢な体つきではある。

だが、その仕草には確かな覚悟と自信が宿っていた。


「ふふ、良かったねぇアル坊。……さてエス嬢、注文してたもん届いてるよ」


「ありがとうございます! 流石に早いですね」


ごとり、と重たい音を立ててカウンターへ置かれた品を見て、エスカの表情がぱっと明るくなる。

その様子を見ながら、スーヴィエーテは満足そうに煙を吐いた。


「随分古い型だから探すのは手間だったけどねェ。今どき旧式の魔力バッテリーなんざ欲しがるのは嬢くらいさ」


「本当は新型に変えたいんですけど……本体が古いので」


エスカが受け取ったのは、小さな銀色の円筒だった。

磨き込まれた表面は鏡のように店内を映している。


旧式の魔力バッテリー。

今ではほとんど見かけなくなった旧世代の代物だ。

すでに上位互換が普及している以上、あえて使う理由は少ない。


アルスは少し不思議に思ったが、深くは聞かなかった。

自分だって価格の問題で型落ち品を選んだばかりだ。

エスカにも何か事情があるのだろう。


「よし、準備完了。明日はよろしくお願いします、アルスさん」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


二人は向かい合い、しっかりと握手を交わした。

その瞬間、アルスは初めて気付く。


エスカの手は想像以上に荒れていた。

剣ダコ。治りかけのささくれ。細かな傷跡。


女性らしい柔らかく細い指ではあるが、その手は間違いなく傭兵のものだった。

昨日は豪邸や彼女の外見ばかりに意識を取られていたが、こうして触れてみると実感する。

彼女は本当に、この世界で命を張って働いている人間なのだと。


「あぁ、そうだアル坊。余計なお世話かもしれないけどねぇ……」


店を出ようとしたところで、スーヴィエーテが背中越しに声を掛けてきた。


「学会が近いよ。あんたのとこには連絡回ってないだろうから、一応伝えとく」


「あー……先輩がお願いしてくれたんですか?」


「それは……直接聞きに行きな」


「……分かりました」


アルスは短く答え、店を後にした。

もっとも、学会へ参加できるかどうかはまた別問題だ。


界隈から距離を置かれている自分が、果たしてそこへ顔を出せるのか。

そんな疑問よりも今は優先すべきことがある。


まずは目の前の依頼だ。

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