表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/50

13.エスカと青年


 昼下がりの穏やかな陽射しが、狭い住宅街の隙間から柔らかく差し込んでいる。

 メインストリートの喧騒から少し離れた静かな小道を進んでいくと、やがて古びた看板を掲げた店が見えてきた。


 その瞬間、アルスの口元には自然と笑みが浮かぶ。隠す気もないまま、彼は暖簾をくぐった。


 正式に博士号を取得し、魔物研究家として独り立ちしてから初めての調査依頼。

 胸の奥にじんわりと広がる高揚感は、学生時代に初めてフィールドワークへ赴いた日の感覚によく似ていた。


「変わらないなぁ、この店は……」


 店内には怪しげな魔機や用途不明の道具が雑多に積み上げられ、無造作に宝石類まで並べられている。

 統一感など欠片もない光景だが、不思議と嫌な雑然さではない。むしろ古本屋のような独特の居心地の良さがあった。


 この店はアルスが街へやって来るより遥か昔から営業している、魔機専門店である。

 最新鋭の魔法機械を扱うことで有名で、魔物研究家の間では知らぬ者はいない。

 珍しい品も多く、研究家たちが足繁く通う理由もよく分かる。


「変わらないとは失礼だねェ……。最新式の品揃えが目に入らないのかぃ?」


 奥の方から、癖の強いハスキーな女の声が飛んできた。


「アル坊。冷やかしならお断りだよ」


 店の最奥。

 棚に囲まれるような薄暗い場所で、長いキセルを燻らせている女性がアルスへ視線を向けていた。


 藍色の長髪は夜空を思わせる深い色合いで、その隙間から覗く金色の瞳が妖しく光っている。

 妖艶という言葉がこれ以上なく似合う女だった。


 どこか浮世離れした美貌の持ち主だが、魔機に関する知識と情熱は本物である。


「今日はちゃんと買い物ですよ、スーヴィエーテさん」


「ふぅん……随分金持ちになったもんだねぇ。仕事もロクにないだろうに、いよいよ研究家を辞めたのかぃ?」


 キセルの煙を細く吐きながら、スーヴィエーテはからかうように口角を吊り上げた。

 相変わらず気怠げでゆったりした喋り方だ。


「いやいや、個人依頼なら僕でも受けられますから。地道な営業活動の成果ですよ……っと、これください」


 アルスは慣れた様子で店内を歩き回り、必要な品をカウンターへ並べていく。


「はいょ。ディテクトの魔機が一つ、アナライズが一つ、ロープが一つ……」


 スーヴィエーテは商品を手際よく袋へ詰めながら、ちらりとアルスを見た。


「合計でこれもんだよ。ちゃんと払えんのかぃ?」


「もちろんです。ちゃんと確認してください」


 エスカから受け取った前金で支払いを済ませる。

 久しく触れていなかった新品の研究機材を前に、アルスは内心かなり浮かれていた。


「ああ、毎度ありぃ」


 店主お決まりの文句。

 だが、その声色にはどこか釈然としない響きが混じっていた。


「それで? どんな仕事を受けたんだぃ。そんな型落ち品でどうにかなる案件なんだろうね?」


「村で起きた魔物事件の調査と退治ですよ」


「ふぅ〜ん……そうかぃ。まぁ、好きにおし」


 明らかに納得していない顔だった。

 理由はアルスにもなんとなく察しがついているが、ここで余計なことを言うのはやぶへびだろうと、アルスは苦笑しながら袋を受け取った。


「あたいはねぇ、あんたがまだエドウォードの後ろをついて回ってた頃から見てるんだよ」


 スーヴィエーテはアルスと目を合わせないまま、ゆっくり煙を吐き出す。


 エドウォード博士──

 アルスが大学時代に所属していた研究室の教授であり、恩師の名だ。

 学生時代、エドウォードの研究室で研究生をやっていたアルスは、よくこの店に連れて行ってもらっていた。


「あんたが一番危なっかしい。こんな軽装で何する気か知らないけど……気を付けるんだよ」


「……ありがとうございます」


 アルスは素直に頭を下げるしかなかった。


 学生時代にはよく「エドに言いつけるよ」と叱られたものだが、今では一応一人前として扱われているのだろうか。


 どちらにせよ、引き受けた以上は止まるつもりなどない。

 心配をかけることを承知の上で、アルスは踵を返した。


「あれ? アルスさん?」


 店を出ようとしたその時だった。


 聞き覚えのある声に振り向くと、棚の陰から見知った少女が姿を現す。

 鮮やかなオレンジ色の髪をポニーテールに結んだ少女──エスカだった。



毎日投稿で行きますので

感想や評価などしてくれると喜びます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ